風魔の小次郎 風魔血風録
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
76部分:第七話 力と力その十二
第七話 力と力その十二
「この負けは痛いな」
「御前にとってか?」
「夜叉にとってだ」
黒獅子はこう劉鵬に答えた。
「まだ御前は闘えると思うが?」
「しくじった」
目を閉じて言う。
「さっきの受身でな。左手をやっちまった」
「そうだったか」
「見事だったぜ、劉鵬」
「貴様もな」
劉鵬はここでは黒獅子を称えた。
「あれが決まっていなければ俺も手がなかった」
「俺も山嵐を使うべきだった」
黒獅子は苦笑いと共に言葉を出した。
「そうしようと思ったんだがな」
「すんでのところだったんだな」
「だが負けは負けだ。しかしな」
「しかし。何だ?」
「次はこうはいかないぞ」
彼は言う。
「今度こそ。御前を正面から叩き潰してやる」
「その時が来るのを楽しみにしておく」
劉鵬もそれを笑って受ける。そのうえで彼に背を向けてその場を後にする。彼の勝利だった。
試合は白凰の勝利だった。試合場も観客席も歓声に沸き返っている。とりわけ柔道部員のそれはかなりのものだった。
「やったよ劉鵬君!」
「君のおかげだ!」
彼等は劉鵬を取り囲んで満面の笑みで飛び跳ねていた。
「それで勝ったんだ!」
「有り難う!」
「あ、ああ」
劉鵬は呆然としながら彼等の声に対して応えている。彼にしてみればどうして彼等がここまで喜んでいるのかわからないのだ。勝負は当然の世界に生きているからだ。
「そうか」
「そうよ。だから今日はね」
マネージャーも満面の笑顔で劉鵬に言う。
「お祝いよ。パーティーしましょう」
「そうそう、ジュースで」
「お菓子で」
「何か楽しそうだな」
「当然劉鵬君が主役だから」
「楽しみにしておいて」
彼等は喜びに包まれている。だが夜叉の方は。重い沈黙に包まれ黒獅子は一人寂しく試合場を後にしようとしていた。その出口に来たところだった。
「見事だったな」
「壬生か」
壬生がその出口の縁に背をもたれさせかけて立っていた。そのうえで黒獅子に声をかけてきたのだ。
「いい勝負だった」
「同情か?俺は負けたのだぞ」
口の左端を歪めて苦笑いを浮かべて言葉を返す。
「生憎だが嫌味にしか聞こえないぞ」
「私が嫌味を言ったことがあるか」
「今まではないな」
彼は壬生の言葉に答える。
「では素直な称賛だな」
「そう受け取ってくれていい。それでだ」
「今度は何だ?」
「左腕は大丈夫なのか?」
壬生が問うたのはそこであった。
「心配するな、この程度ではな」
「そうか」
左腕の肘のところを押さえはしている。しかし動いてはいた。
「軽いものだ。すぐなおる」
「だが。暫く戦線離脱だな」
「済まん」
そのことは謝罪するのだった。
「迷惑をかける」
「案ずるな、それはな」
「だがこれで戦線離脱は六人だ」
黒獅子は今の壬生の言葉には怪訝な顔になる。そのうえで彼に問うた。
「風魔は七人いる。こちらは僅か四人で」
「これがある」
「これ・・・・・・何っ!?」
壬生が見せてきたその手にあるものを見て目を丸くさせた。
「まさかそれは」
「そうだ。そのまさかだ」
不敵に笑って黒獅子に答える。
「これで劣勢を覆す。いいな」
「・・・・・・そうか。姫様も本気になられたのだな」
「これを出したからには我等が勝つ」
こうまで言い切ってみせる。
「だからだ。安心しろ」
「わかった。では俺は怪我の回復に専念させてもらう」
「そうしろ。御前達六人の分は私が引き受ける」
「頼むぞ。その間な」
「うむ」
黒獅子は静かに試合場を後にする。壬生は横目でそれを見送る。見送りつつ彼が見るものは。
劉鵬はパーティーから帰るとすぐにその道着を持って学園の部室に戻った。そこにあるプラスチックの上にそれを置く。置いた瞬間に部屋の灯りが着いた。
「小次郎か」
「見事だったぜ」
笑顔で劉鵬に告げてきた。彼は学ランになっている。
「パーティーも楽しかったみたいだな」
「ああ」
小次郎の言葉に対して静かに頷く。
ページ上へ戻る