魔法少女リリカルなのは~無限の可能性~
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第4章:日常と非日常
第114話「水面下での動き」
前書き
サブタイトルの割に動きは少ないです(多分)
大体ゼスト隊壊滅の時期。
=優輝side=
「…え、ゼスト隊が壊滅…!?」
「…そう聞いた。なのはを撃墜した機械…管理局ではガジェットドローンと呼ぶものと、正体不明の魔導師と交戦。結果壊滅したとの事だ」
壊れたデバイスの記録を解析した際の映像から、それがわかったとクロノは言う。
「また、正体不明の魔導師と言ったが…魔力は使われていなかった」
「なに……?」
「地球の霊力のような力か、未知のエネルギーだと見ているが…」
「そこまでは分からない…か」
付き合う事になってから、イチャラブしている聡たちから逃れるように管理局を手伝いに来たのだが…まさか、有名な部隊が壊滅していたとはな…。
ちなみに、聡と玲菜だが、修学旅行以来隙あらば一緒にいる。
僕ら以上に有名なカップルとなりつつある。…僕らの方は勘違いだけど。
「椿、葵、どう思う?」
「私に聞かれてもね…。実際に現場に行ったり、その力を目の当たりにしないと何も言えないわ」
「あたしも同意見だね。今のあたし達じゃ、憶測に憶測を重ねた事しか言えないよ」
「そうだよな…」
僕も二人と同じ意見だったりする。
こればっかりはどうしようもないだろう。続報があればいいんだが。
「…この事は僕以外には?」
「はやて達には伝えたが…まぁ、あまり君達には伝える必要がない事だから他には言っていない。ベルカ式繋がりで伝えただけだ」
「あー、なるほど…」
ゼスト隊隊長であるゼスト・グランガイツは古代ベルカ式の使い手。
僕としても、同じ使い手として少しばかり興味があったからな。
だから、ある程度知っている。
「……独自に調べられるか?」
「渡航許可証があるなら可能だが…調べるのか?」
「気になって、それに手を出せるならな」
魔力が使われていないというのならば、調べておいて損はないだろう。
「椿、葵、いいか?」
「気になるって言うのなら、付き合うわよ」
「ガジェットもあったって言うのなら、後々に関わるかもしれないからね」
なのはを襲った存在と同じ…つまり、これはジェイルが関わっている。
正体不明の魔導師が誰かは分からないが、少なくともそれは確かだ。
「調べるのはいいが…気を付けろよ」
「…まだ何かあるのか?」
「……死体がなかった。それが調査隊の言い分だ」
「死体が…?」
またきな臭い……。絶対何か企んでいるだろジェイル…。
「とりあえず、今日は依頼も終わらせた事だし、帰らせてもらうよ。調査については後日行う事にする」
「そうか。まぁ、油断だけはするなよ」
「分かってるって」
ジェイルが関わっているとなれば、油断などできるはずがない。
あいつは、僕らを出し抜く事すら容易だからな。
「ここか……」
「見事に荒れてるわね…」
「爆発の形跡…魔法なのか敵がやったのかは…わからないね」
魔力の残滓も当然残っていない。もうそれなりに時間が経っているからな。
「…ガジェットの破片か」
「大部分は管理局が持っていったみたいだよ」
「ほんの少しぐらいなら残っててもおかしくはないが…手掛かりとしては心許ないな」
現場に来てみたものの、専門家でもない僕にはよくわからない。
ガジェットからジェイル関連だとは思っているが…。
「…いや、これでも十分か」
「優輝?」
「“解析”…」
ガジェットの破片に解析魔法を掛け、リヒトにその破片の構成材質などを記録する。
「…リヒト」
〈完了です〉
記録し終わったのを確認し、移動する事にする。
「優ちゃん、何をしたの?」
