Sword Art Rider-Awakening Clock Up
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ユイの謎
「ぬおおおおお!」
1人が両手に持つ2つの剣でドカーンと吹き飛ばし、
「はあ!」
もう1人が右手の逆手に持った片手剣でズバッとモンスターを切り裂く。
久々に二刀流を装備したキリトは、休暇中に貯まったエネルギーを全て放出する勢いで次々と敵群を蹂躙し続けた。
ほとんど休暇を取らずに攻略を続けてきた俺は、決して落ちることのない腕を駆使して片手剣を振り、敵を圧倒的に追い込んでいった。
ユイの手を引くアスナと、金属鞭を握ったユリエールには出る幕がまったくない。全身をヌラヌラした皮膚で覆った巨大なカエル型モンスターや、黒光りするハサミを持ったザリガニ型モンスターなどで構成される敵集団が出現するたびに、2人の剣士は無謀なほどの勢いで突撃しては暴風雨のように剣で切り裂き、制圧してしまう。
アスナは「やれやれ」といった心境だが、ユリエールは眼を丸くしては俺とキリトのバーサーカーっぷりを眺めている。彼女の戦闘の常識からは余りにかけ離れた光景なのだろう。ユイが無邪気な声で「パパー、お兄ちゃーん、がんばれー」と声援を送っているのでなおさら緊迫感が薄れる。
暗く湿った地下の下水道から、黒い石造りのダンジョンに侵入して既に数十分が経過していた。予想以上に広く、深く、モンスターの数も多かったが、キリトの二刀と俺の片手剣がゲームバランスを崩壊させる勢いで振り回されるため女性剣士2人には疲労はまるでない。
「……なんだが、すみません。あの2人に戦闘を任せっぱなしで……」
申し訳なさそうに首を竦めるユリエールに、アスナは苦笑しながら答えた。
「いえ、2人はあれで楽しんでるようですから……。一種の病気みたいなものですね」
「言いたい放題だな」
敵群を蹴散らして戻ってきた俺が、耳障りなアスナの声を聞きつけて口を尖らせる。
「気に障ったなら謝るわよ。それよりキリト君は?」
「そこ」
アスナの正面を向いたまま、親指で後ろに未だ戦闘中のキリトを指す。
アスナとユリエールは顔を見合わせて笑ってしまう。
銀髪の鞭使いは、左手を振ってマップを表示させると、シンカーの現在位置を示すフレンドマーカーの光点を示した。このダンジョンのマップはないため、光点までの道は空白だが、もう全体の距離の7割は詰めている。
「シンカーの位置は、数日間動いていません。多分安全エリアにいるんだと思います。そこまで到達できれば、後は結晶で離脱できますから……。すみません、もう少しだけお願いします」
ユリエールに頭を下げられ、俺は眼を丸くした。こんなにも礼儀正しく頼み事をされのは初めてだった。
その時。
「いやー、戦った戦った!」
ようやく戦闘を終了させたキリトが、腕を馴らしながら戻ってきた。
「やっと終わったか」
「ああ、いいアイテムもかなり出たぜ」
「へえ」
アスナは思わず聞き返した。
「どんなアイテムが出たの?」
「おう」
キリトが手早くウィンドウを操作すると、その表面に、どちゃっという音を立てて赤黒い肉塊が出現した。グロテスクなその質感に、アスナは顔を引き攣らせる。
「な……何それ?」
「……《スカベンジトードの肉》だな」
肉塊をジッと見つめていた俺が、思わず口にした。
「も、もしかして……さっきのカエルの肉?」
「ああ、ゲテモノなほど旨いって言うからな。後で料理してくれよ」
「絶対、嫌!!」
