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グランドソード~巨剣使いの青年~

作者:清弥
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第3章
2節―”神殺し”を追い求めて―
  意外な出会い

 それから2日ほど、ソウヤはこの村に滞在していた。
 主な理由は『剣神』という究極能力(オートメイトスキル)へと変貌したスキルに身体を慣らすためである。
 といっても、前と早くなったとか力が強くなったという向上部分が全くない。
 どうすればより相手にダメージを入れやすいかなどの、情報は頭に流れ込んでくるが、逆に言えばそれだけである。

「進化…みたいなことが起きたから、下級に落ちている可能性が一番高い…か」

 最終的にそうソウヤは結論付けて、この2日の間は『剣神』の剣術に慣れることに専念する。

 その時もし、ソウヤがステータスを見ていたら”ある事”に気が付いていたはずだった。
 しかし、最果ての宮に居た時からソウヤはステータスに頼らないと誓い、以後ステータスを見ていなかったのが仇となったのだ。

 ソウヤが”ある事”を知るまで、後もう少し掛かりそうだった。




 2日経った後、ソウヤは道を塞いでいる者へと向かうため1人で準備をしていた。

 ルビはウリエルと戦った時に使った力の反動で、戦闘は出来そうになかったので今回はお留守番である。
 ウリエルとアルティマースはどうやらソウヤのみを治したようだった。
 文句を言うのも何だが、ルビも治してくれても良いんじゃないかとソウヤは思う。

 ルリとギルティアはルリの特訓が未だ終了していないため、ソウヤの足手まといになると行かないらしい。
 ルリがこの”神域”に来たのはごく最近、1ヶ月ほど前だから守護者となるための訓練が足りていないのだそうだ。

「じゃあ、行ってくる」
「うむ」

 ギルティアはソウヤの言葉に頷く。

「気をつけて帰ってきてくださいね」

 ルリは優しげな笑みを浮かべてペコリと頭を下げた。
 相変わらずの大和撫子っぷりである。

 ―これで黒髪ロングストレートだったら俺の好みドストライクなんだけどな。

 ソウヤは内心で苦笑いをした。

「ソウヤ…がん、ばれ」

 ルビが小さな声で、そう呟いた。
 ソウヤはルビに微笑むと、頭を優しく撫でる。

「あぁ」

 一言だけソウヤは言葉を返すと、身体を持ち上げる。
 そして軽く手を降ってソウヤは森のある方へ黙々と歩いて行った。

 かすかに感じる、視線を感じながら。




 目の前の姿をした少女にソウヤはしばらく固まった。

「待ってたでござるよ」

 その少女の服装はどこからどう見ても”武士”そのもので、しかも”ござる”口調である。
 ファンタジーまっしぐらな世界の中でここまで日本ひとっ走りな姿を見ると、流石に誰であろうと固まるのは普通だ。

「えっと、お前が――」

 調子が狂うなと内心で愚痴りながら、そう尋ねるソウヤ。
 その問いに武士風な少女はニヤリと嗤い――

「――そう、小生こそがこの道を防ぐもの…で、ござる……っよ!」

 それは、咄嗟の判断だった。

 ――ニヤリと嗤った少女は最後の言葉を言うと同時に目にも見えぬほどな速度を持った速さで、”何か”を振るったのだ。

 ソウヤは瞬時に後ろに身体を叩きつけるように後ろに下がった。
 反応が遅れたのは完全にソウヤの注意が外れていたのもあるが、それ以上にその剣筋は”ソウヤよりも速かった”のだ。
 あの、『剣神』というスキルと神剣術を手に入れているソウヤよりも…である。

「ぐっ…!?」

 苦しげな声を出して、ソウヤは胸を抑える。
 そこには、一筋の血が流れていた。

 この世界では殆どないレベルの鎧をあの、少女の一閃はいとも容易く突き抜けたのだ。

 ―こいつ、強い…っ!

