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グランドソード~巨剣使いの青年~

作者:清弥
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最終章
1節―超常決戦―
  天に在り闇を宿す

 投げ穿つ。
 ルシファーが行った行動だった。

 1本の力だけで熾天使と並べるほどの槍が、贅沢にも第一撃としてルシファーの投擲によってソウヤへ放たれる。
 人智を超えた力を持つ槍の投擲、その威力は誰にも計り知れない。

「――――」

 だが、ソウヤは槍を前にして避けることをせず真正面から“全力で”雪無を振るった。
 圧倒的な力と力の衝突。
 その余波だけで空間を捻じ曲げれるほどのエネルギーに、しかしてルシファーは驚くことは無い。

「第二翼、展開」

 次に行動に起こすのは、自身の翼を引き千切ること。
 ルシファーの力の源は“黄金に輝く12枚の翼”であり、それを引き千切るという行為を行うことによって力を開放する。
 あくまで“力の塊を具現化”するのみなので、基本形状は“なんでもかまわない”。

「防いで見せろ、人間」

 第一翼を槍にし、ただ投擲するに留めたのは第二翼へ繋げるため。
 “銃”を懐から取り出したルシファーは、その弾倉に第二翼の力を全て埋め込んだ。
 深い紫色の光で包まれた銃を、ソウヤへ向け……呟く。

「“穿つは三十の弾丸(ゲイボルグ・バレット)”」
「――――!?」

 深紫に輝く銃から放たれる……否、穿たれるのは“ゲイボルグ”。
 ケルト神話に出てくる魔槍であり“増える槍”だ。
 投げれば30の鏃となり、刺せば30の刺となる死槍は今“弾丸”となって放たれる。

 ―このままじゃやられる……!?

 未だ第一翼の対処に追われるソウヤは、続けて放たれる弾丸を防ぐことも避けることも出来ない。
 いきなり危機的状況に落とし込まれ、流石のソウヤも目の前の敵に対する警戒レベルを限界まで引き上げる。

 ―普通に対処するんじゃ間に合わない、避けるのはゲイボルグの性能故に回避は不可能。なら……!

 ソウヤは両脚に力を込め、体制をギリギリまで落とした。
 “肉体強化”を使用し身体能力を引き上げると、“空間操作”を発動し雪無を普通の片手剣ほどまで縮小。
 肩を掠めながら直進する第一翼の槍を視界の隅に捉えながら、ソウヤはそのまま雪無から左手を離し――

「らぁッ!!」

 ――目の前数センチにまで迫っていた弾丸に向けて、落とした状態にあった左腕を無理矢理に振り上げることで軌道を逸らす。

 けれど、ゲイボルグには“必ず命中する”という能力が存在する。
 故に軌道を逸らされた弾丸は、そのまま曲線を描きながらソウヤの背中に突き進んだ。

 稼いだ僅かな時間の間に、ソウヤは雪無を逆手持ちにすると巨剣化させ後ろから迫りくる弾丸に“命中させる”。

「……防いだか」

 すでに神の領域に足を踏み込んでいるソウヤの身体能力に、弾丸と化したとはいえゲイボルグが耐え切れず巨剣を前に崩壊。
 そうしてようやく第一翼、第二翼の対処が出来たソウヤは大きくため息をつく。

「――――ッ!」

 刹那、ルシファーに近づいたソウヤは巨剣のリーチ限界から斬撃を放った。

 ―翼を使わせない気かっ!

 すぐさまソウヤの意図を理解したルシファーは、その斬撃に対して左4つ目の翼を雪無の前に展開する。
 無残に血を撒き散らしながら裂かれた黄金の翼を尻目に、ルシファーはすぐさま自身の別の翼を千切った。

「第三翼、展開!」

 深紅に輝く“力”が具現化したのは1本の剣。
 血のように赤い刀身を宿し、一目で“魔剣”だと分かる形状をしている。

 裂かれた翼によって視界を防がれていたソウヤに、ルシファーはその剣を突こうと腕を伸ばした。
 ソウヤもルシファーの声を聞いていた為、攻撃に転じる事はある程度予測していたので雪無を盾とすることで何とか防ぐ。

 ルシファーが放った突きの衝撃を後ろへ足を滑らせながら殺したソウヤは、体制を立て直し再び構えた。

「第四翼、第五翼、展開」

 ―翼を使う余裕を持たせてしまったか……。

 続けて第四、第五翼の力を開放したルシファーを見て、ソウヤは内心舌打ちをする。
 当然だ、これで熾天使3人分と戦っているも同然になってしまったのだから。

「“舞い勝利を求めよ(ビクトリー・オブ・ソード)”」

 2つの力が象ったのは“無形の剣”。
 その剣自体が意志を持ち、自立型の武器として作用し舞う剣だ。

 次々に出される“魔剣”の数々に、流石のソウヤも眉を潜めてしまう。
 1つ1つでも反則級の強さを持つ武具だというのに、目の前の敵はそれを幾つも操って見せる。

 ―3枚はもう使用済み、残りは現在含め9枚か……。

 黄金に輝き瞬く槍。
 深紫に染まる魔槍。
 盾と使った無の翼。

 そして、ルシファーが持つ深紅の魔剣とその周りを浮遊する無形の剣。
 またそれらを含めた9枚の翼だ。

「言っただろう、私は“神さえ怖れた天使”だと」

 戦って初めてソウヤはその言葉に心から賛同する。
 今まで戦ってきた、どの天使よりも目の前の天使は“天使らしくない”。

 扱うは“魔”が付く異名の武装ばかり。
 これまでの天使は、どれも“極光”を体現したかのような眩い光を持っていた。
 だが、ルシファーはそれと真逆。

「やっぱり堕ちてるじゃないか、お前」
「あぁ、今私は“天使としての冠位”を堕としている」

 彼の両腕に在る12個の金輪のうち、“6個が砕け散っていた”。
 つまり、それが意味するのは“翼の力を使うたびに天使として弱くなる”。
 当然だろう、彼が扱っているのは魔剣や魔槍なのだから。

「お前は“強いから熾天使さえ超えた天使になった”じゃないんだな。“お前の力を封じる為に熾天使さえ超えた天使に閉じ込められた”のか」

 あくまで“天使の冠位”はルシファーにとって枷でしかない。
 醜い本性を隠す為に容姿が美しくなったと同じように、魔に染まった力を封印する為に高い天の位を授けられた。
 それが、『堕ちていく天使(ダテンシ)』ルシファーの正体。

 ソウヤの言葉に、ルシファーは6枚のどす黒い翼と6枚の黄金の翼を広げることで答える。
 その表情は獰猛な笑みで満ち満ちていた。

「今から君に見せるのは、神話の至った場所だ」
「――――」

 黄金の光を宿しながら、暗黒の闇に染まった天使。
 天使の極致に至りながら、力は全て魔を宿す天使。
 光と闇、その両極端を持つ彼は自身の力をこう呼んだ――

「――“天よ、最果てに堕ちろ(ラグナロク)”」 
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