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魔法少女リリカルなのは ~黒衣の魔導剣士~ Another

作者:月神
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第1話 「異なる世界」

 延々と続いた闇の世界を抜け光のある世界に出たかと思うと、体の前面にそれなりの痛みが走った。どうやら地面に激突したようだ。
 とはいえ、これ以上の痛みを経験したことはある。
 涙を流すような真似はしない。このような手段を取ったアリシアには文句があるが……。

「――っ!?」

 上体を起こした矢先、何か硬いものが頭に激突した。予想していなかった事態に俺は後頭部を押さえ込みながらその場に蹲る。

「いつつ……あなたって思った以上に石頭だね」

 近くから聞こえたその声によって状況を理解する。十中八九、俺の上にアリシアが落下してきたのだろう。
 石頭って……アリシアのほうが石頭だろ。あぁくそ……涙出てきた。
 何かに頭をぶつけてで涙を流すなんていつ以来だろうか。少なくとも小学生に上がってからは記憶にない。もしかすると人生初かもしれない。

「あのな……普通は先に謝るだろ」

 後頭部を擦りながら起き上がる。
 目の前にはでこあたりを擦っているアリシア、周囲は森の中なのではないかと思うほど自然に溢れていた。
 いったいどこに出たんだ?
 見知らない世界に来たんじゃないだろうか……、と思った直後、かすかに見覚えのあるのある建物が見える。
 俺の記憶が正しければ、海鳴市でも標高の高い場所にある神社のはず。あそこならば街とは違って自然も多かったので、周囲が森のようなのも納得がいく。
 ……それにしても。
 何やら妙に違和感がある。まず目の前に見えるアリシアだが、こんなにも大きかっただろうか。先ほどまでは頭ふたつ分ほど小さかったように思えるのだが、今はひとつ分あるかどうか……。
 もしかして巨大化したのか……いや待て、俺の手はこんなに小さかったか? それに地面との距離が近くなっているような……。

「まさか……!?」

 体のあちこちを見たり触ったりしながら自分の体について確認する。
 正直に言って信じたくはないが……どうやら俺の体は縮んでしまったらしい。
 おいおい……嘘だろ。体が縮むだなんてどこのアニメだよ……俺は変身魔法なんて使った覚えはないし、現在も使っていない。着ていた服まで子供サイズのものに変わっているし、いったい何が起こったんだ?

「どうかしたの?」
「どうもこうも……体が縮んでたら困惑するだろ」
「あぁーそのこと」

 アリシアは大した問題ではないと言わんばかりの表情を浮かべ、さらりと話し始める。

「何で体が小さくなったかっていうとね、この世界のあの子達と同い年になるように力が働いたからだよ。さっきのままだと関わりづらいでしょ?」

 確かにそのとおりではあるが……事前に伝えておいてもよかったんじゃないのか。そうすれば困惑せずに済んだがな。
 現在地までの落下やその後の衝突、今の件で苛立ちを覚えた俺は、そのことを言葉にしながらアリシアの両頬を引っ張る。彼女はすぐさま謝りながらやめてほしいと言ってきたが、すぐにやめては今後舐められる恐れがあるし、また反省しないかもしれない。そのため5秒ほどは継続した。

「うぅ……ひどいよ。もうわたしお嫁に行けない」
「これくらいで行けなくなるわけないだろ」

 まったく、フェイトと違って茶目っ気のある奴だな。
 とはいえ、まあアリシアのおかげで体についての疑問は解消した。大人から一気に小学生……具体的に言えば、小学3年生くらいの背丈になったせいで違和感は拭えないが。
 まあそれでも人間には適応能力があるし、一度は経験したことがある感覚だ。時期に慣れるだろう。
 ……問題はこれからだな。
 俺の背丈やこの世界に送り込まれることになった経緯から考えて、今の時期はジュエルシード事件が始まる前だろう。
 数年後に起こる出来事を考えると、あの子を魔法に関わらせないという選択肢もあるが、それではジュエルシードや闇の書を巡る事件が俺の知る流れとは大きく異なることになる。
 そうなると介入は難しくなるし、フェイトの交流関係に支障が出る可能性も大きい。
 フェイトがジュエルシード事件を乗り越え、笑えるようになったのはなのはの存在が大きい。どれくらい流れを変えられるか分からない以上、下手に流れを変えるのは危険か……。

