魔道戦記リリカルなのはANSUR~Last codE~
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Eipic25-C航空空母アンドレアルフス攻略戦~Scylla 2~
ミッドチルダ東部にある広大な森林地区。その奥にはプライソンの本拠地の研究所がある。なんてことはない洞窟を入り口として、その奥には人工的に造られた空間が広がっている。施設は蟻の巣の如く地下へと伸びており、彼の製作した兵器の生産施設、格納庫、居住区などなどが幾つもある。
「進め、進め、進め!」
今現在、プライソンのアジトは二度目の襲撃を受けていた。先頭を往くのは巨大な黒馬を駆る少女。雪のように白い長髪を風に靡かせ、アップグリーンの瞳は真っ直ぐ前に向けられている。その名はクラリス・ド・グレーテル・ヴィルシュテッター。聖王教会教会騎士団が一、翠梔子騎士隊グリューン・ガルデーニエの隊長を務めている騎兵騎士。
纏う騎士甲冑のデザインは、上は詰襟のネックカバー、厚手のノースリーブブラウス、カフスの付いたアームカバー、そしてグローブ。腰には2本のカートリッジベルトがあって、合計40発くらいある。下はスリットが深いミニタイトスカート、タイツ、そしてロングブーツ。
「ガラクタ如きが、クラリスが使い魔アレクサンドロスの疾駆を止められると思わないでね!」
クラリスが振り回しているのは方天戟型アームドデバイス・“シュトルムシュタール”。刺突用の槍の左右には三日月の形をした刃――月牙が2つ。石突には鬼の金棒のような、六角柱に鋲がズラリと並んだ棍棒がある。
行く手を阻んで来るガジェットⅠ型とⅢ型を“シュトルムシュタール”で薙ぎ払っては、黒馬アレクサンドロスの突進と蹄の踏みつけで粉砕して行き、彼女の後を追う部下49人は全周囲を警戒しつつ、ガジェットにトドメを刺して行く。
「やー、やっぱりすごいな~。僕の出番なんてあまり無いかも・・・」
通路の床に散らばるガジェットの残骸を蹴って退かしながら、クラリス筆頭50人の騎士隊の後を歩くのは青年。緑色の長髪を流し、真っ白なスーツを着こなしている。彼は本局の内務調査部査察課所属の査察官、ヴェロッサ・アコース。機動六課の後見人の1人であるカリム・グラシアの義弟だ。
「ま、戦力としてはクラリス隊が、アジトのシステム乗っ取りはジェイル少将の娘さん達が・・・。でも捜査は僕がしっかりやらないとね」
――無限の猟犬――
足元にベルカ魔法陣を展開したヴェロッサの周囲に、彼の魔力で生み出された半透明の猟犬が10頭と出現した。ヴェロッサのスキルである無限の猟犬は、創り出された際に込められた魔力が尽きるまで自立行動を取ることが出来、その活動に彼の魔力に依存しないゆえに運用距離に制限はなく、陸海空も関係なく移動できる。猟犬に相応しくその戦闘力も高く、さらには目視や魔力探査にも引っ掛かりにくいステルス性を有し、その目や耳で得た情報を彼に送信、もしくは記録することも可能。
「よし。アジトに残るお嬢さんを迎えに行こうか」
ヴェロッサは猟犬と共に爆発音が繰り返し轟く通路の先へと向かう。途中途中で通路は枝分かれし、「さぁお前たち、行っておいで」5人1班に分かれて通路の先へ向かう騎士たちに、猟犬2頭を付かせる。そして最後はクラリスを班長とする第1班のみとなり、ヴェロッサはクラリスを除く9人に続く。
――サウザンドブレス――
突如として爆発音が突然途切れたかと思えばその直後、通路の先より強烈な突風が通路内を吹き抜けて来た。ヴェロッサや騎士たちは「うわああああ!」その場に踏ん張りきれずに吹き飛ばされ、床をゴロゴロと転がった。
