終末なにしてますか?忙しいですか?救ってもらっていいですか?赤き英雄
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この世界が終わる前に
この世界が終わる前にA
決戦前夜。
せめて最後に、それぞれ会いたい人のところで過ごそうという話のなった。
讃光教会《さんこう》認定敵性 星神《ヴイジトルス》『エルク・ハルクステン』の討伐のために集まった勇者様御《ご》一行は、そういう理由で、一時解散することになった。
「……なんでそれで、養育院《ウチ》に戻ってくるなんて話になるわけ?」
久々に会った娘《むすめ》は、なぜか呆れたようにそんなことを言った。
「理由なら、今言っただろ。
明日は決戦だ。無事に帰って来られる保証はない。だからせめて、心残りを残さないように、最期の夜を大切な人とともに過ごそうっていう」
父たる青年の言葉をさえぎって、
「だ・か・ら。そこがおかしいっていってるの!」
ぴしゃりと言い放つ。
公営の小さな孤児養育施設、その管理人室。
台所をぱたぱたと走り回る娘の背中は、なぜやらとても、ご立腹のようだった。
「その大切な人ってのは、つまり奥さんとか恋人とかってことでしょ話の流れ的にはどう考えても!」
「まあ、何人かはそうしてたみたいだな特にカイト達はいつもの酒場で飲んでるらしいけどなあ」
勇者様御一行は当代の正規勇者《リーガル・ブレイブ》を含めた七人構成。特にカイト、ドラグーン、ゼットは特別枠だ。
うち既婚者が二名と、恋人がいる者は二名。ーまあ、そのうち片方は「恋人の数が多すぎて誰のところも選べそうにない」
などとふざけたことを言っていたのて、この場合は例外として扱ってもいいだろう。
「なにを他人事みたいに……」
「他人事だろ。少なくとも、俺のことじゃない」
良い匂いが漂ってくる。
小さく鼻をならすと、つきあいのいい腹の虫がぐうと鳴った。幸い、鍋の中身をかきまぜることに集中している娘の耳にまではとどかなかったようだが。
「おとーさんやカイトさんにはいなかったわけ、そういう女の人?」
父と呼ばれてこそいるが、もちろん青年がこの娘の実の父親であるというようなことはない。たまたまこの養育院における最年長の一人であったことと、本来そう呼ばれるべき立場にあった養育院の管理者が高齢であったことからついたあだ名にすぎない。
「そんな暇、あるわけないだろ。準勇者《クアシ・ブレイブ》の資格をとってからこっち、毎日が修行と勉強と戦闘と戦争ばかりだったよ」
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