魔法少女リリカルなのは『絶対零度の魔導師』
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アージェント 〜時の凍りし世界〜
第二章 《暁に凍る世界》
白峰暁人
アージェント 静止衛星軌道上 次元航行艦アースラ
アースラの艦長室。ここには部屋の主であるクロノとフェイト、はやてに加え、通信ではあるが無限書庫の司書長ユーノ・スクライアが同席している。
「ユーノ、『白峰暁人』について何か分かったのか?」
『うん。ただ………』
「……?どうしたんやユーノ君。」
不自然に言い淀むユーノにはやてが声を掛ける。逡巡の後ユーノは、意外な事を尋ねてきた。
『いや、ちょっと……ね?皆を疑う訳じゃ無いんだけどさ、犯人って本当に白峰暁人って人であってるの?』
「……偽名の可能性も考えない訳じゃないが、今の所はまず間違いないとみている。」
『……そう、わかった。じゃあ順を追って説明するね?』
そう言うとユーノは通信機を操作し、何かの資料を送った。アースラの側で投影されたその書類には、12、3歳くらいの男の子の写真が添付されている。
『アージェントの戸籍にデータがあったんだ。白峰暁人、新暦54年1月10日生まれでもうすぐ17歳……の筈。血液型はO型で、両親の他に妹がいた。』
言われてみれば確かに、写真の少年の顔は犯人に似ている様にも思われる。……感情が凍てついた、あの氷の様な眼光を除いて。
『計測魔力パターンも一致、まず間違いないないよ。』
「待って、魔力パターンがあったの?」
ユーノの説明にフェイトが疑問の声を上げる。通常、魔力の固有波形が分かっていれば身元特定はその場で完了できる。しかし、今までの調査では該当者無しだった筈だ。
「確かに変だな……ユーノ、どういう事だ?」
『……その事は最後に、まずは分かってる情報から話をするよ。』
そう言ってユーノは資料を切り替える。同じ書類だが人物が違う。今度は6歳くらいの女の子の写真がある。
『妹の名前は白峰氷雪。名前が日本風なのは父親が日本からの次元移住者だからだね。母親と兄妹は生まれも育ちもアージェントだよ。』
少女は顔立ちこそ氷雪に似ているが髪の色が違う。氷雪の髪は新雪の様に真っ白だったが、この写真の少女の髪は兄と同じで、日本人らしい黒一色だ。
『写真は四年前のものだね。白峰暁人が13歳、氷雪が6歳の時の写真だよ。住所はゼスタ在住になってるけど、調べてみたら今は別の人が住んでた。』
再び資料が切り替わる。今度は暁人の詳細な資料の様だ。
『暁人の方は嘱託魔導師認定を受けていて、四年前でランクA相当、当時立ち寄った次元航行艦と幾つかの事件に協力してるね。登録デバイスは《ハボクック》、術式はミッドと近代ベルカのハイブリットと………アージェント式?レアスキル認定されてるね。』
「嘱託登録までしていて今まで引っ掛からなかったのか!?」
これにはクロノも驚く。他にも気になる情報が幾つかあったが、まず第一にそこである。これだけの情報が、どうして今まで出てこなかったのか。
『そうだね……結論から言うとね、『白峰暁人』って言う人間は現在、存在していない筈なんだ。』
「「「なっ!?」」」
『白峰一家は四年前、妹の氷雪が起こした魔力暴走で死亡している。白峰暁人は死んだことになってるんだよ。だから魔導師検索に引っ掛からなかったんだね。』
「ちょっと待て!じゃあ奴は幽霊だとでも言うのか!?」
『それがね……事故当時の捜査資料を見たんだけど、両親の遺体しか見つかって無いんだ。一応兄妹の分の血痕も致死量で見つかったから魔力暴走で遺体も残らないくらいに跡形も無く消し飛んだって事になってるけど……事故の検証作業も途中で不自然に打ち切られてる。つまり……』
「死んだフリしとったってことやね。でも、何でや?」
