| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

グランドソード~巨剣使いの青年~

作者:清弥
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第4章
1節―変わった世界―
  エルフの王女との再会

「そんな…馬鹿、な……」

 高い金属音がして、“2つの黄金の腕輪”をした天使が地面に倒れる。
 その表情は、悔しみと絶望と…これ以上ない“生への渇望”が表れていた。

 無表情のまま、ソウヤはその天使を見ると雪無を振り上げる。

「お前は、生きたいのか」
「あ…ぁあ…」

 天使は自分より下等生物である“ただの人間”に、倒されようとしていた。
 常に笑みを浮かべていた天使の目から、一筋の涙が流れる。

「なら――」

 ソウヤは何のためらいもなく、その天使の首を切り落とした。
 凄まじい顔でその命を終えた天使をソウヤは睨み付ける。

「――やることが違うだろ」

 雪無についた血を、ソウヤは凄まじい速度で刃を振るうことで取ると鞘に仕舞った。
 後ろを振り向けば大勢の住人がその様子を不安げに見ている。
 ソウヤは、せめて安心させたいという気持ちで優しげに笑うと――

「…ッ!」

 ――住人の悲鳴が聞こえた。

 それを聞いてソウヤは笑みを崩さぬまま、思う。

 ―当然だよな、例え町を救ったとはいえ化け物を制するのは化け物なんだから。

「迷惑をかけたな、ここはもう大丈夫なはずだ。安心してくれ」

 ソウヤは未だ恐怖に震えている住民にそういうと、空を見上げる。
 そして――

「…は?」

 ――その姿は一瞬にして掻き消えていた。

 遥か上空へと一瞬で跳躍したソウヤは、“殆ど被害のない町”を見下げて安堵したかのようにため息をつく。

 ―約束、また一つ護ったからな。

 数日前地上へと戻ってきたソウヤが最初に向かった町、壊滅状態にあったそこにいた男性をソウヤは思い出す。
 懐かしい雰囲気を持った男性だった。

「これで、この大陸の町村はほとんど救ったはずだ」

 防衛力の乏しい町村を優先させるのは、ソウヤとしては当然のことである。
 故に、この大陸でソウヤが向かっていないのはただ一つ。

 ――エルフの大陸、その首都である大樹だ。

 ソウヤは軽く周りを見渡すと、その巨大な樹はすぐ目に留まる。
 アイテムストレージから足場になりそうなものを放ると、それに刹那の間だけ足をつけ一気にソウヤは加速した。
 視界が限界まで引き延ばされ、次第に色だけになる。

「…よし、ついた」

 そして、気付けばソウヤは大樹の麓へ居た。

「…貴様、誰だ!?」

 いきなり現れたであろうソウヤに警戒し、大樹の麓を警備していた兵士が続々と集まってくる。
 果敢にもソウヤの周りを囲んだ兵士たち。
しかし、その表情は絶望に染められていた。

「待て、俺は敵じゃない。ソウヤ、『均等破壊(バランスブレイカー)』のソウヤだ」
「――ッ!?」

『均等破壊』のソウヤ。
その名を聞いた瞬間、周りの兵士たちの表情が驚きへ一転する。

敵であるか、味方であるか判断できない。
そんな雰囲気が兵士たちの間から流れだし、足止めされるかと思い始めたソウヤ。
だが、その流れを壊す者がいた。

「…ソウヤさん、なのですか?」

 1つに束ねた黄緑色の艶やかな髪に、エルフでは一握りの者しか持たない赤い瞳。
 一目見れば誰もが美しいと感じ、そしてその次に感じるのは可愛らしさ。
 ソウヤは2年でも対して変わらない女性に、誰かすぐに思い至り名前を口にする。

