とある科学の傀儡師(エクスマキナ)
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第81話 大事な欠片
前書き
更新が遅くなって申し訳ありません!
色々予定が重なりなかなか執筆時間を取れなかった
なかなか展開に悩んで筆が止まる事もしばしば
万華鏡写輪眼が生み出した世界から弾き出されるように渦巻く空間の歪みから御坂と食蜂が半回転しながら放り出された。
「うわっ!?......あだっ!」
御坂は放り出された反動でしこたま頭をぶつけたらしく激しくぶつけた箇所を撫でるように痛みを分散させようとしていると、御坂より真上に居た食蜂が重力により落下してきて御坂の鳩尾にクリーンヒットした。
「あだだぁー!......グピッ!」
再び強制的に頭をぶつける形となり、肺に溜まっていた空気が押し出されて妙な御坂の呻き声となって響く。
大の字で魂が口から漏れ出しそうになって痙攣している御坂をまるで珍しい生き物でも眺めるかのように御坂に腰掛けたまま頬杖をついている食蜂。
「......変わった鳴き声ねぇ?」
「さっさとどけー!」
無理矢理立ち上がり、上に乗っていた食蜂を振り落とした。
「さてと......ここはどこかしら?」
「知らないわよ」
御坂と食蜂はイヤに豪華な絨毯とテーブルが置かれており、どう頑張って見ても便器にしか見えないキラキラと黄金と輝く物体に軽く引いた。
という事はここは『御手洗い?』
趣味悪......
もうね、代表格だよね
便器を黄金する奴とか黄金のブリーフ履いている奴や茶室を黄金にする人(←!?)は無条件で危ない人だし、想像する以上に文字通りの凄まじい変態
「......」
某テレビ番組でしか見ないような最悪趣味の便器に引きつった表情を浮かべる御坂に食蜂が窓の外を見ながら伸びをした。
「あまり芳しい状態じゃないわねぇ」
メンタルアウト用に手に持っているリモコンに口付けするとシンと静まり返る異様な学園都市の様相を見下ろした。
豪華な両開き扉の前から歩く音が聴こえてきた。
「!?」
「やばっ!」
2人は慌ててテーブルの下に隠れるとメイド姿の御坂妹が銃を片手に入ってくると無機質な表情でキョロキョロしている。
「侵入者の気配を感じました......がミサカの思い違いだったようでした」
と言いつつ隠しきれていない常盤台中学のスカートと微かな振動に怪訝な顔を浮かべると指で突いてみると。
「あひゃ!」
予想外の部分を触られたのか食蜂が飛び上がってテーブルに頭をぶつけた。
「ちょっと何してんの!?」
「何かが触れたみたい......ねぇ」
ジーっと御坂妹が屈みこんで隠れている御坂達を凝視している。
「あっ!」
「侵入者ですね。10秒以内に投降しないと蜂の巣にしますとミサカは果たして人間の身体に蜂が住み着くのか疑問に思いながら比喩を用いてやんわりと伝えます」
と銃口を机の下に居る御坂達に向けると狙いを付け始めて、数を数え始めた。
「10......9......8」
「ど、どうするのぉ!?」
「どうするってアンタの大きなお尻が見つかったんでしょ!?」
「はァーーーッ?はァーーッ??誰がお尻が大き」
「あんだけ偉そうな事言っておいて簡単に見つかるなんてね」
「何よぉ!貴女と違って隠す面積っていうか体積がこっちの方が多いんだからぁ!良いわよねぇ、お子様体型はぁ!」
「体型関係ないでしょうが!」
「5......4」
「!?」
テーブルの下で不毛な争いをしている御坂と食蜂だったが銃のカウントダウンが進んでいることに気がついてアタフタとしていると......
「あらあら何何?侵入者?」
と少女の声をした人物が扉を開けてにっこりと笑顔を浮かべた。
「これは......警策様。はい......とミサカは質問への回答をします」
黒髪ツインテール姿の女性がそっとテーブルの下を覗き込むと御坂と食蜂を交互に見つめると軽くウィンクした。
「分かったわ。ありがとうねぇ。貴方の持ち回りは何かしら?」
「はい......街の電力をストップさせる事です」
「なるほどぉ。ふむふむ、どんな感じで電力が止まっているのかしら?」
警策が何やらカルテのような物でメモを取りながらミサカに質問を繰り返している。
「街の変電所を制圧して電源をオフにしています......とミサカは変電所の方を指差しながら説明します」
「うんうん......それって電力を回復させるにはどうしたら良いかしらぁ?」
「電源がオフになっているのでオンボタンをポチッとすれば万事解決」
「そう......計画も順調みたいだし、そろそろ電力が欲しいから私が指示したらスイッチ押してくれる?」
「分かりました」
計画?
