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グランドソード~巨剣使いの青年~

作者:清弥
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第2章
2節―運命が許さない旅―
  本隊攻撃

「らぁっ!!」

 ソウヤの持つ黒鏡破が魔物に振るわれ、魔物がその存在をかき消す。
 一回転しただけで、ソウヤの周りには半径5ⅿほどの円の更地が出来上がった。

 そのあまりな強さに、魔物達は怯えたように足をすくめる。

「どうした、ビビったか?」

 ソウヤが軽蔑の目を700は居るだろう魔物の軍団にそう言って嗤う。
 それを知ってか知らずか一気に魔物達はソウヤに襲い掛かる。

 しかし、それも一瞬のことですぐさま魔物の命は塵となり消えていき、残るのは真っ二つに裂かれた上半身と下半身のみ。
 緑色に塗れた黒鏡破を空を切らせ液体を飛ばすと、その巨大な刀を両手でもつ。

―残り400…。一気に魔物が飛び込んでそいつらの数が100くらいかな。

 幾度か切り裂いたソウヤはそう思うと、次は自らが魔物の中心に飛び込み次々に魔物の命を散らしていく。
 すると、巨刀が止められる感覚がソウヤはしたのですぐさま後ろに下がる。

「中級魔族2体…か」

 なめられたものだな、とソウヤは嗤う。
 ソウヤのこの進軍を止める事が出来るのは上級魔族か将軍魔族(ロード・ローゼ)だけだというのに。

 中級魔族の1体はその手に多少装飾された長剣を持ち、もう1体は杖を持っていた。
 ソウヤは空間魔法により巨剣から普通の刀に戻すと、両手で持つ。

 なぜ普通サイズに戻すかというと、巨剣だと構えなおすのに時間がかかり隙が大きくなるからだ。
 下級ならまだしも、中級魔族は格段に運動能力が向上するのでその隙を突かれることが多いのである。
 なのでステータスは下がるが、巨剣にくらべて圧倒的に扱いやすい普通サイズを使うのだ。

「――ッ!」

 素早く息を吐くと同時に剣を持つ魔族に黒鏡破を振る。
 中級魔族はそれを持つ剣で見事に防いでみせると、後ろに待機していた中級魔族が魔法を展開した。
 迫るくる水の球をソウヤは剣を持つ魔族を蹴飛ばすことでそいつを縦にすると、一気に後ろに居る魔族に突撃する。

「グラァッ!」

 魔族は咄嗟に魔法を展開して水の剣を生み出すと、迫りくる黒鏡破を受け止める姿勢に入る。
 しかし、そんな脆い水の剣を一瞬で黒鏡破は切り裂くと魔族を一刀両断した。

「1体目」

 ソウヤは小さく言って、剣を両手で構えている中級魔族に目を向ける。
 その魔族は全身に炎を纏っており、まるでその魔族自体が炎の化身になったような姿だった。

 ソウヤも知るこの魔法は中段火魔法の上級で覚える『炎の化身(ファイ・デルト)』というものだ。
 超大量の魔力を使う代わりに、凄まじいステータスアップを行うという魔法である。
 弱点と言えば大量の魔力を使う事と水魔法にめっぽう弱くなることだけだ。

 その炎の化身と化した魔族を眺め、ソウヤは少しだけだが驚嘆した。

「『炎の化身』を覚えているのか。未だ俺たちでも中段の下級でも凄いレベルだというのに」

 βテストの時では中段魔法の上級を覚えられたのは2人だけで、それぞれ1つの属性にだけすべてをかけたものだけだった。
 未だに1年も経っていない状況で、中段魔法を覚えているのは高レベルを死ぬのを前提で努力した奴だけではないだろうか。
 ソウヤはまさにその状況だったのだが。

 ソウヤは3ⅿほどにもなりそうな炎の化身を眺めた後、ソウヤは再び黒鏡破を巨刀に戻した。
 それは本気を出すぞという合図でもあったのだ。

「そんなにでかい図体してるなら、巨刀を使ってもいいだろう?」

 それだけ言うと、今までとは格段に早い―細かく言うと10倍差―速度で魔族に向かうと上段から振るう。
 それをギリギリ避けた炎の化身はその手に持つ炎の剣をソウヤに向かって振るった。
 しかし、それを最小限の動きでソウヤは避けると言葉を発する。

「走れ雷光『雷瞬速《ライデン・ストル》』」

 そういうと、瞬時にその姿をかき消したソウヤ。
 炎の化身はそのソウヤの姿を探すが…瞬時のうちにその炎の化身は中にいる魔族ごと真っ二つに切裂かれた。
 そこから生えたのは黒鏡破。

