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グランドソード~巨剣使いの青年~

作者:清弥
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第2章
2節―運命が許さない旅―
  左翼の戦い

 光沢を持った鱗を持つ上級魔族が吠えて手の甲から生えた角のようなものを突き刺さんと、拳を固めて突き出す。
 圧倒的なまでに早い速度を持ち、襲いかかる拳をナミルは少し右にジャンプしただけでかわすと、構えを見せる。
 右足を前に出して少し半身になると、手に持つ独特な形態をした大剣を両手に持ち右側の後ろに構えた。
 この構えは見たとおり、突進専用の構えである。

 ナミルは一瞬ルリと目を見合わせると、ルリは頷いた。
 そしてルリは両手を前に突き出すと、魔法を発現させるための言葉を声高らかに叫んだ。

「貫け弾丸…『風纏銃弾(エア・パレット)!』」

 ルリがそう言い放つと、両手から凄まじい貫通力を誇る風を纏った直径1ⅿほどの弾丸が飛び出す。
 その弾丸が飛び出すと同時にナミルも上級魔族に向かい突っ込んだ。

 上級魔族は迫りくる右手で防御することで弾丸が簡単に砕け散る。
 その間に、ナミルは上級魔族の足元にたどり着くとその身体から想像できないほどの力で斜めに跳んだ。

「『纏』…!」

 ナミルは大剣に『纏』を発動させると、下に向けていた大剣を一気に振り上げようとした。
 しかし、何かに気が付いたナミルは咄嗟に防御に徹する。
 その刹那、凄まじい衝撃が大剣を伝いナミルに襲う。

「っく…!」

 うめき声を上げながら、その衝撃に逆らわないように後ろに吹っ飛ぶと地面を削りながら地面に到着する。
 そして、ナミルは目を上げると腕を振りぬいた状態の上級魔族が居た。

「早いな…」
「どうしますか?」
「…とにかく、攻撃あるのみだろう」

 ナミルを心配してかルリは近づいて、愚痴を漏らすナミルに声をかける。
 その言葉にナミルは不敵な笑みを浮かべると大剣をまっすぐに構えてそう言う。
 ルリはナミルの言葉にクスリと笑うと2つの鞘からそれぞれ長剣と短剣を取り出し、構えた。

「ガアァッ!!」

 上級魔族が拳をナミルに振り下ろす。
 ナミルは迫りくる拳に自ら突っ込み…その巨大な拳が当たる――寸前で黄色い”何か”がナミルの目の前で拳を防いだ。

「『気波』」

 『気波』…その本当の使い方は自らの気を相手に流し、それにより相手を吹き飛ばす『仙術』の限りある遠距離攻撃の一つだ。
 しかし、使い方によっては防御する盾にもなる。
 相手の攻撃が当たる寸前に『気波』を発動させ、その攻撃を受け止める事が出来るのだ。

 ナミルが上級魔族を受け止めている間に、ルリは上級魔族に持ち前の速さで接近する。
 それに気が付いた上級魔族はルリにも、もう1つの拳をふるう。

「ぐっ…!」

 ルリは右に持つ『黄金固地(ウォポルグ・ビプドミズ)』を拳に滑らせて攻撃を防ぐ。
 だが、その圧倒的な攻撃力にルリは小さくうめき声を漏らした。

 その攻撃でも接近することを止めないルリは、左に持つ『|音速白銀(サイレント・ミニット)』に自分にできる風を纏わせて上級魔族の鱗に攻撃した。
 しかし、その攻撃は鱗に当たった瞬間に…跳ね返される。

「なっ…!?」

 ルリがその強固すぎる防御力に驚いたその次の瞬間、戻っていた拳によりルリは吹っ飛ばされた。
 それを見たナミルは拳の強さに顔を歪めながらも、声を張り上げる。

「大丈夫かっ!?ルリ…!」
「は…い!大丈夫、です!!」

 地面にぶつかる寸前にルリは自分に風をぶつけることで勢いを殺したおかげで、怪我は負ったが戦闘が出来なくなるまでではなかった。
 これがこの上級魔族ではなかったらとっくにルリは腹の骨を粉砕されていただろう。