「破片の材質とかをリヒトに記録して、それを基に同じものを探すんだよ。今回の場合、ガジェットを構成する金属部分の構成パターンを記録したから、同じガジェットなら見つけられるようになっている」
試しにこの場で使うと、そこら中から小さな反応が返ってくる。
同じような破片が残っているからな。
「これを使って、ジェイルの研究所を探す」
「なるほどね…」
「便利だねー」
導王の時以来、使う機会がなかった方法だ。
大体が手伝う側だったから、あまりそういった機会がなかったしな。
「じゃ、行くぞ。周辺の警戒は頼む」
「分かったわ」
「任せて」
探索魔法を使いながら、僕らはジェイルの研究所を探した。
「……見つけた…」
「結局いくつか世界を跨いじゃったね」
「魔力結晶一つが無駄になった…」
あれから昼食を挟んで数時間後、ようやく魔法に反応があり、人の気配もある研究所を見つける事に成功した。
同じ反応はあっても、無人だったりダミーだったりしたからな…。
「(…サーチャーの類もない。…既にジェイルは最高評議会の監視下から抜け出しているから当然か。僕もフリーでここにいるから、この行動が知られる事もない…。よし、大丈夫だな)」
僕が独断でジェイルと関わっているとばれれば、管理局上層部にそれを利用されて指名手配などされてしまうだろう。
それを避けるため、入念なチェックをしてきたから、大丈夫だ。
「……さて、見てるんだろ。ジェイル」
だが、ジェイルは別だ。
あいつの場合、サーチャーではなく純粋な機械でこっちを見てそうだし。
超小型カメラとかだと僕でも見つけづらいぞ。解析魔法で何とかってレベルだ。
『いやぁ、まったく、よくここを見つけたね!入口なら開いてるから入ってきたまえ。なに、恩人である君に罠なんて掛けないさ。それに、掛けても無駄そうだしね』
「色々と聞きたい事もあるからな。椿、葵、行くぞ」
「相変わらずよくわからない人だねー」
「理解し難いわ…」
土に隠れた地下への入り口から、ジェイルの研究所へ入っていく。
さて、聞きたい事が色々あるが…答えてくれるか?と言うか、答えがここにあるのか?
「む、お前たちは……」
「ん?」
研究所を進んでいると、僕より少し小さいぐらいの銀髪の少女と出会った。
眼帯をしているから、目を怪我しているのか何かを隠しているのだろうけど…。
…前来た研究所では見なかったな。まぁ、見て回ってなかったからだけど。
「…そうか。ドクターが言っていた恩人はお前たちの事か。…先の件は本当に感謝している。私たちも、ドクターを解放したかったのでな」
「まぁ、気にしないでくれ。僕自身、彼をこのままにしておくのは惜しいと思ったから協力しただけだからさ」
どうやら、彼女達にも僕の事は伝えられていたようだ。
…侵入者扱いされて一戦交えるかと思ったよ。
「えっと…」
「…あ、僕は志導優輝だ」
「草野姫椿よ」
「薔薇姫葵だよー」
名前が分からなさそうだったので、先に名乗らせてもらう。
どうやら、当たりだったようで、彼女の顔が少し明るくなる。
「私はチンクだ。一応、妹たちもいてその纏め役を担っている」
「なるほど…。ジェイルはどこにいる?」
「ドクターならこっちだ。折角だから案内しよう」
「助かる」
チンクの案内の下、僕らはジェイルの所へ向かった。
「ここだ。私はやる事があるので席を外させてもらう」
「悪いな」
「構わんさ」
チンクと別れ、僕たちはジェイルのいる部屋に入る。
…何気にこの基地広いな。地下を有効活用しているようだ。
「やぁ」
「…見つけるのに苦労したぞ」
「それは済まないね。君に専用の通信媒体を渡すのを忘れていたよ」
以前、ジェイルの爆弾を取り除いた時は、僕が関わった事がばれないように連絡先を交換したりしなかった。
まぁ、どの道こちらからの通信は繋がらないようにしているらしいが。
「専用の通信媒体があるのか…」
