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殺人鬼inIS学園

作者:門無和平
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第五話:イレギュラー達と殺人鬼

 
前書き
 どうしても箒はモッピーになってしまうなあ……。 

 
 桜の花びらが舞い散る4月。遂にIS学園の入学式が執り行われた。自由に改造した制服に身を包んだ生徒達が希望と緊張に溢れた表情で門をくぐり、入学式の訓示を受けている時、ラシャはテロを敢行すべく保護者に紛れて侵入した反女尊男卑団体、反IS団体の人間を拘束していた。

「き、貴様!何故女どもの肩を持つ!?」

 一人がラシャに問いかけるが、彼は興味なさげに一瞥すると、竹をナイフ状に削り出し始めた。製作中のゲストルームに移植した竹を拝借したものだ。

「『竹包丁』ってご存知か?」

 過激派共を拘束してから20分。遂にラシャは口を開いた。

「私の話を聞いていたのか!?何故あんな下品な女どもについているんだと訊いている!!金か?金で飼われているのか?だとしたら倍額で……」

 それ以降、男は喋ることは出来なかった。先ほどラシャが作った竹のナイフが喉仏をぶち抜いて後頭部から突き抜けたからだ。

「包丁の鉄臭さが肉や魚に付かないようにするために作られた包丁だ。木なら最小限の匂いしか付かんだろうというカラクリなんだ」

 ラシャは一思いに竹ナイフを引き抜いた。喉笛から奇妙な音を立てて鮮血が迸り、床を濡らした。男の目から、生気は疾うの昔に失われていた。

「勘弁しとくれよ、俺はまな板の上の鯉と話す趣味はねえんだからよ」

 手早く死体を片付けて、ゴミ袋に詰め込むと、ラシャは新しい男を部屋に連れ込んだ。己より若く、反抗的な目をギラつかせた男だ。新入生の兄を騙って侵入したところをとっ捕まえたのだ。

「さぁて、お前は自信作の耐久試験に付き合って貰おうか」

 一見、無害極まりない笑みを浮かべてたラシャは、新たに作り上げた竹包丁を振り上げた。



「ラシャ兄~~!!!」

 獲物を全て「処理」し、脳内で先程の耐久試験の反省点を洗い出していると、己を呼ぶ声が聞こえた。

何と懐かしい、声変わりをして男らしい声になったようだ。

 ラシャは湧き上がってくる「感慨の様な何か」を感じつつ振り向いた。そこには顔を涙でクシャクシャにした少年がこちらに向かって走ってきていた。

「ラシャ兄!!よがっだぁ!!生ぎでだんだぁ!!」

「おいおい一夏、なんて顔だ。ハレの日に泣くなよ」

 この少年こそ、ラシャの弟分であり、弟子であり、唯一の男性IS操縦者となった織斑一夏であると分かる人間が果たして居るだろうか。

「じゃあ何で病院からいなくなったんだよぉ!!探したんだぞぉ!?千冬姉もしばらく抜け殻みたいだったし……」

「一応手紙出したんだがなぁ…そんな事になってたのか」

 意外な千冬の一面を知って少し驚いたラシャは一夏にハンカチを渡した。

「兎に角顔を拭けよお前」

「グス……とにかく、お帰りラシャ兄!!昼飯行こうぜ、箒も居るんだ!!」

「おう」

 ラシャは一夏と共に食堂へ向かった。道中、たくさんの女生徒が集まってきており、食堂に到着する頃にはある種のデモ行進のような様相を呈していた。当然、数少ない男性がついていた食卓の周辺には女子の人だかりが出来ており、食卓を囲んでいる唯一のじょしである篠ノ之箒には余すことなく嫉妬の視線が突き刺さっていた。
 当の本人は意に介さぬばかりか、睨み返すほどの気骨を備えていたのが不幸中の幸いというべきか。唯一の憂慮点は彼女はラシャの事を昔から嫌っていた点であった。
 彼女は、ラシャを視界に収めると、露骨に不機嫌な表情を浮かべた。十年ぶりに会った人間に対する反応にしては些か冷淡に見えた。

