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何かが始まりそうな日常

作者:樹湯
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プロローグ

 
前書き
以前思い付きで書いたものです。
 

 
旅人よ、引き返すがいい……





パリ―――ン!

頭を持ち上げると、首のあたりがかすかに傷んだ。
反射的に床を見下ろすと、何か黒いものが散らばっていた。よくみると、エナジードリンクの破片だった。なんでそんなものが床に落ちてるんだ……?
そう考えて急に頭がさえてきた。ああ机にあったものが落ちて割れてしまったのか。やっちゃったな。確か、昨日飲んだまま机に置きっぱなしにしてたんだった……。

どうやら、机に座ったまま寝落ちしてしまったらしい。
体を起こすと、机で寝ていたせいか体の節々が傷んだ。
ガンガン痛む頭を反射的に右手で抑える。
なんだか、長い夢を見ていた気がした。
窓のカーテンの隙間から、薄い光が漏れていた。

「6時か……」

佑真は、机の上の目覚まし時計を見つつタイムスリップした気分だった。
机の上には書きかけのノートが置かれている。
友人から頼まれて描いていたものだ。
くだらないと思いつつ、でもやってみたら案外夢中になってしまい、こうやってやりながら昨日は寝落ちしてしまったのだった。
佑真は立ち上がった。そのまま腕を上にやって伸びをする。
部屋を見渡すと、テレビの前にゲームソフトのパッケージが放置されているのが目に入った。昨日やっていたRPGゲームだ。コウイチが貸してくれたもので、まだ序盤のやりかけだった。ありふれたストーリーだが引き込まれるものがあった。
たしか、二つ目のダンジョンの草原の途中でセーブしたはずだ。
そこでふと、佑真は何かを思い出しそうになった。
そうだ、このゲームをしていたからあんな夢を見たのか。RPGゲームなんてやったの、小学生以来だからな。あんな夢……あれ。
……夢って、どんな夢だっけ。
佑真は頭を回転させて夢の内容を思い出そうとしたが、不思議なくらいにまったくもって思い出せなかった。
さっきまで見ていたはずなのに、なんだかもどかしい。

「……まあいいか」

佑真はそう言って無理やり頭を切り替えると、まずは床のエナジードリンクの破片を掃除するために何をすべきか頭を働かせた。
少し思い出しかけたことが気になったが、昨日見た夢の内容なんてどうでもいいことだ。話のネタにもならない。

「あーあ、粉々だな。あとで掃除機かけないと」

面倒くさいなと思いつつ、破片を拾うためにかがんだ。





「で、お前どこまで進んだ?」

コウイチが聞いてきた。
HR前の教室には、だんだんと生徒が集まり始めている。
コウイチはまだ来ていない前の席のクラスメイトの椅子にどうどう座りながら、佑真に話しかけてきていた。
佑真はカバンの中の物を机に入れつつ、「まだ序盤だよ」と答えた。

「洞窟を抜けて、昨日ナントカ草原ってとこに入った」
「あーまだ全然序盤じゃん。てことは、聖者の剣もまだゲットしてない?」
「うん。なんだよ、その聖者の剣って」
「やっぱ知らないか。森でゲットできんだよ。あれケッコー攻撃力高いからさ、ゲットするとあとの攻略が楽だぜ。たしか、赤い宝箱だったっけ……」

コウイチが自分が貸したゲームの解説をしだした。

「……それで、城の大臣が敵に操られてて、ゾンビみたいに襲い掛かって来るんだ!俺そん時セーブし忘れててさー、マジ焦ったよ」
「ちょっと、それネタバレじゃないか。あんまり言うなよ、今やってるんだから……」
「だから、聖者の剣がなきゃ話にならないんだって。ジョゲンだよ、ジョゲン」

調子のいいことをコウイチが言った。こいつはこういうやつだ。この間コウイチが宿題を忘れて来た時も、今回だけ!と宿題を写させてほしいと頼んできたのが、確か3回目であった。

「とりま、森入ったらキノコのあるほうな!覚えとけよ!」
「忘れないよ。闇落ちした大臣が気になるから」
「なんだよ、大臣のほうかよ!」
「それより、ケイはまだ来てないの?」

佑真は話題を変えるように言った。

「あ、あいつ今日はくるって言ってたぜ。3か月も学校さぼってゲームのシナリオ考えていたんだから、すげえよな。普通じゃないぜ」

コウイチが感心してるのかあきれてるのかよくわからない風に言った。

「今日来るってことは、ついにゲームのシナリオが完成したってことかな」
「ああ、昨日のラインで言ってたよ。なあ佑真。あいつの考えたシナリオってどんなんだと思う?」
「とりあえず、王道、ではなさそうだなぁ。……悪人が主人公のダークヒーロー系とか?」
「ダーク系かぁ。でも、おれは意外と、女子がたくさん出てくるハーレムものだと思うね。あいつ、意外とスケベなところがあるから」
「それだけはないよ」

