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風魔の小次郎 風魔血風録

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114部分:第十話 小次郎と姫子その十二


第十話 小次郎と姫子その十二

「一人の人間として」
「一人の人間として」
「忍だけれどな」
 こう前置きはする。
「忍は普通の人の世とはまた別だから。だから人を好きになっちゃいけないけれど」
「そうですね。それは」
「けれどそれでも」
 小次郎は言う。
「俺、姫様が好きだ。これは隠せねえよ」
「小次郎さん・・・・・・」
「今の誠士館との戦いが終わったら里に帰らないといけないけれど」
 これもまた決まっていることだった。死ぬか里に帰るか。どちらにしろ小次郎はこの戦いが終われば里に帰らなければならないのだ。どうしても。
「それでもここにいる間は一緒に。姫様といたい」
「私もです」
 姫子もまた小次郎の言葉に頷くのだった。
「戦いが終わるまでは小次郎さんと一緒に」
「姫様・・・・・・」
 夕暮れの中で見詰め合う。そうして心を確かめ合う。その夜小次郎は屋敷の廊下のところに脚を庭の方に出して寝ていた。隣では蘭子も同じ姿勢で寝ている。二人の腹が見えている。
「なあ蘭子」 
 小次郎はその横にいる蘭子に声をかけた。
「何かあったか?」
「何かあったか?」
 蘭子もまた小次郎に声をかける。二人は両手を枕にしているのも同じ姿勢だった。
「今は言えない」
「今は言えない」
 二人の返答もまた同じだった。そのうえで言葉を交えるのだった。
「そうか。そうだよな」
「ああ」
 蘭子は小次郎の言葉に声だけで頷いた。
「それよりも。今度の戦いは」
「あの二人だよな」
「死ぬなよ」
 天井を見たまま小次郎に言うのだった。
「絶対にな」
「ああ、わかってるさ」
 小次郎もまた蘭子のその言葉に頷く。それと共に起き上がってきた。
「ちょっと素振りしてくるな」
「頑張れ」
 そんな話をしながら夜の素振りに入る小次郎だった。彼がこうしてまた風林火山を握っている頃。黄金剣もまたあの男によって握られていた。
 壬生と武蔵は。夜叉姫の前に並んで控えていた。その二人に夜叉姫が声をかける。
「準備はできていますね」
「はい」
「それはもう既に」 
 二人はその夜叉姫の言葉に対して頷いてみせてきた。
「何時でも出陣できます」
「次のレシピでの勝負、必ずや」
「まずは武蔵」
 夜叉姫はその言葉を聞いて最初に武蔵に声をかけてきた。
「貴方は風魔の二人に向かいなさい」
「はい、それは確かに」
 武蔵は左膝をつき夜叉姫のその言葉に応えてみせる。
「お任せ下さい。必ずや」
「相手は二人ですが抜かりなきよう」
「御心配なく」
 その言葉と共に両目が光る。黄金色に。
「相手にとって不足ありません。何でしたら風魔の忍の全てを倒して御覧に入れましょう」
「武蔵、それは困るぞ」
 だが壬生はここで武蔵に顔を向けて言うのだった。
「壬生」
「小次郎は私がやる」
 激しい敵意を宿らせた目での言葉だった。
「必ずな。風魔にとっての敵は御前だけではないのだ」
「そうか。そうだったな」
「そうだ。それに」
「ああ」
 ここからの言葉はもうわかっていた。
 
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