「今のは・・・!?」
急いで立ち上がったヴェロッサから手を差し伸ばされた騎士は「ありがとうございます」とその手を取って立ち上がる。彼らよりさらに後方まで転がった騎士たちも立ち上がり、「交戦音!」が通路の奥から聞こえて来ることに気付いたことでそれぞれアームドデバイスを掲げて、破壊音が轟く通路の先へと駆けて行く。ヴェロッサもまた彼らに続き、そして広い空間へと到着した。そこでは2人の少女が交戦していた。片やクラリス。
「ここから先は通行止めです!」
片や艶やかなストレートの黒髪の少女。銀色の瞳。白のブラウス、赤いリボン、裾付近に白のラインが1本入った黒のプリーツスカート。“スキュラ”シリーズと呼ばれる特別製のサイボーグ姉妹の共通衣服に、個人で別々なオプションであるクリーム色のカーディガンという格好で、両手に扇を持っている。
「あの服装は、第零技術部から頂いた資料にあったスキュラとか言うサイボーグ姉妹の・・・!」
扇をひとたび振れば、恐ろしいほどの突風が吹き荒れる。彼女はゼータ。しかしオリジナルはすでにフォルセティによって殺害されてしまっているため、人格が反映されたAI搭載のスペアボディだ。
「この程度の風でアレクサンドロスの疾駆は止まらない!」
クラリスの駆るアレクサンドロスはしっかりと床を踏みしめ、暴風に負けずにゼータへと突進していく。ゼータは横っ飛びすることで突進を躱し、即座に「エアスライサー!」扇を振るった。放たれるのはカマイタチ。それがアレクサンドロスの横っ腹に直撃するが、僅かな出血というダメージだけで終わった。
「そんな・・・!」
ショックを隠せずその場に佇むゼータへと向かって「おおおおお!」騎士たちが一斉に剣や槍、斧や鎌と言ったデバイスによる直接攻撃を仕掛ける。しかし「鬱陶しいです!」扇と両腕を大きく広げその場で旋回。自身の周囲に竜巻を発せさせ、「わあああああ!」騎士たちを吹き飛ばし、壁や天井に床と叩き付けていく。
「私の大切な部下をよくも・・・!」
「侵入者風情が何を!」
ゼータの下段から降り上げられる小型の竜巻を纏う扇と、クラリスの上段から振り降ろされる“シュトルムシュタール”が激突し、「うぎゅぅ・・・!」ゼータはすぐに左膝を床に付いたが、足元にテンプレートを展開。
「吹き飛ばして差し上げます!」
――オーバー・エフ――
竜巻の勢いをF2(家の壁や屋根が吹き飛ぶレベル)からF4(家でも吹き飛ぶレベル)へと強めると、「くぁぁ・・・!」クラリスとアレクサンドロスもとうとう吹き飛ばされ、クラリスは「おっと!」ヴェロッサがキャッチしたが、何百kgという体重のアレクサンドロスは壁に叩きつけられた後、ドスン!と床に激突した。
「ありがとう、ヴェロッサさん」
「僕も手伝うよ、クラリス。行くぞ、お前たち」
クラリスを降ろしたヴェロッサの周囲に新たな猟犬が創り出された。クラリスは「感謝です」彼に頭を下げた後、「お疲れ様、アレク」そう言ってアレクサンドロスの召喚を解いた。
「私たちスキュラは、人間に対しての殺害許可が下りております。ここからは本当に手加減しませんよ」
ゼータは開いた扇を持つ手をクロスさせて構えを取り、物騒なセリフを吐き出した。クラリスは部下を全員下がらせ、自分1人でゼータと正対する。そんな彼女の周囲を警備するように猟犬9頭が配置された。
「我が栄えあるグリューン・ガルデーニエの騎士たちよ! 先行して、第零技術部からの情報にあったガンマを制圧せよ!」
