フロンティアを駆け抜けて
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重なり合う咆哮
時折バトルタワーに響く振動に上の様子を案じながらも、ジェムとダイバは己の相棒に乗って上を目指す。バトルタワーの階段は螺旋状になっていて、一回上がるごとにバトルフィールドが存在した。本来ならばこれらの部屋でバトルをして一階ずつ上に昇っていくはずだったのだろう。しかしヴァーチャルシステムが停止している以上、ジェムたちが戦うべき相手はいなくなってしまっている。
「ダイバ君のお父様は、このまま昇っていった場所にいるの?」
「最上階のバトルフィールド、その奥の部屋にいる。本当なら挑戦者がやってきた時に部屋からフィールドに出てくるはず……」
「そっか……ヴァーチャルが止まって逆に良かったかもしれないね。挑戦しに来たはずだったけど、いちいち戦ってたら時間がかかりすぎちゃうし」
また一際大きな振動が起こる。もう10分近く昇っているがまだまだ音が遠い。スペースの広くない螺旋階段を昇る以上スピードが出せないのは当然だが、それにしても高い塔だ。ラティアスの背中に乗るジェムの気持ちが少し焦る。また階段を上がり、次の部屋を駆け抜けようとする。しかし、そこには一人の女性が待ち構えていた。
「貴様ら、そこで止まるがいい! これ以上近づけば命の保証はせんぞ!」
臨戦態勢のフライゴンとチルタリスを控え、次の階への進行を阻むように立っているのはジェムが一度戦ったことのある少女、ドラコ・ヴァンダー。長く伸ばした金髪にドラゴン使いの証である燕尾服にマントを着ていてもわかる体のライン。顔に施した青い三角模様のペイントに耳に、穴をあけてつけているイヤリングはジェムにとってはすごく大人に見える人でフロンティアの相手に打ちのめされるジェムを叱咤し、厳しくも相手に怯まぬ心を与えてくれた強い人だ。
「ドラコさん? なんでここに……」
予想外の人物に立ち止まりポケモンに乗ったままジェムは聞く。ドラコは施された頬をわずかに緩め、わざとらしく髪を腕ですっと梳いてから言う。
「はっ、愚問だな。それを言うなら何故お前達はヴァーチャルシステムが止まったバトルタワーを昇っている?」
「何故って……挑戦しようとしたらいきなりヴァーチャルが止まっちゃったから気になって……」
「いいよジェム、付き合わなくて。……ヴァーチャルシステムが止まったのに君が関わってるんだろ」
事情を説明しようとするジェムの言葉を遮り、ダイバが断言する。ジェムは驚いたが、ドラコは否定せずにやりと口の端を歪める。
「フッ……察しがいいな。貴様の言う通り、最上階の壁を『破壊光線』で突き破ったのはこの私だ」
「ドラコさんが!?」
「……上では何をやってるの?」
「倒れ逝く貴様らに教えてやる理由はない。だが敢えて言おう……このバトルフロンティアを破壊する計画とだけな。やれフライゴン、『大地の力』!」
ドラコのフライゴンがジェムとダイバの足元からマグマのようなどろどろしたエネルギーを噴出させる。ラティアスとメタグロスは旋回して逃げたため当たることはなかったが、もし当たればその上のジェムとダイバはただでは済まなかっただろう。
「フロンティアを破壊するなんて、馬鹿げてる……やるよジェム。こいつをさっさと倒してパパのところへ行こう」
「それしかないのかもしれないけど……お願い、教えてドラコさん! あなたはなんでこんなことをしてるの!?」
会ったのは一度だけ。でもこの前バトルした時のドラコは、むやみやたらと何かを壊したがる性格には思えなかった。もしそうであれば、あの時心の弱ったジェムは叩き潰されていただろうから。あの時ジェムの力を認めてくれた厳しさの中にある優しさを、ジェムは否定したくない。ジェムは必死に訴える。
「甘い……甘いぞジェム! 私の心を知りたければ、私のドラゴン達に打ち勝ってみせろ! ヴァーチャルシステムは停止したが、貴様らはマルチバトルの挑戦中……そしてまだ塔を昇り続けている。よってルールはこうだ。貴様らは二体ずつ、そして私は四体のポケモンを使用してのマルチバトル! 万が一にでも私に勝利した暁にはここを通し、上で何が起こっているのか明かそう。だが貴様らが負ければ大人しく塔を降りてもらう!」
