風魔の小次郎 風魔血風録
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69部分:第七話 力と力その五
第七話 力と力その五
「決勝までいきましたけれどやっぱり」
「やっぱり?」
「辞退します」
こう姫子に言うのだった。
「辞退って。それは」
「相手誠士館ですしこれでは勝てませんよ」
「そうですよ。白帯君じゃ」
他の部員達も言う。彼等はもう完全に諦めていた。
「どうしようもないです。向こうにも凄い奴が一人いますし」
「今から行って来ますんで」
「おやおや!?」
何故か柔道場に掃除人がいた。見れば小次郎だ。彼は今の様子を見て楽しそうに声をあげた。
「早速劉鵬ちゃんピンチってやつかな」
「おい、待て」
彼が楽しそうに言っているともうすぐ側に蘭子が来ていた。彼女はすぐに小次郎を道場の外に連れ出してそこで彼に対して言った。
「御前どうしてここにいるんだ」
「御前こそ何でここにいるんだよ」
「私は姫様の護衛だ」
こう小次郎に言う。
「御前みたいに遊んでいるわけじゃない」
「俺だって遊んでるわけじゃねえぞ」
「何処がだ」
すぐに蘭子から突込みが入った。
「そうとしか見えないぞ」
「見てるんだよ、劉鵬をな」
「劉鵬を?どうしてだ」
「あいつがドジやらないかどうか心配なんだよ」
蘭子に対して説明する。
「だから何だよ」
「馬鹿な、劉鵬に限ってそんなことはない」
しかし蘭子はその言葉を信じようとしなかった。
「あいつは御前とは違う。忍らしく目立たない様にする筈だ」
「どうかな?あいつ不器用だしな」
しかし小次郎は笑ってまた蘭子に告げる。
「そうはいかないんじゃないのかね」
「御前とは違うと言っているだろう。見ろ」
入り口から顔だけ出して道場を覗きながら小次郎に言う。
「何もないだろう」
「んっ!?」
蘭子の頭の上に小次郎の頭が出る。そうして二人上に並んで覗いている。見れば丁度その時。劉鵬が言っていた。
「俺が力になるかならないか」
「んっ!?」
「試してみるか。おりゃーーーーーーーーーーっ!」
いきなり四人を掴んで投げ飛ばす。一瞬のことだった。後には何メートルも吹き飛ばされた部員達が転がり姫子もマネージャーも呆然としていた。
「あれが目立たないってか?」
「・・・・・・何てことだ」
小次郎は笑って蘭子に言うが蘭子は呆然としている。小次郎はこのことを風魔の面々に対しても面白おかしく話すのだった。
「おいおい、何だよそれ」
兜丸がまず言う。見れば彼等は屋敷の畳の部屋でそれぞれ胡坐をかいてジャガイモの皮を剥いていた。車座になって向かい合って包丁を使いながら話をしている。
「それじゃあ道場破りだろうが」
「けれど劉鵬さんらしいですよね」
麗羅は笑ってこう言う。
「それも」
「あいつは昔から不器用だからな」
小龍も右手で包丁を使いながら笑っていた。
「有り得たって言えば有り得るな」
「そうだな。だが小次郎」
林彪が小次郎に問う。彼もここまで回復しているのだった。
「それで話は終わりか?」
「ああそうだ。それで辞退したのか?」
兜丸が小次郎にそこを尋ねた。
「まさかとは思うけれどよ」
「いや、話はこっからさらに凄くなるんだよ」
「凄くなったのか」
「ああ、何とこれでな」
小次郎は仲間達に話す。
「青春になったんだよ」
「青春かよ」
「そうだよ。これがな」
小次郎はその時のことも話しはじめる。それは。
「劉鵬君!」
その投げ飛ばされた部員達が立ち上がり。目をキラキラさせて劉鵬に言うのだ。
「有り難う!」
「君のおかげだよ」
「えっ!?」
いきなりこう言われた劉鵬はまた驚きの声をあげる。
「俺のおかげ!?」
「そうだよ、目が覚めたよ」
「白帯なんてどうでもいいんだ」
まず言うのはそれだった。
「それよりも大事なのは実力」
「そして気迫だったんだ」
「そ、そうか」
劉鵬も戸惑いながらもそれに応える。彼の予想外のことなのでどう言っていいかわからないのだ。彼にしてもはじめての事態だったからだ。
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