新たに現れたこのナース服姿の女性もあのゼツ達の仲間かしら
ヤバイ......今の状況ってかなりヤバイんじゃあ
「それで......こちらの侵入者は如何なさいますか?」
「んー、少しだけ聞きたいこともあるから後は私に任せて貰って良いわよぉ。貴方は持ち場に戻りなさい」
「分かりました。では失礼します」
とメイド姿のミサカが扉を開けて部屋から居なくなり、足音が遠くなるのを確認すると警策がテーブルの下をなんとも不機嫌そうな顔で覗くと外に出て来いと言わんばかり指を振っている。
「見つかってんじゃねーよ。馬鹿か」
「んへ??」
さっきまで優雅さを極めた女性とは打って変わり不良のようなガサツさと乱暴な言葉使いに御坂は目が点になった。
「助けにくるのが遅いわよぉ」
「これでも急いだんだがな」
御坂がテーブルから這い出てくるとテーブルに備え付けてある椅子にヒョイっと警策が飛び乗って、ナース服のミニスカなんて気にせずに胡座をかいて頬杖をついて悪態をつく。
この言葉使いと死んだ魚のような眼に御坂は既視感を覚えて、手を震わしながら黒髪ツインテール少女を指差した。
「ま、まままままさか......サソリ?」
「やっと気付いたか......どうしたものか」
無駄に疲れたわー
何この数分間!?
サソリがあの女の子になっていて
あの声も口調も全部サソリの演技?
いや、黒子の時に良く見せて貰ったけど
でも叫び声を上げて、黒髪ロング男性に変貌して......???(大混乱中)
「上手くいったみたいねぇ。ララ」
「賭けに近かったからな。あー、写輪眼で保険掛けといて正解だった」
ゼツ達が人工写輪眼の研究をしていて、資料も読んでいたサソリは見様見真似で自分のチャクラを学園都市のネットワークに保存していたらしい。
何こいつ!
「随分と可愛らしくなったわねぇ」
「動きにくい上に術も制限されるからな。まさか穢土転生やられるとはな」
「えどてん......せい?」
頭を抱えてブリッジしている御坂がニョキッと立ち上がり、疑問を投げかけた。
「ん?死者を蘇らせる術だ。アイツら『うちはマダラ』を蘇らせやがったか」
「死者って死んだ人?そんな術があるの!?」
「そうだ。まあ、禁術だけどな」
ゴキゴキと首を鳴らしているが、あまりしっくりこないらしく腕や足の関節を動かしていた。
「へぇ。割と凄い能力じゃないかしらぁ?」
「準備が大変なんだよな。蘇らせる人間の遺伝子が一定以上必要だし、生きた人間を犠牲にしないとダメだし」
「!?」
サソリの説明に御坂と食蜂の表情が強張った。
「ん?ん?」
「ど、どういう事?!」
御坂がすっかり黒髪ツインテールが板についたサソリに詰め寄ってきて、思わずサソリの座っている椅子ごと後ろに傾く。
「その犠牲になった人間はぁ?」
「.....死ぬが」
「はぁ!?死ぬってどういう事よ!」
「それが発動条件に入ってんだよ。昔大蛇丸をスパイしていたから知ってるし」
食蜂は静かに能力を行使したが、そこには希望的観測とは程遠い『死』に揺るぎなく向かうサソリの心からの諦めを読み取る。
「う......嘘じゃないみたい」
「っ!?」
超能力者(レベル5)が畏れられて、敬遠される存在となるのには理由があった。
圧倒的な能力はどんなに証拠よりも強いものとなり、その言葉はどんなに無茶苦茶なものでも現実となり得る。
不可能な領域だろうが、科学だろうが打ち砕いてレベル5という称を持ったものによる定めに近い。
死ぬ?
何よ、何でこんなに呆気なく言えるの?
おかしくない?