とそのときコウイチの後ろから人が来た。長身色黒の男子で、肩から白いスポーツバッグを下げている。ぐいぐい、とバッグでコウイチの背中を押し「コウイチどけ、じゃま!」と言った。コウイチが振り向く。

「おっす北村!おはよう!」

コウイチが満面の笑みで言った。立ち上がる気配はない。
北村はサッカー部でいつも朝練が終わってからクラスに来る。部活しているから肌が黒いのは日焼けで、見ていて健康的だと色白の佑真は思う。

「うっせ、じゃま。いいから早くどけコーイチ」
「なんだよーおはようくらいいいだろ」
「うるせー」

こういったやりとりも、朝の風景の一部だ。
佑真は「おはよう北村」と声をかけた。

「おう、おっす!」
「なんだよ、俺は無視かよ!」
「はは」

コウイチの声にかぶせるように、教室の扉をガラガラ開ける音がした。

「おはよう、ほら席につけ~。静かにして~」

担任の小橋先生がやってきてHRを始めだした。小橋先生は女性の先生だ。第一印象が小柄で割と美人な先生だと佑真が思っていたことをクラスメイトに言うと、「なんだよお前、小橋のこと好きなのかよ~」とからかわれたことがある。その際にあわてて「誰があんなババァなんか」とごまかしたので、ババァ呼ばわりして申し訳ないと内心思ったことがある。

「はい、みんな席について!」

小橋先生がもう一度言った。

佑真が時計を見上げると、もうHR開始時刻を少し過ぎていた。
ガタガタと、クラスメイトが席に着き始める。なかなか戻らないやつもいるが、みんなが着席するとそいつも急いで席に戻った。コウイチも「しかたないなー」と席を立った。

「キリーツ!礼!」

クラスの委員長が高くてよく響く声で号令をかけた。

「じゃ、出席取るわよ。……赤沢君!」

はーい、とクラスのみんなの名前が呼ばれていく。
しばらくしてすぐ後ろで、ヒソヒソ何かを話している声がした。女子の声だ。
「今日の一時間目の社会、小テストあるらしいよ」「え……マジ?最悪」
まじかよ、最悪、と佑真も思った。まったく勉強なんかしていない。


「三島君!」

返事がなかったので、ヒソヒソ声が目立った。

「あら、三島君はまだ来てないのね」

おかしいな……と佑真は首をかしげた。
三島というのはケイの名字だ。

「三島君は今日来るって言ってたから、きっと遅刻ね」

小橋先生はそういって出席簿に何か書きこんだ。
しかし、佑真は疑問に思った。あのケイが遅刻なんてするだろうか?

「三島、学校来るのかよ」

隣の席の奴が話しかけてきた。

「ああ、来るって言ってたけど……」
「マジか。俺あいつの顔覚えてねーよ。学校休みすぎて。てか、お前休んだ理由知ってんの?」
「まあね……」

嘘をつく理由もないので答えた。
すると、相手は「フーン、なんで休んでるんだよ」と意外と興味ありげに聞いてきた。
佑真はちょっと困った。話してしまうと、噂になってしまうかもしれない。と答えてから思った。

「はっきりとは知らないんだ。あとでケイに聞いてよ。当事者だろ」
「ええ?……俺、あいつと仲良くねーよ。お前、知ってるんじゃないのかよ」
「……だから、詳しいことは知らないんだ。ただ病気じゃないってことだけは知ってる」
「なんだ、そういうことかよ」

相手はどうやら納得した様子だった。
佑真はほっとして前を向きなおした。ケイのことだ、ばれても困らないかもしれないが、一応友人に「ゲームつくって学校さぼってるオタク」の称号が与えられるのはあまりいい気がしない。
元々ケイは変わり者で有名だったので、学校を長く休みだしたときもそこまで不思議がられなかった。何を考えているかわからない秀才。というのがケイの評価らしかった。
もっとも、友人からしても何を考えているか読めないのだが。
しかし、隣の席の奴の反応からして、意外とみんな内心は気にしてるのか、と佑真は思った。

「今日の6時間目に修学旅行の話し合いをするから、それまでに班のメンバーを決めておくこと。わかった?」

はーい、と無気力な返事がした。

「班分けの紙は委員長の牧野さんに渡しておくから。牧野さん、じゃあよろしくお願いね」
「はい、わかりました」
「じゃ、みんな一時間目がんばってね。はい、号令」
「キリーツ」

ガタ、ガタと音がする。「礼!」という通る声がして、あさのホームルームは終わった。
結局、ケイはこなかった。




 
 

 
後書き
勢いで書きました。つづきはありませんが、せっかく書いたので投稿させていただきました。 
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