魔道戦記リリカルなのはANSUR~Last codE~
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Eipic31スキュラ~We Love You~
前書き
ルシルが対プライソン戦を行っていた頃、地上では何が起こっていたのか回です。
†††Sideスバル†††
お母さんやノーヴェとウェンディとディエチが正気を取り戻して、ギン姉やティアと一緒にLASを迎撃する。狙いはプライソンの作品であり、あたし達サイボーグにとっては血の繋がりの無い姉妹にあたる“スキュラ”の次女ベータと四女デルタ。2人は列車砲と装甲列車の管制機体で、今も素っ裸なまま手動で両兵器の各兵装を動かして、ココ南部地方に振って来る隕石を迎撃してくれてる。
「まずい、まずいよ! ミサイルの予備がもう切れそう!」
「ガンマは何をやって・・・と怒ってやりたいけど、向こうも父さんの刺客に襲われてるだろうし。オーケー。デルタ、ミサイルの発射を抑えて。可能なだけ装甲列車の砲撃で対処する」
「んっ! スバル、ティアナ。もうちょいだけ粘って!」
デルタにそうお願いされたあたしとティアは「判った!」LASをぶっ飛ばして応えた。それからヴィータ副隊長とアリサさんの一方的な蹂躙を横目にデルタ達を護衛しつつ、LASの数が減って来ているのを確認していると・・・
「LASが・・・」
「退いた・・・?」
ギン姉とお母さんの言うように、デルタ達を殺そうとしてたLASが突然一斉に引いたと思ったら、1ヵ所に集結し始めた。まぁ1ヵ所に集まったら集まったで、「まとめてぶっ潰す!」ヴィータ副隊長や、「2度と利用されないよう火葬してあげる」アリサさんの格好の的だ。だけど何百体っていう数のLASが組体操のように体を組み始めると、体内から飛び出して来たケーブル同士が絡み続けて、最終的に60mくらいの「巨人・・・!」みたくなった。
「大きくなったからと、強くなるわけではあるまい!」
――ランブルデトネイター――
「当たり易くなったっつうの!」
――ガンシューター――
「どんどん行くっスよ~!」
――エリアルキャノン――
「狙わなくても確実に当てられる・・・!」
――ヘヴィバレル――
ノーヴェ達が一斉に巨人に攻撃を加え始めると、「あたし達も負けてらんないわ!」アリサさんや、「転ばして一気に叩く!」ヴィータ副隊長も攻撃に参加して、火炎砲や鉄槌の一撃で巨人を襲う。
「あたし達も参加するわよ!」
――クロスファイアシュート――
「うんっ!」
――ディバインバスター――
制圧射撃を行うティアに続いて、あたしも砲撃を巨人の足へ向けて撃つ。お母さんもはローラーブーツ型デバイス・“ソニックセイバー”の加速力で巨人の足元に突っ込んで、両腕に装着した「デリンジャーナックル!」のカートリッジをロード。ギン姉も左腕の“リボルバーナックル”のカートリッジをロードして、お母さんに追走。
「ストライクイーグル!」
「リボルバーシューット!」
お母さんは両拳から砲撃を同時に発射して、ギン姉は衝撃波を撃ち出す短距離射撃魔法を撃ち放った。そんなあたし達の総攻撃を受けてもビクともしない巨人はまだデルタとベータを狙って、その巨大な右手を地面スレスレに薙いできた。
「逃げろ!」「逃げて!」
ヴィータ副隊長とアリサさんからそう言われて、あたしが「デルタ!」を抱え上げて、ウェンディが「ベータ!」をボードの上に乗せて、即座にその場から離脱。ギリギリで巨人の手による薙ぎ払いを回避したところで・・・
『こちら本局・総務部、リアンシェルト・キオン・ヴァスィリーサです。これより隕石の迎撃を行います。私の魔法の属性上、少々気温が10度ほど下がりますので、風邪をひかれぬようにご注意を。・・・では始めます』
そんな通信が入って、世界の色が変わった。空全体に超巨大な魔法陣が、最低でも2つ以上展開された。綺麗な水色の魔法陣?で、太陽の光が魔法陣を通過してるからか世界の色が水色になった。そんな魔法陣を通過して来た隕石はどれもが凍結されていて、迎撃するまでも無く空中分解して消滅した。あたし達が「すご・・・!」って驚いてると・・・
