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八条荘はヒロインが多くてカオス過ぎる

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第百十五話 長崎へその十三

「残念ですが」
「そうですか、あれは一度見ましたら」
「見たことあるんですね」
「一度だけ。夜に」
 まさにその時にというのだ。
「夏でした、最初は漁船のかがり火だと思いましたが」
「違っていたんですか」
「祖父に言われました」
「不知火だって、ですか」
「あれこそがと」
 漁船の火ではなくて、というのだ。
「不知火だと」
「海の上に一杯浮かんでいたんですね」
「そしてあれこそがと思いました」
「そんなことがあったんですね」
「はい」
「実際に見られたなんて」
 その不知火をだ、僕は心から思った。
「凄いですね」
「見られたのは一度だけです」
「今言われた様に」
「はい、本当にです」
「その一度だけですか」
「そうでした」
 長崎で生まれ育った裕子さんにしてもというのだ。
「貴重でした」
「よく見られましたね」
「最近環境の変化のせいかあまり出ないそうですが」
「その不知火もですか」
「出る気候条件もありますし」
 何でもいつも出て来るものではないらしい、この辺りでも。
「ですから見られてよかったです」
「本当に貴重だったんですね」
「私が九歳の時で親戚の方々、合わせて五十人はおられたでしょうか」
「多いですね」
「祖父のご兄弟姉妹のご家族も一緒でしたので」
 それでというのだ。
「法事で旅館に集まり」
「その旅館で、ですか」
「夜宴席で見ました」
 その場でというのだ。
「夜の窓から海を見て」
「そうだったんですね」
「大人の方々は盛り上がっていました」 
 このことは僕もよくわかる、お酒が入ってそうなる。僕達八条学園の面々もそうした時はどんちゃん騒ぎだ。僕もその中にいる。
「大いにお酒を飲まれて」
「それでも子供は」
「二十人位別席にいましたが」
 しかしというのだ。
「ただそこにいるだけで食べ終わって退屈に思っていましたら」
「不知火が出たんですね」
「海に浮かんでいて母のところに行って聞きますと」
「不知火とですか」
「言われました」
 まさにそうだったというのだ。
「母は丁度お酒を飲みはじめていました」
「そのお母さんに教えてもらったんですね」
「そうでした」
「成程、そうでしたか」
「はい」
 まさにというのだ。 
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