“シュトルムシュタール”をブンブン振り回しながらクラリスがそう伝えると、「ヤヴォール!」部下たちは一斉に広間の先へ向かおうとした。もちろん防衛を任されているゼータはそれを許さず、あろうことか通路と広間の繋ぎ目に向かってカマイタチを放った。天井を崩して通路を塞ぐつもりだろう。
「させるかぁぁーーーっ!」
――トライシールド――
3人の騎士がシールドを展開したうえで跳び上がり、カマイタチが繋ぎ目に直撃するのを防いだ。だが「ぐあ!」彼らの騎士甲冑がところどころ切り裂けれ、そこからブシュッと血が噴き出した。
「手加減は無用と申しましたから」
感情の見えない声色でそう言い捨てたゼータへとクラリスは突進しつつ、改めて「先行!」と伝える。傷を負った騎士3人は自ら立ち上がり、まだ戦えます、という視線をクラリスに向けていたため、彼女はその3人を信じ、そんな指示を出したのだ。
「私は良い部下を持った」
そして彼女は“シュトルムシュタール”をブンブンと振り回してゼータに連撃を繰り出す。少しでも部下が安全にこの広間を突破できるように。続々と奥の通路へと入って行く騎士たちと、その護衛を任された猟犬5頭の姿にゼータが「止まりなさい!」と叫ぶもすでに手遅れ。クラリスの猛攻を回避するので精いっぱいで、追撃を行えなかった。
「ヴェロッサさん。参ります」
ゼータの部下への追撃を食い止め切ったクラリスは、部屋の隅っこに佇むヴェロッサにそう漏らした。その視線は怒りで顔を真っ赤にしているゼータから一切離れない。
「いつでもどうぞ!」
“シュトルムシュタール”を持つ右腕を背後に伸ばし、左腕を前方へ突き出した状態でクラリスは一足飛びでゼータへと突進し、猟犬も彼女共に駆け出す。
「犬畜生は下がりなさい!」
――エアスライサー――
先制はゼータの振る扇から放たれるカマイタチ攻撃。猟犬は身軽さを活かして即座に回避。クラリスは前面にシールドを張って防御しつつ最接近し、シールド脇から“シュトルムシュタール”の槍をゼータへと繰り出した。
「荒いです!」
刺突攻撃をジャンプして躱したゼータは “シュトルムシュタール”の柄に上に降り立った。彼女とクラリスの視線がぶつかり合う。柄の上を走ろうとしたゼータだったが、金棒と槍を繋ぐ柄の半ば辺りがガクンと折れ曲がり、「っ!?」一瞬だがゼータは隙だらけになった。その隙を猟犬たちは突き、一斉に跳びかかった。
「猪口才な!」
体勢を崩しながらも床に着地しつつ、ゼータは畳んだ扇を振るって猟犬を殴打。クラリスは殴り飛ばされる猟犬に、ゼータの隙を生んでくれたことへの感謝の念を抱きながら「ふんっ!」振り上げた金棒を振り降ろした。
「風は私の味か――ぐっ!?」
クラリスは後退することでその超重な一撃を回避したが、彼女の視線は真っ直ぐ金棒を振り降ろしたばかりのクラリスに向いていた。だから気付かなかった。足元に転がっていた槍が、クラリスの足蹴によって勢いよく跳ね上げられたことに。さらに言えばクラリスの頭部を左右から扇で挟撃するべく、両腕を大きく広げて懐を隙だらけにしていたのもまずかった。
「風はお前の味方。けど私にも心強い味方が居る」
フラっと体勢を崩したゼータを見て脳震盪を起こさせてやったと確信したクラリス。即座に金棒を振り上げて追撃に入ろうとしたが、ゼータは金棒を左足で踏みつけてそれを阻止。
「サウザンドブレス!」
そしてクラリスの直近で扇を仰ぎ、「っ・・・!」彼女を吹き飛ばした。咄嗟に猟犬3頭が自分の体をクッションにすることで、クラリスが壁に叩き付けられることはなかった。