はやてが結論を引き継ぐと同時に新たな疑問を提示する。何故、暁人は生存を明かしていないのか。何故、暁人が犯行に及ぶのか。その辺りの事はまだ一切分かっていない。
「……それを説明してくれるかも知れない人が来たぞ。」
ディスプレイに映された来客のアイコン。モニターには神妙な顔付きのドウェル・ローランが映っていた。
エヴァ・ローズマリーは管理局情報部所属の三等空尉である。情報部には諜報担当の一課、防諜担当の二課、分析担当の三課があり、彼女の所属は二課だ。
彼女がアースラに来た理由は表向きは戦力強化だが、その裏で護送計画が犯人にリークされているという疑惑の内部調査がある。
しかし、彼女自身が情報源である以上、今暫くは特定されるような事は無いだろう。
そんな彼女がアースラ艦内を散策していると、前方から近付いてくる人影が一つ、ドウェル・ローランその人である。
「おや、ローズマリー三尉、奇遇ですな。」
「ローラン博士?どうしたのですか?」
「いえ、クロノ艦長に呼ばれてましてね。犯人について知っている事を教えて欲しい、と。」
「……犯人をご存知なんですか?」
「ええ、まあ。色々とありまして。まさか彼が犯人だとは知りませんでしたが。」
他愛もない話をしつつエヴァはドウェルを観察する。見た目は誠実で生真面目そうな、学者というより学生の様な人間だ。
「失礼ですが……犯人とどの様なご関係で?」
「何故そんな質問を……失礼、三尉の立場では、そのように疑うのも当然ですね。」
エヴァのやや穿った質問にもにこやかに応対するドウェル。
「彼の父親とは昔親しくしていましてね。その折に少し。」
話す様に嘘は感じられない。しかし、どうにも白々しい様な何かをエヴァは感じる。
(……一応、暁人に伝えておこう。)
ドウェル・ローランという名前を頭の中に刻み込む。
「……呼ばれている、のでしたね?引き留めてすみません。」
「いえいえ……では、私はこれで。」
去り行くドウェルの背中を、エヴァは注意深く見送った。
「話して欲しい事は山ほどあるんですが……」
目の前に座るドウェルにクロノはこう切り出した。
「まず始めに、白峰暁人とはどういった関係でしたか?」
クロノからの質問に、ドウェルは思わずといった風に苦笑を漏らす。
「……何です?」
「いえ……先ほどローズマリー三尉にも同じ質問をされたものですから。」
そう前置きしてドウェルは語り始めた。
「私と白峰暁人の父、白峰日暮は共通のテーマを持つ研究者として親しくしていましてね。研究テーマは古代の魔導技術。主な対象はアージェントに古くから伝わる固有魔導技術……便宜上《アージェント式》と呼んでいますが、それとロストロギア《スノウスフィア》です。」
意外な関連に、聞き手一同が目を丸くする。
「暁人君は父親が解明したアージェント式の魔法を学んでいまして、研究も何度か手伝ってくれました。彼のデバイスも、古代遺跡からの出土品を暁人君自身が近代化改修したものです。」
「それってロストロギアじゃあ……」
「いえ、確かに研究対象としての価値はありましたが性能的には現在のデバイスと同等か、やや劣ります。」
ハボクックの意外な来歴である。
「彼には妹がいましてね。いつも兄の後ろを付いて回っていて……本当に仲の良い兄妹でした。」
懐かしむ様に語るドウェルに、三人はただ黙って聞いている事しか出来ない。
「妹の氷雪君には莫大な魔力が眠っていました。そうですね……ここに居る皆さんの魔力の合計と同等か……或いはそれ以上の。」
「なっ!?……いくらなんでもそれは……」
「多過ぎるで……殆どロストロギアやんか……」
「……そうです、多過ぎたのです。氷雪君の幼い体では、その過ぎた力に耐えきれなかった……。」
「……それは、どういう意味で………」
「…………言葉の通りです。強大な自身の魔力に耐えきれなかった氷雪君はやがて体調を崩し……そして、魔力暴走を起こした。父親と母親は……状況から見てまず即死でしょう。第一波を免れた暁人君も氷雪君を助けようと……結果、第一波を上回る魔力爆発に呑まれ、遺体も残らずに消えてしまった………。」