「何を企んでんだ、リアンシェルトの奴・・・」
「どういう経緯であれ、これで隕石によるミッド壊滅は回避されたわ、ヴィータ!」
「・・・納得は出来ねぇが、今は頼るしかねーってか。・・・アイゼン! ツェアシュテールングスフォルム!」
上空に向かって飛んでたヴィータ副隊長が“グラーフアイゼン”を形態変化させた。巨大なドリルとブースターを誇る鉄槌。話だけは聞いてたけど、あんなドリルで穿たれちゃどんな建物も兵器も一撃で潰されそう。
「フレイムアイズ! スリーズ・サンズレガリア!」
アリサさんの魔力がグッと跳ね上がった。さらに「ヴァラーフォーム!」って“フレイムアイズ”を形態変化させた。スナイパーライフルのような長い銃身の両側に反りの無い直刀が2つある1m半くらいの長さの大剣と、1mくらいのソードブレイカーの二剣。両剣の柄頭から魔力ケーブルが伸びて2つを繋いでる。お2人に共通するのは圧倒的な魔力量。
「巨人への攻撃は局員のあの2人に任せて、私たちはあくまでスキュラの護衛に回りましょ」
「うんっ!」「はいっス!」「はいっ!」
お母さんの指示に応じるノーヴェ達。チンク二尉が「私たちの攻撃が通用しないのであれば、巻き込まれないように動くのが得策か」って、お母さんの考えに同意したからあたしとティアも「はい!」頷き返した。
巨人はその巨体さから信じられない程に大きく動いて、地面を穿っては何m何十mっていう岩石を周囲に散らばせてくるから、あたし達はデルタとベータを死なせないように戦場を駆け回り続ける。その中で避け切れない岩石も出てくるけど、「せいっ!」お母さん達がしっかりとフォローしてくれる。
「列車砲と装甲列車が・・・!」
「潰された・・・!」
無差別に飛んでくる岩石のいくつかが両兵器に直撃して、脱線させた上に大きく車体を潰した。ボードの上に横座りしてるベータが「お疲れ様」って装甲列車の働きを労うと、あたしがお姫様抱っこしてるデルタも「頑張ったね」って砲塔が折れて横倒しになった列車砲に手を振った。
「アアアアアアアアアアーーーーーーッ!!」
「ヴィータ!」
「おう! さっさと逝っちまいな! 」
「もう利用されないように、火葬してあげるわ・・・!」
――プロミネンスウィップ――
アリサさんが右手に持つ大剣の銃口から、炎の光線がものすごい速さで放たれた。アリサさんが大剣を小刻みに動かすと光線は蛇のように軌道を変更して、巨人の両脚から腰、胴体から両腕へと勢いよく巻き付いた。
「ツェアシュテールングス・・・ハンマァァァーーーーッ!!!」
そこにとんでもなく大きくなった“グラーフアイゼン”を振り下ろしたヴィータ副隊長。ドリル部分が巨人の頭を一撃で穿って、頭を構築してたLASが何十体と空に舞った。頭部を失った巨人がゆっくりと後ろ向きに倒れ込み始めたところで、アリサさんが炎の光線――鞭を解除。
「カートリッジロード!」
≪地平より出づりし日輪は並びて、天壌に照り渡る朝暉と成るッ!≫
ロード5回の後、銃身を挟んでる2つの直刀から炎が勢いよく噴き上がって、そして半物質化して3mくらいの長さの直刀になった。そんな直刀を囲うように4つに環状魔法陣が展開されて、さらに剣先にミッド魔法陣が1枚と展開された。
「いざ天に座して輝け! 其は太陽の化身!」
アリサさんの詠唱によって、魔法陣の前方に1mくらいの火球が発生した。
「ソーラー・オーソリティア!」
発射された火球が一直線に巨人の胸に向かって行って、着弾した瞬間に「ぐっ・・・!」大きく爆ぜてまるで太陽のようになった。巨人の全身を呑み込むほどの大きな爆炎はすぐに消えることなくその場に留まり続けた。そして完全に消えた頃には巨人は灰になって、風に吹かれて空に霧散した。
「よっしゃ。んじゃ、スバル、ティアナ、ギンガ。近くの陸士隊と合流した後、首都クラナガンに帰還だ。クイント准尉、それにノーヴェ達。一応、逮捕っつう形になるから」