アスナは叫ぶと、自分もウィンドウを開いた。キリトのウィンドウと共通になっているアイテム欄に移動し、《スカベンジトードの肉×24》という文字列をドラッグして容赦なくゴミ箱マークに放り込む。
「あっ!あああぁぁぁ……」
世にも情けない顔で悲痛な声を上げるキリトを見た俺は、アスナに問いかけた。
「なんでそんなに嫌なんだ?日本の歴史によれば、明治初期のカレーにはアカガエルの肉を使っていたが……」
「今の時代のカレーにはアカガエルの肉なんて入ってません!!」
アスナに叫びながら言われるが、結局《スカベンジトードの肉》を捨てた理由は、生理的にも精神的にも嫌いということらしい。
3人のそんなやり取りを見て、我慢できないといった風にユリエールがお腹を押さえ、くっくっと笑いを漏らした。その途端、
「お姉ちゃん、初めて笑った!」
ユイが嬉しそうに叫んだ。彼女も満面の笑身を浮かべている。
それを見て俺は、そういえば、と思い返した。
昨日、ユイが謎の発作を起こしたのも、軍の連中を撃退し、子供達が一斉に笑った直後だった。どうやら少女は周囲の人の笑顔に特別敏感らしいと思われる。それが少女の生来の性格なのか、あるいは自分と同じように、今までずっと辛い思いをしてきたのか。ユイの正体が増々謎に包まれていくようだった。
そんな中、アスナは思わずユイを抱き上げ、ギュッと抱きしめた。いつまでも、この子の隣で笑っていようと心の中で誓う。
「さあ、先に進みましょう!」
アスナの声に、一行は更なる深部に向かって足を踏み出した。
ダンジョンに入ってからしばらくは水中生物型が主だったモンスター群は、階段を降りるほどにゾンビやゴーストといった幽霊系統に変化し、アスナの心胆を激しく寒からしめたが、俺の1本の剣は意に介するふうもなく現れる敵を瞬時に屠り続けた。
通常では、高レベルプレイヤーが適正以下の狩場で暴れるのはとても褒められたことではないが、今回は他に人もいないので気にする必要はない。時間があればサポートに徹してユリエールのレベルアップに協力するところだが、今はシンカー救出が最優先である。
あっという間に経験した2時間のうちにも、マップに表示される現在位置と、シンカーが居ると思しき安全エリアは着実な速度で近づき続けた。何匹目とも知れぬ黒い骸骨剣士《デモニッシュ・サーバント》をレ俺の剣がバラバラに吹き飛ばしたその先に、ついに暖かな光の漏れる通路が眼に入った。
「あっ、安全地帯よ!」
アスナが言うと同時に、索敵スキルで確認したのかキリトが頷いた。
「奥にプレイヤーが1人いる。グリーンだ」
「シンカー!」
もう我慢できないというふうに一声叫んだユリエールが走り始めた。剣を右手に下げた俺と、2本の剣を両手に下げたキリトと、ユイを抱いたアスナも慌ててその後を追う。
右に湾曲した通路を、明かり目指して数秒間走ると、やがて前方に大きな十字路と、その先にある小部屋が眼に入った。
部屋は、暗闇に慣れた眼には眩いほどの光に満ち、その入り口に1人の男性プレイヤーが立っていた逆光のせいで顔は良く見えないが、こちらに向かって激しく両腕を振り回している。
「ユリエーーール!!」
こちらの姿を確認した途端、男が大声で名を呼んだ。ユリエールも左手を振り、いっそう走る速度を速める。
「シンカーーー!!」
涙混じりのその声にかさぶるように、男の絶叫が……。
「来ちゃダメだーーっ!!その通路は……っ!!」
それを聞いて、アスナはギョッとして走る速度を緩めた。だがユリエールにはもう聞こえていないらしい。部屋に向かって一直線に駆け寄っていく。
その時。
部屋の手前数メートルで、4人の走る通路と直角に交わっている道の右側死角部分に、、不意に黄色いカーソルが1つ出現した。アスナは素早く名前を確認した。