ドラコはどうあっても答えるつもりはないらしい。そしてバトルのルールを告げた。しかしダイバは、自分の手持ちのボールを一気に取り出す。
「そっちの指定したルールに付き合うつもりなんてない。6体がかりで一気に踏みつぶして――」
「馬鹿め……貴様らは挑戦中の身であると言っただろうが。一人のトレーナーが出せるのは一匹だけ、そして挑戦する際に指定した二匹しかバトルに参加することは出来ん」
ダイバが一斉にモンスターボールを開こうとする。しかし一匹も出てこない。ジェムも試しに自分のモンスターボールを開こうとしてみたが、何も反応しなかった。どうやらマルチバトルに挑戦するときに指定したポケモン以外は出せなくなっているらしい。バトルピラミッドにも同様の措置がなされていたので、ドラコが何かしたのではなくもともとそうなっているのだろう。
「挑戦者の不正を防ぐためのシステムだが、思わぬところで役にたったな。尤もそれはこちらも四体しか出せないということでもあるが、何の問題もない。私が負けることなどあり得ん」
「ちっ……」
「……やろうダイバ君。絶対ポケモンバトルで勝って、あなたのお父様のところに行こう! キュキュ、お願い!」
ジェムは一旦ラティアスから降りてボールに戻してからキュウコンを出す。それはドラコのバトルの条件を呑むと同時に、ダイバのもともとの作戦通り戦うという意思表示でもあった。ジェムはダイバを見つめた。
「……足引っ張らないでね? いくよガルーラ、メガシンカ」
苛立ちを隠そうともしない声で、ダイバもメタグロスを戻しガルーラを出す。そしてすぐさまメガシンカの力を使い、子供が袋から飛び出た。
「ドラコさんには本当に感謝してる……だからこそ、勝って話は聞かせてもらうよ!」
「フライゴンなんて雑魚モンスター使い、一瞬で捻り潰してやる……」
「我らがフロンティアを破壊するために邪魔はさせん! さあ、血塗られたショーの始まりだ!」
フライゴンとチルタリスが翼を広げる。キュウコンとメガガルーラもフィールドに並び立ち、バトルタワーの形式に則ったバトルが始まる。ドラコはジェムの瞳を見て宣言した。
「教えてやろうジェム・クオール。この前戦った時の私はまるで本気ではなかったということを! メガチルタリスの大いなる雲に導かれし翼を見るがいい!」
ドラコの耳につけた牙のようなイヤリングが輝き、彼女が腕を天に掲げる。呼応するようにチルタリスの体が白く輝き始め、体がもこもこと膨らんでいった。体を雲のような羽毛で覆ったメガチルタリスへと進化する。二日前のジェムとの戦いで見せなかった力だ。メガチルタリスによる、天使のラッパのような力強い歌声がフィールドに響き渡る。
「先にフライゴンから狙うよ。ガルーラ、『グロウパンチ』」
「キュキュ、『火炎放射』!」
「フライゴン、『爆音波』!」
「フリャアアアアア!!」
ガルーラ親子が拳で殴りかかり、キュウコンが尾から九本の炎を出してフライゴンを攻撃する。フライゴンは自身の羽根を虫のように素早く羽搏かせ、バトルフィールドそのものをびりびりと震わせる。ジェムは思わず耳を塞ぐ。そして放った音波は拳で触れたガルーラ親子と、キュウコンの炎を吹き飛ばした。
「すごい音……!」
「どうだ、ダイバとやらはフライゴンを見下しているようだが……貴様のガブリアスにこのような芸当は出来まい!」
「だから何さ。味方を巻き込まないと強い攻撃が出来ないなんてただ弱さを証明してるだけだよ、こんなの」
『爆音波』は凄まじい威力で全体を攻撃する反面、ダブルバトルでは味方も巻き込む技だ。事実メガチルタリスの歌声はあの瞬間は掻き消されていた。それにしても、ダイバはやたらとフライゴンを馬鹿にしているように聞こえる。
「ダイバ君ってフライゴンが嫌いなの?」
「……違う。ただバトルでは明らかにガブリアスの下位互換なのにわざわざ使うトレーナーの気が知れないだけ」
