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ファイアーエムブレム聖戦の系譜 〜幾多の星達〜

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43部分:魔剣その四


魔剣その四

「・・・・・・親父はシグルド公子に殺され身体の弱かったお袋はコノートに戻ってすぐにシグルドを恨みながら死んだという。トラキアがレンスターに侵攻して来た時コノート王家はレイドリックにより一人残らず殺された。王の妹の息子だった俺もレイドリックの一派に命を狙われたがコノートの家臣達に助けられてどうにか生き延びた。しかしその家臣達もその時の傷がもとで死んでしまった。それからジャバローに拾われて今の俺がある。ずっと一人だった。物心着いてから俺はずっと考えていた。何故俺は一人なんだと。次第に解かってきた。親父が殺されたせいだと。憎かった。親父を殺したシグルド公子が。そしてその息子のセリスが。奴等への憎しみで、奴を殺す事だけを望みに俺は生きてきた。忘れられるものか」
「けれど貴女のお父さんとシグルド公子は親友同士だったらしいじゃない。それなのにどうして?」
 「そんな事は関係無い。奴はその親友を殺した、それだけだ」
「止めてよ、そんな考え方。あたしだって孤児なのよ。けど・・・誰かを恨んだ事なんて一度も無い」
「リーン・・・・・・」
「踊り子だった母さんがまだ赤ん坊のあたしを修道院預けたってシスターに言われたわ。踊り子になれば何時か母さんに会えるかも知れないと思ってあたしも踊り子になったわ。けど母さんを憎いなんて一度も思った事は無いわ」
「そうか、強いんだな・・・」
「人を恨んだって何も生まれないわ。それどころかあたしは母さんにとても感謝しているのよ」
「感謝?」
「ええ。踊り子になったからアレスに出会えて今ここに一緒にいられるもの」
「リーン・・・・・・」
 リーンはアレスに抱きつき胸元に顔を寄せた。そして耳元で小さな声で言った。
「明日は出ないで。傭兵なんか辞めてずっとあたしと一緒に暮らそう・・・・・・」
 アレスも両腕でリーンの頭を抱き締める。
「リーン・・・・・・・・・」
 夜が更けた。陽が姿を現わすと共にダーナの傭兵達は出撃した。その中にはアレスもいた。
「アレス・・・・・・」
 リーンは城門の上から出撃するアレスを見送った。アレスは城門の方を振り向くと無言のまま馬を進めた。
 傭兵達は見えなくなった。リーン達も城門を降りようと階段へ向かった時だった。
 数人の衛兵達が現われリーンを取り囲むと両腕を掴んで連れて行った。
「何するのよ!」
 必死に暴れるが衛兵達の力は強くそのまま連行される。行く先は・・・・・・。あの男の館だった。
 リーンがブラムセルの館に連れて行かれるのをレイリアとラーラが見た。門からは入れない。レイリアの頭に稲妻が煌いた。動いた。
「ラーラ、貴女確か前は盗賊だったわね」
「はい」
「頼むわね」
 リーンはブラムセルの部屋に連れて行かれた。そこにはやはり奴がいた。
「フォフォフォフォ、待っておったぞ、リーンよ」
 宴の時とは比べるまでもない位好色な笑みを浮かべリーンににじり寄って来る。
「さあ大人しくしておれ。悪いようにはせぬ」
 よく童話や古典的な劇で見るありたきりの悪党の言葉である。当然リーンはそんな言葉を信じない。捕まえようとしたブラムセルの腹を思い切り蹴飛ばした。
「ぐぉっ!」
 しかし男は怯まない。尚も女に覆い被さろうとする。頬をひっぱたかれ顎にアッパーカットをお見舞いされた。特にアッパーカットは効いたらしい。骨が派手に折れる音がした。しかし怯まない。尚も来る。引掻かれる。紅のマニキュアが塗られた長い爪が絹の衣を切り裂く。衣がズタズタにされる。余りの痛みに怯んだら蹴りが急所に入る。ブラムセルの傷は何時しか生きているのが不思議な程にまでなっていた。しかし諦めない。血塗れの死後五十年は経たかの様な姿になってもまだリーンににじり寄って来る。真に恐るべきはその色欲である。
 身体が傷で赤く青く白くなり服もボロ雑巾の様になろうともブラムセルは立ち上がりリーンに襲い掛かろうとする。その時だった。
「いい加減にしな、このヒヒ爺!」
 部屋に乱入して来たレイリアの右ソバットがブラムセルの鼻っ柱を直撃した。ブラムセルは思い切り吹っ飛び派手な音を立てて壁に背を打ちつけ目を回しそのまま動かなくなった。
「リーン!」
 レイリアがすっかり怯えきっているリーンへ駆け寄り抱き締めた。
 
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