IS〈インフィニット・ストラトス〉駆け抜ける者
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第33話
ゼロがミラに折檻を受けていると思われる間に、織斑先生達がやって来て、色々と説明してくれた。
やはりこの戦闘は合否に関連は無いようで、動かせれば問題なく、後はランクがどうこうの話になってくる。
その他諸々は入学した後で、とのことで、帰宅していいとなったが、問題が一つ。
「俺の実家…あるかなぁ…?」
前はもう学園の寮にいた。家族は変わっていた。家がどうなっているか分からない。
となれば、俺の実家は別人のお宅になっている可能性が高い。どうしたものかと途方にくれていると、
「あー、ったくミラの奴少しは兄を思いやれって…ん?お前…丹下智春だっけか?」
「…グランツ兄、コミュニケーションは済んだのか」
説教だけで肉体的には苦痛は無かったらしい。彼もこれから帰るようだ。
「で、何ボーッとしてたんだ?」
「家が、なぁ…」
帰りたいが帰れない、そんな含みを持たせたからか、彼は勘違いしたようで、
「帰りにくいなら、一度俺の家に来いよ。同じ男の操縦者のよしみだ」
「え!?ええ…」
「どうした?ああ、ミラや親は気にすんな、俺が言いくるめるさ」
「あれ?あの、ちょっと!?」
あれよあれよと、ゼロに背を押されるように歩き出す。まあ、家があるか確認するまで少しだけお邪魔するなら、いいか。
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と考えていたら、
「ミラ!ハルは俺とゲームするって言ってただろうが!」
「そんなの後でいいじゃん。ハル君は私とお買い物!」
「あらあら、トモちゃんは人気者ね。お母さんもお使い頼もうかと思ったのに」
「智春君の傍は居心地が良いからね。僕も含めてひっぱりだこだよ」
グランツ一家に猛烈にもてなされて、もみくちゃな現状。ゼロの家に上げてもらい、一度家を確認しにいったら、やはりそこには別のお宅があり、俺の帰る家は無かった。
うちひしがれる俺にゼロとその家族が入学まで家で過ごせばいいよ、と言ってくれ、お言葉に甘え、日を重ねたらこうなっていた。訳が分からない?大丈夫、俺もさ!!
「さ、ハル君行こ?これからは色々と入り用だからね、お兄とは違って」
「必要な物だったらハルは事前に用意してたぞ」
「今日は別件。ハル君文句言わないから黙ってるけど、着てる服お兄の『ダッサイ』お下がりじゃん!悪いと思わないの?」
意外なことに、寮のゼロとは違い、コッチのゼロの私服は個性的…うん、個性的な服ばかりだった。本人曰く魂が共鳴したらしい。善意で提供してもらっているので言いづらいが、ゼロの服で外を歩くのは少々勇気がいる。
「ハル君とお兄だと背丈とかも違うし、この際ちゃんとした服を用意するべきなの!ゴメンねハル君、こんなセンスの欠片もない服着させて…」
「おい妹、兄と話し合おうぜ?」悲しげなゼロを無視して、ミラが行こう?と手を出す。どうしよう…、
「ま、まあこの服も嫌いじゃないよ!中々見れるものでもないし、あ、アハハ…」
多少無理矢理なフォローに、ゼロが嬉しそうに頷き、
「フッ、ハルは分かる男だからな。仕方ない、ミラ、サッサとハルに合う服を買ってこい、その間、俺がハルとゲームする」
と宣った。その後喧嘩に発展したのは言うまでもない。
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そうして何やかんやと日々は過ぎ、IS学園入学の日、緊張感溢れる教室で自己紹介の時を迎えていた。
座席は最前列、織斑一夏の中心に、左右に俺とゼロがいて、後は全員女子。所在なさげに一夏がゼロを見るが、睨まれて目をそらし、此方を見てきたので視線でどうした?と問う。対応してくれるのに安心したのか口を開こうとした瞬間、先生に呼ばれて裏返った声で返事をしていた。
そのまま自己紹介を頼まれ、すこぶる簡潔に済ませてしまった。仕方無いよな、こんな女ばっかりだと。
そのまま自己紹介の順番が過ぎ、ゼロの番になり、
「ゼロ・グランツだ。よろしく頼む。ソッチのハル…丹下智春とは仲良くしているが、織斑…ワンサマーはよろしくしない、以上だ」
一夏以上に注目を集める自己紹介をしたゼロ。一夏は俺が何かしたのか?と首をかしげていた。
そのまま再び自己紹介は進み、
「次は丹下智春君、お願いします」
俺の番が来た。
「…丹下智春です。先程ゼロも言っていましたが、故あってゼロの家にお世話になり、親しくしています。」
ここで一度言葉を切ると、女子から黄色い声が小さくちらほら出てきた。
