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ガールズ&パンツァ― 知波単学園改革記

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第六話 プラウダ戦を見ます! その1

 
前書き
オブラートに包みながら、慈悲のある心でお読みください!お願いします!
 

 






 私が小学6年生の時、私の姉ちゃんが初めて『公式』の戦車道大会に出場した。

 私は、姉ちゃんたちの練習をいつも間近で見ていた。

 休日は朝から晩まで戦車を乗り回しているのを私は見ていた。

 たまに姉ちゃんは私を戦車に乗せて遠くまで連れて行ってくれた。

 試合での姉ちゃんは、とても強くて、とても綺麗で、とてもカッコよくて、とても優しい姉ちゃんだった。

 文字通り無敵だった。一度も姉ちゃんが乗る戦車から白旗が上がった姿など見たことなかった。

 姉ちゃんの友達もみんなすごく強かったし、綺麗で優しかった。

 そんな姉ちゃんたちが優勝すると思った。すると信じていた。





 だけど負けた。






 『西住みほ』に





 そして『西住みほ』は姉ちゃんを壊した。

 私のたった一人の姉ちゃんを壊した。

 だから



 今度は























 私が壊す番だ。

























 北緯50度を越えた極寒の地に千冬たちは、訪れていた。
 目的は、第63戦車道全国高校選手権準決勝戦を見るためだ。

 千冬たちが所属する知波単学園以外にも、聖グロリアーナ女学院や黒森峰女学園の制服を着ている者も、ちらほらと他の学校の生徒の姿も見られる。しかし夜間に試合が行われることもあって見物人は少ない。それでも会場に作られた観戦席には観戦しに来た人間が座り、試合の開始を今か今かと待っていた。

 ちなみに千冬たち以外の知波単学園の生徒は来ていない。






「寒いな~……何でこんな寒い場所でやるんだよ……」

 厚着をした多代が余りの寒さに文句を言った。

「ルーレットで決まったんだから仕方がないだろ……文句があるなら戦車道連盟に言え……」

 多代の文句に、多代以上の厚着をした莞奈が答えた。莞奈の姿は、遠くから見ればマフラーやジャケットで、できたミイラのようにも見える。
 多代の寒さに対する愚痴をひたすら聞かされていた莞奈が、ちょうどイラついて来た頃に後ろから声が聞こえてきた。

「かっちゃ~ん、多代ちゃ~ん、ココア買ってきたよ~!」
「板垣さん……買う量…おかしくないですか………?」
「そうかな~?わたし、いっぱい飲めるよ?」
「それでも30本はおかしいと思いますが………」

 温かい飲み物を買いに行っていた、靖香、若菜、和佳子の三人が帰ってきた。
 三人とも袋を両手に持ちながら。

 それを見た多代と莞奈を思わず顔を見合わせ、少しの間、寒さの事を忘れられた。
 莞奈のイラつきが怒りに変わり爆発しただけだが……




 莞奈が買い物に行った三人に説教しているのを横目にしながら多代は、ココアを飲んだ。極寒の地で、寒さで冷やされた身体には、温かいココアは良く染みこんだ。

「何であんなに元気なのかね~………あたいには、わからないや……」

 ココアを飲みながら多代が見ていた光景は……




 小百合、莉乃、真衣、朱音、巴が元気に雪で遊んでいる光景だった。
 小百合、莉乃、真衣、朱音は、二チームに分かれて雪合戦をしているし、巴は雪像づくりに没頭している。

 そんな光景を見てため息を吐きたくなり、思わず願った。

「早く帰って来てくれよ……栗林……」














 T‐34/76、T-34‐85、KV-2、IS-2などソ連が誇る戦車たちが並び、少女たちの手によって試合前の最終調整が行われていた。
 それを眺めていた小さな少女は、横に立ち右目を眼帯で隠れている少女に話しかけた。