「驚いたな。あの衝撃を顎に受けて脳震盪を起こさないなんて」
「当然です。この身に生体部品は1つとして組み込まれておりませんゆえ。脳震盪の原因たる脳を私は持っていません。オリジナルのスキルがコピーされ、人格が反映されたAIを積んだスペアボディ。それが私です。オリジナルに比べてスキルは弱く、戦闘能力も低いですが、あなた方程度であれば今のままで十分です」
ヴェロッサの驚きの声にゼータが胸を張ってそう答えた瞬間、ヴェロッサはクラリスの雰囲気がガラリと変わったことを察して、猟犬と共に慌てて来た道へと戻って行った。その様子に怪訝な表情を浮かべるゼータ。クラリスは床に転がっている槍側の“シュトルムシュタール”を拾い上げ、金棒部分の柄と連結させた。
「つまりお前はアレなんだ、人型のデバイスと同じなんだ」
「デバイス扱いされるのは少々遺憾ですけど。その認識で間違いはないですね」
クラリスの問いに答えたゼータは、「なに・・・?」無意識のうちに後退していた。クラリスは「じゃあ手加減なんて要らないんだ」そう言って、“シュトルムシュタール”の柄を両手で握って水平に構えた。
「カートリッジロード」
槍や金棒の付け根部分がスライドして給弾口が姿を顕わし、そしてガシャンと音を立てて元に戻った。その動作でカートリッジが効果を発揮し、魔力が爆ぜた。吹き荒れる魔力に「な・・・!」ゼータは驚愕に目を見開いた。
「聖王教会教会騎士団、グリューン・ガルデーニエ隊長、クラリス・ド・グレーテル・ヴィルシュテッター。参ります」
これまで以上の速度で広間内を駆け回るクラリス。ゼータは両手に持つ扇を振るって「エアスライサー!」を立て続けに放ち続ける。クラリスは “シュトルムシュタール”をバトンのように高速回転させてカマイタチを弾きつつ、少しずつ広間の中央へと駆け、金棒に環状魔法陣を3つと展開し、そして天井ギリギリまで跳び上がると・・・
「この一撃を耐えることが出来れば、私の全力を見せてあげる」
――シュテルントレーネ――
そう言って床へ向けて金棒を下にした“シュトルムシュタール”を投擲。一筋の閃光となって落下する“シュトルムシュタール”やクラリスへと向けてゼータは「サウザンドブレス!」全てを薙ぎ払えるレベルの爆風を起こしたが、一切の勢いを殺せることなく床への着弾を許した。
「この魔力量は・・・!」
瞬間、金棒に展開されていた環状魔法陣が広間いっぱいに広がると、“シュトルムシュタール”から強烈な魔力が半球状に放たれた。魔力は環状魔法陣によって砲撃と化し、天井を撃ち貫いて、さらには天を衝いた。
「いやはや。瓦礫どころか塵1つとして残らない一撃。実に見事だよ」
避難していたヴェロッサが猟犬と共に広間に戻って来た。天井を仰ぎ見ればそこには青空が広がっている。
「この一撃程度なら耐えられると思ったんだけど」
騎士甲冑の所々が破れて素肌を晒しているクラリスがそう漏らした。彼女は一旦変身を解除して騎士団服に戻り、すぐに騎士甲冑へと再変身。新品同様に綺麗になっている。
「じゃあヴェロッサさん。先へ行こう」
「ああ」
そうしてクラリスとヴェロッサは、アジトに残る唯一の生命反応・ガンマの居場所を目指して駆けだした。遅れて空からガシャァン!と何かが落ちて来た。体が大きくひしゃげたゼータで、もう何も言わぬガラクタとなっていた。
・―・―・―・―・
