ことりちゃん、付き合ってください(血涙)
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No.1:開始早々フラれております。
殆ど眠れなかっただけに最悪の目覚めだった。というのも、オレの懇願に神様が応えてくれるのを純粋な気持ちでひたすら待っていたからで――――まあ、何も起こらずじまいだったが。つまりは自分でやれ、といったところか。そもそも神様が存在するのか自体が定かじゃないけれども。
かくして、布団から身を起こしたオレは次なる行動に。目の下にできたくまになんて構っていられるものか、朝食も後でいい。まずは日光と外の世界を遮りしカーテンと窓をどけてベランダへ出る。
さすれば視界には見渡す限りの建物や住宅、だけどそんなものはどうだっていい。狙うは眼前に聳える一軒家の窓、そしてその中にいることりちゃんへ。
届くかどうかはわからない。ただ、大事なのはハートなのだ。やるっきゃない。
いくぞっ! 朝一番の――――
告白ッッ!
「おはようこっとりちゃあああああんんん! あーいらぶゆぅぅぅぅっっっ!!」
途端、電線上でたむろしていた小鳥共が一斉に飛び去った。不吉だから止めてください。オレのことが嫌いなのですか?
さて、何故オレが突然愛の告白をしたかというと――実はオレとことりちゃんは住居が隣合わせだからである。したがって向こうへ話しかけることができるのだ!窓が閉まっていても、このように叫べば室内に声が行き渡る。
暫くしてガラララ、南家2階の窓が開いた。やったぞ、反応してくれた。姿を露にしたのはことりちゃんとそのお母様、訂正……将来のお義母様。
お義母様が現れたのは謎だが、いよいよ審判の時だ! ことりちゃん、オレの胸に飛び込んでおいでよ。
さあ、満を持してことりちゃんが最高の答えを――
「おはようゆーくん! それと、付き合えませんっ!」
「うぐぉっ……駄目かぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
はい……最高に絶望的な答え、いただきました。
続いてお義母さんは、
「雄輝くん。近所迷惑になるから、できれば朝に大声でことりに告白するのは控えてくれないかしら?」
「あっ……すみませんでしたお義母様ぁぁぁぁぁ!」
結果。告白は安定の失敗、お義母様に注意も受けた……。
♡♡♡
が、しかしだ。オレはこんなことでは諦めない。これまで幾度となくことりちゃんにフラれまくったことで、失恋においてだけは不屈の精神を兼ね備えているからな。
では、早速リベンジ……はまだしない。そいつはちょいとナンセンス。オレの真なる目的は心を鍛えることではなく、ことりちゃんと付き合うこと。ならばフラれる度に反省会を開いて悪かったポイントを克服せずして、どうして最終的にことりちゃんと付き合うところまでこぎつけるのか。
そういうわけで、オレは今まさに自室にて会議を開こうとしている。ことりちゃんには内緒……要するに極秘である。勿論ことりちゃんには告白に行くつもりだが、それは一旦後。
なお、仲間はオレ本人とオレの前に座る2人の少女だ。1人は比較的リラックスした体勢でくつろぎ、1人は律儀にもきっちりとした姿勢で正座している。共通するは、2人とも呆れ顔だということ。
おおかた準備が整ったようなので、オレは彼女ら一瞥しながら高らかに宣言した。
「えー、これより第36回“ことりちゃん会議“を始める。本題はやはりこれ、『どうしてことりちゃんはオレにちっとも興味を持ってくれないか』だッッ!」
「あの、帰ってもいいですか?」
早速会議そのものに物申す奴が1名。礼儀正しい方――清楚っぽい風格と腰まで届くロングヘアーが特徴的な美少女、園田海未だった。ちなみにオレは彼女とも一応幼馴染同士である。
「Why!?」
「だって、結論はいつも同じでしょう?」
ハイテンションな外国人ばりの勢いでオレは説明を求めるが、海未はごく冷静に受け流す。
「同じって……何さ」
悔しくなって問うと、ここまでくろぎつつも黙っていた方――もう1人の少女が申し訳なさげに口を開いた。
「あはは……すっごく言いにくいけど、しつこすぎるからじゃないかな?」
すっきり綺麗な橙の髪をサイドテールにした、バリバリ元気そうなオーラを放つ美少女――高坂穂乃果だ。彼女もまた、同じくオレと幼馴染同士の間柄。
――というか、なんだって? しつこい……だと?
