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ストライカーの重み

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第三章

「本当にな」
「それはどうしてですか?」
「もう辛い思いをしなくていいからだ」
 だからだというのだ。
「それでだ」
「辛い思い?」
「といいますと」
「これまで。サッカーをはじめた頃はそうじゃなかった」
 子供の頃にはじめた。その頃はだというのだ。
「だが選手になり活躍しているうちにだ」
「凄い活躍でしたね」
「華々しい活躍でしたね」
「それが辛かった」 
 記者達の褒め称える言葉にだ。クラウスは沈痛な面持ちで答えた。
「それがな」
「それがですか?」
「辛かったんですか」
「シュートを決めて当然、相手を止めて当然」
 クラウスはディフェンスの面でも定評があった。
「そう思われていてだ。その中でプレイをしていく」
「それでなのですか」
「辛かったのですか」
「かなりな。シュートを決めなければどうなるか」
 ワールドカップのPKの時だけではなかった。クラウスは常にシュートを、肝心な時に決めることを期待されていたのだ。そのことが辛かったというのだ。
「こんなプレッシャーはなかった」
「そこまで辛かったんですか」
「今までは」
「逃げたいと思ったこともある」
 クラウスは本音も語った。
「しかし逃げても何にもならない」
「だから余計にですか」
「辛いものがあったんですね」
「必ず、しかも多くの人の期待に応えなければならず逃げられもしない」
 勿論失敗も許されない。
「こんな辛いことはなかった」
「そうですか。かなり」
「そこまでなのですか」
「だがそれも終わる」
 クラウスは安堵している顔に戻った。
「本当にな。もうプレッシャーに耐えることもなくなる」
 こう言ってなのだった。彼は安堵している顔で引退会見を行ったのだった。以後彼はコーチや監督としてサッカーに携わることになった。しかし現役に戻りたいと言ったことはなかった。決して。


ストライカーの重み   完


                      2012・7・27 
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