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グランドソード~巨剣使いの青年~

作者:清弥
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第3章
1節―最果ての宮―
  決意

 ソウヤが50層をクリアしてから数日が経った。
 その間にこの迷宮の特性がソウヤは理解し始めている。

 1つ目はボスというのは、予想だが5層か10層ごとに一度にしかでないということだ。
 予想…というのは未だあれから2層しか進んでなく、ここまでに一度もボスが出ていないからである。
 もしかしたら4層や6層ごとに現れるかもしれないが、まぁ予想なのでそれはそれなのだ。

 2つ目は階層ごとの入り口に必ず、セーフティエリアと思われる空間があることである。
 そこには必ず魔物は入って来ないし、入ったら必ず帰ってくれるのだ。
 それ以外の特性は特に無く、HPやMPが全快したりすることは全くない。

 最後、それは何階層ごとに現れるマップが違うことだ。
 例えば50層は一直線の迷宮でそのままボス部屋に通じていたが、51層と52層は薄暗く狭い少し入り組んだ洞窟の中だったのである。
 これを知ってソウヤは、ボスを切り目にしてマップが変わっていくのではないかと考えていた。

「…っ!!」

 ソウヤは毎日の日課であることをセーフティエリアで行い、そして最後の素振りの1振りを落とす。
 凄まじい風が鳴り響く中、ソウヤのその振り方、立ち方、そしてその威力が50層とは少し違うことをソウヤは確信していた。

 口で荒い息をしながら、ソウヤは思う。

 ―さすが剣術王級…いや、戦士にしているから王神級か。この成長スピードは以上だな……。

 そう、ソウヤの今のメインスキルは戦士であり、毎日の日課は剣術のレベルを上げたほうが良いので毎日の日課だけこうしていた。
 だというのに、まるで巨剣使いを使っているようなほどの威力が最後の一振りに込められていたのであった。
 その最初との差は、雲泥の差なのである。

 ―さて…。

 ソウヤは息が整ってくるのを感じるとすぐさま休憩を辞めメインスキルを巨剣使いに変更する。
 正直、この巨剣使いのバフ効果を使わないと雑魚相手ですら苦戦させられのはザラであった。

 ソウヤは手に雪無(セツナ)を握ると、セーフティエリアから外に出る。
 その手に持つ雪無というのは、50層でのボスが落とした中級クラスの魔剣であった。
 いや、”今は”中級クラスの魔剣である。

 その雪無は白銀のような冷たく輝く長剣で、それはまさに雪の如し。
 さらに鍔の部分は翼のような形をしておりそれは酷く神聖なものを漂わせている。
 しかしその雪無に備わる能力は、酷くその美しさとは真逆の効果と思えた。

 雪無の持つ能力、それは『敵の血肉を吸うことでクラスが上がっていく』というものだ。

 魔魂剣(レジド)の持つ能力と似ているかもしれないが、この雪無の能力はその上をいくものである。
 剣のクラスが上がるということは即ち、魔剣の域を超えるというのを意味するのだ。
 魔魂剣は強くなるが、それでも魔剣の域を超えることは不可能であるが雪無はそれ以上の攻撃力を持つ可能性があるのである。

「おし、行くか」

 ソウヤは小さくそうつぶやくと、魔物の巣窟である薄暗い洞窟の中を歩き出した。
 50層を突破してからの迷宮の中は酷く広く、未だにマップを覚えるのにソウヤは苦労している。
 しかし、何回か入ったことである程度は覚えられるようになったのか少し迷いがあるなか、2つに別れた道を歩いて行く。

 そこで、まるまる太った二足歩行をする豚…つまりオークにソウヤは出会った。
 通常のオークは序盤で少し厳しい相手であるが、中盤に入ると完全な雑魚と化す…という設定だが、この迷宮ではそのオークのレベルが違うのである。

 オークエリートとソウヤは呼んでいるが、その強さはエリートの名にふさわしい。
 一体一体が中盤での上位装備を着込んでおり、その手に持つ武器は下級とはいえ魔剣や魔槍を持っている。
 一体の強さは確かにリザードマンエリートに劣るが、しかしオークはそれを上回る強さを持っていた。
 それはつまり…常に2,3匹が集まり集団行動を取っているのである。

 ―剣型と槍型に…っち、僧侶型か。めんどくさい集団に合ったな……。

 当然のごとくオークは手に持つ武器や武具はそれぞれに違い、ソウヤは剣を持つものを剣型、槍を槍型…という風に読んでいた。
 今回出くわした集団のオークは攻撃力がある剣型にリーチのある槍型、そして回復役である僧侶型がそろっている。
 相手にするには苦戦しかねないクラスだと言えた。

「はぁっ!」

 ソウヤは短く気合を入れると、一気にオークの集団に向かって駆け出す。
 狙うは僧侶型である。

 剣型がソウヤに向かってその剣を振り下ろした。
 それをソウヤは雪無を滑らして剣の軌道を変え、そのまま前に転がり込んだ。
 後ろでブォンッ!!という凄まじい風をきる音が鳴り響くが、ソウヤは関係なく僧侶型に突っ込む。

「『エクル・ドーガ』!!」

 僧侶型が低く醜い声で、そう叫ぶ。
 すると、光の矛が出現してソウヤに向かい飛んで行く。

「ッ!!?」

 ソウヤはまさか攻撃魔法を持っているとは思わなく、咄嗟に斜めにステップするが少し遅かったようだ。
 ソウヤの肩から鮮血が舞った。

「っら!」

 ソウヤはしかし、僧侶型の懐に飛び込むことに成功して雪無を腹にぶっ刺した。

「ガッアァ……」

 僧侶型は小さく血を吐いて、前のめりに倒れ込もうとする。
 ソウヤはそれを素早く支えて、雪無を刺したまま仰向けに倒れさせた。
 すると、徐々にオークの身体が干上がっていく。

「ガァアアア!!」

 仲間を殺されたことに怒りを覚えたのか、ソウヤに槍型は鋭い突きを放った。
 それをソウヤはすぐさま直刀を呼び出すと滑らせて軌道をそらす。
 しかし、その横から剣型が姿を現して下段斬りをお見舞いしようと振り上げた。

 ―僧侶がいなくなっても厳しい物は厳しいなっ…!

