| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

提督はBarにいる・外伝

作者:ごません
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

提督はBarにいる×ろくろう編・その2

「うわ、ホントにお酒のお店みたいになってる……」

 相馬中将の瑞鶴が唖然としながらそんな事を呟いている。まぁウチに初来店した人の第一印象なんて大体そんなモンだ。……しかし、『お酒のお店』と言われてしまうと何だか酒屋のようでコレジャナイ感が湧いてくる。変な拘りの部分なのだろうか。

「まぁお店みたいじゃなくて、実際店なんだけどな。さぁさぁ座った座った」

 入り口で固まったままの団体さんを、店の奥へと導く。さぁて、楽しい宴にしようじゃないか。

「そういや翔鶴さん、ずっと抱えてるその箱はなんだい?」

 カウンターに入ると同時に、相馬中将の嫁さんである翔鶴の抱えてる荷物について尋ねた。マメな気遣いの翔鶴の性格を考えると、何かしらの手土産だろうとは当たりを付けていたが。

「あ、すみません。大変お世話になった金城提督へのお礼にと思って、俺の故郷の品を色々と持ってきました」

 と、翔鶴の代わりに語る相馬中将。

「わざわざ気遣いさせてすまんな」

「いえいえ!俺にしてみれば金城提督は人生の目標というか、道標というか……まぁそんな感じの人なので」

「あら、それならもっと嫁艦を増やすのかしら?」

 加賀よ。何故お前は藪をつつくどころか火炎放射機で焼き払うような真似をするのか。

「「それはダメ!」」

 ほれ見ろ、おっかない蛇が2匹も出てきたじゃないか。まぁそれは置いておいて、翔鶴に差し出された箱を開ける。中身もギッシリ詰まっていて、相当な散財だったろうに。まず目についたのはメロンだ。持ち重りもかなりの物で、熟した独特の甘い香りを放っている。

「立派なメロンだな」

「故郷の近くが産地なんですよ」

 ほう、メロンの産地といえば何ヵ所か思い当たる所はあるが、どこだったろうか。前に来た時にも出身地の話をした気がするが……思い出せん。歳か?と、そんな疑問もすぐに瓦解した。酒呑みの俺へと選んだのだろう、日本酒の瓶が数本入っていた。その中の数本には数年前に流行った、女子高生が洗車を乗り回すアニメのラベリングがされていた。

「月乃井酒造……あぁ、そういや相馬中将の地元は大洗だったか」

「えぇ。あそこもアニメの『聖地』になってから知名度がグンと上がりました」

 その感覚は理解できる。何せウチの地元もNHKの朝ドラ効果で観光資源が急激に増加した地域だからな。どのドラマかって?『〇〇ちゃん』て書いとけば大体わかるだろ?

 最後にそこの方から出てきたのは、

「こいつぁ……シジミか」

「ウチの親父がシジミ漁やってましてね。獲れたての奴を送ってもらいました」

 そういやぁ大洗の辺りにシジミの一大産地があったっけな。折角だし、こいつで今夜の料理をするとしますか。




「このシジミ……獲ってそのまま送って貰ったと言ってたが、砂抜きは?」

「あ~、多分されてないと思います」

 その辺の確認は大事だ。美味い料理にはそれなりの下拵えが必要だからな、手抜きをするとそれだけ味が落ちる。……あ、手間をかけないのと手抜きは意味が違うから勘違いしないようにな。

 シジミの砂抜きにも何通りかやり方があるが、その中でも楽な奴を2つ紹介しよう。

《5分でできる!お湯で砂抜き法》

・シジミ(またはアサリ):使うだけ

・お湯(50℃位):ボウル一杯分

 本来なら塩水に最低3時間は浸けないと出来ない砂抜き。しかし、風呂より熱い位の50℃のお湯に浸けると貝にストレス(といってもハゲる要因の方ではない)がかかり、早く砂を吐き出す。貝殻を綺麗にする為にザルにあけて、流水で米を研ぐような要領で貝殻を擦り洗いする。後はボウル等の容器に移し、50℃のお湯を注いで5分待つだけ。たまにかき混ぜてやると更に効果的だ。熱すぎると調理前に貝が死んでしまうので注意な。

