グランドソード~巨剣使いの青年~
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第4章
3節―刹那の憩い―
願いと想い
前書き
※ここからは予約投稿にて、小説家になろう様で投稿している時間と同時間に投稿します。
「あ~、疲れた」
あれから無事に魔王となったルビを連れて外に戻ったときには、もう日が暮れ夜になりかけていた。
慌てて帰るころにはとっくに夜になっており、そのままの流れで一日がまた終ろうとしていた。
――まぁ、1つまだやるべきことが残っているのだが。
夕食を食べた後、ソウヤが向かったのは城門前。
美しいドレスに身を包み、杖を持ったレーヌがそこにいた。
「…あら、遅かったじゃない」
「すまん」
急いで城へ戻り、風呂へ入り夕食を食べ、着替えを済ませてきたのだ。
少しは勘弁してほしいとソウヤは思う。
そんなソウヤの内心を知ってか知らずか、レーヌは「まぁいいわ」と頬を緩めるとソウヤの手を取った。
「ほら、行くわよ」
「行くって、どこに?」
夜にもなっている時間にどこに行くというのか、それさえ知らないソウヤはそう問う。
レーヌはそれを聞いて、少し意地悪な笑みを浮かべた。
「――皆々様、此度はこのような時間に集まっていただき、誠にありがとうございます」
あれから何も聞かされず、ソウヤが連れてこられたのは街の広場。
そこでソウヤは集まった観客の1人となって、広場の中心に佇む美しい女性…レーヌを見ていた。
一体これから何が始まるのか、それすらソウヤは知らない。
だが中心で一礼をするレーヌは、そんなの知らないばかりに美しい笑みを浮かべ杖を一回、床で叩く。
今まで見ていた風景が一変、淡い色を放つ玉が浮かび上がりだした。
「これから皆様に見て頂くのは真の幻、幻の真。現実と幻実の間をどうぞお楽しみください」
そこから始まるのは、いわゆる“ショー”だ。
扱うのが幻術、というのが唯一ソウヤの知っているショーとは別物だが、それでもパフォーマンスで観客を楽しませるという点では同じだろう。
時に波が襲い、時に火が回りを包み、時に穏やかな草木に溢れかえる。
ふと現実に戻ったと思えば、また幻に包まれどちらが本物か曖昧になっていく。
その中で、美しい装いを纏ったレーヌは踊る。
―…あぁ、これは確かに楽しいな。
人が魅せる幻、人が作り上げた現実。
人が夢見る幻、人が苦悩してく現実。
地獄の如く幻、楽園に染まった現実。
それぞれが七色変化し、人に“飽き”を感じさせない。
1つ、1つ、感じるのは新鮮さだ。
改めてレーヌは素晴らしい幻を扱う魔法使いなのだと実感する。
レーヌと旅を共にしてきた中で、ソウヤが見てきたのは幻に苦しめられ、幻に殺される者たちばかり。
だが、幻というのは人を楽しませることが出来るのだとソウヤは初めて知る。
―…少し、ショックだな。
人々のためを思えば、こんなに美しい風景を作り出せるのに。
人々の笑顔を思えば、こんなに新鮮な景色を見せられるのに。
――けれど、戦うとき幻は凶器となってしまう。
苦しみ、憎しみ、怒り、悲しみ、恐怖、哀しみ。
負の感情を積み重ね、相手を容易に絶望させ精神を破壊出来てしまう。
そのようにも使えてしまうのが非常にショックだった。
「それでは語らいましょう、最新の英雄の話を」
レーヌは舞いながらそう言うと、また杖を一回床で叩く。
それは、襲い来る魔物や魔族と自ら率先して戦い、迫りくる天使たちに刃を向ける英雄の物語。
人々の生活の為に巨大な剣を振るい、人々の平和の為に己の体を傷付け戦い続けた英雄の物語。
――本当は自身の願いの為に敵を倒し、自身のエゴの為に自分にすら目を背けた英雄の物語だ。
彼は異邦の民、戦いを知らなかった。
けれど彼は特別な力を持ち、その力を使って敵をうち滅ぼし、自身を成長していく。
