提督はBarにいる・外伝
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美保鎮守府NOW-Side B- PART8
前書き
数時間の内に大きく変化していく現状。金城提督はできる限り情報を得て整理しようとするがーー…
あの日、各所では④
~美保鎮守府宿舎:明け方~
「ただいま」
「よ~っす、お疲れさん。帰ってきたって事はそっちでも一騒動あったな?」
美保提督の自宅を離れた川内が宿舎に帰投すると、煙草をくわえて不機嫌そうな提督が出迎えた。同室にいる青葉と金剛も、苦々しげにコーヒーを啜っている。
「ありゃ、珍しいねぇ金剛がコーヒーなんて」
「こんな気分じゃ紅茶も楽しめないネー!」
ぶすっとした返事を返してコーヒーを啜る金剛に、川内は首を傾げる。
「さっきブルネイから入った情報のせいで、金剛さんご立腹なんですよ」
と苦笑する青葉。
「どうにも俺、クビらしいわ」
とケラケラ笑う提督。
「ふ~ん……提督がクビねぇ。提督がクビ……って一大事じゃん!何そんなに悠長に構えてるのさ!?」
と、見事なノリツッコミを披露する川内。深夜テンションでおかしくなっているのだろうか?等と考えてしまう提督も大概である。
「まぁ落ち着け。一応まだそういう連絡は『正式には』入ってねぇよ、ただ……『敵さん』の下っ端がゲロってくれたらしいが」
そう提督が言うと、青葉が川内にブルネイから送られてきた情報を伝える。ブルネイが陸軍の一部に制圧されそうになった事、その際に提督が更迭される事が決まっていると聞き出した事、それによって鎮守府が非常事態モードになっている事などなど。
「んでもって、ついさっきまで大淀とテレビ会議してたワケよ」
「成る程ね、下手したら提督は今日から無職ってワケか」
「そうなるなぁ、笑えるぜ」
事情を聞いた川内と提督が2人でケラケラと笑う。そんなお気楽モードに見える態度に苛立っているのか、金剛の顔が赤くなっていく。
「……で?このままやられっぱなしじゃあ無いんでしょ?提督」
「当たり前だ、俺ぁ殴られっぱなしで喜ぶようなマゾじゃねぇぞ?」
そう言って提督は煙草を思いっきり吸い、フーッと紫煙を吐き出した。
「ウチのシマにコナぁかけたんだ、落とし前はキッチリ着けてもらう」
「うわぁ提督、ゴッドファーザーか仁義なき戦いのテーマが似合いそうな位悪い顔してますよ?」
そう言いながら青葉もニヤニヤしている。反論してやりたいが、自分でも自覚があるのが切ない。
「で、具体的にはどうするんですかdarling?」
「大淀の奴が俺の指示したマニュアル通りに動いてるなら、既に爆弾は仕掛けられた」
下手すりゃ国が傾きかけるレベルの、特大の奴だ。これはジジィにも話した事がない俺独自の人脈による物だから、敵に悟られる可能性も低い。
「後は敵の狙いが解れば、炙り出しも楽なんだけどねぇ……」
腕を組んで、う~んと唸る川内。それは俺も考えていた。俺だけを狙っているなら話は解るが、同時に美保提督まで狙った敵の意図は何だ?
「あの~、もしかしたら外堀を埋めに来てるのではないでしょうか?」
おずおずと自分の推論を述べる青葉。
「成る程……敵の本当の狙いはジジィか。そう考えりゃあ俺と美保提督、両方を狙った辻褄も合うな」
非常に不本意だが、俺はジジィの派閥のNo.2だと目されているし、美保鎮守府自体がジジィの肝入りで整備された環境らしいからな。本丸攻める前に外堀を埋めに来ているのだとしたら有効な戦略だろう。
「となると、俺にも刺客が放たれてる可能性が高いな……」
「だったら、darlingと私でescapeするデース!darlingの命は私が守るネー!」
鼻息荒く宣言する嫁さんを頼もしく思いつつ、頭を撫でてやる。
「落ち着け、金剛。そもそも俺ぁここを動く気はねぇぞ?」
「What!?何寝言言ってるデスか!」
だから、落ち着けっての。俺にだってそれなりの策ってモンがあるんだからよ。
「いいか?美保提督の事例から見て、俺にも刺客が放たれてる。これは間違いねぇ。だったら俺を囮にして敵を釣り上げてやろうって事よ」
「成る程、提督を餌にした釣りですね!」
まぁ、そういう事だ。それに俺を疎ましく思ってはいても、抱え込んでる戦力は無駄にしたくねぇからこいつらには帰投命令が出るだろう。そうして護衛が居なくなったタイミングで、刺客が襲ってくる……大体だが相手の絵図面が見えてきたな。
「青葉、美保の青葉を呼び出せるか?」
「合点です!」
威勢よく返事をした青葉は、早速通信を始めた。さぁて、協力してもらうぜ。
「悪いな、こんな深夜……いやもう早朝か」
気付けば時刻はもう4時近い。東の空は白み始めている。そんな時刻に呼び出したというのに、
「いえいえ!何か重要なお話があるという事でしたが?」
と元気そうだ。
「実はな……あと数時間で俺は提督の座を追われるらしい」
「え」
「しかも俺にも美保提督同様、暗殺者がに狙われている疑いがある」
「いや、あの、ちょっと」
「その上この鎮守府への破壊工作も疑われる。最終目的は元帥一派の排除だろう」
「いや、ですから、あの」
「そこで、だ。この鎮守府内で狙われそうな施設だとか設備に心当たりはないか?」
「いや、ですからちょっと待ってください!青葉、理解が追い付いてません!」
わたわたと焦った様子で手帳と万年筆を取り出す青葉。やはりここの青葉もメモ魔か。そこからウチの青葉と俺が情報を補完しつつ、事情を説明した。その際、ウチの鎮守府と秘匿回線でやり取りしていたとバラしたらかなり驚いていたが、美保の連中には漏らさないと誓ってくれた。まぁ、漏らされた所で大して痛手でも無いので構わんのだが。
「う~ん……教えて頂いた情報を考えると、確かに金城提督の暗殺と美保への攻撃が敵の狙いっぽいですねぇ」
「だろ?だからこそ敵の狙いを明確にする為に俺自身が囮になって暗殺者の身柄を抑える」
「……危険すぎません?」
「No problemネ。darlingは超強いんだから!」
「だよねぇ、私も提督が殺されるとか想像できないよ」
「青葉も司令は殺しても死なないと思います!」
心配する美保の青葉をよそに、ウチの連中は問題ないと。信頼されているのを喜ぶべきか、心配されてないのを悲しむべきか……。
「まぁ、そういう訳だ。そんじょそこらの奴なら、艦娘だろうが負ける気はしねぇよ」
念のための保険はかける。だが、出来ればそれは使わずに済ませたい。
「まぁ暗殺者に関してはそれでいいだろう。後は鎮守府への破壊工作の可能性だが……狙われそうな施設や設備に心当たりはないか?」
「う~ん……やはり鎮守府の防衛を司っているサーバールーム、でしょうか」
「なら、そこの防御を固めた方がいいな。すぐにでも……あ、それと美保提督から詳しい話があるまでは黙っておいてくれよ?」
「任せてください、その辺は青葉得意ですから!」
美保の青葉はえっへん!と胸を張る。……おっと、こっちの青葉にも確認事項があったんだ。
『青葉、データのぶっこ抜きは?』
『バッチリです!全部コピーしてあります』
ならば良し。吹っ飛ばされる事は無いとは思うが、データの引き抜きが出来てないんじゃ俺の元々の計画が水の泡だからな。
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