風魔の小次郎 風魔血風録
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94部分:第九話 夜叉の窮地その四
第九話 夜叉の窮地その四
姫子は蘭子と共に試合場に向かっていた。場所は文化会館である。その廊下を進みながら蘭子に対して色々と話をしていた。
「風魔の人達のこと、聞きました」
「そうですか」
蘭子は真摯な顔で姫子の暗い言葉を受けていた。
「人知れず闘い、そして命を賭けていると」
「それもですか」
「風魔にも夜叉にも傷付いた方がおられると」
「死者が出ないだけいいのです」
夜叉姫の言葉はつれないものでもあった。だが彼女はここに本心を隠していた。
「まだ」
「蘭子さん」
姫子は顔を上げて蘭子に尋ねてきた。
「私はこのことを知りませんでした」
「それは姫様の落ち度ではありません」
「いえ」
しかし姫子は言う。
「総長の私が知らなかったなんて」
「そういう仕事は私の役目です」
蘭子は姫子を気遣いあえてこう述べるのだった。
「ですから知られることは」
「けれど」
「今風魔の者達に命を落とした者はいません」
今度はこう言ってみせた。
「ですからそれ程気に病まれることは」
「そうなのですか」
「そしてです」
「!?何か」
「申し訳ありませんが屋敷に戻らせて頂きます」
不意にといった感じで言ってきたのだった。
「やはり竜魔が気になります」
「竜魔さんが」
「飛鳥武蔵との闘いでかなり消耗し目を覚ましませんので」
「飛鳥武蔵、誠士館の」
「壬生攻介も来ました」
彼の名も出すのだった。
「彼等もまた勝たなければならないのです」
「立場は違えど」
「戦いなのですから。では申し訳ありませんが」
「ええ」
「後は風魔の面々がいます。彼等にお任せ下さい」
「わかりました」
蘭子は一礼した後でこの場を去り姫子は一人で試合場に入った。この時風魔の者達は試合場の警護にあたっていた。そこには夜叉の面々もいて緊張した空気が漂っていた。
「緊張していますね」
「ああ」
霧風が麗羅の言葉に応える。彼等は壁を背に並んで立っていた。小龍と林彪もいる。
「奴等も負けが込んでいるからな」
「そうだな」
林彪が霧風の言葉に頷いて述べてきた。
「今向こうは六人欠いている。それに対してこっちは」
「兄貴だけだな」
小龍が言った。
「御前がここにいるからな」
「ピリピリする筈ですね。それだと」
「だがあの連中がここで闘うことはない」
霧風は至って冷静だった。壁に後頭部もつけていた。
「安心していい」
「あくまで相手は八将軍だな」
「そういうことだ」
霧風は今度は小龍の言葉に応えた。
「出るのは私と御前だ」
「ああ」
「林彪と麗羅はここで奴等のイカサマを警戒しておいてくれ」
「わかった」
「じゃあ御願いしますね」
「早速出て来たしな」
ここで彼等の前に。二人の夜叉の忍が姿を現わしたのだった。彼等は。
「元気そうだな、風魔九忍達」
「会えて光栄に思う」
妖水と陽炎だった。二人は不敵な笑みを浮かべてそこにいた。妖水は右手にヨーヨーを弄び陽炎は右手で扇を扇いでいる。そうしながらの言葉だった。
「だがここでは少し手狭だな」
「場所を変えるか?」
二人はその不敵な笑みを周囲を見回しながら彼等に告げた。
「屋上でどうだい?」
「将棋は少し退屈だ。運動といきたいのだが」
「ああ、わかった」
小龍が二人に応えた。
「では行こう」
「私もそれでいい」
霧風もそれに乗るのだった。
「行くか」
「ああ」
こうして四人は屋上に出た。屋上は殺風景で狭かった。そこで四人は対峙するのであった。
「後の二人は来ないのだな」
「話の通りだ」
霧風が陽炎に答える。
「私達二人だ。そういう話だった筈だが」
「確かに。だがこっちとしては別に四人でも構わなかったのだがな」
「何っ!?」
「纏めて数を減らしてやるってことさ」
妖水が残忍な笑みを浮かべて言ってきた。
「四人全部な」
「まるで俺達が負けるみたいな言い方だな」
「おや、他にどう聞こえるんだい?」
妖水は小龍に対しても不敵な笑みを隠さない。
「白虎の仇、取らせてもらうぜ」
「全く。闇鬼がいなくてこちらの苦労もかなりだ」
二人は仲間達の名を出して小龍達に対する敵対心を見せてきた。
「もうすぐ戻るにしろな」
「御前達の数、減らさせてもらう」
「それはこちらの言葉なのだがな」
霧風が一歩前に出て彼等に返した。
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