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グランドソード~巨剣使いの青年~

作者:清弥
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第3章
2節―”神殺し”を追い求めて―
  種族:人間

「――ただいま」

 目を疑うほどの速さでゴーレムのところまで駆け、剣を切り裂いたソウヤは驚愕に顔を歪ませたまま硬直している2人にそう言った。
 だが、ルリから帰ってきたのは予想外の言葉。

「ソウ、ヤ…さん、なんですか?」

 まるで、別人を見たような瞳。
 「あぁ、そうだが」と多少不安になりながらもルリに返す。

「なら、どうし――」
「――――――――――――!!」

 ルリが話している途中で、何かの叫び声が響く。
 それはさきほど剣をいとも容易く切り裂かれたゴーレムから発せられたものだった。

「後で聞く。今は俺に任せろ」

 コクリと頷くルリとギルティア。
 それを尻目にソウヤは雪無を握りしめた。

 ―身体が、軽い。

 自分でもビックリするほど今のソウヤは力に満ち満ちていた。
 体感で10~20倍は違うと感じている。
 何故、ステータスは同じ――否、逆にMPが0にまで落ち込んでいるのにここまで強くなっているのか。

 ゴーレムが銃身をこちらに向ける。
 あの砲弾を直撃したら身体が潰れて形も残さないだろう。
 先ほどまではどれだけ全力を出して受け止めても身体が悲鳴をあげていた。

 だが、何故だろうか。
 何故先程まで会った恐怖心がないのだろうか。

「――――――ッ!!」

 ゴーレムが雄叫びを上げながら銃身に火を吹かせた。
 目を追うのもギリギリなほどに速いはずの砲弾。
 だが、それを今のソウヤはしっかりと捉えていた。

 未だ片手剣状態の雪無を上に振り上げると逆手持ちにして、迫り来る砲弾に向けて一気に地面へと突き刺した。
 大した抵抗も感じずまるでバターに刺すかのように綺麗に貫通した雪無は、そのまま力尽くで地面に固定する。
 身体に痛みの欠片もないことをソウヤは確認すると、雪無を砲弾から抜き放つ。

 抜き放った雪無を空間操作で巨剣化させると、ゴーレムに向かって剣先を向ける。
 負ける気など一切しなかった。

 あんなにも苦労しても傷一つ付かなかった相手に、今では正に赤子の手を捻るかのようにソウヤはゴーレムを蹂躙している。
 その結果だけでソウヤは恐怖心の欠片も感じていないのだ。

 ソウヤは大きく踏み込む。
 6mはある巨剣を大きく上段へ構えた。
 そして、目を疑うほどの速さでソウヤはゴーレムに至近距離に近づく。

 先程までの苦労をドブに捨てるかのように、ソウヤは――

「はぁッ!」

 ――気合一閃でゴーレムを真っ二つにした。

「――――――――!!」

 雄叫びを上げながら砂と化していくゴーレム。
 その最期は、あまりにもあっけなかった。

 そして、次の瞬間。
 休み暇を与えないかのようにソウヤに光の柱が立ち上り、その姿を掻き消す。

 混乱、呆然、緊張を包み込んだ異妙な静寂がこの森に訪れるのだった。




「結局無理だったね」

 そんな残念そうな、しかしどこか楽しそうな男の呟きを誰も聞くことは叶わずに。




 いきなりソウヤを襲った光が消え去ると、目の前に映ったのは長らく――ということもなく意外と最近会ったばかりの女神だった。

「まず、言わせてもらいます。おめでとう」

 戦闘の高揚や緊張が全く抜けていないソウヤからしてみればこの展開に頭が追いつくことは出来ない。
 暫くの間、脳が情報を整理するのに時間を掛けていた。
 1,2分後、やっと脳が情報を整理出来たのかソウヤは大きくため息をつく。