ドウェルはそれきり沈黙している。あまりに衝撃的な話に、三人も何も言えないでいた。
ややあって口を開いたのはクロノだった。
「彼が……白峰暁人がスノウスフィアを強奪する理由に、心当たりは?」
「……恐らく、氷雪君の為でしょう。強力な氷雪君の魔力を抑え込む為にはスノウスフィアクラスの出力で安定させるしかない。ですが、ご存知の通り、スノウスフィアは単体では非常に不安定です。ですから……」
「……犯行は続く、と。」
「……幸い、最新の研究で、スノウスフィアの制御技術はほぼ確立しています。氷雪君の治療も可能でしょう。その方向で説得できれば、或いは。」
先の見えなかった捜査に光明が見えてきた。しかしその瞬間、はやてがある事に気付く。
「ちょっと待ってな……最新の研究って……研究施設があるん?」
「ええ、アージェントの中でも秘境と呼ばれるイリガルド山脈の麓に。」
「……氷雪ちゃんって子が、こないだの暴走の原因やろ?その子の暴走を止める為にスノウスフィア集めてるっちゅうんなら……」
「まさか……研究所を!?」
はやての言わんとするところを察したフェイトが驚きの声を上げる。ロストロギアを扱う様なレベルの研究所なら管理局からも警備部隊が出ている筈だ。到底単騎で襲撃できる場所ではない。
しかし、
「可能性としては……考えられるな。まだ未発掘の残り一つを待つより、手っ取り早く発掘済の“七つ”を奪おうと考えるかもしれない。」
あり得るとするクロノの言葉。そもそも相手が『まとも』であれば、アースラに単独で殴り込みを掛けたりはしてこないだろう。
「安心して下さい。一連の事件を受けて、襲撃にそなえて警備を強化してあります。仮に今すぐ襲撃を受けたとしても皆さんが駆けつけるまでには充分間に合うでしょう。」
ドウェルが落ち着き払ってそう言った直後、緊急事態を告げるアラートが鳴り響き、クロノのすぐ側に通信ウィンドウが開く。
『クロノ艦長、直ぐに艦橋に来てください!』
「状況を報告しろ!何があった!!」
『アージェント山岳部の先進技術研究所からエマージェンシーが発信された後、通信が途絶!詳細は不明です!!』
最悪の想定は、現実になろうとしていた。
〈Completed development of wide area boundary.〉
相棒の報告を耳半分で聞きつつ、眼下の研究所を見下ろす暁人。軍隊の礼装の様なバリアジャケットに、氷を思わせる無表情はいつも通りだ。
「ハボクック、エリアサーチだ。スノウスフィアの位置特定を……」
〈I am doing it already.Up to three specifications are completed.〉
「……そうか。」
僅かに、ほんの僅かに暁人の口角が上がる。自分の娘とも言えるハボクックと意思が通じるのは、技術者の端くれとしては、やはり嬉しいのだ。
「悪いが、ここにある“六つ”、全て貰っていくぞ………始めろ。」
〈Aye sir.Completion of magical power flow within wide area boundary.《Silver World》Start-up.〉
掲げたハボクックのクリスタルから、純銀の光が溢れだし、研究所を白亜に染め上げた。
後書き
英文はルビをGoogle翻訳に突っ込んでるだけなんで自信が無いです………
次回予告
暁人の真実を知ったアースラメンバー達。衝撃を受けつつも先行きが見えてきた矢先、暁人が研究所を襲撃する。
再び対峙する暁人とアースラ。投降を呼び掛けるフェイトとはやてに対して、暁人が告げる返答とは?
次回《不信》
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