 この上級魔族はさきほどのように強固な鱗に纏われていて、防御型の上級魔族と言える。
 このような防御型の魔族は防御力があり得ぬほど高い代わりに、反面攻撃力が普通の魔族に比べ低い。
 一重にルリが戦闘が続けられるのも運が良かったからだ。

「…チッ!」

 ナミルはもう攻撃に耐えられない事を悟ると、『気波』を止めると同時に大きくバックステップして後ろに下がった。

 上級魔族は通常、レイド…つまり約64人体制でしっかりと前準備を行いやっとのことで倒せる相手だ。
 たとえそれが攻撃力が低いとはいえ数人がかりで防御するその攻撃を、1人で耐えられるわけもなかった。
 否、この十数秒耐えられたナミルははち切れん限りの拍手をするに等しい事を行ったのだ。
 まぁ、ソウヤなぞただの論外だが。

 ナミルとルリは体制を立て直すと、話を始める。

「どうしますか?あそこまで固いのはさすがに予想できませんでしたが」
「次は俺がやってみる、注意を引けるか?」
「出来ないとは言えませんねっ!」

 それだけ言うとルリは、2本の剣のうち『音速白銀』を仕舞うと『黄金固地』を両手で構えた。
 そして左足を大きく前に出すと半身になり、『黄金固地』を前に突き出す。

「では頼む」
「はい、任しておいてください」

 ルリはそういうと1つ深く深呼吸を行ってから…背中に溜めておいた風を爆発させると一気に上級魔族へ近づいた。
 上級魔族はルリに対して右足を大きく振り上げ、踵落としを行う。
 ルリはその攻撃に対して、瞬時に風を左方向に溜めると爆発させてその推進力で避けるとさらに近づく。

「いくらなんでも速すぎだろ…。……さて、どうするかな」

 ナミルはルリのソウヤの2/3ほどの速度が出ていることに本当に賞賛すると…上級魔族を倒す方法を思い浮かべた。
 一応、ナミルにはこの上級魔族を倒す術は無い事は無い。
 しかし、この方法を取ってしまうと最低でも2週間は戦力がガタ落ちしてしまうリスクがあった。

 そのことでナミルは思い悩んでいると…ふと思い返した。
 前、エレン達にソウヤの出来事を聞いてみたことがあって、その時聞いたことがあったのだ。
 「|将軍魔族(ロード・ローゼ)を1人で倒したのは本当か」と。
 エレン達はそれに本当だと伝え、その倒した方法も教えてくれた。

 そう、ソウヤは何週間もの戦力をそぎ落とす方法を使って…街を救ったのだ。
 それほどの力を使うのに並外れた覚悟が必要なのに…行ったのだ、ソウヤは。
 そう思うとナミルは今回の力を使う事に不安なぞ残っているはずもなかったのだ。

「…ルリっ!少しでいい!あいつの鱗をそぎ落とせるか!!」
「…!やってみます!」

 ナミルの要望に大声で答えたルリは、後ろに下がりナミルにタゲ取りを任せる。
 そしてルリはゆっくりと、はっきりと呪文を唱えると…今自分に出来る最大威力の魔法を唱えた。

「『風纏弾丸』!!」

 その瞬間、現れたのは直径40㎝ほどのそして超高密度の風を纏ったルリの全魔力を使った最高の弾丸だった。
 ルリは1ⅿほどもあった弾丸を縮小することで、あまった魔力を全て風に回し発動させ、1体の敵に対し最高のパフォーマンスを見せる事が可能となったのだ。
 その超高密度な弾丸は上級魔族が反応するより早く…心臓がある部分にぶち当たって――砕かれることのなかった強固な鎧が砕けた。

「ナイスだ、ルリっ!」
「はぁ…はぁ…どうぞ、やっちゃってくださいっ!!」

 ルリは息を荒げながらそうナミルに言うと、ナミルはニヤリと1つ笑ってから上級魔族に突っ込む。
 上級魔族は初めて強固なる鎧を壊された痛みに叫び声を上げると、怒り狂いながらナミルに拳を振り下ろす。
 あまりに直線的で、怒りに染まったその拳は早くなく、それに予測しやすい。
 簡単に避けたナミルは大きくジャンプすると鱗が砕けた心臓部分に到達する。