表示は《The fatal-scythe》。
運命の鎌という意味であろう固有名を飾る定冠詞。ボスモンスターの証だ。
「ダメーっ!!ユリエールさん、戻って!!」
アスナは絶叫した。黄色いカーソルは、スウッと左に動き、十字の交差点へ近づいてくる。
このままでは出会い頭にユリエールと衝突する。もう数秒もない。
「くっ!!」
突然、アスナの左前方を走っていた俺が、かき消えたように見えた。
実際は恐ろしい速度でダッシュしたのだ。ズバンという衝撃音が周囲の壁を震わせる。
瞬間移動にも等しい勢いで数メートルの距離を移動した俺は、背後から右手でユリエールの体を抱きかかえると、左手の剣を床石に思い切り突き立てた。凄まじい金属音。大量の花火。空気が焦げるほどの急制動をかけ、十字路のギリギリ手前で停止した2人の直前の空間を、ごおおおっと地響きを立てて巨大な黒い影が横切っていた。
黄色いカーソルは、左の通路に飛び込むと10メートルほど移動してから停止した。姿の見えないモンスターがゆっくりと向きを変え、再び突進してくる気配。
俺はユリエールの体を離すと、床に突き刺さった剣を抜き、左の通路に飛び込んでいった。キリトもアスナも慌ててその後を追う。
アスナは呆然と倒れるユリエールを抱え起こし、交差点の向こうへと押しやる。ユイを腕から降ろしてユリエールに預けると、短く叫んだ。
「この子と一緒に安全地帯に退避してください!」
ユリエールが蒼白な顔で頷き、ユイを抱き上げて部屋に向かうのを確認して、キリトとアスナはそれぞれ剣を抜きながら左へ向き直った。
片手剣を構え、立ち止まった俺の背中が眼に入る。奥に浮いているのは身長2メートル半はあろうかという、ボロボロの黒いローブを纏った人型のシルエットだった。
フードの奥と、袖口からのぞく腕には、密度のある闇が纏わりつき蠢いている。暗く沈む顔の奥には、そこだけは生々しい血管の浮いた眼球がはまり、ギョロリと3人を見下ろしている。右手に握るのは長大な黒い鎌だ。凶悪に湾曲した刃からは、ポタリポタリと赤い雫が貼っこく垂れ落ちる。全体的には、いわゆる死神の姿そのものだ。
死神の眼球がグルリと動き、まっすぐに俺を見た。その途端、自分が今まで殺した者達の怨念が体を貫く気がした。
隣のアスナは、純粋な恐怖に心臓を鷲掴にされたような悪寒に支配されてるようだった。
でも、レベル的には問題ないはず。
そう思ってアスナは細剣を構え直した時、前に立つ俺が掠れた声で言った。
「アスナ、キリト、今すぐ安全エリアの3人を連れて、クリスタルで脱出しろ」
「え……?」
「こいつはやばい。俺の識別スキルでもデータが見えない。強さ的には、90層クラスだな」
「「………!?」」
キリトもアスナも息を呑んで体を強張らせる。その間にも、死神は徐々に空中を移動し、3人に近づいてくる。
「お前は逃げないのか?」
キリトの問いに、俺は即座に答えた。
「ない。ここで奴を倒さなかったら、目覚めが悪くなる」
自分はこのまま残って戦う、と言ってるのだ。
俺のの横顔を見ながら微笑を浮かべ、キリトは「俺も残る」と言い出した。
「助けは無用だ!いいから行け!」
正直、レベルと剣の腕だけであのボスモンスターを倒せるかはわからない。だがもし、2人がこのまま安全エリアにいる3人と転移してこの場を去れば、残った俺は誰にも悟られることなく《あの力》を使って目の前の死神を倒せる。
「いいや、残る!これ以上お前を1人にはできない。少しでいいから俺のことを頼ってくれよ」
頑固にも逃げようとしなかった。