徐々に大気圏外へと高度を上げて往く“聖王のゆりかご”と、その後方を護る航空空母・“アンドレアルフス”。共に全長が数kmという巨大さを誇り、ミッドチルダの市街地上空にその偉容を見せつけている。その2隻の周囲にはガジェットのⅠ・Ⅱ・Ⅲ型が何百機と空を翔け、航空武装隊と交戦していた。そんな中、2隻よりはるか上空にてある戦力がぶつかり合っていた。
「私のロックオンでも追いきれないなんて・・・!」
1つは飛竜ワイバーンの鞍に跨る女性。茶色い長髪をポニーテールにし、澄み切った青い瞳を撃ち墜とすべき敵へ向けている。ショートワンピース、ショートジャケット、オーバースカート、スパッツという騎士甲冑姿。右手には刃渡りが60cmとある双剣の柄頭を連結したかのような大弓型デバイス・“イゾルデ”が握られている。名をトリシュタン・フォン・シュテルンベルク。金水仙騎士隊ゴルト・アマリュリスの隊長を務める弓騎士。
『ただ1人にこれ程まで時間を割かれるなんて、イプシロンは驚きと共に怒りを覚えます』
1つは戦闘機。全体カラーは青で、デフォルメされた猫とネズミのイラストが機体に描かれている。なだらかな機体形状に後進翼、V字状に開いた昇降舵を兼ねた尾翼、エンジンは2基を備えている。コクピットはキャノピーではなく装甲に覆われていることで搭乗者の姿は見えないが、イプシロンだと名乗っている。機体名はナベリウス。無人戦闘機隊を遠隔操作するための統合管制機だ。
「大人しく戦闘行為を中断し、投降しなさい!」
トリシュタンは左手の五指にサファイアブルーに輝く魔力矢4本を挟み込み、“イゾルデ”の弦に番えた矢を・・・
――滅び運ぶは群れ成す狩り鳥――
同時に射る。4本の矢が向かうのは6機の戦闘機。先端が鋭利に尖っているミサイルのような形状にカナード翼と後進翼、主翼の真後ろに垂直尾翼2枚を付けた機体で、下部には砲塔1門が備え付けられている。機体にはナベリウスと同じデフォルメされた猫とネズミのイラストが描かれている。機体名はパズズ。ナベリウスの護衛機だ。
「爆ぜて!」
トリシュタンがそう命じると4本の矢が炸裂し、1本につき100本の閃光となってナベリウスとパズズへ向かって行く。7機に対して400本の光線という圧倒的な物量攻撃だったが、全機とも軽やかなマニューバで掠ることなく回避しきった。そしてトリシュタンの駆るワイバーンへ向け、パズズは機体下部の砲塔からエネルギー砲撃を発射。6方向からの砲撃だったが、ワイバーンもまた軽やかに全弾を回避しきった。
『隊の頭脳たるイプシロンとナベリウスは、各パズズと正に一心同体。この程度の空間攻撃、避けるなど容易いと、挑発して見せます』
イプシロンからの通信越しの煽りに「そうですか」とトリシュタンは冷静さを失うことなく、高機動戦闘機隊をどうすれば撃墜できるかを思案する。問題はイプシロンの乗る有人機。撃墜すれば、いくら犯罪者とは言え搭乗者の命に関わるかもしれないからだ。
(隊の頭脳。となれば十中八九、イプシロンの乗る機体が他の機体を操ってると考えてもいいはず・・・。操縦席の装甲を力尽くで引っぺがして、イプシロンを引っ張り出しましょうか。そうすれば他の機体も停止するでしょうし)
そう考えたトリシュタンは「一緒に攻撃してくれますか?」とワイバーンの首筋を一撫で。ここまでは彼女1人で数多くの戦闘機やガジェットを撃滅し続けていたため、ワイバーンは空を移動するためのパートナーとしていたが、ここでようやく戦力として頼った。
「グルル!」
「ごめんなさい。なんて言っているのかは判りませんが、お願いします!」
「グァァー!」
ワイバーンが嘶いて大きく口を開けると、集束砲の如く魔力が集束され始め、それを確認したトリシュタンも先程と同じように指に挟んだ4本の矢を“イゾルデ”の弦に番え・・・