《不思議!?包丁で砂抜き法》

・シジミ(こちらもアサリOK):適量

・包丁(ステンレスがいいらしい):1本

 これは初めて聞いたときに『嘘くせぇ』と思ってしまったやり方だ。……が、ホントに綺麗に砂抜きされる不思議なやり方。買ってきた(または貰ったりした)シジミをボウルに入れ、先程同様に殻を洗う。後は水をたっぷりと入れて、そこに包丁の刃を浸けて20分程放置。塩を入れたり等は一切しない。なんでも、ステンレスが水に入っていると、水の中の電解質が変化するとか何とか。それに反応してシジミ等は砂を吐き出す……らしい。詳しくは知らん。
 


砂抜きも出来た事だし、早速作っていこう。

「提督、手伝うわ」

 加賀が手伝いを申し出てくれた。こういう状況下で料理上手の手伝いは非常に助かる。

「あぁ、頼む。瑞鶴はお客に酒を出してやってくれ」

「はーい。みんな日本酒でいい?」

 さて……シジミを使った料理の定番といえば味噌汁だが、それを出してしまっては芸がない。なので今回は、敢えて味噌汁を封印して別の料理を作ってみようと思う。まずは酒呑みのお供、『シジミの酒蒸し』と『シジミの中華炒め』だ。



《アサリより美味いかも!?シジミの酒蒸し》

・シジミ:200~300gくらい

・出汁昆布:10cm分(無ければ昆布茶大さじ1.5)

・水:50cc

・酒:50cc

・醤油:小さじ1

 こっちは加賀に任せよう。

「シジミの砂抜きはしてあるからな。フライパンに昆布と水を入れてくれ。火には掛けたら、その上にシジミを入れる」

「出来たわ、次は?」

「酒を入れて蓋をして、暫く蒸し焼きだ。アクが出てくるから、こまめに掬ってくれ」

「了解。アサリの酒蒸しのようにバターとかは入れないの?」

「シジミはアサリに比べて旨味が濃いからな。その味を活かすにゃなるだけ味付けはシンプルに、だ」

「……良い匂いだわ。気分が高揚します」

 やっぱり加賀は加賀だな。食への拘りが強い。


「シジミの口が開いたら、仕上げに醤油を回しかけて香り付けすれば完成だ」

 出来上がって湯気の立つ酒蒸しを、大皿にジャラジャラと移していく。最後に刻んだ大葉も散らせば更に香りが際立つ。

「うわぁ……美味しそう!」

 感嘆の声を上げているのは相馬中将の瑞鶴だ。

「ふふーん、美味しそうじゃなくて、ホントに美味しいんだから!遠慮なく召し上がれ♪」

 可愛くそんな事を言っているのはウチの瑞鶴だ。

「おい、作ってねぇお前の台詞じゃあねぇだろ瑞鶴」

「……あ、それもそっか」

 そんな台詞は自分で作ってから言って欲しいモンだ……まぁいい、遠慮なく食っててくれ。俺はその間に中華炒めを仕上げるからな。

《ピリ辛コク旨!シジミの中華炒め》

・シジミ:500g

・にんにく:2片

・生姜:1片

・長ネギ:1本

・豆板醤:大さじ1

・酒:大さじ3

・オイスターソース:大さじ1

・サラダ油:大さじ1

・ごま油:小さじ2


 シジミは当然、砂抜きした物を使用。にんにく、生姜、長ネギは全てみじん切り。

「手伝うわ」

「助かる」

 香味野菜が刻み終わったら、中華鍋(フライパンでもOK)にサラダ油を引いて熱し、にんにく、生姜、長ネギ、豆板醤を入れて香りが立つまで炒めていく。辛いのが好きな奴はもっと豆板醤を足してもいいし、苦手な奴は入れなくても美味いぞ。

 香りが際立って来たらシジミを入れ、軽く炒めたら酒を振り入れて蓋をして酒蒸しに。口が開いたらオイスターソースと醤油を加えてザッと混ぜる。仕上げにごま油を回して香り付けすれば完成。


「はいお待ち、『シジミの中華炒め』でござい」

「うわぁ……良い香り」

「頂きます!」

 シジミの殻を指で摘まんで、口に運んでチュルリ、と吸い込む。残った貝柱も前歯でこ削ぎ取り、冷や酒をキュッと煽る。

「か~っ、たまりませんねぇこれは!」

「結構辛口の味付けだからな。ビールも合うぞ?」

「あ、ビール下さい!」

「私も!」

「あいよ、待ってな」

 ハフハフ言いながら料理を頬張り、そこに冷たいビール。至福の時だろう。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