「いっけぇ!!」

 『纏』をなにも纏っていないその歪な形をした大剣は、その全力の突きにより…数㎝だけ入り込んだ。
 そのまま、両足を鱗を纏っている部分に引っ掛けると全力で叫ぶ。

「貫けえぇぇっ!!『気銃刃』っ!!!!」

 そう叫んだその刹那…刃の部分の中心だけ1つの線が入ったように裂けていた部分の最奥部分が少し黄色く瞬いた。
 そして次の瞬間、大剣の裂けた部分から目を焼くような黄色い光が発射され…それが伸びると、いとも容易く上級魔族の肉を断ち切り貫く。
 その刃の幅は1㎝ほどしかなかったが、貫いた瞬間数ⅿに膨れ上がり心臓を全て飲みこんだ。

 その凄まじい攻撃を放った技は、ナミルの持つこの大剣を作り上げたものが考え作り上げたものだ。
 その技の名は…『気銃刃(キジュウハ)』。
 大剣が裂けた部分からギリギリまで圧縮した気を発射し、相手を貫いた後に一気に溜め込んでいた気を全て開放する技だ。
 その気を放つところがまるで銃、そして解放した後の状態がまるで気の刃…だから『気銃刃』だ――と製作者は言っていたらしい。

 本来、やってはならぬ気を全て使い果たす技なので約2週間気が全く使えなくなるというリスクが存在する。
 だがそれを入れても、その威力はソウヤに匹敵するか、それを凌駕する可能性もあるほどだ。

「ガ…ガアアアアアァァァァァァァ!!!!」

 上級魔族の中でも上位に入る強固な鱗と言う名の鎧を纏っていた上級魔族は…その日、たった2人の妖精によって朽ち果てた。
 しかし、その倒したルリとナミルの損害も小さいものではなく、ボロボロの状態だ。
 2人の中で死人が出なかったことが奇跡に近かった。

「はぁ…はぁ…ナミルさん…お疲れ様で!?」

 ルリは膨大な魔法を使い果たしてしまった疲れを持ちながら、上級魔族を倒したナミルを労わろうとナミルの方を向く。
 が、ナミルは荒く息をしているだけで微動だにしない。

 魔力は使いすぎると全回復するまで気を失うが、気もそれと同様…否、気術は本来生命力を酷使して使う術なので、魔力よりひどい。
 魔力は1さえ残しておけば気を失う事はないが、気力の場合は残り半分を切ったところで昏倒する。
 最低でも生命に害がないところのラインが半分なのだ。

 しかし、『気銃刃』は死ぬ寸前まで気力を喰う。
 気力は普通、昏倒しても1日倒れるだけだが死ぬ寸前まで使うとなると、1ヶ月は目覚めない。
 それを2週間で目を覚めることが出来るのは、一重にナミルが二つ名を手に入れられるほどの強さを持っているからだろう。

「と、にかく。私も…ナミルさんも…休まないと、ですね。その前……に」

 ルリはそれだけ言うと、ナミルを1つチラリとみると…周りを囲んでいる100は居る魔物に視線を向けた。
 そして『音速白銀』を取り出すと二刀流を行い、魔物を睨む。

「こいつら…を、倒さないと…。で…す、ね」

 しかし、魔力をほんの少ししか残していないルリに100もの魔物を倒せるわけもなかった。
 それを分かっていながらもふらふらとした足つきで、魔物に立ち向かおうとするルリ。
 そこまで来たところで、魔物が一刀両断された。

「あ…」

 一刀両断された魔物の影から現れたのは、使い古された鋼鉄の半鎧を身に着けて同じく使いこなされた剣を持つ男だった。
 男は、ルリとナミルを見つけると安堵したように溜息をつき、後ろにサインを行う。
 そして次の瞬間、聞こえたのは野太い声だった。

「ここに居たぞおお!」
「「「「「「おおおおおおおおおおおお!!!」」」」」」

 男の後ろから聞こえてきたのは何重にも重なる声。
 この軍団を倒すために駆け付けた冒険者や兵士達である。
 それに安堵したのか、ルリはボロボロの身体を崩れ去り、その瞬時に意識を失った。
 左翼部隊、壊滅である。 
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