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グランドソード~巨剣使いの青年~

作者:清弥
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第3章
2節―”神殺し”を追い求めて―
  守護者と見習い

 ソウヤが巨大なゴーレムに対して、片手剣サイズの雪無を振るう。
 ゴーレムは雪無に合わせるように巨大な質量の塊を振るった。

「――――――ッ!」

 凄まじいほどの圧力を感じながら、ソウヤはあえて刀身を”滑らせる”。
 まるで刃を研いでいるかのような甲高い音が響きながら質量の塊はソウヤの横を通って行く。

「暁月!」

 その声を聞いてか聞いていないのか、ソウヤが言い終わるタイミングで深春はゴーレムの背中を取った。

「せぁ!」

 短く鋭い気合の声と共に、手に持つ王剣が振るわれる。
 しかし、普通ならどんな鋼鉄さえもバターのように切り裂くはずの刀がゴーレムの装甲に阻まれた。

 ―…硬いっ!

 深春は内心で愚痴ると、追撃を喰らわないうちにゴーレムの装甲に足を載せて一気に後ろに飛ぶ。
 ソウヤもそれに習った。

 ―魔法使用不能さえなければ、巨剣で戦えるのに…!

 巨剣はその性質上、持ち運ぶことが困難である。
 故にいつも片手剣ほどの大きさにして持ち運んでいるのだが、今回に限ってそれが裏目に出たと言ってもいい。
 身体強化無効を受けても、巨剣を片手で振るうことが出来るのがソウヤクオリティだが、巨剣に出来ない今ではほとんど関係ない。

 ―倒すことは出来ない…か。なら、せめて手数を!

 ソウヤはそう思うと、薙沙を取り出した。
 もう今の段階では将軍剣は殆ど使い物にならないレベルだが、今それを言える状態ではないのは明白である。

 ―頼むぞッ!

 以外と使う機会が無かった剣をソウヤは逆手に持つと、ゴーレムの装甲に突き刺そうとする。
 甲高い音がなり阻まれるが、その止められた衝撃を利用してソウヤは大きく後ろに飛び退いた。

「…どうする、暁月」
「攻撃は一切効かない、魔法は使えない…。どうしようもないでござるね」

 現在、ルビは結界を解くのに時間を稼ぐ他ない状態だ。
 それだけなら倒す気で挑まなくても良いのだが、もし結界が開いたとしてゴーレムが邪魔してくる可能性が高い。
 最悪の事を考えると、コイツを放っておくことは出来そうにないのだ。

「――もしもの時は、頼むぞ」
「まぁ、やってみるでござるよ」

 ソウヤと深春は互いに不敵な笑みを浮かべると、ゴーレムへ駆ける。

 刀は瞬発攻撃力は高いが、切り裂くのを重視しすぎて耐久力が全武器最悪である。
 時代劇ではバッサバッサと同じ刀で人を殺していく描写があるが、あれは間違いだ。
 本当は、刀は人を2,3人殺めるだけで刃こぼれが起き、血の脂で鈍器と化してしまうので、刃こぼれが起きては敵の刀を奪うらしい。

 この世界でも刀はそんな扱いらしいが、どうやら王剣になると時代劇の如くバッサバッサと斬れるらしい。
 だが、それでも耐久力が同じ王剣の中では最も低いはずだ。
 少なくとも王剣である雪無よりも。

 故に、ソウヤと深春の役割はソウヤが囮で深春が攻撃役に落ち着いている。
 …まぁ、それもあのゴーレムの装甲を貫かなければ意味が無いのだが。

 ゴーレムも馬鹿では無いようで、深春の方へ向くと左にある銃口を突きつけた。
 しばらく戦って分かったが、あの銃は一発撃つごとにインターバルが大きく存在するらしい。
 だが、その分威力は一瞬でそこらが消し飛ぶぐらいにはある。

 銃口が深春に向いたことを察したソウヤは、すぐさま銃口と深春の間に割って入り――

「どらっしゃああああ!!」

 ――ソウヤにしては珍しく、雄叫びを上げながら火を吹いて迫り来る自分たちの身長2倍ほどあろうかと思える銃弾を雪無で相うつ。

 その間に深春はソウヤの横を抜け、ゴーレムに走りだした。

 ―やっぱり、重いッ!

 流石に雪無の耐久力が心配になってきたソウヤだが、銃弾を逸らすことはしない。
 なぜなら、この先にいるのはルビだからである。

 ソウヤは拉致があかないと片方の手で持っていた薙沙を地面に突き刺すと、”片手”で対抗していた雪無を両手持ちにした。

「――ッ!」

 小さな気合の声と共に、銃弾の衝撃を全て受けきった。
 ズドンっ!という音を響かせ銃弾が地面に落ちる。

 ソウヤは慌てて視線を深春に合わせると、一撃を入れたようだがダメージが与えられず下がっているようだ。
 完全にゴーレムの意識が深春へ向いている。

「っち」

 ソウヤは今すぐ助けに行こうとするも、幾度も凄まじいほどの銃弾を受けきったために身体が悲鳴を上げ始めていた。
 脚が震えて立ち上がれない。

「はっ――――!」

 空気が抜ける音がして、遂に捕まった深春は巨大な質量の塊に吹き飛ばされる。
 辛うじて刀で防御したようで死んではいないだろうが、体の中の空気を全て吐き切ったらしく過呼吸をおこしていた。