 ソウヤは右手に持つ直刀と同じものを左手に呼び出すと、それで防御する。
 あまりの一撃の重さに多少ソウヤは地面に下がるがすぐに立てなおした。

 ソウヤの持つその直刀は、51層での敵が落とした武器である。
 その黄色に染まったその刀身の部分には、なんと”刃”がなかった。
 その武器は斬るという行為ができなく、反対に殴るという攻撃方法が出来る代物である。

 下級魔剣クラスのこの直刀は、―能力は『刃がない』である―現在のソウヤの戦い方に適しているのだ。
 雪無の能力、血肉を食らうのには少々時間が掛かるがそれまで素手で時間を稼ぐなど、この迷宮では最悪の手段としか言い様がないのである。
 だが、他の武器を使うにしても斬ったら血が出てその分雪無が食らう分が少なくなってしまうのだ。

「っく…!」

 しかし、相手は2匹でこちらは自分一人と下級魔剣2本だけ。
 それにプラスして血を極力出さないことが条件なのだから、どちらが不利なのかは火を見るより明らかである。
 血肉を吸う時間は約20秒ほどで、しかし今のソウヤたちのレベルではその20秒は5分戦い続けるのと同じことなのだ。

 ―吸い終わったかっ!?

 ソウヤは雪無が刺さっている僧侶型が骨と皮膚以外無くなった干物と化しているのを確認し、やっとこさ雪無を取り戻した。
 そして直刀を2本ともアイテムストレージに収納すると、一気にソウヤは槍型に突っ込んだ。

 それに対して槍型はソウヤに向かい、横薙ぎを行う。
 軌道を逸らすことの出来ない横薙ぎを眼にソウヤは思わず小さくジャンプをして躱した。
 槍型の口がニヤリと嗤う。

「『炎の大剣|《ファイ・ラーガ》』」

 槍型の頭上から剣型が姿を現し、身の丈ほどある炎の大剣をソウヤにぶつけようと振り下ろす。
 技で2つ目に高い大剣(ラーガ)の形をしたその炎は、ソウヤを溶かそうと迫り来る。
 だが、それにたいしてソウヤはニヤリと嘲笑う。

「『中段・水の剣|《セイ・アークソーガ》』」

 下から2番目に入る、普通なら大剣に押されるはずの剣を象った水が雪無を覆う。
 そしてぶつかり合った炎をまとった大剣と、そして水を纏った剣。
 その鍔迫り合いは一瞬にして終わった。

 高い音が響き、剣型の持つ剣が弾き飛ばされる。
 ソウヤは無防備になったその剣型を見逃さず、一気に雪無を突き入れた。

「ガ、アァァ……」

 剣型はそう小さく呻き、目に闇を灯した。
 ドサリと地面に倒れる剣型と、その血肉を吸い続ける雪無を尻目にソウヤはアイテムストレージから直刀を1本取り出し、槍型に突っ込む。
 槍型は怖気づかず、反対にソウヤを強く見定め――

「『ウィンド・ドーガ』!」

 ――凄まじい速度の…渾身の一撃をソウヤに叩きこむべく突きを放った。

「ッ!!」

 そのあまりの凄まじさを持つ突きに、ソウヤは思わず瞬時に直刀を巨刀化させ槍型に突きを放つ。
 あまりのその打撃力に一瞬にして槍型はミンチになった

「あ……」

 ソウヤは思わずそうつぶやいた。
 命の危険を察知した結果、思わず禁止していたはずの巨刀化を使ってしまったのだ。

「両方死ぬのを覚悟ではなった技…か」

 あのあまりの凄まじさを感じたソウヤは、小さくそうつぶやく。
 そしてミンチとなった槍型を見て、ソウヤはため息をついた。

「無駄になったな…」

 ソウヤは倒したオークから役に立ちそうな物を全て拝借すると、先に進み始める。

「時間は…約1分しか経っていないのか……」

 「疲労と割にあわないな…」とソウヤはうんざりしたようにつぶやいた。
 あれだけの緊張感、危機感、恐怖感を感じていたのに対して戦闘時間は約1分。
 しかもそのうちの20秒は雪無の血肉を吸う時間に使ってしまっているので、結果的には40秒ほどである。

「あと…48層もこれを繰り返さなきゃならないのか」

 ソウヤはもう一度、ため息を付いた。

 ―でも、挫折するわけには…いかない。

 ソウヤは雪無を握る力を思わず強めた。

 ―ルリの手紙に書いてあった「何かを手に入れることができる」という、その何かはわからない。だが、ルリが言うからには俺が必要としているものなのだろう。

 目の前にまたオークたちが現れる。
 それは剣型と魔術型の2体のようで、こちらを見つけるとそれぞれの得物を構えた。

 ―俺はここをクリアする。そして、少しでも力を手に入れて…そしてラスボスを倒し元の世界に戻るんだ…。そして――やり直すんだ。

 ソウヤは意思を固めると、そのオークたちに向けて雪無を構え突っ込んでいった。



 未だ、歯車は回り始めたばかり、そう――まだ”始まり”の途中なのである。 
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