「難しい顔してるね。もしかしてまだ痛いの? 痛いの痛いの飛んでいけ! ってしてあげようか?」
「いい。君からされても惨めになるだけだ」
「む……そういう言い方しなくてもいいじゃん。そっちだって子供なんだから」
「君よりは大人だ」
「そんなの見た目と実際に生きた時間だけだよ。わたしのほうが早く生まれてるもん!」

 生まれてるもんって……こういうところにムキになってる時点で年上のようには思えないんだが。見た目も俺よりも小さいし、アリシアのほうが大人だと思うのは無理があるだろう。

「そんなことよりこれからどうするんだ?」

 この世界からすれば、俺やアリシアは本来存在しなかった異物。
 俺の体を小さくしたように不思議な力が働いている可能性はあるが、戸籍があっても住居がないといった可能性は充分に在り得る。
 正直……住む場所とかなかったらかなり困るぞ。ここは地球みたいだし、平日の昼間に子供が出歩いていたらおかしい。
 アリシアあたりは見た目が外国人だから旅行で来ているなどと思われるかもしれない。が、黒髪黒目の俺は完全にアウトだろう。両親のことを考えるとハーフなのだが……アリシアと一緒に居ても兄妹に思われるかは怪しい。
 そもそも……ジュエルシード事件のことを考えると、アリシアの姿をあの子達に見られたりするのは不味いだろう。
 ここに居るアリシアは、この世界のプレシアが蘇らせようとしているアリシアではない。見た目や記憶は同じでも異なる存在だ。
 アリシアがプレシアに会えば……事件にならずに終わる可能性もあるかもしれない。
 だが、この時期のプレシアは精神を病んでいる節もある。下手をすればこの世界のフェイトの扱いが悪化しかねない。この時代の過ごし方は今後のフェイトに大きく影響するところだ。迂闊な真似はできない。たとえ今このとき辛い想いをしているとしても……。

「そんなこと……結構重要だと思うけど、まあいいや。わたしのほうがお姉さんなんだし、ムキになっちゃダメだよね」
「何をブツブツ言ってるんだ? 行く宛てとかなかったらかなり困ると思うんだが?」
「ノープロブレム! そのへんはきちんと用意されているのですよ。神様も送り込んで終わり、みたいな冷たいことはしないんだから」

 俺があの空間で出会ったのはアリシアだけだ。神様がどうのと言われても反応のしようがない。
 まあ、今の口ぶりと流れを変えれるかどうかは俺達自身ということからして、神様が手伝ってくれるのは俺達がこの世界で過ごすための準備だけなんだろうな。
 そんなことを考えながらアリシアの後を付いて行って街へと繰り出す。
 景色を見た限り、俺の知る町並みと大した差はない。故にここに自分を知る人間がいないという現実が辛くもある。
 自分から望んだこととはいえ、ここには両親はおろか義母さんもいない。それはつまりファラ達も存在していないということだ。
 今の俺は、俺という存在が居た世界の俺のコピーのようなもの。
 俺の記憶の中にいる人々は悲しんでいたりはしていないだろうし、騒がしくも楽しい日々を今も過ごしている気がする。
 俺は……いったい何なんだろうな。
 この問いに答えを出せるのは俺と……目の前にいる少女だけだろう。
 しかし、彼女との関わりは現状ではないに等しい。そもそも、俺が俺のコピーといった発言をしたのは彼女だ。彼女の中で俺という存在はそれなのだろう。

「えーと……ここを右? それともひとつ先なのかな?」

 考えてしまっても仕方がないと思い視線を前に戻すと、何やらアリシアが地図と睨めっこしていた。彼女の表情からして上手く地図を読めないらしい。
 まあ無理もないか。
 アリシアは地球で過ごしたことなんてないわけだし、俺の知る世界では5歳頃に亡くなっていた。見知らない土地の地図を上手く読めというのは難しい注文だろう。

