そこに気付いても

「違うっていうんなら言えよ」
「あの人達はな。実はな」
「あれなんだよ」
　ここでだ。彼等は言うのだった。
「生き別れだからな」
「生き別れの妹さんなんだよ」
「実はそうなんだよ」
「あの人達はな」
「おい、何だよその強引な設定」
　つまり嘘だろとだ。浩一は反論した。
「あんなそっくりな声の生き別れの妹さんがごろごろいるのかよ」
「それもそれぞれの声優さんにだっていうんだな」
「いるかよってんだな」
「そうだよ。しかもあんなふざけた名前のな」
　誰がこんな芸名にしたと言いたくなる、そんな名前だというのだ。
「いるかよ、絶対に」
「というか御前あれだな」
「そうだよな。あれだよな」
「ちょっとな。あれだよな」
「そうだよな」
　友人達は浩一のムキになった偽医者の顔を見てそれぞれ話した。
「声優ファンを自認していてもな」
「まだまだだな」
「二流だぜ、声優ファンとして」
「甘いんだよ、そこはな」
「何処がどう甘いんだよ」
　今度は俺は天才だ！と叫びそうな顔になって。浩一は言い返した。
「あんなの絶対に違うだろ。生き別れの妹さんじゃないだろ」
「だからな。そこなんだよ」
「そこをそうだって言うのがなんだよ」
「真の声優ファンなんだよ」
「そこ。わからないか？」
「真の？」
　声優ファンとしてのプライド故にだ。浩一は一旦その暴走を止めた。
　そしてそのうえでだ。こう彼等に返したのだった。
「待てよ。俺は真の声優ファンだぞ。それこそ比良野文さんの水着画像も愛する位にな」
「で、麻子さんのバニーガール写真集も持ってるってか」
「あのデジタルの」
「そうだよ。声優さんの全てを愛する真のファンなんだぞ」
　ある程度煩悩も入っているがそれでもだというのだ。
「その俺に対してな」
「二流っていうのはか」
「侮辱だってんだな」
「ああ、俺は間違いなく一流だ」
　本当に何処かの偽医者の如きになっていた。