 ソウヤは腰に掛けてあった雪無を抜き放つと、少女に向ける。

「ほぅ~。あれを避けるのでござるか」
「お前…何者だ」

 ニヤニヤとしている少女は、ソウヤの問いが可笑しかったのか小さく笑った。

「何行ってるんでござるか。小生は見た通り、黒髪ポニテの黒瞳。それに加えて超絶美少女の鋼の妖精、ヒューマンでござるよ」

 少女は「まっ」と言葉を続けるように言う。
 そして、えっへんと平均的な胸を張った。

「『申し子』の1人でござるけどね」

 正に正真正銘のドヤ顔を作った、自らを超絶美少女と名乗った少女にソウヤは内心苛つきながらも、この眼の前の少女の言った単語が気になった。

「『申し子』…?」
「あれ?聞かされて無いんでござるか?」

 心底驚いたような表情を見せた少女は、疑問を投げ返す。

「まっ、いいでござる。小生はこの道を通さないだけでござる」

 結局面倒くさくなったのか、説明を投げた少女は手にある刀と思われる刃物をクルクル回す。
 と、そこでソウヤは気が付いた。

「それは、まさか…っ!」
「ん?これ?そうでござるよ。この刀はソウヤ殿が知っているように”王剣(キング・ソーガ)”でござる」

 世界に1本―現在は2本―だったはずの王剣の別のものが、今ソウヤの目の前に存在していた。
 なお、歴史上に存在する王剣は雪無とも少女の持つ刀とも違う、大剣だったらしいので、どちらかが歴史上に存在した王剣とは違う。

「世界に1本だけではなかったのか…」
「あぁ、一般的に正史と呼ばれてる歴史のことでござるか。あんなもの大昔のことは殆ど偽物でござるよ」

 予想外の場所で知った真実。
 それに同様を隠せず、ブツブツと独り言をし始めるソウヤ。

 それを見かねてか、少女は額に血管を浮き上がらせた。
 空気を切り裂く甲高い音を鳴らし、刀の先をソウヤに向ける。

「と!に!か!く!…どうするんでござるか?ここを通りたいのなら小生を殺してからにしてほしいでござる」
「……」

 ソウヤはその少女の言葉にしばらく反応できずに居た。
 仮にも、こんな少女を殺す。
 その事実がソウヤの覚悟を決められずにいたのだ。

「なら、お前と勝負しよう」
「お前じゃなくて、小生は暁月深春(あかつきみはる)っていう名前があるでござるよ」

 いかにもご立腹ですという感じの少女…深春姿を見て、ソウヤは目をパチクリさせた。
 その明らかに大和撫子らしい美人顔、”ござる”や”小生”と言った特徴的な言葉使い、そして、暁月深春という名前。
 その多くの要素が、ソウヤを1つの結論へと導いた。

「まさか…暁月は――」

 目の前の黒目黒髪の少女はやれやれと肩を振る。

「――そうでござるよ、小生は”日本”からトリップされた人でござる」
「なら、何故ここを通さないっ!?」

 ソウヤは、深春のその言葉に無意識に叫んでいた。
 その反応を楽しんでいるのか、口角を上げている深春。

「ま、話はここまででござるよ。それで?”勝負”とはどういうことでござるか?」
「……あぁ、そうだ。”勝負”を暁月に頼む」
「…それを受けて何のメリットが?そしてソウヤ殿のメリットは?」
「暁月が勝てば俺は、二度とここへは訪れない」

 そのソウヤの言葉に、深春は「当然でござる」と頷く。

「そして、俺が勝ったら――」

 ソウヤは雪無を深春へ向ける。
 そして、大きく息を吸って…吐いて決意を固めた。

「――俺と、話し合いをしよう」

 その言葉が、静かな森を駆け抜けた。 
 

 
後書き
――その出会いは何のために。

※ソウヤは賊などで人を殺したことはありますが、”女性”は殺したことは無いので、深春を殺すことに抵抗がありました。 
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