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真田十勇士

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巻ノ八十五 猿飛大介その五

「聞ける様になったわ」
「草木や石の声がじゃな」
「水の声もな」 
 それもというのだ。
「何も言わぬ者達の声が」
「そうであろう、そうすればわかるな」
「うむ、今までわからなかったことがな」
 実にとだ、猿飛は祖父に確かな顔で答えた。
「わかる様になった」
「そしてじゃな」
「何かとわかる様になった」
 猿飛はまた確かな顔で言った。
「これまでわからなかったことが」
「そうなればじゃ」
「これまでよりもか」
「よく動ける様になる」
「忍としてか」
「そうじゃ、そのことを使ってじゃ」
「我等はか」
 猿飛は祖父にまた言った。
「天下をか」
「殿に従いな」
「翔けよというのじゃな」
「その通りじゃ」
「そうか、わかった」
「して殿」
 大介は幸村にも顔を向けて彼に問うた。
「殿は別に権勢や冨貴には興味がおありではないですな」
「うむ、そういったものにはな」
 実際にとだ、幸村は大介にもこのことを話した。
「拙者は興味がない」
「一切ですな」
「幼少の頃からな」
「ですな、しかし」
「志すものはある」
 それはというのだ。
「天下一の武士になりたい」
「武士の道を歩まれ」
「そうしたい」
「ではです」
「御主に教えてもらったことをか」
「そのことにお役立て下さい」
 こう幸村に言うのだった。
「是非共」
「天下一の武士になる為にか」
「そうされて下さい」
「わかった、ではな」
「草木や石、水の声も聞かれ」
「そうしようぞ」
「このことは兵法、戦にも役立ちます」
 大介は幸村に確かな声で述べた。
「ですから必ずです」
「天下一の武士にか」
「なれ申す、ただ空には限りがありませぬ」
「何処までも高いか」
「近頃そう言われていますな」
「南蛮の者達がそう言っておるな」
 幸村は大介に応えて述べた。
「空は実は限りなく高い」
「天が動いているのではなくこの地が動いておるとか」
「そう言っておる」
「それがしもそう思います、ですから」
「空はじゃな」
 幸村も応える。 
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