「ギャァァッ!!」

 魔族はありえないという風に叫ぶと、その命を散らした。
 ソウヤは崩れ去る魔族をしばらく見つめると、もう一度雑魚の掃討に向けて足を運んだ。




「…これで終わり、か」

 ソウヤは先行部隊の魔物の墓と化した戦場を見ながら、そう呟く。
 その先行部隊を倒すのにかかった時間はなんと5分程度で、あっという間に片付いていた。

「っと、本体のお出ましか」

 ソウヤはそういうとチラチラと見え始めた大量の魔物の軍隊に目を向けた。
 そこには今まで戦ってきたオークやエリートゴブリンなぞ雑魚がおらず、ソウヤには懐かしい魔物ばかりがそろっていた。

 ライオンに翼が生えたやつ…つまり”スカイキメラ”とオークにしか見えない奴…つまり”ゴブリンエリート”。
 『瞬死の森』では雑魚、今の普通のレベルだったら2パーティクラスの”ホワイス・ガブルルス”。
 どれも『瞬死の森』ではお世話になった魔物達ばかりだった。
 だからこそソウヤには理解できたのだ。

「…こんな軍隊、今の皆のレベルじゃ倒せるわけないだろ」

 通常、あそこまでのレベルを倒すには少なくとも2年と半年はかかるはずなのだ。
 ソウヤこそもう紙くず当然にバッサバッサ倒せるが、ソウヤ以外の奴らが相手に出来る相手ではない。

 その訳が分からない行動にソウヤは思わず黒鏡破を持つ手の力を強める。
 そして静かにその巨刀を真上へ持ち上げた。

「分かった…」

 ソウヤはそれだけ言うとしばらくの間、顔を伏せる。
 そして、伏せていた顔を静かに持ち上げると怒ったような顔つきで軍隊を睨む。

「そこまで俺たちを殺したいなら――俺がお前らを潰してやる、”本気”だ!!」

 初めは小さく呟くような言葉だったが、だんだんと声が大きく、怒りを含み始め、最後の言葉が少し離れた軍勢に聞こえるような叫び声を発した。

「オールチェンジ」

 ソウヤはそう小さく呟いた。
 すると、すさまじく眩しい光をソウヤが包み、そこから現れたのは見たことのない装備で身を包んだソウヤだった。

 それを第三者が見れば初めに見れば思う事が、「グロイ」だろう。
 上半身は漆黒の長そでに、同じく漆黒のジャンバーのようなものを羽織っていた。
 下半身は漆黒の長ズボンとふくらはぎの少し下ら辺から履いている闇を思わせる黒いブーツ。

 それだけでは死神をも思わせるただ黒いだけの服は、その一色だけ入れただけそのすべてを変わらせていた。
 血液のようにどす黒い赤が血管のように服全てに張り巡らせており、所々血が付いたように真っ赤に染められている部分がある。
 そして決め所はソウヤのどす黒い赤に染まった瞳だった。

 ソウヤと同じトリッパーが居たのなら必ず「うわ、厨二病臭!」というに違いないその恰好は、恥ずかしいのに釣り合わないほどに強力なのだ。

「右手、左手両方あるな」

 ソウヤの右手には漆黒の剣であり、ソウヤの対決戦用兵器『魔魂剣(レジト)』の長剣版が握られている。
 左手には一回も使う事がなかった巨盾の普通の盾バージョンとなった『ザース』。

 そしてそれをソウヤは掲げると、空間魔法を唱える。
 その瞬間、ソウヤに握られていたのは巨剣になった『魔魂剣(レジト)』と巨盾になった『絶対盾(ザース)』だった。

「初めてだな、俺自身が”本気”を出すのは」

 ソウヤはそういうと、静かに深呼吸を行う。
 そうすると、一気にソウヤを取り巻く空気がかわった。

 今までの”熟練の冒険者”という空気が、一気にまるで”初期のソウヤ”の空気に一転したのだ。
 ソウヤは今までほとんど出さなかった明るい笑顔を、身体から汗を出しながら軍団に向ける。

「さぁ、始めよう。第二回戦、”殺戮”の始まりだっ!!」

 一気に笑顔が獰猛になり、ソウヤは巨大な剣と巨大な盾と共に軍団に飛び出した。

 そして、その5000あった軍団がたった”15分”で壊滅状態になったことを、ソウヤ以外知るものはいなかった…。 
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