疫病
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第三章
「逃げる者は殺せ、か」
「我等に命じられたが」
「その我等もだ」
「病に罹れば」
その時はどうなるのかわかっていた、彼等も。
「同じだな」
「そうだな」
「隔離されるか焼かれる」
「家族ごとな」
「やっていられるか」
兵達は自分達が黒死病に罹った場合を考えて言った。
「俺達もそうなるかもって思うとな」
「こんなこと出来るものか」
「こんなこともうしたくない」
「ああ、本当にな」
「死ぬ奴の身になれ」
「全くだ」
子爵への怨嗟の声も出た、それは彼等だけでなく民達もだった。彼等もまた子爵に対して嫌悪を抱いていた。
「黒死病に罹りたくて罹るものか」
「どうして罹るかわからないんだ」
「罹ればすぐに隔離か」
「水も食いものも与えられないしな」
「そのまま死ねか」
助かる者が非常に少ない病だ、だからこそ恐れられている。流行していることから感染ることがわかっているが感染る原因もわかっていないのだ。
「酷い場合は家族ごと焼かれる」
「家に火を点けてな」
「止めようとすれば同じ目に遭う」
「何てことだ」
「酷い領主様だ」
「何とかならないのか」
民達も嫌気が差してきていた、だが。
子爵の黒死病に罹った者達への仕打ちは変わらない、黒死病よりも子爵のその仕打ちの方が恐れられていた。
だがそれが終わる時が来た、何とだ。
子爵に黒死病の症状が出たのだ、子爵は自身の床から苦しい声で枕元に集めた家臣達に対してこう言った。
「すぐに医者を」
「医者をですか」
「どうせよというのでしょうか」
「呼ぶのだ」
こう言うのだった。
「そして余を治すのだ」
「いえ」
だが、だった。家臣達は誰もがだった。子爵に対して冷たい声で告げた。
「この領地での黒死病に罹った者への対応は決まっています」
「それは二つあります」
「隔離して水も食料も与えず勝手に治るのを待つかです」
「酷い場合は家と家族ごと焼き殺す」
「その二つです」
「二つだけです」
こう子爵に告げるのだった。
「だからです」
「子爵も同じです」
「どうも酷い様ですから」
まだ重くないが彼等はそういうことにした。
「焼き殺されることになります」
「生きたまま」
「馬鹿な、余はこの地の領主だぞ」
子爵は家臣達の冷たい言葉に驚いて言った。
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