――滅び運ぶは群れ成す狩り鳥――
射った。今度はすぐに炸裂して、ナベリウスとパズズ6機を包囲するように球体状に飛び回る。そこに間髪入れずワイバーンから放たれる集束砲――ドラゴンブレス。閃光包囲は見た目では隙間が一切無いように見えるが、攻撃判定があるのは先端の1m程。残りはただの光の尾であるため、そこを上手く突けば光線包囲より逃れられる。実際にナベリウスとパズズは逃れはじめていた。ただ、包囲の中心に到達して球体状に爆ぜたドラゴンブレスの一撃に、脱出に遅れた1機のパズズの左主翼が呑まれた。
「それでも墜ちないんですね・・・!」
器用にバランスを取って飛行を続けるそのパズズは、そのままトリシュタンとワイバーンへと特攻して来た。ワイバーンの回避行動を封じ込めるかのように他5機のパズズより砲撃が発射される。ワイバーンが回避行動に移り、鞍に跨るトリシュタンは指の間に2本ずつの計8本の矢を作り出して・・・
「往けッ!」
――翔け抜けし勇猛なる光条――
まずは親指と人差し指に挟んでいた魔力矢2本を射る。矢は砲撃と化して、前方より迫り来るエネルギー砲2発を真っ向から迎撃。トリシュタンはワイバーンの回避行動合わせて上半身を捻り、残りの4本の矢で砲撃を迎撃し、2本は特攻して来るパズズを撃ち貫いて撃墜した。
「さすが飛竜! とても良い機動でした!」
「グルル!」
さらに放ち続けられる追撃のエネルギー砲を、ワイバーンは回避してはドラゴンブレスを吐き、トリシュタンは「少しずつでも!」射撃・砲撃と繰り返し放ち続け、少しずつだがパズズの残り5機にダメージを与えて行った。
(でもイプシロンの機体には一向にダメージが入らない。パズズが射線上に入って来て庇う所為ですね・・・)
攻撃を一切行うことなく回避一辺倒のイプシロンの操縦するナベリウス。その機動力もあってどれだけの物量攻撃でも当たらない。なら作戦をシフトチェンジとし、攻撃の当たるパズズから撃墜することにしたトリシュタンは、パズズの欠点を確信するために・・・
「ワイバーン。少しばかり攻撃の手を緩めますね」
トリシュタンとワイバーンは攻撃回数を減らした。するとパズズのエネルギー砲の発射回数が増えた。トリシュタンは「やはり」何かを確信したように頷き、左手に魔力矢を1本と作り出して“イゾルデ”の弦に番える。そしてある1機に標的を絞り、その1機が砲撃を撃つと同時・・・
――天翔けし俊敏なる啄木鳥――
トリシュタンは矢を射った。矢は目にも留まらぬ速度で砲撃の脇を翔け抜け、砲撃を放ったパズズの右主翼に突き刺さり、ドォーン!と炸裂。主翼どころか胴体をも爆破した。ワイバーンがトリシュタンを称賛するかのように鳴き声を上げ、「見切りましたよ、その動き!」トリシュタンはパズズの攻略法を得た。
『イプシロンはあなたを称賛します。まさか砲撃発射の隙を突いてのカウンターとは。AMFも片無しの一撃、素晴らしいです』
「無人機が砲撃を放つ際、ほんの数瞬ですけど一切の動きを停止させる。その隙を突けない程、ベルカの騎士は弱くはないですよ」
『イプシロンは自分の油断に自己嫌悪です。ここから先は、我がナベリウスも戦闘に加わります。一切合財の手加減無用で、あなたを墜とします』
ナベリウスの両主翼下に砲塔2門、機体先端の両側に機関銃が2挺と出現。ナベリウスは早速、エネルギー弾を連射する機銃攻撃を開始。パズズ4機も砲撃を連携して放って来るようになった。
(ナベリウスのエネルギー弾が厄介すぎる・・・!)
