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ファイアーエムブレム聖戦の系譜 〜幾多の星達〜

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244部分:雷神の涙その四


雷神の涙その四

 シアルフィの方からも大軍が押し寄せて来ている。最早どうすることも出来ない。
 全軍に停止するよう言った。そのうえでゆっくりと前方のシアルフィ軍の方へ歩いて行く。
 部下達が必死に止める。だが聞こうとしない。右手に雷を宿らせていく。
「・・・・・・どうやら死ぬ気みたいだね」
 セリスはこちらに歩いて来る彼女を見て言った。
「・・・・・・・・・」
 イシュトーは何も言わなかった。否、言えなかった。自分ではもう何も出来ない、それがわかっていたのだ。
(それでも行くしかないな)
 そう意を決した時だった。
「私が行きます」
 彼の心を察したのかセティが出て来た。そしてイシュタルの方へ歩いて行く。神器に対抗するには神器しかなかった。
 両者は対峙するやすぐに互いの魔法を繰り出した。風と雷がぶつかり合った。
 凄まじい衝撃音を立て二つの魔法が中空で争った。銀色の風と緑の雷が二人の顔を染め上げている。二人はさらに力を込めた。
 セティの力が勝ってきた。雷が次第に押されだした。
 雷が弱くなっていく。そして風が押していく。
 風が勝った。雷が弾け飛んだ。衝撃でイシュタルが吹き飛ばされた。
 イシュタルは地に叩き付けられた。全身を鈍い激痛が襲った。彼女は痛みをこらえ上体を起こした。
「・・・・・・殺して」
 ポツリ、と言った。
「殺して!」
 目をつぶり地に叩き付けるように叫んだ。
「イシュタル王女・・・・・・」
 誰もが立ちすくんだ。彼女の心がわかっていたからだ。
「人々を護りユグドラルの平和を護る聖戦士の務めを棄て暗黒教団に手を貸してきた私に生きる資格なんて・・・・・・。ユリウス様ももうこの手に届かない・・・・・・」
 彼女は言葉を続ける。
「こんな私がこれ以上生きていても・・・・・・」
「それは違う」
 イシュトーが妹の前に来て言った。
「お兄様・・・・・・」
 かってミレトスで一騎打ちを演じたこともある。そんな兄妹だ。
 兄の表情はいつもと変わらない。だがその声には厳しさがこもっていた。
「それは御前が決めることではない。御前が死んで何になるというのだ」
「それは・・・・・・」
「御前を慕う者達や御前の力が必要な力無き者達はどうなるというのだ!?命を粗末にするな」
「・・・・・・・・・」
「バーハラに送られる筈だった多くの子供達を御前が助け出したことは知っている。御前は確かに罪を犯したかも知れない。だがその罪を自らの手で清めたのだ」
「私の罪を私で・・・・・・」
「それはここにいる全ての者がわかっている。もしまだ罪があるというのならこれから償えばいい」
「これから・・・・・・」
「そうだ、この娘もそれを望んでいる。イシュタル、死ぬのは何時でも出来る。だが今はその時ではない」
 ティニーがいた。暫く見ない間に美しくなっている。
「ティニー・・・・・・」
 彼女は優しく微笑みながら近付いて来る。
「イシュタル姉様、アルスターでのこと、覚えておられますか?」
 彼女は問うてきた。
「決闘の約束ね。私が貴方の耳を噛んだ」
「はい。今その約束を果たしますわ」
 そう言うとイシュタルの顔に近付きその額に接吻した。そして両手で彼女の頭を抱いた。
「和解の挨拶は相手の額への接吻でしたわね。これが私の答えです」
「ティニー・・・・・・」
「私をいつも妹と呼び可愛がって下さった姉様とどうして戦えましょう。姉様は今までも、そしてこれからもずっと私の優しい姉様です」
 その言葉を聞いたイシュタルの黒い瞳から涙が零れた。
「許してくれるの、私を。貴女を敵と言った私を」
「許すも何も。姉様とこうしてお会い出来たことが何よりの喜びだというのに」
 涙が止まらない。もうどうしても止められなかった。
「・・・・・・有り難う」
 そう言うとティニーの腕の中で子供の様に泣きじゃくった。その姉を妹は母の様に優しく包んでいた。
 光騎士団は全軍投降した。彼等は全軍解放軍に組み込まれ軍の一翼を担うこととなった。
 イシュタルは解放軍が無血入城したドズル城の一室で客分として待遇を受けることとなった。セリスの配慮で捕虜にはならず解放軍への参加も本人の意思に任されることとなった。
「御姫様、いるかい」
 扉をノックする音がする。
 扉を開けた。そこには彼がいた。
「ファバルさん・・・・・・」
「どうしてるかと思ってな。差し入れ持って来たぜ」
 そう言うと五羽の兎の丸焼きとそれと同じ数の酒樽を後ろから取り出した。
 
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