なんかゼロが攻めとか、寧ろ強引にゼロが押し倒されるとか…、後にしてください。出来れば休日に。
「…男の操縦者と言うことで、何かと教えてもらいたい事が出てくると思うので、織斑、ゼロ共々よろしくお願いたします」
言い終わると、肯定的な空気で自分の所に来いよ、見たいな雰囲気を女子達は出していた。
因みに、ミラは隣のクラス。直前まで散々渋っていた。
自己紹介を終わらせ、着席すると、一夏が話しかけてこようとして、背後から出席簿で叩かれていた。
一夏の頭の叩いたのは織斑先生であり、先生の自己紹介で教室は黄色い声援で溢れる。
この後も織斑先生と一夏のやり取りや先生の鬼教官宣言などがあって、時間が過ぎていった。
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「あー……」
「大丈夫?一時間でかなり参ってるが…」
「丹下…、コレはマズイ。ダメだ。ギブだ」
おう、一夏からの名字読み、新鮮ですな。
「慣れるしかないな織斑。ゼロなんか積極的に会話しているし」
「一夏でいいよ。俺も智春…『トモ』って呼ぶからさ」
「ほう、その心は?」
「ゼロ?が親しげにハルって呼ぶならトモって呼んでもいいかなって…、ウーン、違うな。理屈じゃないんだ、…そうしたくなった、じゃ駄目か?」
「……構わんよ」
ぶっきらぼうな返事になってしまったが、俺は驚いていたのだ。関連性が無くなっても、何かしらの名残はあった、という事実に。
そのまま会話していると、一夏が篠ノ之に呼び出されていき、特に変わったこともなく休み時間は終わった。
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つらつらと教科書を読んでいく山田先生、スムーズに学んでいる女子、退屈そうなゼロ、まったく理解できていない一夏。
俺は俺で教科書の大事そうな部分にチェックを入れていた。
先生の説明を聞きながら黙々と進めていると、一夏が注視しているのに気付いた。
「何さ?」
「…わかるのか?」
「…わからないなら聞いたほうがいいよ?」
と、山田先生に声をかけ、一夏がわからないらしいと伝える。
「織斑君、わからない所はどこですか?」
「先生、ほとんど全部わかりません」
山田先生が凍り付いた。流石に想定外だったらしい。おいおい、予習くらいするだろう。入学前の参考書はどうした、読んだだろう?
同じ考えに至ったか、織斑先生が訊いたら、よりによって古い電話帳と間違えて捨てたって…
向こうでゼロが肩を震わせている。おいイケメン、笑うな。俺が止めなきゃ、お前さんもお仲間だったぞ。
結局、最後は放課後に山田先生に教えてもらう形で解決した。前途多難そうではあるが…
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二時間目の休み時間、俺はゼロとオルコットに絡まれている一夏を眺めていた。
「あれがイギリスの代表候補生かつ、入試主席か。…ミラとは大違いだな」
「それだけ自信ありってことだろ?噂では、唯一教官を倒したらしいし」
手抜きしていた我々とは大違いである。もっとも、教官に勝ったから強者、というわけにもいかないのだが。
と、オルコットが一夏に詰め寄った瞬間チャイムが鳴り、授業が再開される。そこでクラス対抗戦の代表を決める話になり、女子から一夏が推薦され、それに抗議したオルコットと勝負、という流れでゼロが爆弾を投じてくれた。
「…俺はハル…、丹下智春を推薦する。間違いなく今言い争っている二人より強いからな」
挑発するような物言いに、オルコットが問う。
「代表候補生のわたくしより強い?愉快な冗談ですわ。推薦された貴方、どんなお気持ち?」
俺の実状を知らないオルコットに嘲笑ぎみに訊かれる。そもそも出たくないんだが…
「本音は辞退したいが、織斑先生も言った通り、他薦に拒否権はない。だが、コレでは三人、勝負も納得できない結果が出るかもしれない。だから、もう一人推薦し、四人で勝負はどうだろうか」
奇数は正々堂々な勝負になりにくいので、禍根が残りにくい提案をする。さあ、乗るか反るか…?
「わたくしは構いませんが、どなたを推薦なされます?貴方の提案に見合う者は誰ですの?」
オルコットの発言に黙ってしまう。推薦したいのはゼロだが、専用機の準備がまだ出来ていない。かと言って、下手な女子を推薦も出来ない。誰か居ないかと教室を見渡すが、適当な人物は…居た!
「篠ノ之箒…彼女を推薦させてもらう」
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