「これだけの戦力があるんだからあんな弱小チームなんて、あっという間に叩き潰せるわよ」

 小さな少女……カチューシャがそう言うと横に立っていた少女が顔だけをカチューシャに向けて言った。

「………いくらカチューシャやノンナ、それに千雪……もといアンナが敵を侮らず、油断なく行動しても、他が慢心していたら意味がないよ」

 いつになく真面目な口調で千冬は言った。

「………そうね……」

そうカチューシャが言うと周りを見渡した。


 周りでは戦車の最終調整や敵の戦力の確認、作戦の内容の確認などが各自で行われていた。
 皆、士気が高く、忙しそうにしているがどこか余裕が感じられた。

「緊張感が無さすぎる………完全に敵を侮ってるね」
「………大丈夫よ………必ず勝てるわ」
「………私もそう願っているよ」

 険しい顔になりながらも勝つと言ったカチューシャ、それを聞いた千冬は不安な顔になりつつも答えを返した。

「姉ちゃん………!」

その時、後ろから声がした。振り向くと千雪が立っていた。

「千雪……いや、いまはアンナだったね」
「…………姉ちゃん……!」

 千冬は眼帯がされていない左眼でアンナの目をじっと見つめた。アンナの目には、怒りの感情が宿っていた。何に対しての怒りなのかは、すぐにわかった。
そんな目をしているアンナは口を開き、千冬に言った。

「大丈夫、私が姉ちゃんの“仇“を取るから」

 静かに、しかし力強くアンナは言った。



「『西住みほ』は私が壊す」

 そう言った。



 それを聞いた千冬は顔をアンナに近づけ、笑った。笑いながら優しく抱きしめアンナの頭を撫でた。抱きしめられ、頭を撫でられているアンナの顔は真っ赤になっていたがそんなこと千冬が知るよしもなく、耳元でこう言った。

「“千雪“にならできるよ。私の自慢の、ただ一人の妹………だから……頑張ってね!」

 そう言うと千雪から離れ、踵を返し、仲間たちのもとへ帰っていた。


 千雪はしばらく顔を真っ赤にしながらフリーズしていたところを見かねたカチューシャに起こされた。










 千冬は、小百合たちのもとへ戻るといきなり多代にこう言われた。

「遅い!遅すぎる!あたし一人でこいつら全員の相手できるか!おチビは、靖香のツッコミで忙しいし、小百合たちは、雪合戦やってるし、巴に至っては、何かあたいの雪像を作ってるし!…………あたいはもう疲れたよ……」

 いきなり言われた千冬はとりあえず多代に労いの言葉を送り、落ち着かせた。
 そして事情を聴いた後、小百合たちの雪合戦に乱入して全員を倒し、巴の雪像づくりを手伝い、莞奈の怒りを収めた。


「何か……疲れた。特に莞奈の相手が疲れた」
「私は悪くないだろ!だいたい靖香がココアを30本も買ってくるのが悪いんだろ!」
「確かに問題だね」
「そうだろ!やはり私の味方は栗林だけだ」

 同意するかのように頷いた千冬を見て、莞奈は元気を取り戻した。

「ココアだけじゃあ飽きちゃうよね!」
「そこじゃないだろぉぉぉお!?」

 しかし再び怒りの炎に火が付いた。



 そんなこんな問題があったものの、観戦席にたどり着いた千冬たちは、席に着き試合が始まるのを待っていた。

「早く始まらないかな?」
「もうちょっとしたら始まるわよ。ハイこれ」
「ありがとう。あったかいね」

 莉乃から受け取ったココア、その温かさに思わず呟いた。
 それを飲みながら思い出したかのように千冬は莉乃に聞いた。

「そう言えば一年生たちの“教育“は進んでる?」
「ええ、なんとか進んでるわよ。莞奈たちが頑張ってくれてるわ。………まあ三年生がいらないとを教えすぎて一年生たちは混乱しているけどね」