「......なんとかならないの?」
「無理だ。オレのチャクラが尽きたら消える」
サソリは飄々と椅子の傾きを直すと先ほど取ったメモをテーブルに置いて、作戦を立て始めていく。
「だから割と時間が無いから、足早に作戦について指示を出すか......ら?」
あまりにも感じた事がない雰囲気にサソリ警策も普段の調子から外れて、困ったように視線を泳がせた。
「なによそれ......」
御坂が涙声でしゃくりを上げながら言う。
「.....死ぬ前になんとかするから大丈夫だ。ゼツも油断しているみてーだし」
「違う......」
「??」
御坂の感情が読み取れないのかサソリは不思議そうな顔をして俯いている御坂を覗き上げようとするが....,,
パシンッ!!
サソリ警策の左頬に衝撃が走り、椅子から崩れ落ちた。
「!?」
「違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違うー!何もかも違うー!!」
御坂が電撃をバチバチ放ちながら、感情を爆発させる。
「.......?余計な体力を使......!?」
サソリは初めて御坂の両眼から涙が溢れているのに気が付いて、思わず動きを止めた。
「だって....,,アンタ死んじゃうのよ」
「そうだな」
「な、何で......そんなに冷静なの......何で、何でよーーー!」
女ってのは無駄なことをするのが
好きな奴らだな......
声を荒げて涙でクシャクシャになった御坂の様子にサソリは目を見開いて驚く。
最期の戦闘に敗北した時と重なった。
痛みを感じない身体から借り物ではあるが引っ叩かれた痛みが妙に脳へと伝わる。
結局、オレは変わらなかった
何一つ......
「身体......」
「ん?」
「身体を取り戻せば元に戻るわよね?」
「......」
徐に立ち上がるサソリ警策。それは吹っ切れたような笑みを浮かべると御坂に聞こえるようにはっきりと言い切った。
「ああ、そうだな」
御坂はホッとしたように緊張を緩めると一息つくため瞼を閉じると首筋に一発凄まじい衝撃が入り、簡単に意識をなくしてサソリにもたれ掛かるように倒れ込んだ。
「!?......」
サソリ警策は振り下ろした腕の構えを解くと気絶した御坂を抱き抱えると優しく横にさせる。
「ララ」
食蜂がリモコンをサソリ警策に向けながら呼吸を整えながら狙いを定めていた。
「......やりたきゃやれ。たかがチャクラの亡霊のようなオレを生き残らせたいならな」
「......どんだけ自分勝手なのかしらぁ」
「?」
「自分が犠牲になる事しか考えていないわよぉ......少しは残される側の方も考えたらどうかしらぁ」
食蜂はララが時空崩壊で消えていった友人『ララ』を思い出していた。
部屋に戻っても彼はおらず、どこに行っても二度と逢えない辛さが心を締め上げる。
「あの時の後悔なんてもうたくさんよ。大切な人を喪うのなんてねぇ!」
食蜂の慟哭に近い言葉にサソリの頭にかつての家族を思い出させた。
お父さん......
お母さん......
何で居ないの?
オレを置いて、何処に行ったの?
寂しいよ
戻ってきてよ
残される側の痛みなんか死ぬ程味わってきた筈だったのに忘れていた。
死ねば終わると思っていたし、自分が死ぬ事で喜ぶ人間が居ても悲しむ人間なんて居ないと考えていた。
ビンゴブックに載るという事はそういう意味だ。
世界中の人間が居なくなる事を待ち望み、常に命を狙われ続ける生活。
だが今はこうして制止し、悲しむ人が居ると再確認すると二の足を踏んでしまう。
「......」
サソリ警策は重くなった足取りでゆっくり踏みしめるように歩き出した。
この世界に来てからサソリは今まで経験した事がない事を経験してきた。
「それだけ大切に想っているのよ。仲間としてでなく......!」
サソリ警策が歩くのを止めてジッと食蜂を見上げた。
「.....それ以上言わないでくれ......未練が残るだろ」
「!?」
忍は影に生きる者
死して屍を残さず
歴史に掻き消されていく存在であるべきだ
その筈だった
そのように生きてきた
そして敢えて絞り出すように矛盾することを呟く。
「死んだ人間はもう戻らない」
それは今までの自分を肯定する事だった。
何十回、何百回試行した事だろうか......
人間と人形のはっきりとした違いを、明確な『命』についての定義を解明しようとしてきたが失敗してきた。
願っても
身体を壊してまで挑んでも父と母は帰って来なかった
この世界の乱数は残酷だ
******
もういい......