「ですが洗脳され、ほぼ強制的に従わされていた件もありますし、それほど重くなることはないかと」
デバイスを元のサイズに戻したヴィータ副隊長とアリサさんが戻って来た。
「お母さん」「母さん」
「ギンガ、スバル。罪を償って必ず帰って来るから、それまでもうちょっとだけ待っ――」
お母さんが逮捕される瞬間を見ることになるって思うと泣きそうになる。そんなあたしとギン姉の頭を撫でてくれるお母さんに抱きつこうとしたところで、それは突然起きた。
――スナイプレールガンVersion 2.0――
「――っ!?」
ウェンディのボードから降りたばかりのベータの胸から上、頭が吹っ飛んだ。遅れて聞こえてくる銃声でようやく「ベータ!?」あたし達は動き出した。ヴィータ副隊長からの「1ヵ所に集まれ!」その指示に、ヴィータ副隊長とアリサさんを除くあたし達はデルタを護るように1ヵ所に集まる。
「フレイムアイズ! 全魔力を防御に回すわよ!」
≪応! ブレイズプロテクション!≫
足元にミッド魔法陣が展開されると、半球状のバリアがあたし達全員を覆った。さらに外面に炎の膜が生まれて二重のバリアになった。
「ベータ・・・」
離れたところで倒れてるベータの遺体を見た後、すぐに顔を逸らしたデルタ。ヴィータ副隊長が空に上がって索敵して、アリサさんはそのままバリア前で待機するのを見つつ、あたし達はデルタを囲うように外を向いた状態で円形に並ぶ。全周囲警戒だ。
「デルタ、それにクイント准尉たちも! この襲撃者の心当たりは!?」
「いいえ、判らないわ」
アリサさんの問いにお母さんが首を横に振って、ノーヴェ達も同様に知らないって答えた。残るデルタも「デルタも判らないかも・・・?」小首を傾げた。
「そう。まぁいいわ。ヴィータがとっ捕まえてくるだろうし。・・・アンタは変なことせずに護られてなさい」
「むぅ」
アリサさんの言葉になんでかムスッとしたデルタ。話題を変えようと思ったあたしは「ごめんね。護れなかった」って謝る。LASだけが処理部隊だって考えてたこと、勝利したこと、2つの油断が招いた最悪な結果だ。
「ううん。デルタ達、この作戦内で死ぬことも可能性に入れてた。だよね? クイント」
「・・・ええ。局と騎士団には優秀な魔導師や騎士が大勢居るもの。負けること、死ぬことも考えるのが当たり前。しかもミッド全域を相手にする戦争だったし。まぁアルファとガンマは、負けも死も無いって鼻で笑っていたけど・・・」
「デルタ、死ぬことはそんなに恐くないよ。パパが死ぬことに比べれば。どれだけ刑務所?に入るか判らないけど、これからも一緒に生きていけるならそれでいい・・・って思う。ベータだって、パパが生きてるなら本望だって思う」
デルタにここまで想われてるのに殺そうとするなんて、本当に許せない。1発くらい殴らないと気が収まらないよ。
「アンタ達スキュラがどれだけの刑期になるか判らないけど、暇があったら会いに行ってあげるわよ、デルタ」
「ティアナ・・・」
「うんっ! 出所したら一緒にまたゲーセンに行こうね!」
「スバル・・・。うんっ! ありがとう2人とも! ゲーセンかぁ! ティアナ、またぬいぐるみ獲って! コレクションしたい!」
何年か十何年か、プライソンや“スキュラ”の刑期はたぶん、かなりのものになると思う。お母さん達の拉致や局員の殺害、地上本部の襲撃、ミッドへの戦争行為。細かい罪状を出したらキリがない。
「(それでもいつか必ず出て来れる。あたしやティアはおばさんになってるかも知んないけど、でも一緒にまた遊びたい)・・・ゲーセンにショッピング、レストラン巡りとか」
「おお! あっ。ねえねえ、イプシロンも一緒で良い? あの子、デルタの妹なんだ! ちょっと生意気だけど、とっても良い子なの!」
「あー、確かに生意気だよな」
「デルタといい勝負っスよ」
「うん。でもまぁデルタよりは礼儀正しいし、ヘイトもあんま溜まんない」
「んべ~。それでもデルタの方がお姉さんだもん。しっかりしてるもん」
――トランスファーゲート――
