風魔の小次郎 風魔血風録
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2部分:第一話 小次郎出陣その二
第一話 小次郎出陣その二
「総帥、実はですね」
「話は窺っております」
総帥は静かに蘭子に言葉を返してきた。その物腰も実に落ち着いたものである。
「白凰学園のことですね」
「白凰学園!?」
小次郎はその名を聞いて声をあげた。
「何処だっけ、そこって」
「我が主北条家の学園だ」
「その通り」
総帥と蘭子が続けて小次郎に述べてきた。
「スポーツの名門校だ。しかし今は」
「また。有望な選手が怪我をされたそうですな」
「はい」
蘭子は苦い顔になった。その整った美貌に苦悩の汗さえ見せている。その汗を見せながら総帥に対して答えるのであった。
「おそらくは誠士館の」
「でしょうな。奴等には夜叉一族がいます」
ここで夜叉という名前が出た。
「我が風魔の宿敵。そして」
「北条家の宿敵」
総帥と蘭子はそれぞれこう述べた。
「戦国の頃からの宿敵でありました」
「我等の主は北条家、彼等の主は上杉家」
そうした関係なのであった。実に根が深い。
「そして誠士館の主夜叉姫は上杉家の末娘」
「夜叉の主は代々主家から出すもの」
総帥の言葉である。
「だとすればそれは当然のことですな」
「しかもです」
蘭子はその総帥に対してさらに言う。
「今の夜叉一族は手練れが揃っています」
「まずは夜叉姫の弟にして上杉家の末弟壬生攻介」
「はい」
その者の名が出た。
「夜叉随一の剣の使い手と聞いております」
「また制圧している八つの地区それぞれに配している夜叉八将軍」
今度はこの名が出た。
「しかも。彼等だけではありません」
「飛鳥武蔵ですか」
その名が出たところで。蘭子の顔がさらに変わった。強張り緊張が強まったのである。
「やはり。御存知でしたか」
「一匹狼の傭兵」
それが飛鳥武蔵という男の忍の世界での評価であった。
「長剣を操りどの様な相手でも倒してしまうという」
「そうです。あの男がいることにより誠士館は磐石です。こちらからは到底手出しができない有様です」
「競技でもそうなのですね」
「その通りです」
項垂れて総帥に答える蘭子であった。
「彼等の工作の通りに。全てが」
「わかりました」
総帥はここまで聞いて話したうえで大きく頷いた。それから小次郎を一瞥したうえで述べるのであった。
「それでは。我々から人を送りましょう」
「そうして頂けますか」
「先程も申し上げたように我が風魔は北条家に仕える身」
そこをあえて強調するのであった。
「ならばこれも当然のこと。小次郎」
「えっ、俺!?」
「そうだ。御前に言ってもらうぞ」
微笑んでそれまで碌に話を聞かず鼻をほじったり飛んでいる虫を見ていた小次郎に対して告げるのであった。
「それでいいな」
「ええっ、けれどよ」
だが小次郎は総帥のその言葉にあからさまに嫌な顔を見せるのであった。何故かその顔と仕草が少し猿を思わせるものになっていた。
「俺初陣だぜ。それでかなり厄介そうじゃねえか」
「初陣でもだ。行くのだ」
しかし総帥は小次郎にこう告げるのだった。微笑みをそのままにして。
「いいな。それで」
「まあ総帥の兄ちゃんが言うのなら行くけれどよ」
「そういうことです」
蘭子に向き直って述べる。
「この小次郎を向かわせます。それで宜しいですね」
「かたじけのうございます」
手をついて一礼して礼を述べる蘭子であった。
「これで我が白凰学園も救われます」
こうして小次郎は出陣することになった。彼と蘭子達はアルプスを下り東京に向かう。その頃その白凰学園においては。
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