「…怒号の展開すぎて頭がオーバーヒートしそうです」
「まぁ、仕方ないことですけど…一応貴方の今の現状について説明はしておこうと思いまして」

 それはソウヤも気になっていたのか、視線をアルティマースに向ける。
 視線に説明を要求されていると察したのか、アルティマースは説明を始めた。

「まず、貴方のステータスですけれど。種族が変わっているのは分かりますか?」

 あの状況で種族のところなど見ないだろうとソウヤは思いつつ、ステータスを表示させる。
 たしかにそこには、種族が変わっていた。

「…ヒューマンじゃなくて、”人間”?」
「えぇ、そうです。今の貴方の姿を見れば一目瞭然でしょう」

 どこからか現れたウリエルが手に持つ鏡をソウヤに見せる。
 その姿に、ソウヤは呆然とした。

「翼が…ない」

 妖精の象徴とされてきた半透明の翼がなくなっている。
 その姿は完全にもとの世界での自分の姿だった。

「貴方が、あの大樹に触れた時多くの人が貴方に言った言葉を覚えていますか?」
「お前は何を望む。って言われて力を聞かれました」
「そうです」

 アルティマースはソウヤの言葉に頷く。

「その時、本来ならば貴方はあの人…いえ、あの”神”たちの力を選びそれに属する力を得ていたはずでした」

 それだけ聞いて、ソウヤは自分がそれとは全く当てはまらない…嫌、もう全く逆の事を返したことを思い出した。

「あの時、俺が全ていらないと言ったから…?」
「はい。まぁ、ソウヤさんの性格的にその返答も有り得そうだと思いまして、私から用意させてもらったんです」
「それが…”全てを拒否する力(人間)”」

 「はい」とアルティマースは頷いた。

「”全てを拒否する力”の能力は2つ」

 ピッとアルティマースは人差し指を立てる。

「1つ目は、貴方の種族を”人間”へと変えること。それにより魔力が貴方から無くなり、魔法という概念も扱えなくなりました」
「それじゃあ、なんで俺はこんなに強くなったんですか?」

 ソウヤがさも当然の問いをアルティマースに向ける。
 アルティマースはそれに微笑んだ。

「いえ、貴方は強くなったのではないのです。”本来の力”を出しただけなのです」
「”本来の力”…?」

 頭にクエッションマークを浮かべるソウヤに、アルティマースは頷く。

「本来、全ての世界の生物は”リミッター”を授けられています」
「リミッター?」
「はい。能力を抑える”鎖”と思われるとわかりやすいと思います」

 アルティマースは右手を宙にかざすと、羽の生えた妖精と思われるチビキャラがホログラムとして現れた。
 そのチビ妖精は腕や胴、脚に頑丈そうな鎖に繋がれている。

「それは生物が”神に逆らえないように”するための処置でした。そして、これが先ほどまでの妖精としてのソウヤさんです」
「…俺?」

 ソウヤはホログラムのチビ妖精に視線を向けて首をかしげる。
 その言葉にアルティマースは反応せず、説明を続けた。

「ただ、その中で地球の生物だけは唯一リミッターを掛けられていないのです」

 アルティマースはチビ妖精をチビ人間にすると、鎖を外した。
 ピコピコとチビ人間は飛んではしゃいでいる。

「――は?」

 結構衝撃的な事実にソウヤは驚いたように間抜けな声を出す。

「理由は簡単です。”人間だけは神に逆らう力を持てない”からなのです」
「……もしかして、魔力とかを持たないから?」

 ソウヤの問いに「お見事です」とアルティマースは拍手を送る。

「他の世界に比べて、地球のある世界は魔力などの特殊な物質を持ちません。それに加えて、地球は重力を含めた物理演算が異様に高いのです」

 アルティマースは左手にチビ妖精、右手にチビ人間を出現させると、互いにジャンプさせる。
 チビ人間のほうは自身の10分の1も飛べずに居るのに対して、チビ妖精は自身の半分ほどまでジャンプする。

「いや、重力ならあんまり関係ないんじゃ…?」

 例え重力が地球より低いと言っても、その重力下で生きているのだから身体能力も言わずもがなという感じだ。

「それを支えているのが、この世界で言う”魔力”なんです」
「ナンデモアリなんですね、魔力っていうのは」

 どうやら、結局魔力に繋がるらしい。

「では話を戻しますね。これらの理由があるので地球の生物だけは唯一リミッターを外したまま生きていました。そして、神に逆らうほどの力を宿した人間は過去1人もいませんでした」