背中越しでティアやデルタと遊びの予定を組み立てる。お母さんやギン姉たちがクスクス笑ってる中、「っ!? デルタ!」チンク二尉が声を荒げた。振り向きざまに耳に異音が届いた。視界の端に真っ先に映り込んだのは、宙に浮いた何者かの右腕。手にしてる剣でデルタの後頭部を貫いて、額から飛び出した刃先がチンク二尉の右目に突き刺さってた。
「「デルタ!!」」
「「「チンクお姉ちゃん!」」」
「「このっ・・・!」」
刃を引き抜いた右腕に向かってお母さんとギン姉が拳を繰り出すと、ボキッって骨を砕いた音がして、手から零れ落ちた剣が地面に突き刺さった。敵はサイボーグじゃない。さらにティアが「逃がさない!」ってリングバインドを発動。右手首を拘束しようとしたけど、それより早く空間の歪みの中に右腕は消えて行った。
「デルタ!」
そしてあたしは膝から崩れ落ちてたデルタを抱きかかえる。デルタの目は虚ろで、「血が止まらない!」額に開けられた刺し傷から人工血液や電解液が漏れ出してる。もう助からない。頭の中でそう答えがハッキリ出てる。でも、でもさ・・・。
「こんな終わり方・・・ひどすぎる・・・!」
「・・・パ・・・パ・・・デル・・・死ん・・・でも・・・ずっと愛・・てる・・・」
「デルタ・・・? デルタ! デルタ!!」
あたしの腕の中で、デルタはプライソンへの愛情を口にしながら逝った。
「~~~~っ! プライソォォーーーーン!!」
あたしはデルタの遺体をギュッと抱きしめて、デルタやベータ達“スキュラ”を始末しようとしたプライソンに怒りの声を上げた。
†††Sideスバル⇒すずか†††
アルファを防衛しながらLASの迎撃を続ける私とシャルちゃんとトーレさん。アルファは“アンドレアルフス”の艦体上面に何十基とある砲台からエネルギー砲を撃ち続けて、ミッドの大気圏外を突破して来た隕石を迎撃してくれてる。
「あのさ、アルファ! プライソンはどんだけLASを造ったわけ!?」
――光牙月閃刃――
シャルちゃんが4体のLASの首を刎ねながらアルファに訊ねた。LASは管理外世界から盗掘して来た死体を改造したものだ。その人数イコール盗掘された死体の数になる。これまでの事を考えれば、5000人クラスの死体が改造されてることになる。
『さぁ知らないわ。盗掘の実行部隊は私たちスキュラでもシコラクスでもスキタリスでもないもの』
シコラクスはクイント准陸尉たちサイボーグチームで、スキタリスはメガーヌ准陸尉や双子の娘のルーテシアとリヴィアの魔導師チーム。そして“スキュラ”は各兵器の管制機として造られたっていうアルファ達のチーム。残りはガジェットやスペアボディになるわけだけど・・・。
――インパルスブレード――
「ではスペアボディが盗掘していたのだな」
『まさか。スペアボディが完成したのは3週間ほど前よ? プロフェッサーの暗殺だって、オリジナルである私が実行したもの。まぁ、あなたとチンクによって妨害されたけれどね!』
――アイシクルアイヴィ――
「でもだったら残りはガジェットだけになっちゃうけど・・・?」
私も氷の茨による拘束魔法で9体のLASの四肢を捕らえて、凍結させて身動きを封じさせる。そこをシャルちゃんとトーレさんで攻撃して、LASを粉々に砕いた。そして2人で残りの3体を斬り捨てて、ここ管制室に攻め込んで来たLASを全滅させた。アルファも含めて私たちは「ふぅ・・・」一息吐いた。そんなところに・・・
『こちら本局・総務部、リアンシェルト・キオン・ヴァスィリーサです。これより隕石の迎撃を行います。私の魔法の属性上、少々気温が10度ほど下がりますので、風邪をひかれぬようにご注意を』
“エグリゴリ”であり、本局総務部の総部長でもあるリアンシェルト少将から、サウンドオンリーでの通信が入った。リアンシェルト少将の正体を知ってる私とシャルちゃんは「え・・・!?」驚いて、アルファは「次元世界最強の魔導師・・・」唾を飲んだ。トーレさんは「本局もとうとう最高戦力を投入したか」安堵の息を吐いた。