高威力の砲撃ではなく連射性の高いエネルギー弾に振り回されるトリシュタンとワイバーン。それでもパズズを1機、また1機と撃墜することに成功。残り2機となったところで・・・
「グァー!」
「ワイバーン!」
ワイバーンの右の翼にエネルギー弾が着弾して、穴を6つと空けた。翼の空気抵抗を失ったことでワイバーンはゆっくりと墜落し始めるも、必至に翼を羽ばたかせて空に留まろうとする。そんな時に、『イプシロンはこの言葉を送ります。さようなら、と』ナベリウスやパズズ2機の計3機の砲門が向けられた。
「カートリッジロード!」
“イゾルデ”の持ち手と剣身の2つの繋ぎ目がスライドすると給弾口が現れ、そしてまたガシャンと元に戻るとカートリッジの効果が発揮され、トリシュタンの魔力が一時的に増大。防御魔法を発動しようとしたところで、3機から砲撃が発射された。
(間に合わない!)
――レフレクスィオーン・ファーネ――
――シューティングスター――
脳裏に浮かぶ自らの死に、トリシュタンは思わず目を瞑りそうになったその時、彼女とワイバーンを覆い隠すように朱色に光り輝く魔力の幕が下方から伸びて来て砲撃を反射。さらに空色に輝く閃光がパズズ2機の直下から飛来し、パズズの胴体を撃ち貫いた。直後に反射して来た砲撃の直撃を受けて2機のパズズは爆散した。
「この魔法は・・・! アンジェ!」
トリシュタンの表情が安堵に満ちる。魔力の幕の正体はトリシュタンの親友であり同僚である騎士アンジェリエの旗型デバイス・“ジークファーネ”の幕の部分。だがワイバーンの墜落という危機からはまだ脱していない上に、『新手!? せめてあなただけでも!』イプシロンのナベリウスは無傷だ。
「グルル!」
「わっ!? ワイバーン!?」
ワイバーンは首を曲げるとトリシュタンのジャケットを下の前歯で引っ掛けて、自らの背から彼女をポイッと放り投げた。そしてナベリウスの放った砲撃の直撃を受け、数十m下のビルの屋上に墜落。
「ワイバーン!」
落下を続けるトリシュタン。そんな彼女の窮地を救うのは、機体の頭を斜めに下げたヘリのハッチから手を伸ばし、「捕まえた!」とトリシュタンの左手を掴んだアリシアだった。
「アリシアさん・・・」
「ヴァイス! トリシュの救出に成功! このままナベリウスと交戦に入ろう!」
「うっす! 俺は操縦に専念します!」
ヘリを操縦しているのは機動六課のヘリパイロットのヴァイス。ガジェットとの戦闘において優位性に立ったことで、航空武装隊も“聖王のゆりかご”や航空空母“アンドレアルフス”へ続々と突入を始めていた。
「トリシュタン、無事ですか!?」
「アンジェ。私は無事ですけど、クラリスのワイバーンが・・・」
ハッチから見下ろせるビルの屋上に横たわるワイバーンは流血していた。心配そうな目を向けるトリシュタンの目の前で、ワイバーンは展開された薔薇色の召喚魔法陣へと沈んで行って、その姿を消した。被ダメージが高すぎて強制的に召喚が解除されたようだ。
「トリシュ。おそらくワイバーンは大事ないはずです。ですから今は・・・」
ハッチへと降り立ったアンジェリエがそこまで言ったところで、「許さない・・・」トリシュタンがギラリとした瞳で、上空を飛び回るナベリウスを睨んだ。アリシアは「よーし! やってやろう!」と床に置かれていたライフル型デバイス・“ブレイブスナイパー”を構え直す。
「防御関係は私が行います!」
アンジェリエはヘリから飛び立ち、“ジークファーネ”をバサッと振るった。残る戦闘機は、ナベリウス1機のみ。魔導師のアリシア、騎士のトリシュタンとアンジェリエの共闘が始まる。
†††Sideすずか†††
“聖王のゆりかご”の後方を護る護衛艦“アンドレアルフス”を制圧するために突入した私とシグナムさんとエリオとキャロの4人だったけど、気が付けば私は独りになっていた。何かしらのトラップか攻撃か、詳しい原因は判らないけど分散させられた。シグナムさん達を捜しつつ通路を巡り、そして辿り着いたのがスライドドアの先にあった・・・
