グランドソード~巨剣使いの青年~
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第1章
2節―狂炎と静炎の円舞―
『軍勢の期』
「『雷槍』!」
「…ッ!『ウォルタ・ディバイル』!」
エレースの都市にある城の訓練場で、雷と水がせめぎ合う。
純粋な水で出来た水の壁に、雷の槍は突破することができずその威力を失った。
その雷を放った張本人…エレンは、ソウヤに向けて失笑する。
「一応、特殊魔法なんだが…まさかそれで防がれると自信を失うな」
それを聞いたソウヤは、首を左右に振ると「エレンは凄いよ」と手放しで笑う。
「自力で特殊能力…じゃなくて特殊魔法を覚えられるのは、そうそう出来るもんじゃないさ。流石は『瞬速雷』だよ」
「それを受け流すのも、流石は『均等破壊』といったところか」
『瞬速雷』という単語を聞き額に血管を浮かべたエレンは、やり返すように皮肉っぽくソウヤが嫌う二つ名を口に出す。
ふっふっふ。
はっはっは。
なんとも言えない空気がソウヤとエレンの二人の間に漂う。
それを見ていた兵士はこれから起こる出来事を予想し、訓練するふりをしながら冷や汗を流していた。
この城にソウヤが食客として招かれてから2週間が経っている。
最初の頃は貴族や兵士、騎士の人たちに対して接し方が分からなかったソウヤも、今ではエレンと軽口を叩ける程度には理解していた。
そして、―巨剣を使わなければ―エレンとソウヤはほとんど並んだ強さになるので、訓練と称して模擬戦闘を毎日続けている。
始めは魔法を撃ちあい小手調べし――
「さぁ、始めるか」
「あぁ、そうだね」
――熱が入ってきたら、互いに剣を取り本番を始めるのだ。
「――『結晶弾丸!』」
本来ならば特殊能力である“結晶魔法”を水魔法と風魔法で無理やり合成し、結晶を形成することで偽造するのがソウヤである。
無数の結晶を更に風魔法を行うことで浮かべ、ソウヤはまるでマシンガンのように連射した。
「っち、お得意の“偽造”か…!なら――」
迫る結晶にエレンは顔を苦しげに歪めると右手を伸ばす。
「――護り突け、『守雷剣』!」
そう唱えた直後、エレンの周りに電光が走り雷で出来た剣が次々に現れ結晶を砕いていく。
余った電光の剣がソウヤの頬を裂いていくが、ソウヤは気にせず笑い次の事前準備を始める。
―砕け散った結晶…いや、氷。そしてそれに水蒸気を摩擦させればいい。
高速の摩擦によりエネルギー、いや、雷がソウヤの周りに帯電していった。
それを見たエレンは太めのレイピアを突きの構えで固定すると、集中させていく。
そして――
「「奔れ、『雷瞬速!』」」
――エレンが『瞬速雷』と名付けられた“技”が発動される。
全身に雷を纏わせ、本来の何倍もの速さで移動するエレンとソウヤ。
その速度は、もう一兵士に残像さえ残そうとしていた。
エレンはソウヤが近づきつつあるのを確認し、レイピアを力強く構え――
―咲き乱れろ!
「――『華雷剣』!!」
華のようにスパークを瞬かせながら、エレンの剣は雷を帯びる。
それと同時に、ソウヤも血のように紅い炎を纏っていた。
―斬り燃えろ!
「――『地獄炎剣!!』」
エレンの華の雷を帯びたレイピアと、ソウヤの地獄の炎を帯びた長剣がぶつかり――
――次の瞬間に、勝敗は決まる。
「俺の、勝ちだな」
エレンの持つレイピアが弾き飛ばされ、ソウヤの持つ長剣がエレンの首筋に当てられていた。
それを確認したエレンはため息をつくと、吐き捨てるように言葉を出す。
「やっぱりソウヤ、お前は強すぎだよ」
―団長も大分おかしいだろ…。
周りで訓練していた兵士と騎士たちは、エレンとソウヤの戦いを見てそう思った。
「――『軍勢の期』が来てしまったか」
静かで暗い部屋の中、蝋燭の火を見ていた王はポツリと呟く。
深く椅子に座り込んでいる王と向かい合うように頭を垂れている黒い影は、その王の言葉に短く「はっ」と答えた。
「南東から魔物の群れ、総数約1万。死守していた砦も突破され、そこにいた兵、騎士はほぼほぼ全滅したようです」
各地に派遣している兵、騎士の数は大方把握している王はそれを聞いて大きくため息をつく。
南東の砦は比較的魔物が生まれやすい森や洞窟が少ないので、比較的配置していた数が元々少なかった。
それ故に被害も少ないと考えることもできるが、それでも死んだ者はいないわけではないのである。
「明朝、すぐにギルド“小風の妖精”と“破壊の竜巻”を招集じゃ。エレンとライトにもその旨を伝えるようにな」
「…はっ」
そこですぐに動き出すと思われた影は、少しだけ動くのを躊躇うと――
「王、誠に失礼ながら訪ねたいことが」
「うむ、話せ」
「…ソウヤ殿は、いかがされますか」
――食客であるソウヤに、手助けを請うことを暗に進めた。