ダイバはホウエンでは珍しいガブリアスを持っており、時折メガシンカさせて敵を一掃しているのを見ている。ゲームしているのを見せてもらった時も強いと言われるポケモンばかり使っていたし、能力値の低いポケモンを使う意味がないと思っているのかも、とジェムは思った。
「ふっ……実力は高いと聞いていたが貴様も尻が青いな。ポケモンバトルはそこまで単純ではない」
一方、自分の手持ちを馬鹿にされ使う気が知れないと言われたドラコは意外と冷静だった。貴様も、ということは過去にも何度か言われたことがあるのかもしれない。
「さあ、龍の咆哮に震撼するがいい! メガチルタリスよ、『ハイパーボイス』だ!!」
「ピュウアアアアアアアアアア!!」
「……! キュキュ、ガルーラの傍にいって『炎の渦』!!」
メガチルタリスが息を吸い込んで天使のラッパを思わせる強烈な音を発しようとしたとき、ジェムの脳内にテレパシーが届く。すぐさまジェムはその通りに指示を出し、キュウコンに自身とガルーラを取り囲むように炎の渦を発生させた。大きな渦が音波によって吹き荒らされるが、その分ダメージは軽減される。
「これぞ我がドラゴン達の重なり合う咆哮!お互いの力を主張し合い、お互いがお互いの上をゆこうとする竜の意思だ!」
「御託はいいよ。メガガルーラ、『冷凍ビーム』」
「氷タイプの技なら突破できるとでも思ったか?」
再びフライゴンが『爆音波』を放つ。ガルーラ親子の放った氷の光線は二つとも音に弾かれフライゴンの体に届かない。だがダイバはその間にジェムに指示を出す。ジェムがキュウコンをボールに戻す。
「うん、ドラコさんは両方とも特殊攻撃……ならここはラティ、頼んだわ! メガシンカも使うよ!」
「ひゅうううん!!」
ジェムのつけている雫の髪飾りが輝き、ラティアスの体が紫色を基調とした飛行機のような姿となる。メガシンカポケモンが二体相手になってもドラコは余裕を崩さない。
「目には目を、竜には竜を……一見悪くないセンスだ。だがメガチルタリスの前にそれは過ちでしかないことを教えてやろう。『ハイパーボイス』だ!」
「ラティ、『ミストボール』! この技は相手の特殊攻撃力をダウンさせるよ!」
メガチルタリスの激しい歌声を、メガラティアスは発生させた霧で包み込んでいく。すると音の力は少しずつ弱まり、ガルーラ親子へのダメージを弱めた。だがラティアスには『ハイパーボイス』は強く響きよろめく。
「だがメガシンカしたチルタリスの特性は『フェアリースキン』、よってこの歌声はフェアリータイプの技と化している。知らなかったか?」
「知ってる。でもメガラティアスの特殊耐久力は高い。このまま何発も打ち続ければ、ラティアスと引き換えに君のドラゴンは無力化出来る」
そう言う間にもガルーラ親子はフライゴンに『グロウパンチ』を仕掛ける。霧の中からの突撃に反応が遅れ、フライゴンの体に拳が当たる。ガルーラ親子の攻撃力がさらに上昇する。
「なるほど、自分が勝つためならジェムがどうなろうと構わないという作戦か……さすが、ホウエンの怪物の息子と言っておこう」
霧によって表情は見えないが、声は賞賛というよりも皮肉に聞こえた。続く言葉が、ジェムに向けられる。
「それで? 貴様はそれで構わないのかジェム。王者の娘であることを誇りとしていたお前が、こんな使い捨ての駒のような扱いで」
「今の私は、お父様の娘として勝負してるわけじゃない。それに私はラティ、仲間たちと……ダイバ君を信じてる。簡単にやられたりしないわ。ラティ、『ミストボール』!」
ラティアスがさらに幻惑の霧を発生させ、特殊攻撃による威力を削っていく。その隙に、ガルーラ親子がまたしてもフライゴンに突撃していく。
「とどめをさせ……『冷凍パンチ』」
『グロウパンチ』によって力を溜めた拳にドラゴンと地面タイプの弱点である氷を纏わせ、フライゴンの顔と腹を捉えようとする。ジェムのラティアスが相手の攻撃力を下げ、ダイバのガルーラが攻撃力を上げて多彩な技で制圧する作戦通りの動き。しかし、ドラコは焦るでも認めるでもなく激昂した。
「ぬるい……ぬるいぬるい、ぬるすぎるっ!! ヴァーチャル相手ならともかく、その程度の戦略がこの私に通用すると思っているのか! フライゴン、『ドラゴンテールッ』!!」