「ちょっと見せて」
「え……わぁッ!?」

 アリシアの肩付近から覗き込んだ直後、彼女は慌てた様子で俺から距離を取る。何やら顔が異常なまでに真っ赤になっているが、いったいどうしたのだろうか。

「い、いきなり近づかないでよ。びっくりするじゃん!」
「あぁ……悪かったよ。けど過剰に反応しすぎじゃないか?」
「…………」
「なぜ黙る?」
「……あんまり男の子に慣れてないの!」

 アリシアの心からの叫びは、俺だけでなく周囲にも聞こえたようで、複数の視線がこちらに向けられた。ただ会話の流れは聞こえなかったようで、周囲の人々はケンカでもしているのか? といった顔をしている。
 感覚の違いから不便に思ってたけど、今だけは背が縮んでて良かった。
 前のままだったら、完全に小さな子供をいじめてる構図に見えただろうし。もしくは娘に駄々をこねられる父親か……まあ気にしないでおこう。

「慣れてないって……普通に話してたじゃないか」
「話すのは大丈夫だけど、心の準備が出来てないときに近づかれるのはダメなの。大人の男の人は大丈夫だけど」
「ふーん……」

 見た目に反してずいぶんとマセてるんだな。
 というか、今更だけどこのアリシアはどの世界から来たアリシアなんだろうか。
 基準となる流れではジュエルシードを巡る事件が起きるらしいから、大抵のアリシアは命を落としているはず。
 このようなことを考えるのはどうかとも思うが、5歳ほどで亡くなっているのならば異性を意識したりはしないだろう。
 なら……この子はあの空間でずっと過ごしていたのだろうか。
 もしそうなら俺よりも年上だという話にも一応納得ができるし、異性を意識しているのも理解できる。

「ふーん……って、その反応はひどくないかな」
「俺がもしこの体くらいの年代だったら、多分まともに会話とかしてなかったと思うけど」
「……それでよくあなたの世界のあの子達と仲良く出来てたね」
「あの子達のおかげだよ」

 あまり心を開こうとしない俺に何度も話しかけてくれて、心の強さっていうものを教えてくれたんだから。あの子達が居たから俺は少なからず変わることが出来たんだと思う。
 俺の知る彼女達にはもう恩返しをすることはできないけど、まあその役目はあの世界の俺がするはずだ。
 俺がすべきことは、少しでもこの世界の彼女達を幸せに……笑顔にすること。そのために今は目の前のことをひとつひとつ片付けていくしかない。

「それより地図を見せてくれ。見た限り俺の知る街並みと大差ないようだから」
「そうやってコロコロと話題切り替えてると女の子にモテないよ」
「あいにくモテたいと思ったことはない」
「ふーん……それって身近に女の子が居たからかもね」

 そう言いながらアリシアは地図を渡してくれたが、こちらを見る目が少し冷たいように思えた。
 確かに身近に異性は居たが、それとこれとは話が別ではないだろうか。……まあ男子から可愛い幼馴染が居てずるい! といった発言をされたことはあるが。
 ちなみに幼馴染というのは、はやてのことだ。付き合いが1番長いのでそのように思われていたらしい。
 可愛いって……まあ可愛いと思ったことはあるが、あいつの相手をするのは結構きついんだけどな。ある程度親しくならないと面倒臭いところを見せないから知らない男子は多いだろうけど。
 ……これ以上考えるのはやめよう。俺の知るあいつはここにはいないんだから。

「……ん?」
「分かった? それとも分かんないのかな?」
「確実に当たってるとは言えないな。だから地図は返すから君は独りで行くといい」

 にやけ面がイラッときたので、俺はアリシアに地図を返して歩き始める。
 するとアリシアは慌てて後を追いかけてきた。本当に置いて行く勢いがあっただけに、ほんの少しだが泣きそうになっている。そうなってはこちらが謝るしかない。このへんが女子の厄介なところだ。

「悪かったよ。だから泣かないでくれ」
「別に泣いてないもん」
「そうか。じゃあ行くぞ、ちゃんと付いて来いよ」
「また子ども扱いする……」
「俺も君もここでは子供だろ。少なくとも見た目は」


 
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