殺人

　珠莉は書道もはじめた、そうして仕事と家事以外にもスポーツと習いごとにも精を出した。するとそのせいか。
　もう殺す夢は見なくなった、だが。
　朝だ、珠莉は自分が朝食、ベーコンエッグを作りつつテーブルで食事の用意をしている円にこんなことを言った。
「昨日夢見たわ」
「また誰か殺したの？」
「それがどんどんね」
「どんどん？」
「筆で書いてく夢よ」
　そうした夢だったというのだ。
「あらゆる文字をね」
「それ書道の夢よね」
　食器を出しつつだ、円は珠莉に言った。
「それはね」
「そうよね」
「あんたが今やってる」
「それよね」
「どう、見てもね」
「そうね、やっぱり」
「書道ね」
「何か書いて書いて書きまくっていたけれど」　
　それでもというのだ。
「充実してたわ」
「それは何よりね」
「少なくとも誰かを殺すよりは」
　しかもバラバラ殺人や放火等猟奇な殺し方でだ。
「ずっといいわ」
「そうよね」
「ええ、じゃあ今日もね」
「今日は何をするの？」
「テニスよ」
　会社から帰ったらというのだ。
「ちょっと汗かいてくるわ」
「じゃあ私は泳いでくるわ」
「そうしてね」
「ええ、それじゃあね」
「お互いに頑張りましょう」
　二人で話してだ、そしてだった。
　珠莉はこの日はテニスをして次の日はまた書道をした、とにかく仕事と家事以外にやることにも情熱を向けていた。
　するとだ、そのうちにだった。珠莉は見る夢が変わっていった。その夢はというと。
「書道だけじゃなくてテニスもね」
「夢に出る様になったの」
「そうなの、最近ね」
「もう人を殺す夢はなのね」
「見なくなったわ」
　今日は夕食を食べつつ話していた、メニューは寒いのであんこう鍋だ。二人で金を出し合って一緒に作った。
「すっかりね」
「それは何よりね、ただね」
「ただ？」
「問題はどうしてそんな夢を見たかよ」
　円はあんこうを食べつつ言った、鍋の中には結構な量のあんこうが野菜や豆腐等と一緒にぐつぐつと煮られている。
「そのことよ」
「どうしてかしらね、確かに」
「その原因がわからないと」
「またそうした夢を見るかも知れないわね」
「だからね」
　それでというのだ。
「そこはしっかり確かめないとね」
「駄目よね」
「そう、何でかしらね」
「ううん、それは」
「あんた自身で思い当たるふしある？」
「いや、バラバラ殺人とか放火とか」
　珠莉が夢で行った殺し方である。