大方予想していた王は、小さくため息をつく。
「…一応、伝えておくのじゃ」
「はっ」
そして影はこの空間から消えた。
流し目で見送った王は、窓から差し込む月明かりを見つめると目を細める。
「…1万、か」
過去の『軍勢の期』もここまで多くはなかった。
せいぜい来た時も5000程度であり、それでも現れた付近は多大な被害を被ったと報告があったのである。
―被害が最小限であるよう…祈り行動するしかあるまい。
月明かりの中、王の決意は出来ていた。
その日の昼、王を中心とした国家側と冒険者を中心としたギルド側の人間が、同じ席に集まっていた。
顔ぶれの中にはソウヤの姿もある。
滅多にない上流の人々が一斉に集まる中、その面々の顔は暗く空気は重たかった。
「『軍勢の期』、予想はしていたが1万とはな…」
一人の大貴族が小さくそう呟く。
戦闘を主な稼ぎをするギルドの面々も、あまりにリスクの高い状況に戦線に出るか真剣な表情で悩んでいる。
そんな重たい空気の中、ソウヤは今更ながら『軍勢の期』のことを思い出していた。
―『軍勢の期』…か。
“FTW”がβテストを行っていた頃、メインストーリーとして設定されていたのがゲーム内で1ヶ月毎に出現する魔物の大進軍。
ゲーム内で『軍勢の期』と言われる、各大陸にランダムで大進軍を行う魔物たちを撃退することが、キャラクターのするべきことの大きなひとつだった。
―そういえば、俺が”瞬死の森”に籠って3ヶ月位だったらしいから、ちょうど3回目か…。
本来ならばプレイヤー側がレイドを複数組んで行うイベントだが、それはゲームの頃の話である。
今はプレイヤーも生きており、死ねばそれはそのまま文字通り“死”に直結するのだ。
また、『軍勢の期』は毎回どの大陸で出るかはランダムなため、ゲーム時代ならば見つけた後ネットを使いすぐに集められたが、それも現実となった今では出来なくなっている。
そして、プレイヤーがそうやって役に立たなければ、何とかするしかないのは国のほうである。
元々NPCはプレイヤーよりか弱いのが普通だ。
その状態で『軍勢の期』に挑めば確実に止められても全滅は不可避である。
―それに、今回の『軍勢の期』は…。
ゲーム内3年間、合計36回『軍勢の期』は行われ、そして今回はその3回目。
区切りのよい数字であり、βテストの最終日もこの3回目を体験していた。
だからこそソウヤにはわかることがある。
「王、俺に提案があります」
ソウヤは声と共に手を上げると、難しい顔をして悩んでいた貴族やギルドの面々の視線が一気に上がった。
その視線が何を求めているのか、ソウヤははっきりわかっている。
王が小さく促すように頷くと、ソウヤは周りに向けて自身の今後の行動を口にした。
「俺が単騎で『軍勢の期』に向かい、敵の足止め、可能なら殲滅を行います」
「――ッ!?」
それは、周りが思っていたより上回った提案。
貴族やギルドの面々はともかく、エレンもその顔を驚愕へ変えていたのだから、どれだけ無謀なのかわかりやすいものである。
あわててエレンが声を上げた。
「ソウヤ、幾らお前でもそれは無謀だッ!」
エレンのその言葉を聞いて、ソウヤは静かに頬を小さくゆるめる。
心配してくれた、そんな事実がなにより嬉しかったのだ。
だからこそ――
「何か勘違いをしてるだろ、エレン」
「…?」
――だからこそ、この場所を護りたいとソウヤは心から思う。
「――――」
周りの人の息をのむ音が聞こえる。
それほど、この場所は静かになった。
それも、天井をぶち抜いて6mはある巨大な剣を肩に担いだソウヤを見たのだから、仕方のないことなのだろう。
「エレンと戦った力が、俺の本気じゃないさ」
「ソウ…ヤ、お前は……」
エレンは自身の手を強く握りしめた。
圧倒的な力の渦に飲み込まれただけでない、不敵に笑うソウヤの顔が――
「――大丈夫だよ、エレン。俺は必ずここを救って見せる」
そうやって笑うソウヤは、あまりにもエレンには儚く見えた。
だが、それを接点があまりない周りの人々はわからない。
「これで安心できますか、王?」
「――――」
ソウヤの視線を受け止めた王は、目を閉じ大きくため息をつく。
「…お主の助力、感謝するぞ」
「えぇ、任せてください」
そう言って軽く頭を下げる王の手は強く、強く握りしめられていたのだった。
後書き
言い忘れていましたが、特殊な『魔法』や『技』を出すには、出したい機能(たとえばすべてを燃えつくせ!)を言って、次にどんな物体(?)か(例えば業火よ!)を言い、最後に『魔法』や『技』の名前を言い放ちます。
ついでに言うと、地獄炎剣は『技』。
それ以外は今のところ『魔法』しか出していません
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