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ファイアーエムブレム聖戦の系譜 〜幾多の星達〜

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241部分:雷神の涙その一


雷神の涙その一

                    雷神の涙
 大陸の命運を決するとさえ言われたシアルフィ平原における決戦は解放軍の勝利に終わった。皇帝アルヴィスはシアルフィ城におけるセリスとの一騎打ちに破れ戦死した。
 フェリペ等炎騎士団の生き残った僅かな者達もヴェルトマーの神器聖炎ファラフレイムがアルヴィスの甥アーサーに受け継がれたのを見届けると皆主君の後を追った。アルヴィスの下大陸最強と謳われた炎騎士団は完全にこの世から消え去った。
 最早ユリウスの劣勢は明らかであった。ユングヴィ、エッダ、そしてシアルフィを完全に掌握され残された騎士団はフリージの雷騎士団とバーハラの光騎士団のみであった。だがユリウスは雷神イシュタルを光騎士団と共に駐留させヒルダに雷騎士団を授けフリージを護らせたうえで自らはマンフロイを筆頭とする己が腹心達と共にバーハラで無気味な沈黙を守っていた。
 一方解放軍はシアルフィ会戦の戦後処理及び補給等を終えシアルフィ、エッダの二方面からドズルへ向けて進撃を開始した。遂に最後の戦いの幕が開いた。
ーバーハラ城ー
 バーハラの宮城の地下深くドス黒い血糊で塗られ死人の手に持たれた燭台の照らされた部屋の中に二つの影が蠢いていた。
「そうか、父上は死んだか」
 ユリウスは赤水晶の皿の上に置かれた人の眼球を手に取り口の中で噛み潰しながら言った。開かれた口の牙から眼球の粘液が粘っこく滴る。
「皇帝など所詮は飾りの道具。始末する手間が省けただけのことです」
 マンフロイは赤子の心臓を自分の手で握り潰しその血を夜光杯に入れる。硝子の中の血を飲み干し主に言った。口の端から紅の血が流れ落ちる。
「フフフ、そうだな」
 ユリウスが笑う。父の死を嘲笑っている。
「あ奴は忌まわしきファラの血を強く受け継いでおりました。どの道いずれは我等に反旗を翻していたでしょう」
「だろうな。その時私が始末してやろうと思っていたが。あの女と同じ様に絶望を極限まで味あわせ苦しみ抜かせてな」
 笑った。人の笑みではなかった。魔界の奥底に棲む異形の神の邪で残酷な笑みだった。
「ところでマンフロイよ、あの女の娘は今どうしている?このバーハラに連れて来ているのだろうな」
 ユリウスは尋ねた。
「勿論です。生かしております」
 マンフロイは笑って答えた。
「そうか。よし、今すぐこの部屋に連れて来るのだ。十年振りの兄と妹の対面を楽しみたい」
「御意に」
 マンフロイが指を鳴らすと暗灰色がかった不気味な色の法衣を着た魔道師が数人床から影の様に現われた。マンフロイは彼等にあの娘を連れて来い、と命じた。魔道師達は頷くと再び床の中に消えた。
「さて、我が愛すべき妹殿はどれだけ美しくなっているかな。ククククク・・・・・・」
 ユリウスは血が注がれた夜光の杯を傾けながら笑う。真紅の瞳が縦になっていく。
 程無くして魔道師達に連れられて青と紫の瞳の少女が部屋に入って来た。
 シアルフィにいた時と比べてかなりやつれた感がある。だが態度は毅然としており二つの色の瞳の光は強い。キッ、とユリウスを見据えている。
「剣呑だな。少しは十年振りに再会した兄を懐かしんだらどうだ」
 口の端を歪めて笑った。だが目は全く笑ってはいない。激しい殺意と憎悪の光を発している。
「・・・・・・違うわ」
 ユリアはユリウスを見据えたまま言った。
「貴方は兄様なんかじゃない」
 その声と瞳には憎しみと怖れ、そしてそれに打ち勝とうとする強い気持ちが表われていた。
「十年前のあの日から私の優しい兄様はいなくなったわ。今私の目の前にいあるのは私を手にかけようとしお母様を殺した魔物よ、貴方は兄様の姿を借りた魔物よ!」
「魔物!?下賤な呼び方だな」
 ユリウスはそれに対して言った。
「この世を統べる神である私に対して」
 右手の夜行杯が黒い炎により焼き尽くされた。否、それは炎ではなかった。闇の瘴気であった。
「忌まわしき聖戦士共により倒されてから百年、ようやく復活が成ったのだ。マイラの血が合わさることによってな」
 そう言うとゆっくりとユリアに歩み寄ってきた。黒い瘴気は右手だけでなくその全身も包んでいた。
「最早この世は完全に私のものとなる。ヘイムとバルドの娘よ、貴様を喰らうことにより永遠にな」
 紅い瞳が完全に竜のものとなった。部屋の中の机や椅子等を溶かしつつ瘴気がユリアにゆっくりと迫る。
 ユリアは逃げなかった。覚悟していたのではない。心に勇気を宿らせていた。負けるわけにはいかなかった。必ずこの瘴気を跳ね返すつもりであった。
 
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