『・・・では始めます』
その一言と同時、全身が総毛立つ程の魔力を感じた。キャノピーの向こう側の色が青色に変わった。駆け寄って外を見れば、空全体に見たことの無いデザインの巨大魔法陣が展開されていた。
「見ろ。魔法陣を通過して来た隕石が凍り付いている!」
「迎撃しなくても勝手に空中分解されてる・・・!」
「でもこれで・・・。アルファ。もう隕石の迎撃はいいから、ここから脱出しよう」
シャルちゃんがアルファにそう提案した。“エグリゴリ”で、スマウグっていう竜を単独で撃破するようなリアンシェルト少将なら、もう隕石の脅威は完全に無くなったって考えても良い・・・。
『・・・そう、ね。父さんも捕まってしまったし、このままここに居ても第2第3の刺客が送り込まれて来るだろうし・・・』
悲嘆に暮れた溜息を吐いたアルファ。その表情もとても辛そうで、悲しそうで・・・。でも『父さんへの文句は後にするわ』フッと自嘲気味に笑って、背中やうなじのプラグに繋がれていたケーブルを外した。ポッド内の水溶液がポッド土台の中に流れ落ちて行った後、ガラスが音も無く消えた。
「ふぅ。やっぱり肺で直に吸う空気は美味しいわ。まぁ、LASの腐った肉の臭いは酷いけど」
素っ裸のまま濡れた前髪を指先で払ったアルファは、「少し待って。服を着るから」そう言って、ポッド側の床をトンッと蹴った。するとプシュッとその部分が音を立ててスライドして、そこからあの制服のような衣装が乗せられた台が上がって来た。ブラジャーやパンツにソックス、そしてブラウスとスカートとブレザー、最後にローファーを履いた。
「濡れた髪は・・・まぁいいか。さて。とりあえず今は捕まってあげる。父さんの目的が自殺なら、私たちにはもうやる事はないから」
そう言って肩を竦めたアルファと一緒に管制室から出て、アルファから教えてもらった乗降扉を目指して通路を歩く。
「そういや、この艦はオート航行できるんでしょ? あなたが居なくなったら墜落とか・・・」
「私が抜けたところで墜落するような惰弱な兵器を、父さんが造るわけないでしょう? ゆりかごに追随するよう設定した。大気圏外で局の艦隊に破壊してもらうわ」
「大気圏外に到達するより早くリアンシェルト少将の魔法で凍結され、空中分解されるだろうがな」
トーレさんの言うようにあの魔法陣を通過した物は、隕石すらも完全に凍結されるレベルだ。とにかく“アンドレアルフス”の処理も決まったことだし、あとはアルファを護送するだけ。
「っと、アルファ。死体の盗掘実行部隊の話、アレまだ終わってないでしょ。ガジェットじゃ無理だし。考えられるのは、信じたくないけどプライソンの上――最高評議会の息のかかった局員・・・」
シャルちゃんの話の内容に、私は「これから大変になるね」って呟いた。プライソンは全体通信を使って、自分の出自や兵器開発の依頼主が管理局の上層部だって発信した。もしこれに死体盗掘まで追加されたら、管理世界は世論でメチャクチャに叩かれちゃう。
「父さんに協力してくれていたのは何も管理局だけじゃないわ。民間からも協力している組織や企業、フリーランス魔導師も居るの。もちろんイリーガルOKな、ね。それに・・・」
「ちょっ、なに? なんでわたしを見るわけ?」
アルファの含み笑いにシャルちゃんが狼狽した。協力者の話題の中でシャルちゃんを、教会騎士を見るとなると・・・。どうしても嫌な展開が脳裏を過っちゃう。アルファを中央に三角陣形を取ってる私たちの先頭を往くシャルちゃんが立ち止まった。
「答えて、アルファ。あなた達の協力者の中に、聖王教会の聖職者や騎士が居たりする・・・の?」
「あぁ、それは――」
アルファにそう訊ねながらシャルちゃんが振り返ったその直後、「っ!」通路のずっと奥から強烈な魔力反応が生まれた。その間にトーレさんが「ったく!」舌打ちしながらアルファを腕を引っ張って、自分の背後に移動させた。
「もうっ! 今度は何!?」
シャルちゃんも“キルシュブリューテ”を構えて、また前へと振り返り直した。
――ラオフェンドナー――