 実在していたかどうかは知らないが、あのエクスカリバーで名高いアーサー王もその高みに至れなかったのだろうか、とソウヤは考える。
 他にも、最古の王と言われているギルガメッシュは半神だとも言われていたが。
 だが結局的には神に逆らうほどの力を持つものは1人も居なかったということは、そういうことなのだろうと、ソウヤは思考するのをやめる。

「だからこそ、種族が人間になった貴方が持つメリット…わかりますよね?」
「身体能力の限界突破。か」
「そう、貴方がたが持つステータスの表示で言わせてもらうと――」

 右手の人差し指と、左手の指全てをアルティマースは立たせる。

「――腕力1000、HP・MPは1000万、それ以外は150万が限度です」
「なら…!」

 ソウヤは急いでステータスを見る。

 ソウヤのステータスは、HPが7254万、MPが0、攻撃力が908万で防御力は739万。
 そして素早さが2030万と魔法力867万、最後の腕力は1万である。

「…一番低い防御力でも約5倍で一番多い素早さが約14倍…!?」

 それはつまり、今までの自分はHP・MPが1000万で腕力が1000、その他が150万の状態でずっと戦っていたということだ。

「通りで最果ての宮では身体能力が強くなった感じが全くしなかったのか…」

 呆然となりながら、ソウヤはそう呟く。

「種族がヒューマンになったことによって空間魔法と肉体強化が使えなくなるのは結構なデメリットです」

 なので、とアルティマースは言葉を続ける。

「スペックをかなり落として、巨剣化だけをリスク無しで出来るように『空間操作』を作り、肉体強化は、魔力の代わりに時間をリスクとして設定しました」
「…よく出来ましたね」

 若干呆れを含んだソウヤの言葉に、アルティマースは微笑む。

「これでも管理神ですから、それくらいの権利は得ています」

 といっても、スキルを創造するのは世界神にしかできませんが…とアルティマースは続けて苦笑いを浮かべる。

「そして、2つ目の能力。これは例え貴方が他の力を求めても得ていた力。それは――」

 人差し指と中指で2を表しながら、アルティマースは続けた。

「――”神殺し”の力です」
「神…殺し」

 意味を理解できるようにソウヤは復唱する。

「あのゴーレムは、操れるほどではないですが、微量ながら”神気”を身にまとっていたのです」
「――――――!」

 だから傷一つ付かなかったのかとソウヤは合点が言ったと思い――気付く。

「なら、もう俺は神殺しの力を…?」
「はい、得ています」

 アルティマースは頷く。

 と、そこにウリエルが小さく「アルティマース様」と呟く。
 それだけで全てを察したアルティマースは、「わかりました」と返す。

「ソウヤさん、貴方をそろそろ返さなければいけません。管理神としての仕事が溜まってきたみたいです」

 申し訳無さそうに言うアルティマースに、ソウヤは無言で首を振る。

「あそこの神域の出方はギルティアが知っています。準備が整ったら神域から出るといいでしょう。そして――」
「…?」

 会話を途中で止めるアルティマースにソウヤは疑問を浮かべる。

「――そして、貴方はこれから今持っている究極能力(オートメイトスキル)である『剣神』の熟練度を最大まで上げることに集中してください。そうすれば、貴方は真に世界神を倒す力を得れます」

 ソウヤは1つ頷くと、「じゃあ、さっさと帰ったほうがいいですね」と苦笑する。
 アルティマースはそれに頷くと扉を出現させた。

「では、お気をつけて」
「ありがとう」

 ソウヤは感謝の言葉だけ言って、その扉に消える。





 ――こうして、ソウヤは”神をも殺せる術”である”全てを拒否する力(人間)”を手に入れたのだ。 
 

 
後書き
――彼はようやく、完成に近づいた。 
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