 ―やばい。

 たった一言だけ、ソウヤは内心でその状況を現した。
 しかし、次の瞬間には不敵な笑みがソウヤには浮かんでいる。

「おい――」

 凄まじいほどの数の剣が突如飛来し、深春に止めを刺そうとしたゴーレムに襲いかかる。
 視界に映るのは、今の今まで訓練していたであろうルリと教えていたギルティアだ。

「――どうして、お前らがここにいるんだよ」
「ソウヤさんっ!?」

 そんなソウヤの呟きをいざ知らずと飛び込んできたルリは、足を生まれたての子鹿のように震わせているソウヤの元へ走る。
 ゴーレムを中心として巨大な剣山を創りだしたギルティアに、ソウヤは目を向けた。

「どうして、魔法が使える?」
「色々と守護者には特典が会ってな、その1つじゃよ」

 理由は後で教えると言わんばかりのギルティアの表情に、ソウヤは小さく溜め息をつく。
 そして、こちらを心配そうに見つめているルリに顔を向ける。

「ルリも、大丈夫なのか?」
「万全…とは行きませんが、本来の守護者の半分程度の力なら今の私でも出せるはずです」

 どうやら、まだ守護者としての能力を万全に出せるわけでは無いらしい。
 ソウヤは「それでもありがたい」と感謝を口にすると、身体に鞭を入れて立ち上がった。

「あのゴーレムの砲弾は並大抵の力じゃ抑えきれない。俺も数発受け止めただけでこの有様だ」
「――ふむ。なら儂とルリで砲弾は受け止めようかの」

 休んでおれ、とギルティアの目が語っている。
 身体に無理矢理負担をかけて立ち上がったのは良いが、ソウヤにはそれ以上どうすることも出来ないのを察していた。
 ソウヤは申し訳無さそうな表情をすると、「すまない」と一言だけ謝る。

「若造が気にするでない」

 ギルティアは不敵な笑みをソウヤに向けると、ゴーレムに手のひらを向ける。
 瞬間、目を疑うほどの剣が地面から飛び出してきた。
 それはギルティアの周りをクルクルと回ると、ゴーレムに剣先を向けて停止する。

 剣の1つ1つが将軍剣に匹敵する質。
 それが十数、ギルティアの周りに鎮座していた。

 ギルティアが一言――

「――いけ」

 それだけで、十数もの剣がゴーレムにすさまじい速度で襲いかかる。
 しかし、ゴーレムの装甲は破れない。

「ソウヤ」
「…なんだ」

 不意にギルティアから声が掛かる。

「このゴーレムは物理・魔法・スキル。その全てを一切受け付けない装甲で作られておる」
「――――は?」

 それは一体どういう意味だと、ソウヤは大きく目を開いてギルティアを見つめる。

「コヤツを倒す方法は1つ」

 十数もの剣を片手で操りながら、ギルティアは視線をある方向へ向ける。
 それは、今ルビが結界解除を行っているであろう場所だった。
 視線で察したソウヤがゴーレムを睨んだ。

「…神をも殺せる力を使う、か」

 コクリと、無言でギルティアは頷く。
 唐突に、ゴーレムが鬱陶しそうにしていた剣から注意をこちらに向けた。
 左腕に付いている巨大な銃口がこちらに向けられる。

 だが、ギルティアは1つも驚きはしない。

「ルリ」
「はい」

 たった一言で全てを理解した…否、準備していたルリは両手をゴーレムに向け…唱える。

「――『守護(クォス)』」

 次の瞬間、巨大な鋼鉄の壁がソウヤたちとゴーレムの間に現れた。
 火薬が爆発する音がして、次に腹が震える重低音が鋼鉄の壁から響く。
 そして、コンマ5秒も経つ前に重低音が消える。

 あっという間な出来事。
 音だけしか理解できなかったが、ただ言えることは1つ。
 あのただの鋼鉄の壁にしか見えないものが、無強化とはいえ数発でソウヤの身体が悲鳴を上げるほど強力な砲弾を物ともせず受け止めたのだ。

 それは、最期にわかれたルリでは到底出来ない芸当だった。

「――――――――」

 しかも、受け止めた当の本人は息切れすら起こしていない。
 見ない間に凄まじいほどの成長をしていたルリに、ソウヤは小さく笑った。

「ソウヤッ!」

 不意に、幼い声が上がる。
 ここ最近で一番聞いた声だ。
 だからこそ、その声の意味を瞬時に理解しソウヤは――

「後は任せた」

 ――未だに治りきっていない脚に鞭を入れて声を上がった方へ駆けた。

 それに気付いたゴーレムがソウヤを追うとするが、先ほどよりかなり増えた剣舞に足止めを食らう。

「行かせませんッ!」

 ギルティアに加え、ルリも未熟ながらも剣を作り上げゴーレムの邪魔をする。

 ソウヤはヘナヘナとへたり込んでいるルビに近づき、しゃがんだ。

「…サンキュな」
「ん…」

 ソウヤの礼に小さく応答したルビに軽く頭を撫でると、すぐさま立ち上がる。

 ―急がねぇと…。

 焦る気持ちを抑え、ソウヤは大きく深呼吸をしてから足元に注意して駆け出した。




 ――少しだけつまんなそうにする、世界神がそれを見ているとは気づかずに。 
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