その直後、カッと強烈な閃光が発せられたから、私は何を考えるまでも無く「アイスミラー八陣の1! ロングサーペント!」を発動。通路いっぱいに展開されたシールドが8枚と並ぶ。閃光は瞬きの間に1枚目のシールドに到達して、「え・・・!?」一瞬で砕いてきた。1枚目から7枚目まで砕かれたけど、最後の1枚でなんとか抑えきれた。
「なに、コイツ・・・!」
閃光の正体は人だった。漆黒の学ランに学生帽にマント、そして何より目が行くのはその人の顔。どこで手に入れたのか翁の能面を付けていて素顔が確認できない。デバイスらしき物は持っていないんだけど、全身から紫色の電気が放電されっ放しで、その電気を纏わせたパンチ1発で最後のシールドを破壊した。
「手加減無用で吹っ飛ばす!」
――光牙烈閃刃――
シャルちゃんが“キルシュブリューテ”を振り下ろして、刀身に纏わせてた真紅の魔力を剣状の砲撃として発射した。その人は直撃を受けて、砲撃に押し切られるように通路の奥へと吹き飛んだ。
「アルファ! アイツらがさっき言ってた協力者なの!?」
「おそらくね。父さんの裏切りに怒って、手の届く私たちを殺しに来たのかも。私たちを殺したところでもう意味も無いのに.愚かな事を」
私とトーレさんでアルファを挟み込むようにして警戒しつつ、さっきの襲撃者に備えている中でトーレさんが「どうするイリス。奴を撃破して大手を振って脱出をするか、もしくは・・・」そう訊いた。
「律義に出入り口から出るよりは、直通出口を作った方が早い!」
“キルシュブリューテ”のカートリッジをロードしたシャルちゃんは、もう一度刀身に魔力を付加した。そしてアルファはスキルの「メタルダイナスト」を発動して、私たちと襲撃者を隔てるように通路の鋼鉄を操作して壁を作った。
「大人しく殺されてやるほど私も優しくは無いわ、襲撃者さん?」
「しっかり罪を償ってもらわなければな。でないとドクターも報われん」
トーレさんの話にアルファが「ふん」って鼻を鳴らした直後、ゴォン!と鋼鉄の壁の向こうから大きな音が響いてきた。私は「シャルちゃん!」と急かす。シャルちゃんが「んっ! 光牙・・・!」“キルシュブリューテ”を振り上げた。
――ギガンティッシュ・シュニット・ヴンデ――
「「「「っ!!?」」」」
壁の向こう側とはまた別に強大な魔力反応を探知。それは頭上からで、一斉に通路の天井を見上げた瞬間、キンッと金属が断ち切れる音が耳に届いた。続けてズズン!と振動が襲って来たから、「何・・・!?」辺りを見回して・・・気付いた。
「「「アルファ!?」」」
「ぅあ・・・!?」
肩甲骨辺りから下腹部に向けて斜めに切断されたアルファの上半身がゆっくりとスライドし始めた。さらに“アンドレアルフス”自体も真っ二つに切断されたみたいで、私たちとアルファを隔てて通路が斜めにズレ始めた。
「油断し過ぎた! ここまでの術者が2人も潜んでたなんて!」
「このままお前を死なせはしない!」
――ライドインパルス――
「すずか!」
――真紅の両翼――
「うんっ!」
トーレさんがスキルを使って、宙に放り出されたアルファの上半身に目掛けて飛んだ。私とシャルちゃんも切断された個所から飛び出して脱出して、私は降って来た下半身をキャッチ。やっぱり機械が大部分占めてるから結構重い。
「迎撃してくれる!」
――ゲシュウィンディヒカイト・アオフシュティーク――
シャルちゃんが翼を羽ばたかせて急上昇して、新手の迎撃に向かった。私も電撃の襲撃者の警戒をしないと。周囲に「バインドバレット・・・!」をスフィアとして12基と展開させておく。シャルちゃんから『交戦開始!』の報せを受けた。そのすぐ後に“アンドレアルフス”の艦首側がバラバラに寸断されて、3m級の鋼鉄の破片が周囲に散らばった。
「トーレさん離脱を!」
「ああ! アルファ!」
「大きな声を出さないで。痛覚は遮断しているし、ショック死しないように今調整ちゅ――っ!」
――カタパルトヴィンデ――
「っぐ!? 何をす――」