「……勝手にしろ」
もう知らん、という態度で俺は吐き捨てた。
今度はキリトが、アスナに眼を向けて叫んだ。
「俺とネザーが時間を稼ぐから、速く逃げろ!!」
「ふ、2人も、一緒に……」
「後から行く!速く……!!」
最終的離脱手段である転移結晶も、万能の道具ではない。クリスタルを握り、転移先を指定してから実際にテレポートが完了するまで、数秒間のタイムラグが発生する。その間にモンスターの攻撃を受けると転移がキャンセルされてしまうのだ。パーティーの統制が崩壊し、勝手な離脱をするものが現れるとテレポートの時間すら稼げず死者が出てしまうのはそういう理由による。
アスナは迷った。4人が先に転移してからでも、キリトと俺の脚力をもってすれば、ボスに追いつかれることなく安全エリアまで到達できるだろう。しかし、先ほどのボスの突進速度は恐るべきものだった。もし先に脱出して、その後、彼らが現れなかったら。それだけは耐えられない。
アスナはちらりと右の通路の奥を見やった。
ごめんね、ユイちゃん。ずっと一緒だって言ったのにね__。
心の中でそう呟きながら、大声で叫ぶ。
「ユリエールさん、ユイちゃんを頼みます!3人で脱出してください!」
凍り付いた表情でユリエールが首を振る。
「いけない……そんな……」
「速く!!」
その時だった。ゆらりと鎌を振り被った死神が、ローブの裾から瘴気を撒き散らしなふぁら恐ろしい勢いで突進を開始した。
キリトが両手の剣を十字に構え、アスナの前に仁王立ちになり、俺は片手剣の刃を死神に向けた。アスナは必死にキリトの背中に抱き着き、右手の細剣をキリトの二刀に合わせた。死神は、4本の剣を意に介さず、大鎌を3人の頭上に目掛けて叩き降ろしてきた。
赤い光。衝撃。
アスナは自分がグルグルと回転するのを感じた。まず地面に叩き付けられ、跳ね返って天井に激突し、再び床へと落下する。呼吸が止まり、視界が暗くなる。
朦朧もうろうとした意識のまま俺とキリト、そして自分のHPバーを確認すると、全員一撃で半分を割り込んでいた。無情なイエロー表示は、次の攻撃には耐え切れないことを意味する。
クソッ!!
上体を起こした俺は、最初に立てた計画通りに《カブト》なろうと考えたが、キリトとアスナがこの場にいては変身することはできない。いくら90層クラスのボスモンスターでもそのままで倒せると思ったが、考えていたほど楽勝ではなかった。
ここまでか。
自分の死を覚悟し、諦めかけたその時。
トコトコ、と小さな足音が耳元で聞こえた。ハッと視線を向けると、先に待ち受ける危険を知らずに進む子猫のようなあどけない歩みが眼に飛び込んだ。
細い手足。長い黒髪。背後の安全地帯にいたはずのユイだった。恐れなど微塵もない視線で、まっすぐ巨大な死神を見据えている。
「バカッ!!速く逃げろ!!」
ユイを眼に捉えた俺が、必死に上体を起こそうとしながら叫んだ。死神は再び重々しいモーションで鎌を振り被りつつある。あれほどの範囲攻撃に巻き込まれたら、ユイのHPは確実に消し飛んでしまう。キリトとアスナもどうにか口を動かそうとしたが、唇が強張って言葉が出ない。
しかし、次の瞬間、信じられないことが起こった。
「大丈夫だよ、パパ、ママ」
言葉と同時に、死神の大鎌が赤黒い光の帯を引いて容赦なく振り下ろされた。
「ユイちゃん!!」
アスナの絶叫をかき消すかのように、凶悪なまでに鋭い鎌の先が、ユイの体に当たる。
その寸前、鮮やかな紫色の障壁に阻まれ、大音響と共に弾き返された。ユイの頭上に浮かんだシステムタグを、俺は愕然と凝視した。
「あ……あれは……」
