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グランドソード~巨剣使いの青年~

作者:清弥
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第1章
3節―平穏を裂く獣―
  緩やかな旅

 風が吹く。
 それはある人にとっては心地よく――

 ――ある人にとっては、悲しみに染まっているように思えた。

「行こう、ルリ」

 瞳を潤ませ、眉を歪めながら現実を受け止めるルリに青年は手を差し伸べる。

 濃い蒼に染まった髪と目に、病人だと思えるような白い肌。
 そんな青年の姿を見たルリは小さく頷くとその手を取る。

「はい、ソウヤさん」

 青年――いや、ソウヤはルリの言葉に苦笑すると立ち上がらせた。
 ソウヤとルリは二人で顔を合わせ笑う。

「なんだか違和感あるね、それ」
「姿が変わっているからですね」

 そんな茶番に一区切りをうつと、ソウヤとルリは真剣な表情で顔を見合わせる。
 次に向かうのは石で造られた小さな墓。

「リクさんに、挨拶できた?」
「はい…。ソウヤさん、ありがとうございました」

 そんな墓に、“リク”と彫られた文字がある。

 ――結局、“亡霊解放(エレメンタル・バースト)”を行ってもリク老人は生き返ることは無かった。

 あの時、リク老人が息を…いや意識を取り戻したのは数分だけだったらしい。
 だがその時に話せることをしっかり話せたのか、ソウヤが目覚めた後のルリは悲しみに顔を歪めながらも、気丈に振る舞っていた。

 ソウヤ自身もその数分間のことはルリに問いていない。
 理由は一重に、家族でしか話せないこともあるだろうと思っているからだった。

 その後ソウヤは“亡霊解放”によるデメリット――つまりスキル使用不能の『呪い』に苦しめられる。
 だが、何故か『呪い』の期間は1週間と短かった。

 もし襲撃された時とっくに解呪できていたのなら…という後悔の念から、ソウヤはその理由を考察する。
 そこから出た答えは、“使用した亡霊の強さだけ、『呪い』の期間が増える”というものだった。

 シュリードと戦ったとき、ソウヤは確実に倒せるように強力な魔物の魂を複数使用した。
 だがリク老人を救うときは魔力を超強化すればいいのだから、魔力値が異常に高いがその他のステータスが低い魔物の魂を2,3使用したのである。

 もしかしたら“使用した数”かもしれないが、そうだとするならバランスがいとも簡単に崩れてしまう。
 この世界に連れてきたのがもし“FTW”を作った人物なら、そんなことをしないだろうとソウヤは思っていた。

「ルリ、本当に大丈夫?」
「――はい」

 髪と瞳、そして肌の色を変えたソウヤはルリに問いかける。

 ルリが纏うもの。
それは普通に村民として暮らすには些か…いや、かなりおかしなものだった。

左腰に長剣、後ろ腰には短剣がそれぞれ刺さっており体は皮鎧で覆われている。
 それを更に覆うようにマントを羽織った姿が今のルリだ。

 つまり、それは戦う者の姿である。

 ソク老人が亡くなり、ソウヤの“亡霊解放”の『呪い』が解ける2日前。
 旅立つ準備をせっせと行うソウヤに、ルリが唐突に一緒に旅をさせてほしいと頭を下げに来たのだ。
 その理由を困惑しながらも問うソウヤに、ルリはただ「時が来たら」と一点張り。

 結局、ルリの熱意に負けたソウヤは危険であると重々聞かせ了承する。

 またその際に自身が非常に目立つ存在――つまり『均等破壊(バランスブレイカー)』のソウヤであることを明かした。
 それと同時に、旅立つ際はばれない為に姿を変えることも。

 姿を変える方法。
 元の世界ならまだしも、この世界では非常に限られる。
 だが、それをクリアする方法がソウヤにはあった。

 いつの間にか増えていた二つ名の欄にある『幻想騎士(ファンタジアナイト)』がその方法の原点だ。
 『幻想騎士』の効果は職業能力(メインスキル)に“月文字騎士(ルーンナイト)”を追加することである。
 “月文字騎士”は戦士系統の特殊能力(エクストラスキル)なのだが、プラス効果として“月文字(ルーン)魔法”を特徴能力(サブスキル)に追加するものだ。

 ここで出てきた“月文字魔法”こそがクリアする真の方法。
 効果は月文字を書くことでそれに対応した能力が発現するというもので、それは見た目の変化にも使えるのである。

 そして、ソウヤとルリが旅立つ時が来た。

「行こう――」

 ルリ、と続けようとしたソウヤの口が閉じる。
 どうしたのだろうかと首をかしげるルリを見て、ソウヤはすぐに口を開いた。

「――行くぞ、ルリ」

 それはある種の決別。

 だが、その意味を知らないルリはいきなり変化したソウヤの口調に驚く。
 それでも何か意味があるのだろうと察したルリは、それを聞くことは無く頷いた。

「はい、ソウヤさん」

 風が吹く。
 それはある人にとっては心地よく、またある人にとっては悲しみに染まっているように思うだろう。

 だが、今のルリには――

 ――その風が、穏やかであると思えた。 
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