「そんな顔をするな箒ちゃん。飯は楽しく食うもんだぞ?」

 ラシャが話しかけると、彼女はそっぽを向いた。

「おい、箒!……ごめんな、ラシャ兄。なんかこいつ朝から機嫌悪くて…」

 一夏のフォローに、箒は慌てて反論する。

「別に私は…というか機嫌が悪いのは誰のせいだと…!!」

「気にしないよ、女の人ってのはそういう日があるもんだ。だから一夏も気をつけるんだぜ?」

 ラシャはサンドイッチを頬張りながらにこやかに応える。同時に内心では箒が十年前より全く成長していないことに失望もしていた。
 自らが一夏と親しい故に、嫉妬を隠そうともしない。未だに一夏を独占したい思考が先走って他者を排除しようとしたり、敵意を向けるのだ。結局身についたのは肉だけで、礼節や品性は小学生並みでしか無い。十年間必死でやって来たことは、チャンバラと花占い以外になにもないようなものだ。
 一夏は佇まいからして、相応の成長を遂げたような印象を受けた。千冬から聞いた話だと、ラシャを見習って大学へ行くための資金を中学生の内から貯金するなどといった行動が見受けられ、学校の成績も上々なのだそうだ。
 ただ、自らの鍛錬という名目で、学校行事を疎かにする傾向があり、友人も数えるほどしか居ないらしいのが玉に瑕といったところか。ラシャ自身も大して友人は多い方ではないが、頼れる存在は多いほうが良い。と、失踪していた日々を振り返り、一夏にアドバイスをすることを固く誓った。

「ところで、ラシャ兄。ラシャ兄は十年間何してたんだ?」

「それは言えないんだ。言ったら殺されるような事もしちゃったからね」

「え……?」

 思わず一夏は箸を落とした。自らを見つめるラシャの瞳が爬虫類じみた光を放っていたからだ。

「冗談だよ。怪我が酷いから、治せる海外の病院に転院しただけだからな?」

「んだよラシャ兄!!びっくりしたじゃないかあ!!」

 正直一夏はこれ以上踏み込みたくなかった。鮮明に思い出してしまうからだ。ラシャとゲームをしてた夏の昼下がり、轟音とガラスが割れる音。腹にかかった熱い液体。自らに覆いかぶさり、苦しそうに呻くラシャ。泣き叫ぶ姉。ここまで思い出すと、ひどい頭痛がしてしまうのだ。

「顔色が悪いな。保健室行くか?」

 ラシャがよろめく一夏に手を貸そうとしたが、その手は箒によってはたき落とされた。

「一夏の面倒は私が見ることになってますので大丈夫です」

 敢えて周囲に聞こえるようなトーンで拒絶の意を伝える箒に、周囲は水を打ったような静けさに包まれ、同時に箒に向けられていた殺気が三割程増加した。

「いやいやいや、入ってきたばかりの子には荷が重いんじゃないのか?俺も決して古株とはいえないが男同士だしとっつきやすいとは思うんだがなあ」

 ラシャの説得に、周囲の何人かが首を縦に振る。だが、相手はひるまずに主張する。

「私は一夏の幼なじみです。彼のことはなんでも知ってます」

「そんな俺は一夏の師匠で同居してたわけだが」

 だがすぐに反論されて黙りこくる。

「ええ!?あの用務員さん織斑君と同居してたの!?」

「ということは……千冬様とも同棲してたって事よね……?」

「ご、号外!!号外よ!!早く号外刷ってばらまかなきゃ!!」

 騒ぎ立てる周囲を他所に、箒はさらなる反論をする。

「貴方はISに乗れない」

「確かに俺はISには乗れないな」

 さも当然と頷くラシャの表情に、箒は得意顔になる。

「だが、それとこれとは別だ。ISより大事なもんが人間にはあるのさ」

 ラシャは雑にまとめると、土気色な表情をした一夏を背負った。

「あと、お前はもうちょい他人に気を使えるようになれ。そうじゃなきゃお前の姉ちゃんと変わらないぞ?」

「あ、あの人は関係ない!!」

 天災である実の姉を引き合いに出されたことが琴線に触れたのか、大声を上げる箒。ラシャは溜息をつくと、取り敢えずそろそろ嘔吐しそうな表情に切り替わりつつある弟分を介抱すべく保健室へと急いだ。
 
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