「既に娘たち全員に埋め込んである。普通のジャミング程度では一切阻害されない優れものさ。ただし、他の念話などには使えないから注意したまえ」
「…埋め込んでいるのか…」
「人体にはなんら影響はないよ。私にあった爆弾と違ってね」
元々人造生命体だから仕方ないだろうけど……双方納得してるならいいか。
結局は管理局的にも地球の法的にも違法なのだが…法じゃこいつは縛れないからな。
「それで、何を聞きに来たのかね?」
「…大体は予想ついてるだろ。ゼスト隊だ」
「ふむ。やはりか」
そう答えるという事は、やはり関わっていたらしい。
むしろ、関わっていなかったら予想外なのだが。
「あれは最高評議会から最後に受けた注文でね。壊滅する事が条件だったのだよ」
「…死体がなかった事から見るに…」
「もう彼らに見張られる私ではないからね。少々こちらで預からせてもらっているよ」
「なるほどな…」
いい判断だとは思う。…道徳的にどうなのかは置いておいて。
壊滅させる注文…つまり、最高評議会にとってゼスト隊…少なくともゼスト・グランガイツは目障りだったのだろう。
だから、生きたまま戻らせても意味がない。そのため、預かっているのだろう。
「いやしかし、彼らも中々だよ。ガジェットがなければこちらがやられていた」
「さすがゼスト隊だな」
「おかげでチンクが怪我をしたのだが…なぜか治そうとしなくてね。可愛らしい顔が台無しだと思ったよ」
「彼女の眼帯はそういう事か…」
という事は、交戦した正体不明の魔導師は彼女の事か。
…まぁ、見た感じ只者ではないと思ってはいた。敵意がないからスルーだったけど。
「だが、眼帯したチンクも中々…と思う私もいてね。いやはや…」
「おーい、娘自慢になってるぞ」
「おっとすまない」
やっぱりジェイルは面白い所もある。
だからこそ僕も協力しようと思うんだろうな。
「……それで、肝心のゼスト隊は?」
「この基地のトレーニングルームにいるよ。かなり頑丈に作ってあってね。彼らは今も切磋琢磨しているよ」
「説得はしておいたのか?」
「彼らもどこか疑問には思っていたらしい。どの道逃れられないだろうと、ゼストは観念して平常でいるようだね。一番大きな怪我を負ったからだろうけど」
おそらく、ゼスト・グランガイツとチンクが戦ったのだろう。
それで、大きな怪我を負ってしまったと…。
「管理局では魔力反応のない攻撃とかを使っていると聞いたが…。もしかして、彼女達の力は…」
「君の使う“霊力”とやらではないさ。…っと、さすがにこれ以上は言えないね。何でもかんでもネタばらしするのはつまらない」
「…まぁ、お前なら霊力でも魔力でもないエネルギーや技術を生み出していても何もおかしいとは思わないからな」
こと、研究関連になると僕も本気を出さないと対抗できなさそうなぐらいだしな。
戦闘と研究と言うジャンルの違いがあるから一概には言えないけど。
「…これからどうするつもりなんだ?」
「どの道私は犯罪者なのでね。なら、犯罪者らしく好き勝手しようと思っているのだよ。具体的に言えば、最高評議会を潰すとかね」
「大まかにはそうなんだろうが、細かい事も色々しそうだな」
ゼスト隊に関しては、実質ジェイルが生殺与奪権を握っている。
いざとなれば被害者としてゼスト隊は解放するのだろう。
「だが、やっておきたい事もあるのだよ」
「やっておきたい事?」
「こちら側にゼスト隊を引き込んだのはいいのだが…内一人が娘を一人残したままになっているのだよ。それなら、いっその事連れてくるべきだと思ってね」
「…それただの誘拐じゃないか」
ちなみに、他の人は独り身だったり、夫や妻がいたりと、幼い子供を残す事になる事はないらしい。…いや、それでもダメな気がするんだが…。
まぁ、厚遇だとは言え、生かすも殺すもジェイルの自由だからな。
迂闊に動けないから大人しくしているのだろう。
