グランドソード~巨剣使いの青年~
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第4章
1節―変わった世界―
神域からの離脱
「では、気を付けての」
コクリと頷くルリと深春、ルビたち。
ギルティアはそれを見ると、即席で作った木製の車椅子に座るソウヤを見つめた。
その薄く開かれた眼には光は宿っていない。
ソウヤが過度のストレスで倒れて2日経つ。
いまだに意識を取り戻さないソウヤに、ギルティアは――
「ソウヤは、今のままでは5年は眠り続ける」
――そう、残酷にも言い放った。
”今のままでは”と言うギルティアが提示した解決策は1つ。
「ソウヤ殿は、小生が必ずエミアのもとへ連れて行くでござる」
深春が胸―薄っぺらい―を軽くたたくと、ギルティアは軽く頷いた。
エルフの王女、エミアとトリッパーだった老人がいるところへ連れて行けば治せるかも知れない…とギルティアは言ったのである。
当然、そこには現在のソウヤの状態へ陥れたルリとルビは別行動を取ってもらうことになった。
ギルティアはルリとルビを見つめると、口を開く。
「お主らは――」
「――わかっています」
その言葉に横入りしたのは、ほかの誰でもないルリだった。
ルビも口には出さないものの大きく頭を振っている。
どちらも、その瞳には決意が漲っていた。
「なら、問題ないな。…では行こう。お別れじゃ」
瞳に映る覚悟を受け取ったギルティアは、小さく笑うと描いていた魔法陣を発現させる。
徐々に光に包まれていく少女たちと、車椅子に座った青年をギルティアは見送る中で、ルリが頭を下げた。
ただ、目の前の老人に感謝をささげるために。
「ありがとう、ございました」
小さく呟かれた言葉。
ほとんどギルティアの耳には届いていないのではと思わせるような、小さな音。
だが、それをしかと受け止めたギルティアは優しげな笑みを浮かべる。
「行って来い、ルリよ――」
そして、神域から4人の青年少女たちは姿を消した…。
光が消え去った後、ルリ達の目に映ったのは宮殿。
些細な光さえも反射しそうなほど純白に染まった壁と柱たち。
そして――
「――お待ちしていたのです、皆さん」
そこには、絹のように艶やかな黄緑色の髪をした女性が立っていた。
輪郭がすこしふっくらとしており、美しい…というより可愛らしいのほうが似合う女性である。
「エミアさん、ですね」
ルリが確認のためそう告げると、女性はほんわかとした笑みを浮かべると頷いた。
そして、車椅子に全身を預け自我を失っている状態のソウヤを見つめると、少しだけ瞼を震わせる。
「もう、準備は出来ているのです。ルリさんの感情をソウヤさんに吐露することは、レーヌさん達が予想していたらしいのですから」
「――――――」
レーヌ達の予想は正に当たっていたというわけである。
その言葉に何も良い返す言葉が出ず、ルリはただ目を閉じて昔の自分を恥じた。
「ルリだけ…じゃ、ない。私、も…」
エミアはルビの言葉に頷くと、「大丈夫なのですよ」と優しげに笑う。
「えっと、エレンさんから伝言があるのです」
――もし、お前たちが自分の恋心をソウヤに伝えたのなら、それは恥じるべきものではない。もし、恥じるのならばずっと前に恋心を抱いていた私が、さっさと伝えていなかったのが悪いのだ。
その言葉に、ルリは違うと言いたくなる。
本当にソウヤの為と思うのなら、この恋心は絶対に伝えるべきではなかったのだ。
久しぶりに一緒に居ることに嬉しくなり、後先考えずこの気持ちを吐露してしまった自分が悪いのだ…と。
そこまで考えたルリに、ふと袖を引く者。
ルビだ。
「私は、ソウヤの為…に今、やるべき、こと…やる」
ルビの表情は本物だ、今自分で出来ることを全力でやろうとしている。
その顔を見たルリは握りこぶしを作った。
―そう、ずっと悔やんでいても仕方ないはずです。確かに、”後悔は人を成長させる”とはよく言いますが、後悔してばかりでは成長すら出来ないのも確か…。
ならば、やることは決まったも当然である。
ルリは深春とエミアの方へ向き、深く辞儀をした。
「――ソウヤさんを、お願いします」
「お願い、しま…す」
ルビもそれに習って頭を下げる。
それを見たエミアは微笑むと、ルリに近寄って肩に手を置いた。
何事かと顔をあげるルリに対してエミアは口を開く。
「大丈夫なのですよ、私がしっかりソウヤさんの自我を取り戻してみせるのです。それに――」
ルリの耳元に顔を近づけたエミアは、小さく囁いた。
「――私も、ソウヤさんに伝えたい事があるのです」
「――――――っ!?」
ビクリとルリは身体を震わせると、まさか…とエミアを見つめる。
ルリの反応を見たエミアは意地悪な笑みを浮かべた。
「私は別に恋心とは言ってませんよ、ルリさん?」
「ッ…!」
ルリの顔がみるみる赤くなっていく。
深春もそれを見て、ニヤつきを抑えられない。
2人のその視線を真っ向に受けたルリは、顔を真っ赤にさせて叫ぶ。
「――もうっ!」
だが、それが自身の後悔を振り切るためにしてくれたのだと、ルリは感じていた。
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