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ファイアーエムブレム聖戦の系譜 〜幾多の星達〜

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95部分:動きはじめた時その六


動きはじめた時その六

ーメルゲン北の村ー
 深い暗闇の中に彼はいた。深く深く、落ちていくようにも浮かんでいくようにも感じられる。自分が何処にいるのか、何をしているのかさえ解からなかった。
 不意に呼ぶ声がした。声が聞こえた方を見た。
 暗闇のカーテンの中に光が差し込んでいた。光から声がしていた。
 光りの方へ駆け出した。光からしきりに声がする。光は大きくなっていく。自分より大きくなったその光へ飛び込んだ。
 目が覚めた。次第に目が周りの光景を映していく。木で造られた天井だった。
「良かった、目覚められたのですね」
 ライザが横で安堵の笑みを浮かべて座っていた。周りにはフリージの将兵達がいた。
「ここは・・・・・・?」
 起き上がろうとする。胸に鈍い痛みが走る。
「うっ」
 ライザが慌てて身体を押さえる。この時はじめてベッドの上に寝ている事に気付いた。
「気を付けて下さい。傷はまだ完全に治ってはおりません」
「私は助かったのか?シャナン王子の剣撃を受け地に片膝を着いてから・・・・・・」
「私がワープの杖でこの教会にお移ししたのです。私の魔力ではメルゲン城に届かなかったもので・・・・・・」
「そうか。ここは教会の中なのか」
「はい。申し訳ありません」
「いや、いい。卿のあかげで生き長らえる事が出来たのだからな。それにしてもライザ達も無事で何よりだ」
「有り難き御言葉・・・・・・。この教会の神父殿達に助けて頂いたのです」
「そうか。神父殿達には御礼を言わなくてはな。ところでメルゲン城はどうなった?」
「城はシアルフィ軍により無血開城させられました。リンダ様以下全員がシアルフィ軍に投降しその中に組み込まれました。敵軍はその後ターラを手中に収めイリオス将軍とその軍も取り込みトラキアを会談により追い返しました」
「そうか・・・・・・。敵ながら見事だな。そしておそらくダンドラム要塞とアルスターへ兵を向けたのであろう」
「お察しの通りです」
「とすればおそらく同時にレンスターへ別働隊を差し向けた筈だ。私の予想ではレンスターもアルスターもダンドラムも敵軍の勝利に終わったな」
 流石に雷帝と称されているだけはある。見事な洞察である。
「我が軍もこうなってはイシュタルを出撃させるしかあるまい。だが苦しいだろうな。・・・・・・しかし集められるだけの兵力は集めきっている。それに今の私ではシアルフィ軍の占領地を抜けられないな」
「ではどうすれば・・・・・・」
「ミレトスへ向かう。今はユリウス皇子が鎖国されているが何かのお考えあっての事だろう。かの地で兵をお借りしシアルフィ軍を東西から挟撃する」
「了解致しました」
「傷が癒えたならばすぐにミレトスへ向かう。ライザ、卿はここに残り連絡及び情報収集を頼む」
「はっ」
(間に合ってくれればいいがな)
 だがイシュトーはまだ知らなかった。自らの決断が彼を数奇な星のめぐりに入れてしまうことに。
ーバーハラ城ー
 バーハラ城の一角には巨大な書庫がある。その蔵書は大陸一といわれ古今東西様々な分野の書物が収められている。その中で一人の青年が書を探していた。
 切り揃えられた赤い髪に紅の瞳をしている。白い中世的な整った顔からは高い知性が表われている。金で縁取りされた白い踵まである法衣とズボンを身に着け群青のマントを羽織っている。彼こそがヴェルトマー十一将のラダメス将軍とアイーダ将軍の子にして帝国の宮廷司祭、そして天才軍師の誉れ高きサイアスである。
 ユグドラルでその名を知らぬ者はいない。軍師としての才覚は解放軍のオイフェに匹敵すると言われ帝国軍を知の面で支えている。また仁と信を知る帝国きっての人格者としても有名であり近年の帝国の虐政を危惧し必死に抑えようとしている。各地で反乱にみまわれている帝国が何とか持ち堪えているのも彼在ればこそだった。
「どうもここではないらしな」
 何かの書を探しているようだ。
「地下の古い書物庫の方へ行ってみるか」
 階段を降り下へ向かった。
 燭台で周りを照らしながら降りる。カツーン、カツーンと音がする。
 蝋燭の火で照らしながら書を探す。だがまだ見つからない。
「奥へ行ってみるか」
 奥へ行った。ふと照らされた足下に何か古ぼけた文が束になっているのが目に入った。
 
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