ミ=アモーレ
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第一章
ミ=アモーレ
カーニバル。リオデジャネイロは一年で一番賑やかな時を迎えている。
けれど私は静かな、ブラジルにもこうしたものもあるという落ち着いた雰囲気のバーにいて。そこのカウンターで一人静かに飲んでいた。
その私に。マスターが声をかけてきた。
「いいかい?それで」
「それで?」
「ああ。彼氏誘わないのかい?」
カウンターで洒落たタキシードの蝶ネクタイの。ラテン系そのものの、オペラ歌手のドミンゴに似たマスターがだ。笑顔で私に言ってきた。
「今日は」
「喧嘩したのよ」
寂しい笑顔で言う私だった。
「ちょっとね」
「おやおや、この騒がしい日にかい?」
「そうなのよ」
こう。店の外から聞こえる派手な音楽にはしゃぐ声を聞いて。
そして。私はマスターに答えた。
「だから今こうしてここにいるのよ」
「それはまたあれだね」
「あれって?」
「寂しいね」
マスターは私に対して言ってきた。
「折角の一日なのにね」
「いいわ、別に」
私は本心を隠してマスターに答えた。答えながらその手にあるカクテル、ブラジルの酒のビンゴとフルーツのジュースをカクテルさせたそれを飲みながら。
マスターに。こう言った。
「なってしまったものは元に戻らないから」
「さばさばしてるね」
「過去は振り返らないの」
これが私の言葉だった。
「だからなのよ」
「そうかい。じゃあこれからどうするんだい?」
「飲むわ」
この店で。こうマスターに答えた。
「そうさせてもらうわ」
「じゃあそうしなよ。今はこの店も」
「静かね」
「カーニバルの日だけはどうしてもこうなるんだよ」
この店は賑やかな店じゃない。店の雰囲気自体が静かだ。けれどそれでも安いて美味しいカクテルが飲めるので人気はある。けれどカーニバルの日だけはだった。
「お客さんが来なくてね」
「皆外ではしゃぐからね」
「お陰で開店休業だよ」
マスターは笑って私に話した。
「いや、いつもね」
「けれど今年のカーニバルはお客さんがいるわね」
「あんたがね。じゃあ今日はとことんまで飲むね」
「そうするわ。次のカクテルは何かしら」
「テキーラを使ったのはどうだい?」
マスターのお勧めはこれだった。私がテキーラも好きなのを知ってのお勧めなのがわかる。マスターも今の私に気を使ってくれている。
「それでどうかな」
「そうね。それじゃあね」
「ああ、テキーラね」
「カクテルの種類は任せるわ」
マスターに。完全にそうすると告げて。
そのビンガの、やたら甘いサトウキビから作る酒のカクテルを飲みながら。
私は静かに。こうマスターに告げた。
「何でも飲むから」
「わかったよ。それじゃあね」
「今日は音楽も不要ね」
いつもは店の中にブラジルの音楽の中でもしっとりとしたのがかかる。けれど今はとてもだった。外のサンバの音楽が聴こえてきていて。
だから音楽はかかっていない。それでだった。
私は音楽についてこう話した。マスターもそれを受けてだった。
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