 莉乃は肩をすくめながら言った。

「そっか……まあ進んでるならいいよ。それより“車輌“の方はどうなってるの?」
「“車輌“の方は多代が何とかするみたいよ。……でも詳しく聞こうとしても『まだ話せない』って言って教えてくれないのよ」
「山口には山口のやり方があるんだよ。好きにさせてあげればいいよ」
「でもあの子、私たちに何か隠してるわよ?」
「大丈夫、山口は裏切らないよ」

 莉乃は不満げに言うが千冬は気にすることはなく断言した。

「大丈夫、山口は私を裏切らないよ。………あっ、そろそろ試合が始まるみたいだね」

 巨大な観戦用のスクリーンには、プラウダ高校、大洗女子学園の車輌が開始地点についていた。

「いよいよ……だね」
「そうね……」

 小百合たちもさっきまで騒いでいたのが嘘かのように静まり返っていた。ただ試合の開始を待っているだけだというのに奇妙な緊張感が漂っていた。









 プラウダ高校の試合開始地点にて

 一両のT‐34‐85の車内にて

「………」
「アーニャ、そんな怖い顔しない。せっかくの可愛い顔が台無しだよ?」

 操縦席に座っている頭に白いバンダナを巻いた少女がアンナに顔だけ向けながら言った。

「してないし、可愛いくない。カチューシャ隊長の方が可愛い」
「じゃあ綺麗な顔」
「ノンナ副隊長の方が綺麗だし!」
「なぜそんなに怒るし……アーニャは充分綺麗で可愛いよ」
「ノンナ姉の方が綺麗で可愛いし!!レーナだって知ってるでしょ!?」
「どうどう…落ち着いて」

 レーナと呼ばれた少女は苦笑いになりながらもアンナに落ち着くように言った。

「何やってるんだか……」
「それでもノンナ様は美しくカチューシャ様は可愛らしいのは変わりないのですから、良いではないでしょうか?」
「………」

 そんな車長兼砲手と操縦手のやり取りを見ていた、通信手は呆れた表情となり、砲手はアンナを落ち着かせるようなことを言い、装填手は我関せずという態度を取っていた。

「あ~……何かイライラしてきたぁぁあ!…………よし、西住みほぶっ壊す!バラバラにしてやる!!」
「お~いいぞ~~アーニャその意気だよ」
「バラバラって……警察沙汰になるだろ……」
「それよりどうやってバラバラにするのでしょうか?」

 砲手の疑問に、ショートヘアで背の低い装填手の少女が小さい声だが全員に聞こえるように言った。

「………榴弾でバラバラ」
「よし!ターニャの案で行こう!Ⅳ号を発見し、西住みほに直接榴弾ぶち込んでやる!その時は席変わってねミーシャ」
「分かりました。その時はお任せしますね」

 ミーシャと呼ばれた茶色の長い髪を持つ砲手の少女は、笑顔になりながら答えた。

「任せるなよ。戦車道で殺人事件起こすなよ」
「リリア、事故に見せかければいいんだよ!」

 メガネを掛け、髪を三つ編みにしているリリアと呼ばれた通信手がツッコミを入れるが、そんなことは関係ないとばかりにドヤ顔で反論するアンナであった。

 その時、隊長車……カチューシャが乗るT‐34‐85から全車両へ通信が入った。

『いい!相手は聞いたことも無い弱小校、カチューシャたちが負けるはずないわ!あんな連中さっさと倒してプラウダに帰るわよ!』

 カチューシャが言い終えた瞬間に花火が上がり、試合が始まった。

『Урааааааааааааааааааааааааааааааааааа!!!!!!』

 同時にプラウダの全戦車乗りが雄叫びを上げ、十五両の戦車たちが一斉に前進し始めた。


 アンナの目は一段とギラつき、怒りが宿り、姉の仇を撃つことだけを考えていた。

 ただそれだけを考えていた。







 
 

 
後書き
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