【Immortal Object】、そこには確かにそう記されていた。不死存在__プレイヤーが持つはずのない属性。
黒い死神が、まるで戸惑うように眼球をグリグリと動かした。直後、3人を更に驚愕させる現象が発生した。
ユイの体がフワリと宙に浮き始めた。ジャンプしたのではない。見えない羽根を羽ばたかせたように移動し、2メートルほどの高さでピタリと静止した。あまりにも小さな右手を、そっと宙に掲げる。
更に。
ごうっ!!という響きと共に、ユイの右手を中心に紅蓮の炎が巻き起こったのだ。炎は一瞬広く拡散した後すぐに凝縮し、細長い形に纏まり始めた。みるみるうちにそれは巨大な剣へと姿を変えていく。炎色に輝く刀身が炎の中から現れ、どこまでも伸び続ける。
ユイの右手に出現した巨剣は、優に彼女の身長を上回る長さを備えていた。溶融する寸前の金属のような輝きが通路を照らし出す。剣の炎に煽られるように、ユイの身に着けていた分厚い冬服が一瞬にして燃え落ちた。その下からは彼女が最初に着ていた白いワンピースが現れる。不思議なことに、ワンピースも、長い黒髪も炎に巻かれながらも影響を受ける様子は一切ない。
自分の身の丈を越える剣を、ブン、と一回転させ、わずかな躊躇いも見せずに炎の軌道を描きながらユイは黒い死神へと撃ちかかった。
あくまでシステムが単純なアルゴリズムに基づいて動かしているに過ぎないボスモンスター、その血走った眼球に、アスナは明らかな恐怖の色を見たような気がした。
炎の渦を身に纏ったユイが、轟音と共に空中を突進していく。死神は、自分より遥かに小さな少女を恐れるかのように大鎌を前方に掲げ、防御の姿勢を取った。そこに向かって、ユイは真っ向から巨大な火炎剣を思い切り振り下ろした
激しく炎を噴く刀身が、横に掲げられた大鎌の柄と衝突した。途方もない熱量で金属を焼き切るがごとく、ジワジワと鎌の柄に発光する刃が食い込んでいく。ユイの長い髪とワンピース、そして死神のローブが千切れんばかりの勢いで後方にたなびき、時折飛び散る巨大な火花がダンジョン内を明るいオレンジ色に染め上げる。
やがて。
ごう!という爆発と共に、とうとう死神の鎌は真っ二つに立ち割られた。直後、今まで蓄積していたエネルギー全てを解き放ちながら、炎の柱と化した巨剣がボスの顔の中央へと叩き付けられた。
「っ……!?」
俺達3人は、その瞬間出現した大火球のあまりの勢いに、思わず眼を細めて腕で顔を庇った。ユイが剣を一直線に振り下ろすと同時に火球が炸裂し、紅蓮の渦は巨大な死神の体を巻き込みながら通路の奥へと流れ込んでいった。轟音の裏に、かすかな断末魔の悲鳴が響いた。
火炎のあまりの眩さに一瞬閉じてしまった眼を開けると、そこにはもうボスの姿はなかった。通路のそこかしこに小さな残り火が揺らめき、パチパチと音を立てている。その真只中に、ユイが1人だけが俯いて立ち尽くしていた。床に突き立った火炎剣が、出現した時と同じように炎を発しながら溶け崩れ、消滅した。
キリトとアスナは、ようやく力の戻った体を起こし、剣を支えにゆっくりと立ち上がった。2人はすでに体を起こしていた俺と共に、ヨロヨロと少女に向かって歩み寄った。
「ユイ……ちゃん……」
アスナが掠れた声で呼び掛けると、ユイは音もなく振り向いた。小さな唇は微笑んでいたが、大きな漆黒の瞳にはいっぱいに涙が溜まっていた。
ユイは、3人を見上げたまま、静かに言った。
「パパ……ママ……ネザーお兄ちゃん……。全部、思い出したよ……」
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