フライゴンが、拳を食らうよりも先に己の尻尾を振り回す。それは親ではなく子供の方に当たると――親もろとも、ガルーラをダイバのボールに戻させた。
「ガルーラが勝手にボールへ!?」
「『ドラゴンテール』は竜の威厳により相手のポケモンの防衛本能を無理やり引きずり出すことで技を受けたポケモンを強制的にボールに戻し、別のポケモンを出させる! さあ、メタグロスを出すがいい!」
「ちっ……うっとおしいな」
ダイバが渋々メタグロスを出す。四つの足で地面を踏みしめ、紅い瞳が霧の向こうの敵を見据えた。
「無理やりボールに戻されたら、能力をあげても元に戻っちゃう……!」
「どうだジェム、貴様が頼りにしていた攻撃力は失われたぞ。それでもこの子供の言いなりに動くか? 私にはこいつはお前をサポートに回らせる価値があるほど強いとは思わんが……さあ、時は満ちた! 聞かせてやろう、重なり合う竜の咆哮を!」
霧の向こうからでも、フライゴンとメガチルタリスが一気に空気を震わせ、吸い込んでいるのが感じ取れる。そこでサーナイトからテレパシーが来た。もう一度『ミストボール』を使って威力を下げろと。二匹同時に強力な攻撃をしようとしているのを防ぐのは間違いではない。しかし……
(でも、本当にそれでいいの? ダイバ君の言うことを聞いているだけで……ドラコさんに勝って上にいける?)
ドラコはシンボルハンターやゴコウの様に待ってはくれない。判断は一瞬だった。ジェムが指示を出した後自分の耳を塞ぐ。二体同時の破壊的な音の衝撃が発生し、バトルタワーそのものが震撼する。『ミストボール』の霧による威力の減衰をものともしていない。ジェムの頭も揺れ、数秒の間頭の中が真っ白になった。
「……ラティ?」
音が止んだ後、自分の相棒に恐る恐る声をかける。フライゴンの『爆音波』の威力は勿論、メガチルタリスによるフェアリータイプの『ハイパーボイス』はラティアスの弱点だ。それがあの破壊力で放たれたとなればダメージは少なくないはずだ。前のバトルと違って能力上昇に頼らず、純粋な力でここまでの威力を出すドラコの本気を思い知る。
「ひゅううあん!!」
でも、メガラティアスは倒れていなかった。ジェムの傍を飛翔し、元気をアピールする。見たところメタグロスもダメージは受けたがまだ大丈夫そうだ。だがダイバは更に苛々した様子でジェムを睨む。
「……なんで命令に逆らったの? サーナイトは『自己再生』を使えなんていってない。『ミストボール』を使えって言ったはずだけど」
「ごめんなさい。でもドラコさんはメガチルタリスもダイバ君が馬鹿にしてるフライゴンもすっごく強くて、ダイバ君一人じゃ勝てないかもって思ったから……ダイバ君のメタグロスは鋼タイプだから『爆音波』も『ハイパーボイス』も耐えられるはずだし、ラティが倒れないようにした方がいいって思ったの! だから、一緒に力を合わせて戦いましょう?」
ジェムはきちんと謝って自分の考えを話し、そのうえで協力しようとする。
「……結局、君も僕一人じゃ何もできないって言いたいんだ。もういいよ、勝手にすれば。……僕一人でこいつに勝つから」
「一人なんかじゃないよ! 私のことが信用できなくたって、ダイバ君にもメタグロスやガルーラみたいな仲間が――」
「……うるさいっ! メタグロス、『コメットパンチ』!!」
しかしダイバはジェムから目を逸らし、震える声で言った。泣く寸前の子供みたいに聞こえたが表情はわからない。メタグロスの鉄塊の拳が流星のように放たれる。一瞬ジェムは自分に向けられるのではと思ったが、霧の向こうの相手を狙ったようだ。
「ほう、だがジェムの『ミストボール』によって私のポケモンは霧に隠れている。それで当たるか?」
「僕のメタグロスを馬鹿にするなっ! あんな大きな音を出したら姿は見えなくても音の反射と響く位置から音源の場所くらい特定できるっ!!」
ジェムの父親と戦っていた時よりも激しい、かんしゃくを起こした子供のような激昂。その言葉通り、メタグロスの拳はメガチルタリスを上から打ち抜いた。地面に叩き落としさらにバウンドし、竜の悲鳴が聞こえる。