「他には…そうだねぇ。私は悪役と言うものが面白いと思っていたのだが、ダークヒーローと言うのも最近面白そうだと思っていてね」
「……何する気なんだ?」
「私の所以外の違法研究所を潰しまわる事にしたよ。もちろん、ゼスト君達も使ってね」
「クロノ達が頭を抱える未来が見えるな…」
本当にこいつは引っ掻き回すのが好きだな…。
今この場でどうかしようにも、対策は取られているだろうし…。
放置安定か…。根が悪い訳ではないし、世界滅亡とかはさせないだろう。
「…まぁ、成り行き以外では僕らは敵対しない事にする。…ただし、その時は全力で行くつもりだから、覚悟しておけよ?」
「百も承知さ」
「じゃあ、ゼスト隊の方を見に行ってから帰るが…見に行ってもいいか?」
「構わないさ。とりあえず、ここの事を漏らさなければね」
「それなら任せておけ。…じゃ、行くか」
椿と葵を連れ、ジェイルと別れる。
面白い奴ではあるんだが…いかんせん、相手をしていて疲れる。
「まさかずっと黙っているとはな…」
「ああいう手合いの相手は口を挟まない方がいいのよ」
「一応、優ちゃんが言葉巧みに騙されていないか見ているって言うのもあるよ」
ジェイルと会話中、ずっと二人は黙っていたが…。
会話の外にいる事で、誘導されていないか見ていてくれてたんだな。
「とりあえず、ゼスト隊を見に行こう。…何気に初対面だったな」
「場所は分かるの?」
「貰った端末についでのように場所が書かれていた」
「用意周到だね」
ちなみにデータとしてではなくて、ペンで直接だった。
水性マジックで書かれていたから後で消しておこう。
「…ここか」
「中々大きそうだね」
辿り着いたのは、それなりに大きな扉だった。
傍に認証する機械があり、これで何かしら認証させないと開かないらしい。
「…ちらっと壁の材質を見たが、相当な強度だな…。葵の刀奥義でもほとんど傷が付かなさそうだぞ…」
「えっ、それは相当頑丈だね」
これならSランク魔導師が中で全力戦闘しても壊れる事はないだろう。
…それはともかく、どうやってこの中に…。
「…って、この端末か。」
ジェイルに貰った端末を翳すと、扉が開く。
扉の先はしばらく通路になっていて、観覧席的な場所もあるらしい。
「(観覧席の方に行くか。そっちの方が安全だし)」
別に戦うためにここに来た訳ではないので、そちらへの道を選ぶ。
…少しゼスト・グランガイツと戦ってみたいと言う気もあるけど。
「……へぇ…」
「珍しい魔法だね」
「こういうのもあるのね」
観覧席に辿り着くと、フィールドの方では水色の帯のようなものが飛び交っていた。
それはまるで道のようで、足場にもできそうなものだった。
「っ……!」
「っと、何もしませんよ」
観覧席にいたゼスト隊の一人がこちらに気づき、デバイスを向けてくる。
そりゃあ、見かけない人がいきなり来たら警戒するだろう。
…と言うか、敵(仮)の本拠地にいるんだからいつも以上に警戒はするだろう。
「誰だ…!」
「ドクタージェイルとの知り合いです。…と言うより、気に入られてるだけですが」
「……何しにここに来た…」
うーむ、当然だけど滅茶苦茶警戒されてる…。
「見学ですね。ここでゼスト隊が訓練していると聞いて」
「…………」
…とりあえず、何もしないという事で見学を続けよう。
と思ったのだが、フィールドにいた面子もこちらを見ていた。
「…どうするのよ優輝」
「あはは、やっちゃったなー。戦いが終わるまで姿を隠しておくべきだったかも」
「今更遅いけどねー」
警戒しながら、全員が僕らを包囲するように動く。
「……む?その出で立ちと、使い魔とユニゾンデバイス……まさか、志導優輝か?」
「あ、僕を知っている人が…って、ゼスト・グランガイツ?」
「そうだが…」
僕を知っている人がいたと思ったら、ゼスト・グランガイツ本人だった。
…知られるような事したっけな?
