赤舌
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第二章
「だからよいな、わし等が何とかするまでな」
「我慢しろ」
「そういうことですな」
「そうじゃ、若し我慢出来ぬなら」
どうしてもというのだ。
「わしも容赦せぬぞ」
「打ち首もですか」
「ありますか」
「うむ、その場合は致し方ない」
本気の顔で言うのだった。
「そういうことじゃ、わかったな」
「わかり申した」
「お代官様がそこまで言われるなら」
「そうします」
「わし等も」
「そうせよ、とにかく水のことは何とかする」
代官も約束した、何とかしないと抑えきれなくなると思ってだ。
「だからよいな」
「はい、ではお願いします」
「まことに」
双方の村人達も約束した、だがそれは今のところでだ。何とかしなければならない事情は変わらなかった。それでだ。
代官は代官所に帰ってだ、難しい顔で言った。
「どうしたものか」
「村人達にはああ言いましたが」
「水のこと」
「どうしたものか」
「問題ですな」
「うむ、何処にもない」
この辺りにというのだ。
「それではな」
「全くです」
「川の水がないのなら」
「一体どうすればよいのか」
「困りましたな」
「この辺りは井戸が少ない」
代官はこのことをここで言った。
「それが厄介でもある」
「では井戸を掘りますか」
「そうしますか」
「井戸掘りの者を呼び」
「そうして」
「うむ、そうしよう」
代官は代官所の者達に応えて言った。
「お奉行にもお話してな」
「そうですな、では」
「すぐに呼びましょう」
「そして井戸を掘ってもらい」
「水を出しましょう」
「人は水がないと死んでしまうし田もどうにもならぬからな」
それでとだ、代官も本気で心配して言うのだった。
「すぐに呼ぼう、しかし人が来て井戸を掘るまでな」
「それまでが問題ですな」
「一番厄介なのは」
「村人達がその間我慢出来るか」
「そのことが」
「やはり問題ですな」
「我慢させておるが命がかかっておる」
水のことだからとだ、代官は今にも争おうとしていた村人達のことを思い出しながら心配していた。
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