アルファがいきなりトーレさんを突き飛ばした。アルファがトーレさんから離れて宙に放り出された瞬間、アルファの左眼球と喉と胸に鉄パイプが突き刺さった。
「「っ!?」」
「・・・あ、あぁ・・・父・・・永遠・・・愛して・・・ます・・・」
「アルファ! 逝くな、アルファ!」
改めてアルファを抱き止めたトーレさんが声を掛け続けるけど、アルファはもう・・・。トーレさんが開いたままのアルファの目をそっと閉じさせた。
『ああもう! ダメ、逃げられた。そっちの状況は?』
『アルファが・・・殺害された』
†††Sideすずか⇒アリシア†††
「アンドレアルフスが・・・!」
ゆりかごの後ろを飛んでた護衛艦の“アンドレアルフス”が突然真っ二つになったと思ったら、前半分がさらにバラバラになった。真紅色と藤紫色の魔力光が側にあるのが薄らと見えるから、すずかとシャルが側に居るのが判る。
「つうか、あのデケェ艦をあんなアッサリと斬りやがる戦力がまだ居んのかよ・・・!」
「アレもサイボーグの誰かのスキルでしょうか?」
ヴァイスとアンジェの視線を受けたイプシロンが「ううん。イプシロンは知らない」って首を横に振った。だから「ひょっとして身内?」ってわたしは漏らした。本局から応援も来てくれてるし、中にはそういうレベルの局員か騎士が居てもおかしくない。もしかするとシャルがやったのかも・・・。
「ですが市街地上空での撃墜は禁止されていたはず・・・」
「あー、そうだよね。現に今まさに護衛艦が墜落し始めてるし」
頭を失った艦後部はどうなるか。もちろん墜落だ。でもわたし達には焦りの感情は無い。
――雪皇鯨――
何せリアンシェルトが居る。ゆっくり墜落し始めた護衛艦の後部やバラバラになった艦首部目掛けて、出現したゆりかごの3分の1ほどの大きさの氷のクジラ6頭が突進。その大きな口で破片を呑み込んで、後部には頭突き。それで護衛艦は急速で凍り付いて、空中分解した。
「開いた口が塞がらない・・・。なに、あのデタラメな強さ?」
「おう、残念だったなプライソン一派。お前さん達の計画は端っから失敗する運命だったわけだ」
「・・・イプシロンはもう、計画の事なんてどうでもいいと判断してる。とにかく今は、お父さんを死なせないようにしたい。イプシロン達は不老だから、何十、何百年でも牢に入れられても何でもないし。その間に説得を試みる」
決意を固めたイプシロンが両手をギュッと握りしめた。正直、ミッドをここまで混乱させたプライソン一派には怒りもあったけど、こうして話をしてみれば“スキュラ”はただ、父親の為に、って理由だったんだよね・・・。
『こちら機動六課、月村すずかです! プライソン一派のサイボーグ・スキュラの1人、アルファが何者かに暗殺されました! アリシアちゃん、ヴァイス陸曹、イプシロンの暗殺に注意して!』
「え・・・?」
「「「暗殺・・・!?」」」
すずかから通信が入った。内容はあっちゃダメな最悪な展開なもの。イプシロンが「アルファお姉ちゃんが、死んだ・・・?」弱々しい声で漏らして、フラッと倒れ込みそうになったから「イプシロン!」わたしは抱き止めた。
「と、とにかく・・・! 了解! イプシロンの警護を強化するよ!」
「グランセニック陸曹! ヘリをこの場から動かさないようにお願いします! アリシアさんはそのままイプシロンの側に。防御は私が行います! ジークファーネ!」
――シュッツェンクッペル――
魔力の幕がグンッと伸び出して、ヘリの周囲をグルグル回って球状の結界になった。そしてわたしは「手の空いてる魔導師・騎士は、ヘリの護衛をお願いします!」って応援要請を出す。隕石はもうリアンシェルトが対処するから、フェイトたち六課や他の航空隊、騎士隊も手が空いてるはず。
『了解! 六課スターズ1とライトニング1が向かいます!』
『アリシア、待っててね!』
フェイトとなのはが来てくれる。もうそれだけでも十分な戦力。でもさらに外に居るトリシュや他の魔導師・騎士も集まってくれることになった。ヴァイスが「おお、こりゃ世界で一番安全じゃないっすか?」って感嘆の声を漏らした。
