風魔の小次郎 風魔血風録
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101部分:第九話 夜叉の窮地その十一
第九話 夜叉の窮地その十一
誠士館。そこで夜叉姫は暗澹たる顔で報告を聞いていた。
「まず妖水の軽症はいいとしましょう」
「はっ」
武蔵と壬生がそれに応えている。いつもの様に夜叉姫の前に控えている。
「しかし。陽炎の重傷は」
「しかも風魔の者達は全員揃いました」
武蔵が言う。
「項羽の復帰により」
「それに対して我が夜叉は何ですか」
夜叉姫の顔が見る見るうちに強張っての言葉だった。夜叉さながらに。
「八将軍は全員負傷、もうすぐ七人が戻って来るというのに」
「陽炎ですか」
「一人たりとも欠けてはならないのです」
壬生に対して答える。
「そうではないですか?壬生攻介よ」
「はっ、それは確かに」
「八将軍は壬生家の棟梁と共に夜叉一族の首領を護り補佐する存在」
つまり夜叉姫にとっては身体そのものなのだ。
「夜叉最強の戦士達というだけではないのですよ」
「それはわかっていますが」
「それがこの大事な時に陽炎が出られない」
彼女が不機嫌な理由はこれに尽きた。
「このこと。今回の戦いにおいてどれだけの影響を及ぼすのか。このままでは」
「夜叉姫様、御心配には及びません」
しかしここで何者かの声がしたのだった。
「!?この声は」
「まさか」
「そう、そのまさかよ」
武蔵と壬生がその声の方に振り向いた。するとそこにはその陽炎が立っていたのだった。彼は妖しい笑みを浮かべながら右手の扇を弄んでいた。
「この陽炎、こうして立っているわ」
「無事だったのか」
「では担ぎ込まれたあれは一体」
「言わずともわかろう。移し身よ」
こう二人に答えた。
「この陽炎が分身と共に得意とするな」
「それを使ったというのだな」
「左様。もっとも竜魔はそのことに気付いているかも知れぬがな。あ奴は鋭い」
「陽炎。まずは無事を喜びます」
夜叉姫は素直にそのことは受け入れるのだった。
「ではすぐに戦線復帰よ」
「いえ、そのことですが」
しかし彼はここで言うのだった。
「何かありますか?」
「姫様、私に考えがあります」
笑みを消し真剣な顔と目で夜叉姫に言ってきた。
「考えが!?」
「はい、私はこのまま重傷ということにしておいて下さい」
含み笑いと共に述べる。口元は開いた扇で隠している。
「それで御願いします」
「隠れるというのですか」
「その通りです」
夜叉姫の問いにこう答える。
「暫しの間は」
「伏兵になるつもりか!?」
武蔵は怪訝な顔でその陽炎の言葉に問うた。
「まさか陽炎、貴様は」
「ふっ、それは何の意味もない」
しかし彼は武蔵のその言葉は否定したのだった。
「向こうも俺が倒れていないことは気付いているだろうからな」
「ではどうするつもりだ」
「そうだ。それでどうして隠れる」
壬生もそれを怪訝に思い問うた。
「伏兵でないのなら。どうしてだ」
「考えていることがあるのだ」
陽炎はこう二人に対して答えてきた。
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