こやつをこんな風にしてしまったのは、ワシら砂隠れの悪しき風習と教えじゃ......
「誰ですの?」
白井と白ゼツが戦い、レベルアッパーに意識を取られた。
白い靄......いや霞がかった世界をキョロキョロしながら当てもなく彷徨っている。
時折、何処からともなく古いレコードのようにノイズが入った老婆の声が響いており、何かをしなければならないと白井自身を焦らせる。
くだらぬ年寄りどもが作ったこの忍の世界......ガー
かつて、ワシのしてきた事は間違......じゃった
しかし......最後の最期になって本来あるべき正しい事ができそ......じゃ
殺戮と暴力が支配する世界......孫をたす......られる
「?」
声は覚束なくなり半分以下の明瞭さしか保っておらず、論理もなにもかもが破綻している。
しかし、それは決して理性ではなく感情に訴えかけるような気迫を感じた。
孫を......サソリを
助けてやってくれ......
再び悪しき風習に......前に
助けてやってくれ
全てから解放されたババアからの後生の頼みじゃ......
「サソリ?サソリに何があったんですの?......どちらに」
声は次第に遠くなり、覆われたいた靄が晴れると暗がりに蝋燭が点火されている部屋に白井は立っていた。
部屋の片隅には2人の倒れた人形とうずくまる小さな子供がいた。
「......」
部屋は土作りで妙に拡く感じる。人形の腕や脚部が散乱する部屋に白井は勢い良く踏み出した。
ばら撒かれた傀儡人形は白井が触れる度にクナイを吐き出したり、刀で斬りつけてくるが能力を使わずに切られるまま......あるがままの血を滴らせながら閉じこもる少年に近づいていく。
「父さん......母さん」
「!?」
白井は彼の言葉に足を早めた。孤独に苦しんでいる幼い子供がサソリだと何故か直感で分かり、どんなに傷付いても彼を迎えに行く。
まるで茨の道を歩むように......
「サソリ!サソリですわよね!」
クナイが白井の頬を掠める。空中に浮かんだ首からは針が飛んでくるが白井は寸前で手前に戻り躱した。
ここはサソリの閉じた心そのもの
外的からの、いや自分以外の全ての脅威から己を守るために創り上げた世界だ
「オレは人間か人形か?......オレはナニモノだ?」
白井が噴射された炎を躱すように部屋の隅にうずくまるサソリの前に来るとそのまま抱き締めた。
「?!」
驚いたようにサソリは顔を上げたが白井は傷だらけの顔のまま柔らかい笑顔を見せる。
「帰りますわよ......みんなが待ってますの」
「白井?」
「まだまだお子様みたいですわね。大丈夫ですわよ」
白井は小さなサソリの腕を掴むと部屋を飛び出すように走り出した。
数々の仕掛けが作動し始めたが関係無かった。
今は思い切り走りたい気分だった。
「まさか白井さんが......」
「私を逃す為に」
病院のベッドに寝かされた白井を初春と佐天が心配そうに覗き込んでいた。
場所は病院のベッドの上だった。
かつてサソリが入院していた病院だ。
ここもゼツ達の企みにより壊滅状態だったが一部の影響を受けなかった看護師と医師が救護に当たっているが人手が圧倒的に足らない状態だった。
しっかりと呼吸しているのを確認すると初春は頬を叩いて、奮い立つとジャッジメントとしてどうするべきかを必死に考えを巡らす。
己の信念に従い、正しいと感じた行動をとるべし!
ジャッジメントの心得のひとつですのよ
貴女に自分を変えたいという想いがあり、その想いを貫き通す意思があるなら
結果は後からついてきますわよ
まだ新人だった頃に言われた白井の言葉を噛み締める。
「佐天さん!白井さんをお願いします!」
他の生存者の救助活動や意識不明者の捜索などやらなければならない事はたくさんある。
ゆっくり休んでいる暇はない。
「ま、待ってよ!あたしも手伝うよ」
佐天も病室から出て行こうとしたが、眠っている白井の枕元に何かが動いた気がして見てみると......
「??難しい漢字の筒?」
それは『蠍』と書かれた黒い筒で側面には根っこのような物が伸びていた。
手を当てると拍動を感じて熱を帯びている不可思議な物質だ。
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