耳を疑った。オレはもう一度確認を取る。
「え、しつこい……だって?」
「うん、たぶんね」
穂乃果は重々しく肯定した。
――なんてことだ。
驚きと悲しみで目が回った。知らなかった、気付いていなかった――オレのアプローチがまさか、ことりちゃんに対してしつこいものだったなんて。
海未もうんうんと首肯し、
「えぇ、雄輝はしつこすぎです。私がことりの立場だったら間違いなく通報しています」
「嘘だろ……ぐっ」
オレはがっくり項垂れた。もうダメかもしれない。
「で、でも! ……えっと諦めることはないっていうか――うん、ファイトだよっ!」
「あっ、はい……ありがとね」
世界が破滅するのを知った人のような顔をしているであろうオレを見かねたのか、唐突に穂乃果が励ましてきた。だが、その優しさがかえって辛いぜ。
「では私は帰ります。付き合いきれません……そしてもう、このおかしな会議には呼ばないでくださいね? 今後は穂乃果と勝手にやってください」
と、海未が話は終わったと言わんばかりに荷物を纏め始めた。どうやら帰宅するつもりらしい。まあ反省点はハッキリしたし、確かに彼女がここに留まる理由はないかもしれない。
――だがな、そうはいくか!
「待てよ、海未」
オレは去ろうとする海未の肩を掴んで引き止めた。だってここで彼女が帰してしまったら、なんかどうしようもなく惨めな気分になりそうだから。
「放してください」
微かに振り向く海未。そこから見切れる表情は中々に冷たい。まずい、こうなった海未はとても説得が困難だ。
――仕方ない。恥ずかしいがアレをやるしかない!
オレはプライドを彼方へ捨て去って、最後の手段に出た。
「そこをなんとか頼むよ。うみみぃ……お願いっ!」
そう、ことりちゃんが海未に頼み込む際に用いる伝家の宝刀――ことりちゃん流『お願い!』である。これを潤んだ瞳かつちょっぴり艶かしい雰囲気でやれば海未は屈服するはず!
さあ、彼女の反応は――
「……二度とやらないでください。あと『うみみ』って何ですか! 私は海未ですよ」
「なん……だと……?」
嫌悪感丸出しの引きつった顔で一蹴である。ひどい。
「ことりちゃん伝家の宝刀『お願い!』が通じないなんて! ……うみみはなんとなくだ」
「あれはことりがやるから効果があるんです! あなたは馬鹿なんですか!?」
おまけになんだか変なスイッチを押してしまったらしい、海未が全く別の方向性において怒り出した。
――って!
オレはひとつだけ聞き捨てならない言葉を投げかけられたことに気付く。海未のやつ、とんでもないことを抜かしやがった。
それは至極シンプルなワードだったが、だからこそ放っちゃおけない。オレは湧き上がってきた感情で、ゆらりとふらついた。
「馬鹿とはなんだ……」
「そのままの意味ですよ!」
――プッツーン!
意識の裏で薄々悟る。これはアウトだ。時すでに遅しだ。イラッときてしまった。
「へぇ……言ってくれるじゃねぇの。厳しいね」
「な、なんですか。急に大人しくなって……」
「そんなんだから……」
「はい?」
「そんなんだから彼氏が出来ないんだぜバッキャロー!」
「なっ!!?」
嗚呼、口喧嘩の勃発である。
しかしながらこういうのはよくある。オレと海未は変なところで折り合いが悪く、そのために昔から些細なことで喧嘩しやすい。大抵の原因はオレから発生するが。
「あらら、まーた始まっちゃった……二人とも喧嘩はダメだよ!」
ことりちゃんが現場にいないのもあってか、突っ走り屋な性格をした穂乃果が珍しくも仲介に入るが、こちらは生憎止まれない。
「あとな、バカにするなっ! 馬鹿なのは元々なんだよぉ!」
「そこを認めてどうするんですか!」
「うぬっ……や。やかましいぜ! だが海未よ、その馬鹿に突っかかるということは……お前もオレと同レベル! つまり馬鹿ってこったなぁ!!」
「なっ……う、うるさいです! ばーか、ばーかっ」
口論をぶつけるうち、海未はやけくそになっていつもの丁寧口調を崩しかけていた。かなりレアだ。しかしながらそれどころじゃない!
「バーカ……ちっ、なんだよ。ちょっと新鮮で可愛いじゃねぇーかこんちくしょー! 」
「ふぇっ!? こ、こんな時によくもぬけぬけと……」
――やっぱりよくないかな、ちゃんと謝ろう。少し度が過ぎた。
「その、すまん。なんかゴメンな……いや、ごめんなさい」
「い、いえ。わかったならいいんです」
「「……っ」」
バツが悪くなって、オレと海未は互いに俯く。よっぽど怒っていたせいなのかは知らないが、海未の顔はほんのり赤く染まっていた。
「あれ、仲直りしちゃったよ……というか雄輝くん、絶対海未ちゃんとの方がうまくいきそうな気がするんだけどなぁ……」
穂乃果がボソリと何か呟いていたものの、強く海未の方に意識を向けていたのでその内容は聞き逃してしまった――。
どうも気まずくなったので、オレたちはその後解散した。1時間後、『しつこすぎる』という反省点を承知しつつ、それでも敢えて低い可能性を信じてオレはことりちゃんのところへ告白しに行ったのだった。
せめてもの改良ということで、おしとやかに告白してみたのだが――――
「こんにちは、南ことりさん。よければなんだけど、オレと今日から付き合って欲しいな、と……」
「うーん、ごめんなさい」
――結果は、訊かないでくれたまえ。
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