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ストライカーの重み

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第一章

                   ストライカーの重み
 ドイツ代表フリードリヒ=クラウスはミッドフィルダーでありサッカー選手としての能力はかなりのものだった。その彼のシュートはかなりのものだった。
 その彼のシュート力についてはドイツの誰もがこう言った。
「いざっていう時はクラウスだよな」
「ああ、クラウスがいれば大丈夫だ」
「決める時には決めてくれる」
「本当に頼りになる奴だよ」
「全くだよ」
 こう言って笑顔で言うのだった。とにかく彼は国民から信頼されていた。
 しかしだ。彼はよくこう言った。
「重いな」
「重い?」
「重いですか」
「ああ、重いな」
 その波うつ豊かな金髪と深い青の眼での言葉だった。顔立ちは引き締まり彫がある。まるで彫刻の様な顔だ。
 その彼がだ。こう言ったのである。
「期待っていうのは重いな」
「あれっ、そうなんですか」
「重いんですか」
「ああ、重いな」
 こう言うのだった。
「本当にな」
「あれっ、ここぞって時に決めるからですよ」
「クラウスさんが人気があるのは」
「決めるべき時に決めてくれる」
「だからじゃないですか」
「それでプレッシャーに感じるっていうのは」
「ちょっと違うんじゃないですか?」
 これが周りの意見だった。誰もが楽天的に言う。
 しかしだ。クラウスだけは深刻な顔で言うのだった。
「いや、中々な」
「中々?」
「中々といいますと」
「辛い。重い」
 また重いという言葉を出す。
「期待に応えようというのはな」
「そんなもんですかね」
「そういうのって重いんですか」
「何か俺達にはよくわからないですけれど」
「そんなものですか」
 周りはわからない。しかしだった。 
 クラウスだけは深刻な顔だった。彼はドイツ国民の期待を背負って国際大会にも出ていた。その中でだった。
 ワールドカップの決勝だ。相手は。
 イングランドだった。そのイングランドとの試合はというと。
 一進一退の攻防だった。それでだ。
 観客達もテレビやネットの前のファン達も固唾を飲んでいた。握り締める手に汗が滲み出て流れてきている。
 その彼等はだ。緑のグラウンドにおいて激しい攻防を繰り広げるドイツチームを見てそして言うのだった。
「大丈夫だ、ドイツにはな」
「ストライカーがいるからな」
「あいつがいる」
「そうだ、あいつがだ」
 彼等はグラウンドの十番を見ていた。彼こそは。
「クラウスだ」
「クラウスがいる」
「クラウスがやってくれる」
「必ず決めてくれる」
「だからな」
「大丈夫だ」
 期待をかけていた。明らかに。
「俺達にはクラウスがいるんだ」
「ドイツにはあいつがいるんだ」
「確かにイングランドは強いがな」
「だがそれでもな」
「あいつが絶対にやってくれる」
「最後は決めてくれるさ」 
 こう言ってだ。彼等はその期待をクラウスにかけていた。まさに彼はドイツ中の期待を背負っていたのである。
 だがイングランドも強い。伝統が強さになっていると言っていい。ドイツも強いが彼等も強い、それでだった。
 試合はPKにまで持ち込まれた。それでだ。
 一人ずつゴールに蹴っていく。ドイツもイングランドも得点を決めていくが。
 コイントスにより先行となっているイングランドは四点、ドイツも四点入れて最後のPKになった。その場においてだった。
 先行のイングランドの選手が蹴った。だがそれは。
 ドイツのキーパーの渾身のパンチングで防いだ。それでだ。
 弾かれたボールが前に転がるのを見てドイツ国民は安堵しイングランド国民は落胆した。次の攻撃で決まるかも知れない。 
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