「エミア…様、ですか」
「えぇ、お久しぶり…いえ、“貴方にとっては”久しぶりですね」

 ―貴方にとっては…か。

 そこでふと思い出す、夢の話。
 俺と“俺”が面を向かい合い、互いに進むと決めた内の話。

「私を目覚めさせてくれたのは、エミア様だったのですね」
「“元々そのつもり”でした」

 意味深に喋るエミアに、ソウヤはこの場で離せないことを理解する。
 急に押し黙ったソウヤにエミアは頷くと、兵士たちを元の警戒へ下がらせた。

「ついてきてください、大事な…大事なお話があります」
「はっ」

 ソウヤは会釈をすると、前を進むエミアの後ろをついていく。
 堂々と歩むエミアの姿は到底、2年前とは違って見えた。




「まず、ソウヤさんには現状の説明をしなければならないのです」
「お願いいたします、エミア様」

 至極当然のようにとってつけたような敬語を話すソウヤに、エミアはクスリと笑う。

「今は私とソウヤさんだけなのですよ」
「…あぁ、わかった。固っ苦しいのはやめよう」

 エミアも気付けばいつもの「〜のです」に戻っているし、大丈夫だろうとソウヤは思う。
 それを聞いて、エミアはクスリと笑った。

「ふふ、ソウヤさんは敬語が下手くそなので、固くも苦しくもなさそうなのです」
「えっ…?」

 まさかそこまで言われると思ってなかったのか、ソウヤには珍しく呆けた顔を見せる。
 だが、ですますを入れただけで敬語と言われてもそれはそれでおかしいのだが。

「さて、では現状がどうなっているのか…説明とするのです」
「……あぁ、頼む」

 常にニコニコと笑うエミアに、ソウヤも扱いがわからずタジタジだ。
 だが、現状の話となった瞬間にエミアの顔から笑顔が消える。

「ソウヤさんは、この数日間にこのエルフの大陸の9割方の町村を救った…ので宜しいのですか?」
「…それであっている。流石に伝わっている、か」

 エルフの大陸の町村のうち、その3分の1ほどが天使による破壊を受けており、壊滅状態だった。
 ソウヤが救えたのは残りの3分の2のみだけである。
 だが、エミアはそれを聞くと安堵のため息をつき――

「エルフ大陸、その統治を一時とはいえ任されている王女として、感謝を」

 見惚れる動きでソウヤに感謝の意を示した。
 それを見たソウヤは、目をつむる。

「…俺が目覚めてから最初に見た町は、ちょうど天使に壊滅状態にさせられていた」
「――――」

 急に語りだすソウヤ。
 しかし、それをエミアは止めようとせず、逆に真剣な表情で受け止めようとしていた。

「天使は即座に殺したが…町のほとんどの人が死んだ。あと少し早ければ、助けられたのかもしれない」
「でも、全員は死ななかった…そうなのですよね?」

 エミアの静かな問いにソウヤは頷く。

「だが、それでも遅れたのは俺のせいだ。そう自責していた時、一人の男性に殴られた」

 一瞬で天使を殺すほどの力を持つ青年を殴る。
 それはどれだけ勇気のいることなのか、ソウヤにはわからない。

「そして、頼まれたんだ。他の奴らも救ってほしい、元凶となったやつをぶん殴ってくれ…ってな」
「お優しい、人だったのですね」

 きっと、優しいなんてレベルじゃない。
 家族が死んで、きっとこれ以上ないくらいソウヤを殺したかっただろう。

 ――それと同時に、何もできない自分の弱さを殴り殺したかっただろう。

「だから、俺は助けた。それだけは、間違えないでくれ」
「…はい」

 だからこそソウヤは、その男性の覚悟を無駄にしたくはなかった。

「…では、その“元凶”について、ソウヤさんはどこまで?」
「この世界はこうしたのは、ウィレスクラ。“現”世界神」
「町を襲っていたのは?」
「ウィレスクラ側の天使…としか」

 すると、エミアは部屋の中にある箱の中からとある物を取り出し、ソウヤに見せる。

「これが何を意味しているのか…は?」
「天使が着けていたもの?意味が…あるか、やっぱり」

 「はい」と頷くエミアは両手にその“黄金の腕輪”を持った。

「この黄金の腕輪が1つの天使は、“天使”」
「2つだと、“大天使”…か?」
「はい、そうなるのです」

 そうなるならば、ソウヤにもわかった。

 天使には9つの階級がある。
 下から、“天使”“大天使”“権天使”“能天使”“力天使”“主天使”“座天使”“智天使”。
 そして最上位に位置する、“熾天使”。

「ソウヤさんは、最高で何個同時につけた天使と相対したのですか?」
「…3つ、権天使だ」

 黄金の腕輪を3つつけた…つまり権天使との戦いは、ソウヤもある程度の苦戦を強いられた。
 負けるのではなく、“勝ちにくい”のである。
 生き残ることに徹底していた天使なのか、どれだけ攻撃しても避けられ防御されてしまっていた。

 まぁ、最終的にソウヤも二刀流にして手数を増やし勝ったのだが。

「つまり、あの世界神はまだ“お遊び”なのですね」
「あぁ、そうらしいな」

 そこまでエミアはソウヤに聞くと、「あっ」と声をだし慌てて頭を下げる。

「す、すみません!すぐに現状の説明をするのです」
「いや、気にしなくていい。この中で誰も完璧に現状を把握できてないんだしな」

 ―世界神側以外は…だが。

 ソウヤは最後にそう内心で嫌味を吐くと、エミアの話に耳を傾けていった。




 こうして歯車は、自らの力で回りだす。
 自ら…いや、この世界を操っていた者に、反逆するために。
 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

感想を書く

この話の感想を書きましょう!




 
 
全て感想を見る:感想一覧