ナンパは危険
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第五章
そしてその後ろからだ。美人は言ってきたのである。
「では宜しいですね」
「いえ、ちょっと」
「痛いのは最初だけです」
やはり痛いのだった。そこは。
後ろから何かが来るのがはっきりわかった。それは黒い絶望だった。その絶望が門をこじ開けてくる。小泉はその夜を二人で過ごした。
暫くの間彼は立ち上がれなかった。だが一週間程してやっと立ち上がった。そうして。
大学でだ。彼は友人達にその宴のことを話した。大学の喫茶店でコーヒーを飲みながら。
まずはそのコーヒーを見てだ。こう言ったのである。
「その黒さってきたらな」
「おい、コーヒー飲みながらかよ」
「そこからかよ」
「最初に見たからな」
だからだ。そこから話すというのだ。
「いや、凄い黒さだったよ」
「御前のよりもか」
「そんなに黒光りしていたのかよ」
「俺のも確かにそうさ」
彼自身もだ。黒光りしているのは確かだというのだ。
「けれどそれでも俺より凄かったんだよ」
「それだけ使い込んでるってことか」
「磨きかけてるんだな」
「それも経験なんだよ」
経験で磨かれてだ。黒光りするようになるものだというのである。
「つまりその人は凄い経験者だったんだよ」
「で、真っ黒だったんだな」
「このコーヒーみたいに」
「ああ、大きさだってな」
次はその話になる。
「馬位はあったぜ」
「おい、馬かよ」
「本当にそこまであったのかよ」
「ああ、文字通りそれ並だったよ」
男なら最高の褒め言葉だ。小泉もそれはわかっている。
そのことを真顔でだ。彼は話していくのだ。
「で、その馬並のがもう凄い立っててな」
「御前に来たんだな」
「その中に」
「駅弁。したことあるか?」
実にダイレクトにだ。小泉は友人達に問うた。
「それあるか?」
「あれ腰に凄い負担かかるだろ」
「下手したら腰いわすからな」
「チョコボールでもなきゃ無理だろ」
「だからな」
友人達は難しい顔になって彼の今の問いに答える。
「それはされたことないよな」
「おい、されたって何だよ」
「したんじゃないのかよ」
「されたって御前まさか」
「その時に」
「俺はバスルームで見たんだよ」
今度はこうした表現を使っての言葉だった。
「宙に支えられて浮かぶ俺の姿をな。バスルームの鏡に映るな」
「嫌な光景だな、おい」
「駅弁されたってのかよ」
「しかも後ろから支えられてか」
「刺さったままか」
「ドラキュラ公に串刺しにされたトルコ兵の気持ちもわかったさ」
今度はあまりにも悪名高き串刺し公だった。ドラキュラ伯爵のモデルになっていることはあまりにも有名だがモデルになっている人物の方が怖い。
「いや、本当にな」
「痛かったか」
「そんなに痛かったんだな」
「座薬とか浣腸なんてものじゃないからな」
そんなものはもう比較にならないというのだ。
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