「同じベルカの使い手としてある程度は知っている。…だが、なぜここにいる」
「ゼスト隊が壊滅したと聞き、見つけたガジェットの破片を手掛かりにここを見つけた。…と言うのが一連の流れと言った所でしょうか。」
「…………」
リヒトには触れずに、両手を上げた状態でそう答える。
すると、何もしないと分かったゼスト隊は武器を降ろす。
「普通にここに入ってきたという事は…」
「先程そちらには言いましたが、ドクタージェイルとは知り合いです。また、気に入られている身なのでこうして自由に研究所内を移動している訳です」
「そうか…」
何とか警戒を解いてもらえたようで、改めて自己紹介するか。
「では改めまして…僕は志導優輝。今回は渡航許可だけを貰って自力でここまできました」
「…使い魔の草野姫椿よ」
「ユニゾンデバイスの薔薇姫葵だよー」
簡単に自己紹介をする。すると、僕だけならともかく、三人でならある程度知っている人がいたようで、ちらほら反応が窺える。
「確か…最近管理局でも有名だった…」
「そう言えば、“魔導師殺し”とか言われてたような…」
少し騒めきが大きくなった所で、先程ゼスト・グランガイツ…ゼストさんでいいか。
彼と戦っていた紫髪の女性が手を叩いて静める。
「彼について気になる事があるのは分かるけど、今はそうじゃないでしょう?」
「…そうだな。…なぜこの部屋…いや、その様子だと、なぜ俺達に会いに来た?」
「なぜ…と言われましても」
特に意味がある訳ではないとはいえ、僕は理由を口にする。
「世間上では、壊滅…戦死した扱いのゼスト隊が、今どんな様子か確かめておきたかった…という所でしょうか。あのドクタージェイルが関わっていると知って、こうして場所を突き止めてきたんですから」
「………」
「…貴方は、管理局の敵?それとも味方なのかしら?」
理由を言うと、今度は先程とは違うもう一人の紫髪の女性がそう言ってきた。
「…敵でもあり、味方でもある…と言った所ですね。管理局も一枚岩ではないのが良く分かっているので…」
「そう……」
…敵意がないとは分かっているが、どうやら警戒までは解けないらしい。
まぁ、ここまで怪しい行動を取っていればな。
「…最高評議会の事か」
「…知っていたので?」
「あのマッドサイエンティストに聞かされた。俺達が目を覚ました際に、な」
「まぁ、大体はそういう事です。僕としても、奴らの息が掛かったものは信用できなくなっているので…」
ジェイルから聞かされていたようだ。話が早くて助かる。
「自身が“悪”だと思った存在を、自身にとっての“正義”を以って裁く。…人間なんてそんなものよ」
「…椿?」
「要は、“正義”は心の持ちようによって“悪”になるの。…最高評議会も同じよ。大方、自分たちがやっている事は“正義”と信じて疑ってなさそうね」
「非人道的な人体実験とか、他にもロストロギア関連での手回し…。優ちゃんが調べただけでも裏が出るよ出るよ」
…確かに、僕らの近くにもいるな。織崎が。
…僕も気を付けないとな。正しいと思っていても、周りからすれば間違っている事もあるのだから。…そして、それは既に経験しているのだから。
「まぁ、所詮は人の匙加減で裁くべきか決まるわ。…矛先を向ける相手を、間違えないようにね」
「………分かっている」
ジェイルに知ってはいけないような事を知らされたのだろう。
ゼストさんは苦虫を噛み潰したような表情で、そういった。
「……本当、まだ子供とは思えないわね…」
「生憎、普通ではないので…」
「私と葵はこれでも貴方達より年上よ」
…それにしても、ちらっと顔見せして帰るつもりだったんだがな…。
結構、足止めを喰らってしまっている…。
「…所で、まだ皆さんの名前を知らないのですが…」