そんな青年が出会うのは7人の“申し子”たち。
彼女らの力を借りながら、青年は魔族や天使たちと戦い見事打ち払う。
こんな“作り話”を聞いて、ソウヤは胸が熱くなるのを感じた。
自分の物語はこんなに綺麗じゃない、自分の物語はこんなに普通じゃない。
――だが、レーヌの込められた想いに胸が熱くなるのだ。
私が好きな英雄はこんなに凄いのだと、私が惚れた英雄はこんなに偉いのだと。
私が愛する英雄は“こんなことまで出来てしまう”のだと。
観客の1人であるソウヤにだけ、わかるようにレーヌは物語を語る。
―確かに、そうだな。…俺はそう“在るべき”だ。
確かに自分は語られる英雄のように尊い思想なんて持ってないし、確かに自分は語られる英雄のように正義の味方なんかじゃない。
それでも、そう“在りたい”と思えた。
本当はそうではなくても、根本では違っているとしても、人々から見た自分はこう“在るべき”なのだ。
誰よりも人々の安寧を願い、誰よりも人々の平和を叶える…そんな存在に。
これは人々の願いだ。
これは人々の想いだ。
これは人々の救いだ。
だからソウヤは英雄たるべきだ。
これはレーヌの応援だ。
これはレーヌの誇張だ。
これはレーヌの宣伝だ。
だからソウヤはそう在るべきだ。
「――めでたしめでたし。ご清聴、誠にありがとうございました」
気付けば幻の現実の狭間は終わっていた。
最後に惚れ惚れするほど綺麗に一礼するレーヌに、拍手喝采が起こる。
それだけに、このショーは素晴らしかったということだろう。
素晴らしいショー。
観客とはまた別の視点からみたソウヤからしてみても、同じ感想を持っていた。
だから、ソウヤは全力の拍手でレーヌを褒め称えたのである。
「あぁ~疲れたぁ」
「お疲れさん」
拍手が鳴り止み、人々がそれぞれに家へと帰った。
この場の興奮の余韻を残して、元に戻ったレーヌとソウヤの間に心地よい静寂が起こる。
「…すごく良かったよ」
だからふとこの言葉が出た。
感謝や興奮を全て拍手に詰め込んだはずだが、それでもソウヤは自分の口でレーヌにそう伝えたかったのだ。
「…ちゃんと、届いたかしら」
少し、間を開けてレーヌはそうソウヤに問う。
二重の意味でソウヤに聞いていた。
ちゃんと観客達に自分の“願い”は届いたのか。
ちゃんとソウヤに自分の“想い”は届いたのか。
そんなの考えるまでも無かった。
「届いたさ、絶対に」
だってあんなに集中して世界を作り出したのだから。
だってあんなに熱烈でドストレートだったのだから。
届かない訳がない。
観客でも分かる、レーヌが英雄のことを大好きだってことを。
ソウヤは分かる、レーヌが自身のことを大好きだってことを。
「…少し、聞いてる分には恥ずかしかったけどな」
「――馬鹿」
そう言ってレーヌはソウヤの横腹を小突く。
「…は」
「…ふ」
何となく、笑いたくなった。
こんな空気でいるのが恥ずかしくなった。
「あははははっ!」
「うふふふふっ!」
ソウヤは笑いながら、レーヌに感謝する。
“貴方がやっていることは間違っていない”と太鼓判を押してもらったような気がしたから。
神を殺す、それは偉業ではあるが同時に大罪でもある。
だからどこかでソウヤは臆していた、本当に世界神に刃向っていいのかと。
手遅れなのは理解している、それでもいざ真正面から戦うとなると気後れをするものだ。
―けど、そんなの間違いだった。
“後悔しない”と決めたはずだろう。
絶対に元の世界に戻ると、それが“自分が選んだ道”だと決めたのだろう。
なら、それを突きとおすだけで良かったのだ。
そうして、しばらくの間ソウヤとレーヌは小恥ずかしい雰囲気を解消するため、2人で笑い合っていたのだった。
後書き
――”願いと想い”とは人が言語できないものである。
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