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艦隊これくしょん~舞う旋風の如く~

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出会う風と乗り越える壁
  出会う風と乗り越える壁⑦

「さーてと」

部屋割りの件は、舞風を白雪と同室にすることで一応の解決とした。残る問題は

「舞風自身・・・・・・かぁ」

先ほどの演習、終始試合を有利に進めていたのは舞風であったと言える。初風の攻撃をことごとく回避し、不意打ちでダメージを与えることに成功している。それだけに、魚雷が使えないというのは大きな痛手になってしまう

「それにしても」

不意に声を出したのは書類の整理をしていた五十鈴、先ほどの演習を見ていた艦娘の一人だ

「なんで魚雷が撃てないのかしらね?見た感じじゃ習ってないから撃てないって様子じゃなかったけど」

舞風は魚雷を撃とうとした際に、明らかにそれまでの様子とは異なる状態であった。それはおそらく、誰の目から見ても明らかだっただろう

「あー、そのことなんだが」
「あら、何か心当たりでもあるわけ?」
「まぁそんなとこかな?ところで・・・・・・五十鈴は自分の適合率って理解してる?」

書類を片づけていた手を止め、五十鈴が呆れたような眼差しを提督に送る。声に出さずとも、今更そんなことを聞くのかと言いたそうにしているのは明白であった

「どうしたのよ急に」
「ふと気になってさ、ちゃんと理解してるのか」
「・・・・・・それは撃ってくれってことでいいかしら?」

どこから持ってきたのか、手に持った連装砲を笑顔で提督に向ける五十鈴、笑顔ではあるが明らかに目が笑っていない

「いや待てって!ちょっと興味本位で聞きたかっただけなんだってば!」

とりあえず構えた連装砲を下ろすよう五十鈴を説得し、五十鈴もため息交じりに連装砲を下ろす

「まったく・・・・・・で、適合率が聞きたいんでしょ?私は82%よ」
「ほー、結構高いな」
「まぁね、で、それがどうしたってのよ?」

これを見てほしいと言って、提督は引き出しから大きめの茶封筒を取り出し五十鈴に投げて渡す

「何これ?」
「舞風のメディカルチェックの結果」

見てみ?と促され、中の書類に目を通し、思わず五十鈴は立ち上がってしまった

「な・・・・・・」
「それ、すげーだろ?」
「何よこれ・・・・・・適合率98%!?」

実は、艤装との適合率8割以上という五十鈴の数値はかなり高い部類である。この数値が高ければ高いほど体と艤装の親和性が向上し、より違和感なく艤装を操れるようになるのである。そのため、この数値が7割未満であった場合にはどれだけ他の試験で優秀な成績を残していようとも艦娘としては不合格となってしまう。しかし、実際にもっと厄介なのは、実はこの数値が高すぎる場合である。

「適合率が高いと艤装との親和性が向上して動きがよくなるってのは知ってると思うけどさ、実は9割以上だと逆に適合し過ぎちゃうんだよな」
「適合しすぎる?」
「そ、要は艦娘の基となった軍艦の記憶まで引き継いじゃうらしいんだよな。よくある例としては、いないはずの姉妹艦や他の艦娘の名前を唐突につぶやいたり、特定のキーワードを極端に嫌ったりとかね」
「あー・・・・・・なんか見たことあるかも」
「そういうのを提督界隈じゃ『艦戻り』って呼んでる。船が持つ記憶が艦娘に戻っていくって意味合いを込めてね」
「じゃあ舞風が魚雷を撃てないっていうのも・・・・・・」
「あぁ、おそらく艦戻りだろうな」
「あれ、ちょっとまって」

ふと、何かを思い出したかのように五十鈴が会話を遮る

「その艦戻り?ってやつ、直せるの?」

五十鈴の疑問に、提督は何も言わず、ただ長く息を吐く。そんな提督の様子を見て、五十鈴は察した。艦戻りは・・・・・・直せないんだと



舞風は一人、じっと海を眺めていた。演習の後、部屋割りを新しくしてもらい、ルームメイトとなった白雪に挨拶に行った。そこでは二言三言会話を交わした程度だったが、白雪にそろそろ遠征部隊が帰ってくるから挨拶をした方がいいと言われ、波止場で遠征部隊の帰りをじっと待っているわけである。
しかし、ここは横須賀と比べ本当に静かだ。こうやって波止場にいて、聞こえてくるのが波の音とカモメの鳴き声だけなんて横須賀ではありえないことだ。そして、あまりにも静かすぎて、ついつい初風に言われたことが頭の中で繰り返される

「艦娘をやめろ・・・・・・か」

艦娘にも様々な事情を抱えた者が存在するが、戦闘に支障が出るタイプなど聞いたことがないし、そんな艦娘を使ってくれる酔狂な提督などいるはずがない。やはり自分は、艦娘をやめるべきなのだろうか?初風の言うとおりに

「あのー・・・・・・」
「ふぇ?」

そんなことを考えていると、不意に横から声をかけられた。唐突だったため思わず妙な声が出てしまった

「あなた、ここの艦娘じゃないですよね?どこからいらしたんですか?」

話しかけてきた艦娘は身長こそ舞風より頭半分ほど小さかったが、言葉遣いに関しては舞風よりもはるかに丁寧でお姉さんらしかった。全身を黒い服で身を包んだ小柄な少女はハッとしたように話を続ける

「申し訳ありません!名前を伺う前にこちらが名乗らないとですよね」

コホンと咳払いをすると、スカートの裾を引っ張り、まるで良家のお嬢様がするかのような仕草で自己紹介を始めた

「私は睦月型十番艦三日月です。この泊地で主に輸送任務を担当させていただいております。以後どうぞよろしくお願いします」

丁寧な挨拶に驚きを隠せない舞風は、とりあえず三日月の仕草を真似て

「えーっと、私は陽炎型の舞風です、以後よろしく・・・・・・です?」

精一杯丁寧にあいさつをしてみるが、そんな様子を見て三日月は思わず吹き出してしまった

「ふふっ、別に私の真似をして丁寧に返していただかなくてもいいんですよ?私のこういうのは・・・・・・昔からの癖ですから」

かなり変な挨拶をしてしまったようだが、とりあえずはここでも仲良くなれそうな艦娘はいるのだと、舞風はほっと胸を撫でおろした 
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