「まず一匹、厄介なメガシンカは消えた……! こんな邪魔な霧、なんてことない……!」
「フ……ハハハハハハッ!! 滑稽とはまさにこのことだな。この霧はお前の指示で出させたのではなかったのか? それを邪魔呼ばわりするとは……ならば、邪魔な霧は消してやろう!」
「えっ!?」
平然と霧を消すと言ったドラコに驚く。ラティアスの『ミストボール』による霧は確かに音による攻撃の威力を下げていた。それを消せるならなぜ今まで放置していたのか。
「フライゴン、『霧払い』だ!」
「フリャア!」
フライゴンが今度は音を出すためではなく、空気の流れを操るために羽搏く。それによってラティアスの発生させた霧は吹き飛び、フィールドの端で雫となった。特殊攻撃力を下げる効果が失われる。
「だったら、なんで今まで……それに、チルタリスが!?」
「完全に『コメットパンチ』は入ったはず……!」
霧が晴れた先で、メガチルタリスは地面に降りていたもののしっかりと立っていた。雲のような羽を広げ、闘志を見せる。
「当然、『コメットパンチ』を当てて来ることは読んでいた。そして狙うならば今までの意表をつき、かつ鋼タイプであることを利用しフェアリータイプのメガチルタリスを狙うこともな。だから攻撃が当たる前に『コットンガード』で守りを固め、地面に叩きつけられた後『羽休め』を使っただけの事だ。今まで霧を放置していたのは、姿が隠れることは音で攻撃する我が竜には然したる問題ではなかっただけのことだ」
メガチルタリスはほぼ全身が羽毛に覆われている。それを守りに使うことで大幅にダメージを減らし、回復させたということだった。渾身の一撃をあっさりと凌がれ、ダイバが呻く。
「ダイバよ、お前の指示通りあのタイミングで『ミストボール』を重ねていればラティアスは倒れ、挙句に霧は消滅していた……貴様は確かに強い。戦術も理には叶っている。ヴァーチャル相手なら百回やって百回勝てるのだろうが……実際の対戦相手と仲間を無視したバトルでは所詮トレーナーとして三流のそしりを免れないと知れ!!」
「……!!」
ダイバの肩が跳ねる。今まで静かにでも何かしら言い返したダイバが初めて何も言えなかった。
「僕は負けない……負けられない……ジェムにも君にもパパにもチャンピオンにも、どんな手を使ってでも、勝つ」
メタグロスが思考をフル回転させて体が輝きを放つ。バトルタワーの階下から二体のダンバルと一体のメタングが飛んできて、メタグロスの手足となって合体した。手段を選ばず冷徹に勝利を目指すメガメタグロスへと変わる。そこまでして勝とうする姿勢は……すごく痛々しくて、フロンティアの来たばかりでゴコウやダイバに負けて泣きじゃくっていた自分とすごく良く似ているとジェムは確信する。
「ふん、メガメタグロスか……だが、今のお前には過ぎた力だ。我が竜の前にひれ伏させてやろう」
「……ドラコさん、ちょっと黙ってて」
「ん……?」
そこでジェムは意を決して口を割り込んだ。霧の晴れた視界で、ドラコをオッドアイが射抜く。ドラコはにやりと笑みを浮かべて黙った。
「ダイバ君、さっきは本当にごめんね。別にダイバ君のことを馬鹿にしたり弱いなんて言うつもりなんて全然ないよ。今でも私よりずっと強いと思ってる」
「……」
「大丈夫、ダイバ君ならドラコさんにだってダイバ君のお父様にだって勝てるよ。でもその為に……私たちに、サポートさせてくれないかしら?」
「………………勝手にすれば」
「うん、ありがとう!」
ダイバは相変わらずジェムの方を見ない。帽子もフードも腕で抑え、顔を隠している。それでもジェムはダイバに笑いかけた。見てくれなくても、心を伝えられるように。
(ダイバ君は今お父様が危ないかもしれなかったり、強い敵と会って、心が少し弱ってる……ここに来たばかりの私みたいに。だったら、私が色んな人にそうしてもらったみたいに今度は私が、ダイバ君を助けてみせる!!)
作戦通りに言うことを聞くのではなく、ダイバの仲間として自分の意思で支える。それを決意し、強大なドラゴンに立ち向かう――
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