「まったく同意見。安心して、イプシロン。絶対に守り抜くから」
「これも犯罪者の結末なんだって思えば、イプシロンは死を受け入れる」
「はあ? あなたねぇ、仕方ないからって簡単に死を選ばないで。生きてしっかり罪を償うのが、あなたや他のスキュラ、あとプライソンの役目。判った?」
「あぅ、あぅ、あぅ、あぅ」
イプシロンの額を人差し指でツンツン突く。突きを続けようとしたら「判ったからもうやめて」って両手で額を覆って防御。その様子にわたしやヴァイス、アンジェが含み笑いしていた時・・・
――トランスファーゲート――
「「「「っ!?」」」」
いきなり目の前に人が出てきた。昔の日本の学生みたいで、学ランに学生帽にマントって格好。気になるのは、オペラ座の怪人みたいな仮面を付けて素顔を隠してること。髪も目出し帽を被ってるのか見えない。でもどう考えても敵だ。
――トランスファーゲート――
「おいおい、なんだおま――っ!」
「武装を解除して、素顔を見せなさ――」
目の前の空間が波打ったって思ったらそこから人の両手が出て来て、口を開けてたわたしとヴァイスの口の中に銃口を突っ込んで来た。デバイスじゃなくて完全に質量兵器だ。発砲されたら確実に脊髄が吹っ飛ぶ。アンジェは銃じゃなくてナイフで、頸動脈に刃を当てられてる。波打つ空間から出てる腕の細さから見て女性のものだ。わたしとヴァイスは男性の腕。目の前に1人居るから、敵は最低で3人いることになる。
『喋れなくても念話でフェイト達に・・・――ん? フェイト? フェイト!』
念話が妨害されてた。外との連絡手段を封じられた。ヘリを覆ってるアンジェの魔力幕だけど、今解除すると即座に首を掻き切りそうだし・・・。
「お前たちは、イプシロンの・・・というよりはスキュラの口封じのために来たの?と問うよ」
そう訊ねたイプシロンの首に右手を掛けた目の前の男は、無言のままで右手にグッと力を込めた。
「っぐ・・・! お父さん・・・大好き・・・」
呻き声を漏らしながらもプライソンへの想いを漏らしたイプシロンが、わたしを見て小さく微笑んだ。その次の瞬間、バキッとイプシロンの首があまりにも容易くへし折られた。頭部と切り離された胴体が力なく倒れ伏して、物言わなくなったイプシロンの頭を捨てた男はわたし達を一瞥することなく、また音も無くこの場から消えた。加えてわたし達の行動を制限してた3本の腕も引かれて、揺らぎの中に消えて行こうとしたけど・・・。
「このぉぉぉーーーーッ!!」
――ブルーバレット――
「ふざけんじゃねぇぇぇーーーーッ!!」
――シュートバレット――
わたしとヴァイスは即座にデバイスの銃口から魔力弾を、消えかけの空間の歪みの中に連射してやった。魔力弾を呑み込んだ揺らぎはなんの反応も無く消失した。わたしは床に転がってるイプシロンの頭に「護れなくてごめんね・・・」謝った。
『こちら聖王教会シスター、プラダマンテ・トラバントです。最悪のご報告です。・・・本件首謀者、プライソンが・・・死亡しました』
プライソンを捕まえてたシスター・プラダマンテから、さらに最悪な展開な報せが入った。
後書き
プライソンに続いての後片付け回となった今話。処理されたのはスキュラ姉妹です。ゼータがフォルセティに殺されたことで、この結末を察していた方も居たことかと思います。アニメ原作のナンバーズなどとは比べられない程の破壊を齎した彼女たちに、未来を用意することは出来なかったです。それ以前に・・・
「彼女たちの活躍の場を用意できるほど、私には時間が無い!!」
ないのです! 残り4年でどこまでいけるか判らないのです! 一応闇の書編辺りでの考えでは、ラストエピソードのあるシーンで局・教会・シスターズ、んでスキュラの大規模共闘なんてことも。まぁその考えもゼータ殺害と同時にさようなら。
次話がラスボス戦で、レーゼフェアとの決闘となります~。
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