「…っと、そうだったな。…まだ信用できないとはいえ、お前のような相手には名乗っても名乗らなくても変わらなさそうだ」
そういう訳で、ゼスト隊の全員の名前を知る。
数少ない女性二人は、クイント・ナカジマ、メガーヌ・アルピーノと言うらしい。
しかも、副隊長格なので相当強いとの事。
また、壊滅の際の戦闘から復帰したばかりらしく、力も落ちているらしい。
「ジェイルが言っていた娘がいる人って…」
「私の事ね」
どうやら、メガーヌさんが件の人らしい。
「…でも、ルーテシアまでここに連れてくるなんて…」
「この場合、むしろ連れてきた方が安全かもしれませんがね」
何しろ、ジェイル曰くゼスト隊の壊滅は最高評議会が注文してきた事だ。
つまり、知られてはいけない事をゼスト隊は知ったのかもしれない。
そうなれば、保護者のいない小さな子がどうなるか分かったものじゃない。
「…娘さんの魔法の素質は?」
「…全体的に見れば年齢の割に高い方だと思っているわ」
「なら、余計に危険ですね。…人造魔導師を裏で作っているような上層部に目を付けられたら、どんな事をされるか…」
「っ……!?」
サッと青褪めるメガーヌさん。
ジェイルから話を聞いた後なら、容易に想像できるだろう。
…なんか騙しているみたいな感覚だな。
「…とりあえず、今日はもう帰ります。いつまでもここにはいられませんから」
「…ああ。俺達はもうあいつの言う事を聞かなければ碌に行動もできないが……お前はまだある程度自由だ。…管理局の方は頼んだぞ」
「あまり管理局にいる訳でもないんですけどね…任されました」
敬礼をし、僕らは立ち去る。
「…一度、管理局上層部について本格的に調べるべきか」
「いいのかしら?それをすれば目を付けられるわよ?」
「大多数の敵から追われるのは経験済みだ。…なんなら、椿と葵は雲行きが怪しくなったら同行しなくていいぞ」
尤も、目を付けられないように立ち回るつもりだがな。
「見くびらないで。その程度で貴方の下を去る程、私は愚かではないわ」
「そうそう。それに、優ちゃんをもう一人にはしたくないからね」
「…そうか」
二人は、どこまでも付き合ってくれるようだ。
…問題であり肝心なのは、上層部をいかにして切り崩すかだけどな。
「(ジェイルも動いている。地道にやっていくか)」
今の僕は、管理局どころか、数多の次元世界をよく行き来する事すらない。
嘱託魔導師として活動はしているが、なのは達程じゃないからな…。
「……日常生活と魔導師としての生活、両立が難しいな…」
「…情報収集はあたし達がやろうか?」
「いいのか?」
情報収集を二人に任せる…。確かに、以前は隠居生活をしていたから、人に見つからないように情報を集める事もできそうだが…。
「任せて」
「何かあったら知らせれるように、御札も作ったのよ?」
「…なら、任せるよ」
強さに関しては心配する程でもない。
その上保険もあるなら…僕も心置きなく任せられる。
「(身体的な異常の他に、精神的な異常も知らせてくれるのか…)」
受け取った御札は、精神干渉すら知らせてくれる代物のようだ。
これなら、織崎のような魅了などもすぐに察知できるだろう。
「ゼストさんはああ言っていたが、急ぐ必要はない。大体はジェイルに任せておけばいいからな。…でも、いざという時は頼んだ」
「ええ。任せなさい」
これからの事を決め、僕らは帰路に就いた。
後書き
解析…31話にも出てきた解析魔法。士郎の解析魔術のように、内部構造を読み取ったり、身体の状態を解析する事ができる。アナリーズは解析のドイツ語。
ナンバーズはinnocent仕様になっています。つまりノーヴェやウェンディが少し縮んでいます。(性格もinnocent寄りに。)
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