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東方夢想録

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1.幻想入り

 みなさんは、夢魔と言う存在をご存じだろうか。夢魔とは、他人の夢に介入してさまざまな夢に書き換える力・人の夢の中に入り込む力を持つ人外のことだ。また、夢や血液、精を介して他人の力を奪うことができる、とも言われている。
 さて、だいぶ話題がそれたが、俺こと海浦迅がいつまでサンタクロースなどという存在を信じていたかというと、こいつは確信を持って言えるが初めから信じてなんかいなかった。まず、家にはサンタ(意味深)がいないし、キリストの誕生日なのに自分の誕生日かのようにキャッキャウフフしてる罰当たりな輩の為に働く赤服じいさんの存在なんか否定してるよ。
 それでも俺が、宇宙人や未来人や超能力者や妖怪や悪の組織と戦うアニメ的漫画的特撮的ヒーローたちが世間からすれば存在しないものなのだと知ったのは相当後になってからだ。
 そう。世間からすれば、だ。
 もうすでに気づいているかもしれないが、俺はその『世間』という枠組みの中には含まれていない。

 何故なら俺がその夢魔だからだ。

 俺は今その日の授業を終え、家の安楽椅子に肘をかけ腰を下ろしていた。
「ふむ、やはり今日も来なかったか」
 来なかったというのは、同級生の『慶条丞一』のことだ。彼は、四日前にその家諸々忽然と姿を消し、それから、足取りすらも明らかになっていない。まるで神隠しのように、なんの手がかりも浮上しない。もはやニュースまでにもなり世間ではそれなりに騒がれている一件だろう。
「ここまでとなると、少し調べたくもなるな」
 この町は俺の庭だしな。あの人が守ろうとしてたものは俺が守る。ってな。






 幻想郷は忘却されし者たちがその末に行き着く終着点にして、楽園。人間も、妖怪も、妖精も、霊も、神も、あらゆる存在の共存する世界。
 幻想郷はすべてを受け入れるわ。時に残酷なまでに。時に滑稽なまでに。そう、すべて受け入れるわ。────たとえそれが己を崩壊させる者であっても。
 ふふ。察しがいいじゃない。そう、幻想郷はそれを受け入れてしまった。





 というわけだから、あなたにそれを退治してもらいたいのだけれど」
「といわれてもなぁ」
 遡ること五分ほど前。俺は神隠しの現場である『慶条宅』へ向かおうとしたところ、このスキマ妖怪が来たのだ。
 八雲紫。幻想郷の管理者で『妖怪の賢者』なんぞ呼ばれてるお偉いさんだ。俺の家系。つまりは夢魔の血筋は、すでに俺しか残っていない。そもそも、俺のように生まれも育ちも日本の江戸っ子夢魔事態が超少数なのだ。それもその筈で俺は夢魔ではあるが、さらに区分すると、夢魔科獏目の獏(日本産)と、辞典風にするとこうなのだ。そして、次第に数を減らしていった獏は紫の、というより幻想郷の保護対象となったのがつい最近、俺の祖父の代あたりからだ。だが、俺からすれば祖母というより母親に近い存在だ。やはり能力が少し似てるからかね。
「そもそも、そのような物件は博麗の巫女の領分だろ?」
「あなたは知ってるでしょう?現博麗の巫女のめんどくさがりようは」
 それも知っている。よく愚痴を聞かされていたのだ。忘れるわけがない。そして何よりもあいつだろ?今の巫女。あいつがサボらないわけがない。
「それにやはりあなたの領分よ。いくらあの子でも手をこまねくわ」
「………夢魔か」
「理解が早くて助かるわ」
 夢の中なのだから何でも思い通りになると思っているそこのあなた、人生そう甘いもんじゃない。むしろその逆で夢の中だと現実と次元が違うため普通の人間、いや、夢を見る知的生命体は、夢の中では全くといって動けない。そこを喰われるのだ。
「じゃ、行くしかないようだな」
「そういう契約だろ?世話にもなってるしな」
「そう、なら『あの二振り』は持って行きなさい。あなたには必要なものだわ」
 あの二振り、それは家の家宝のことだろう。値の打ちようのない刀だ。
「もちろん。てか、もうもったよ」
「ならいいわ。おそらく、こっちにはしばらく帰ってこれないだろうからそのつもりでね」
「大丈夫だよ。こっちにはもう残る物なんて無いだろうからな」
「………………そう。あなたの向こうでの家は魔法の森の比較的人里に近いところにあるわ。目の前には連れてくわ。着いたら、直ぐに博麗神社に来なさい」
「え?マジで?俺死んじゃうよ」
 だって、あいつがいるんだろ?霊夢だろ?こーろーさーれーるー。
「あなたがいっても冗談に聞こえないわ」
 うわっ。本心から言ってるよこの人。
 そういう紫の隣に俺の身長ほどもある裂け目が開いた。その中からは相変わらず無数の眼が俺をのぞいていた。俺はこの視線が嫌いだ。この視線にいい思い出はない。
 さっさとくぐってしまおう。そうすれば目の前には幻想郷だ。
「サンキュー」
 





 一方、魔法の森某所では。
「今日も大量だったぜ♪」
 三角の黒い帽子をかぶった、いかにも魔女ですよーという格好をした女の子が、鼻歌を奏でながら珍しく箒を使わずスキップをしてていた。すると、目の前に見慣れた裂け目が現れた。
「ん?どうしたんだぜ?紫?霊夢と百合百合しに行かないのかだぜ?」


「悪いが、俺は紫じゃあないし女でもないな」


「え?」
 女の子の目の前にいたのはいつもの胡散臭さを撒き散らしたスキマ妖怪ではなく、飄々とした癖っ毛の男だった。





 何故こうなった。どうやら目の前の魔女っ子は紫と勘違いしたらしい。あれ使えるの紫だけだからな。驚いて呆然としちゃってるよ。
「おーい。戻ってこーい」
「うわぁ!?びっくりした!お前誰なんだぜ?」
「俺か?俺は実力派エリート迅優作だ。たった今紫さんからこっちに送られてきたんだ」
「そうなのか。最近多いな。私は霧雨魔理沙!普通の魔法使いだぜ!」
 



 
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