「ブリッジ・・・」
だった。パノラマウィンドウのような横に広いキャノピーで、見えているのはゆりかごのスラスター。壁に沿って設けられている機器。天井を埋め尽くすほどの赤色と青色のケーブルに繋がれたポッドが中央に1基。そのポッド内には、細いケーブルをうなじや背中に取り付けた「アルファ・・・」っていう名前の女の子が収められていた。
『ようこそ。アンドレアルフスの心臓部へ。ジェイル・スカリエッティのたった1人の弟子、月村すずか』
ポッドの中に居るアルファからの通信。内容からして「私だけに何か要件があったの?」ってことになる。ドクターの弟子ってことが大きな理由らしいけど・・・。
『ええ。我が愛おしき父、プライソンの願いのために。ジェイルの関係者はすべて排除するために。あなたをここへ呼び、邪魔者はスキタリスの連中に任せたのよ』
スキタリス。メガーヌ准陸尉たちアルピーノ家のことだよね。エリオとキャロが心配だけど、今は信じるしかない。
「こんな精密機械に溢れたブリッジで戦闘をするつもりかな?」
『S+ランク魔導師と全力戦闘をしたところで、我がアンドレアルフスの心臓には傷1つとして付かないわ』
背後のスライドドアが開いたことで、ハッとして私は振り返った。そこに居たのも「アルファ・・・!?」だった。ポッドのあの娘は下着1つすらも付けて裸体だけど、今入って来たアルファは、以前モニター越しに見た時と同じブラウスとリボンとプリーツスカート姿。でもブレザーは着てない。さらに言えば、両腕と両脚には篭手と脚甲、それに胸甲を装着していて、右手には太刀、左手には小太刀が握られてる。
『そこに居るのはスペアボディ。オリジナルである私とは違って脳ではなく、人格を反映させたAIを搭載した完全なるガイノイド。私よりスキル効果は弱く、戦闘力も低い。ですがそれも、トーレとチンクによって破壊された先代スペアボディまでの話。そこに居るのは、オリジナル以上の戦闘力を有した――』
「完全機なのよ!」
オリジナルのアルファの言葉を継ぐようにそう言い放ったスペアのアルファが突っ込んで来た。外から内に向かって横薙ぎに振るわれる太刀の一撃。私の左首筋へ向けて迫り来る太刀の腹に真下から左アッパーを打ち込んで、太刀を無理やり跳ね上げさせることで回避した。
「っ・・・!」
間髪入れずに繰り出されるのは左手に持つ小太刀による刺突攻撃。狙いはまたも首筋。完全に殺しに掛かって来てる。右手の甲を首筋前にまで持って来て、手の甲にバリアを展開することで刺突攻撃を防御。すぐに右腕を外に払うことで小太刀も払い除ける。
「えいっ!」「はっ!」
私とスペアが同時に右の前蹴りを「ぐっ!」お互いのお腹に打ち込んだ。その衝撃に私たちは後方に蹴り飛ばされるけど、転ぶことなく両足でしっかり着地。
≪フローズンバレット!≫
“スノーホワイト”の判断で発動した氷結効果のある魔力弾13発がスペアに殺到するけど、太刀と小太刀による連撃で直撃前に斬り裂かれた。でも爆ぜる冷気には呑まれた。フローズンバレットは迎撃されても防御されても問題ないようにしてある。ただの魔力弾と侮ることなかれ、だね。
「この程度の冷気では髪先すらも凍らないわ!」
冷気を太刀で斬り払って、その無事な姿を見せつけてくるスペア。背後のポッドに浮かぶアルファからは『さぁ、心行くまで踊りましょう♪』ダンスのお誘い。
「・・・技術者を招いたこと、後悔しないでね」
私も構えを取って、スペア撃破に注力することにした。
後書き
航空空母アンドレアルフス攻略戦の3話目。すずかとアルファ・スペアの戦闘に入ったところで終わりますが、空母攻略戦もここで一旦終わりです。次話からはゆりかご攻略戦となり、フォルセティ戦、エピソードⅤプロローグ、ヴィヴィオ戦の3話構成になります。
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